Corneliusの音楽が美しき星空の下で鳴り響いた、福岡・海の中道海浜公園で4年ぶり開催『CIRCLE'23』2日目レポート
『CIRCLE'23』
『CIRCLE'23』2023.5.21(SUN)福岡・海の中道海浜公園 野外劇場
5月21日(日)『CIRCLE'23』2日目。初日は電車で向かったが、この日は『CIRCLE』ならではの醍醐味とも言えるフェリーで向かうことに。朝から博多港にあるベイサイドプレイス博多には多くの人が並び、1時間弱ほど待ち時間があってからの乗船になったが、乗ってしまえば西戸崎船渡場まで約15分。デッキのベンチに座り、青い空と白い雲、そして大きな海を眺めていたら一瞬である。その後の快適さで一時の煩わしさを忘れてしまうというのも、ちょっとしたフェスマジックであった。二日目は午前中が曇天だった初日とは大きく違い、ずっとピーカンの晴天である。恵まれすぎているほど天候に恵まれた2日目。
KOAGARI STAGEトップバッターは君島大空。去年は雨の中、吉澤嘉代子のサポートギタリストで出演していたが、今年はソロでメインとして出演。
「これがいつもの『CIRCLE』ですよね? 最高ですね。帰りたくないな!」
君島大空
観客全ての声を代弁してくれた君島。一応セットリストは作ってはきているものの、楽しくなってきたということで予定に無かった曲も歌われた。エメラルドブルーの衣装とベールの様な髪飾りが誠に鮮やかだった青葉市子は、同じくKOAGARI STAGEの二番手で登場。「こんなめでたい年に呼んで頂けて嬉しいです」と嬉しそうに口笛を吹く。
青葉市子
三番手の七尾旅人もリハから昨日出演したばかりの向井の「はあとぶれいく」(ZAZEN BOYS)を歌う。一番だけ歌うつもりだったらしいが、しっかりと最後まで歌っていた。本編でも青葉を呼び込み、歌もギターも順番に替わりあいっこしながら披露していく。それだけでも充分に楽しませてもらっているのに、「ここで最後の人物を呼んでみたいと思います」と君島が呼び込まれる。君島は歌いながら出て来て、すぐにギターも替わり速弾きする中、七尾はスキャット、青葉はコーラスでと合わせていく。まるでフリーセッション。
七尾旅人、青葉市子、君島大空
「君島君、このまま「Rollin' Rollin'」出来る?」
そんな素敵な無茶ぶりから君島弾き語りで3人による「Rollin' Rollin'」へ。同じ並びだったので出番前に声を掛けたという本当に急遽なセッション。こんな良い意味で無茶苦茶な事が可能となるのも『CIRCLE』ならではの自由な雰囲気だからだろう。初日の向井と同じくBEA森氏への感謝も忘れなかった七尾。
「色々な人が関わって、ここに立たせてもらって、音楽最高!」
七尾旅人、青葉市子、君島大空
2020年中止、2021年オンライン開催、2022年屋内開催。この3年は紆余曲折あっただけに、本来の場所である海の中道海浜公園で開催できるのは本当に最高なことである。CIRCLE STAGEトップバッターの羊文学も3年連続出演とはいえ、初となる海の中道での出演。基本、言葉数は少ないが、ギターボーカルの塩塚モエカとベースの河西ゆりかのふたりがステージ中央まで走ってきてジャンプして〆る姿からは幸せが満ち溢れていた。
羊文学
羊文学
CIRCLE STAGE二番手の落日飛車 Sunset Rollercoasterは台湾のバンドであるが、青葉のライブが終わった瞬間に本番同様のサウンドがリハで鳴らされて、かなりの期待を集めていた。二日連続で台湾のミュージシャンが出演するというのも、今回の大きな目玉でもあった。二日間の中で一番灼熱猛暑の時間でもあったが、サックスの音も鳴り響く演奏は激しさも心地よさも感じさせてくれた。
落日飛車 Sunset Rollercoaster
続く三番手ハナレグミは「だれでもない」と一曲目「光と影」の歌い出しが聴こえてきただけで、観客からは大きな大きな拍手が起きる。風も出てきて、さっきまでの灼熱猛暑が嘘かの様な気持ち良い風が吹く。レゲエなリズムの「オハナレゲエ」からスカなリズムの「オリビアを聴きながら」へ。
ハナレグミ
<出逢った頃は こんな日が来るとは思わずにいた>
