舞台『文豪とアルケミスト 紡グ者ノ序曲(プレリュード)』稽古場オフィシャルレポートが到着
(C)2016 EXNOA LLC / 舞台「文豪とアルケミスト」8製作委員会
2025年5月1日(木)より東京・IMM THEATER、京都・京都劇場にて上演される舞台『文豪とアルケミスト 紡グ者ノ序曲(プレリュード)』の稽古場オフィシャルレポートが到着した。
※以下、本文には物語や舞台セットなど一部ネタバレが含まれます。予めご了承ください。
4月中旬、桜の花が新緑に変わってきた頃。
“文劇”の稽古場も、瑞々しい活気に満ちていた。
舞台「文豪とアルケミスト」=通称“文劇”は、2019年から続く人気舞台シリーズだ。原作は文豪転生シミュレーションゲーム「文豪とアルケミスト」=通称“文アル”。文学作品を守るために“アルケミスト”の能力によって転生した文豪たちが、本の中の世界を破壊する“侵蝕者”と戦う物語である。
“文劇”は原作の世界観を踏襲しつつ、さらに踏み込んだ「文学を守るための戦い」を描き、好評を博している。脚本・なるせゆうせい、演出・吉谷晃太朗。ミュージカル『ヘタリア』等でもタッグを組むゴールデンコンビが手掛けたシリーズは今作で8作目。
第8弾の物語は、シリーズ第3弾と第6弾にも登場した北原白秋が主人公。「からたちの花」や「この道」など、数多くの童謡や詩を残した近代日本を代表する文豪は、“文アル”においては書生スタイルの青年姿で転生する。
“文劇”で北原白秋を演じるのは、佐藤永典。デビュー以来、話題の2.5次元作品から重厚な文学作品まで幅広く出演し、着実にキャリアを積み重ねている。同作に出演する俳優陣も期待の若手俳優から多方面で活躍する名手まで、注目の顔ぶれが揃った。
(C)2016 EXNOA LLC / 舞台「文豪とアルケミスト」8製作委員会
この日の稽古場は、キャストが全員集合。アクションを確認する殺陣返しに始まり、シーン稽古、オープニングの振り付けと盛り沢山の内容で行われた。
まずは小泉八雲(演:林光哲)の作品に潜書した、石川啄木(演:櫻井圭登)と高村光太郎(演:松井勇歩)たちの場面から。
潜書とは、転生した文豪たちが作品世界の中に潜っていくこと。小泉八雲の代表作といえば、「耳なし芳一」を始めとする日本の怪談話をまとめた『怪談』である。その作品世界を進む文豪たちの姿は、お化け屋敷を恐る恐る歩く様にも似てコミカル。怖がる石川啄木と楽しそうな小泉八雲とのやり取りに、稽古場から笑いがこぼれる。
虚勢を張る啄木に向かって高村が冷静なツッコミを入れた直後、侵蝕者たちが3人に襲い掛かり、戦闘が始まった。下手(しもて)で啄木が銃を連射し、上手(かみて)では八雲が鞭を放つ。その間にセットの上段に登った高村が銃を駆使して侵蝕者の攻撃を防ぐ。格子と段差のついた二階建てのセットをキャストたちが駆け回っていく。
二階建てのセットは、立ち回りの最中にも左右に分かれて回転したりと、目まぐるしく動く。両端と後方に設置されている階段の他、格子部分にも足場があり、キャストたちは思わぬ場所からも昇り降りして見ている側を飽きさせない。
このセットの変化だけでも見応えがあるが、アクションも刀と銃、棒術に鞭といった多彩な武器で繰り広げられており、冒頭から“文劇”らしい見どころが満載だ。
スタッフ陣、音楽やSEもタイミング合わせに大忙し。各セクションの高いレベルが覗える。
(C)2016 EXNOA LLC / 舞台「文豪とアルケミスト」8製作委員会
(C)2016 EXNOA LLC / 舞台「文豪とアルケミスト」8製作委員会
(C)2016 EXNOA LLC / 舞台「文豪とアルケミスト」8製作委員会
シーンの終盤で、北原白秋(演:佐藤永典)が颯爽と登場した。
装飾が施された二丁銃を使いこなす佐藤は、さすがシリーズ3度目の出演といった貫禄。圧倒的な強さで敵を追い払い、窮地に陥っていた文豪たちを気遣う。佐藤の静かな語りと華やかな佇まいが、主人公としての説得力を放っている。
第3弾で初登場した際も「北原一門」の中心として弟子たちに慕われる姿を見せ、第6弾では“悪しきアルケミスト”が扮した姿としてダークな魅力を披露していたが、遂に第8弾で物語を担うことになった北原白秋。
第6弾のラストで「生と死の狭間」にいることが判明した白秋の、気になる目的が描かれる今作だ。
殺陣返しの後はシーン稽古として芝居を通し、演出・吉谷からのフィードバックに耳を傾ける。
キャストの演技を見て、セリフの入れ替えを提案する吉谷。「確かに」と、キャストたちもしっくりきた様子。ただ台本に合わせるだけではない。キャストの発信と臨機応変な演出によって、脚本と演技がより馴染む方向へと進んでいく。
櫻井圭登と林光哲が楽しそうな様子で演技プランを調整。石川啄木役の櫻井は第7弾からの続投。役のキャラクター的にも場を明るくするポジションだが、櫻井もまた、遊び心を含めながらカンパニーを和ませる役割を自発的に担っている印象だ。
“文劇”初参加となる小泉八雲役・林光哲も固くならず、吉谷の演出に即座に対応しながら、小泉八雲という個性的なキャラクターを作り上げている。
櫻井と同じく、第7弾から続けて高村光太郎役で出演する松井勇歩は、殺陣師に立ち回りの間合いを相談。スピードや瞬発力を要する“文劇”の稽古場にも慣れている。セットの回転など慎重を要する部分の確認でも先陣を切り、積極的に周囲とコミュニケーションを図っていた。
休憩を挟み、次の場面では久米正雄(演:安里勇哉)と直木三十五(演:北村健人)が登場。
(C)2016 EXNOA LLC / 舞台「文豪とアルケミスト」8製作委員会
(C)2016 EXNOA LLC / 舞台「文豪とアルケミスト」8製作委員会
安里は第5弾ぶりにシリーズ出演。北村は“文劇”初出演である。口調も身のこなしも軽い直木のキャラクターを、北村は軽快な色気を持って演じる。一方で久米を演じる安里は、沈んだような落ち着きの中に有能さと苦悩を滲ませる。タイプの違う文豪が今作では共に行動。組み合わせの妙が魅力だ。
安里と北村は休憩中から自主練を重ねていた。久米は返し刃の付いた刀、直木は分銅の付いた鞭を扱うが、特殊な武器も軽々と使いこなす。
そこに青年役の松村龍之介も合流して、ごく自然に3人での立ち回りに発展し見事な殺陣を披露。
「青年」という謎めいた役名のキャラクターは、“文劇”オリジナル。今作の中で大きな鍵を握る人物である。映像、舞台と幅広く活躍する松村が「青年」にどのような色を付け、息を吹き込んでいくのか。注目ポイントのひとつだ。
同じく異色といえる登場キャラクターがファウスト。原作の“文アル”には既出だが、文豪キャラクターとは異なり文学作品の主人公名である。“文劇”ならではの立ち位置で、白秋を始めとする文豪たちと言葉を交わす。
ファウストを演じるのは原貴和。シャツを衣裳風に着込んで稽古に挑んでいる。役に入り込んだ表情は厳しいが、メインキャストの中では最年少の原。セリフ確認を怠らない真面目な姿勢の一方、小道具を使ってちょっとしたイタズラ心を覗かせる一コマも見られた。
この場面のフィードバックでも、立ち位置やセリフのキッカケを細かく修正。修正が入った部分を再度確認していく。
一瞬のズレも許すまいと皆が真剣に挑んでいる稽古場だが、ふと吉谷が、白秋を先頭として一列に並び歩く文豪たちを見て「RPGゲームの一行みたいだな」と、ひと言。
「勇者と、商人に遊び人……あとは踊り子?」と例え、松井が思わず「どこに向かうパーティーなん?」とツッコミ。周囲から笑い声が上がっていた。
(C)2016 EXNOA LLC / 舞台「文豪とアルケミスト」8製作委員会
(C)2016 EXNOA LLC / 舞台「文豪とアルケミスト」8製作委員会
前半のシーン稽古を終えて、休憩後はいよいよオープニングのミザンス(※役者の立ち位置や動きを決めること)。
休憩中、ずっとタブレットを片手にイメージを浮かべながら動き回っていた吉谷。稽古が始まると8人のメインキャスト、8人のアンサンブル分の動きを次々に付けていく。
頭の中に思い描いた形に組み立てながらも、キャストが実際に立った際やりにくいと分かれば即座に変更。文豪と侵蝕者による1対1での対峙シーンは、「ここは関西対決」などとユーモアを交えて組み合わせを称し、覚えやすく指示。吉谷の手腕と人柄が光るミザンス付けだ。
怒涛のミザンスに、各々の把握力と瞬発力も試されている。皆涼しい顔だが、気付けばアクション動作も重ねており、キャストたちの額にも汗が浮かんでいた。
そんな中、オープニングで決めポーズを作る際に、何故か佐藤にピタリと寄り添う櫻井。合わせてノリ良くポーズを構える松井。巻き込まれて一緒にポーズを決める佐藤。北原白秋・石川啄木・高村光太郎の“明星”組のトリオ感が微笑ましい。
その後ろでアンサンブルと一緒に淡々とボケ続ける青年役の松村と、ハチャメチャな松村の動きを目撃してツボる佐藤といった、気さくなやり取りも見受けられた。
ミザンスの合間にも、セットの後ろで鞭捌きを練習する林と北村。ミザンスの途中で「ファウストも踊る? ブレイキンとかする?」と吉谷に提案されて、「(ブレイキンは)踊れないです!」と慌てながらも笑顔の原など、それぞれが伸びやかに稽古に臨んでいることが伝わる、心地の良い空気感があった。
(C)2016 EXNOA LLC / 舞台「文豪とアルケミスト」8製作委員会
しかしオープニングをカウントで通した吉谷に対し、安里が「ワンツーって言い過ぎて(吉谷さんが)倒れるんじゃないかと思った」と呟くのも納得のハードさ。カウントとタイミングの身振り手振りに込められる吉谷の熱量に、皆の気合も一層高まっていく。
入れ代わり立ち代わりにアクションを繰り広げるオープニングでは、文豪同士のアイコンタクトや背中合わせなど、エモーショナルな一瞬もあり見逃せない。
全体に流れる流麗な旋律、文豪のシルエット、象徴的な赤いロープなど、気品漂う“文劇”らしい雰囲気と、シリーズ8作目だからこそ描ける深い切り口が見どころの今作。
シリーズを見守ってきた人には勿論、初見の人にも、情熱が込められたこの美しい表紙を是非とも開いてほしい。
文=片桐ユウ
公演情報
出演者
石川啄木 櫻井圭登
高村光太郎 松井勇歩
久米正雄 安里勇哉(TOKYO 流星群)
直木三十五 北村健人
小泉八雲 林光哲
ファウスト 原貴和
青年 松村龍之介
アンサンブル 町田尚規 山口渓 田中慶 佐藤優次 安久真修 松崎友洸 丸山武蔵 小川蓮
監修 クリーク・アンド・リバー社
世界観監修 イシイジロウ
脚本 なるせゆうせい(オフィスインベーダー)
演出 吉谷晃太朗
音楽 坂本英城(ノイジークローク)・宮里豊
主催 舞台「文豪とアルケミスト」8 製作委員会
【公式 HP】 http://bunal-butai.com/
【公式 Twitter】 @bunal_butai (ハッシュタグ #文劇 8