この歌詞パートを観客も一緒に歌うが、近年の世知辛いコロナ禍をふと思い出して、「こんな日が来るとは思わずにいた」という箇所でグッときてしまう。初日ももちろんのように観客はほぼ全員がマスクを外して声出しをしていた。去年とは全く違う『CIRCLE』。
「みなさん本当にクラウドファンディングありがとうございました。ミュージシャンたちも大好きなフェスなので、また、この場所で出来るのが嬉しいです」
ハナレグミ
永積崇の『CIRCLE』を代表するかの様な言葉も温かかった。<いま はじけちゃうよ>という言葉で本当にはじけそうになる「Spark」に耳を傾け、「ファミリーでみんな来ているのかな? ファミリーで来るにはぴったりだよね」という語りかけから「家族の風景」。歌い終わり、近くにいた家族連れが「来て良かったね……」としみじみ言い合っていたのも胸を打った。
EGO-WRAPPIN'
四番手EGO-WRAPPIN' は17時半という涼しいベストな時間帯。中納良恵が「めっちゃいい時間じゃないですか! キラッキラしてるわ眩しくて! 顔がよう見えて最高ですわ! 4年ぶりですよ!」と感情を爆発させると、森雅樹は「皆勤賞を狙っています!」と笑顔で話す。『CIRCLE』皆勤賞のふたりは何をしても説得力がある。ふたりきりで「満ち汐のロマンス」を弾き語った後は、「夕焼けの中で歌っちゃおうかな!」と「サニーサイドメロディー」へ。美しいメロディーが夕焼けにはお似合いで極上の時間に……。
EGO-WRAPPIN'
「『CIRCLE』愛しあってるかい!?」
中納が曲中で叫ぶ。とんびも気持ち良さそうに飛んでいる。後はもう音楽をひたすら浴びるだけだなと思っていたら、トランペットが鳴り響き、「GO ACTION」、「くちばしにチェリー」、「サイコアナルシス」と駆け抜けていく。ずばりアップビートナンバーであり、どこまでも拳が突き上がる。
田島貴男(Original Love)
KOAGARI STAGEの田島貴男(Original Love)からトリである原田郁子(クラムボン)への流れも鮮烈なインパクトがあった。
<生まれて死ぬもの その傷の証しよ いつの日も想いは輝き続ける いつの日も空に君の歌が響く>
そう高らかに歌われた「フィエスタ」は約30年前のナンバーだが全く色褪せることなく、オープニングとしてふさわしき魂の歌だった。これまた約30年前のナンバーであり代表曲「接吻」もソウルフルに歌われる。
「今日は好き放題にやります」
田島貴男(Original Love)
同じ日に開催されていたG7広島サミットにも軽く触れて、「今日やるつもりなかったけどやります」と「侵略」へ。「平和と秩序の時代の終わり」という歌詞が胸に突き刺さりまくり、そのまま「ソウルがある」へ。
<ソウルがある ソウルが血を流している 愛が生きている 愛が叫び声をあげている>
アコギをかき鳴らし、ブルースハープを吹きまくり、田島が歌い叫ぶ。そのメッセージは一切重たくなく、至極真っ当なメッセージとして、僕らの心に届いた。このソウルショーをひとりで鳴らしたエネルギーは桁外れの凄さだった……。痛快でもあり爽快な時間。
原田郁子(クラムボン)
原田は1曲目「タイムライン」で、観客から飛んできたしゃぼん玉に「来たよ! ヤッホー!」と話しかける。<今 空 すごいよ>という歌詞は、歌詞というより、本当に今の空に対して「すごいよ」と呼びかけてる様なリアリティーがあった。「永積君がメロディー作ってくれた」と言って、「やわらかくて きもちいい風」を歌い終わると、「ハナレグミいた~! 崇~! 市子~! ゴロゴロしてるばい!」とステージ袖でゴロゴロする永積と青葉を発見する。「次の曲の間奏で、そこからピヨピヨ言ってくれる!」とふたりへリクエストを。七尾、青葉、君島というセッションもあったが、あくまで3人ともステージに姿を現わしていたが、原田、永積、青葉のセッションは永積と青葉の姿は一切現れない。だからこそ贅沢すぎるセッション……。
原田郁子(クラムボン)
原田が「ハンキーパンキー」とハナレグミの歌を歌い出すと、袖から永積がコーラスを入れる。原田が<重ね合う唇に愛がこぼれる>と、UAの「甘い運命」を歌い出すと、永積は自身がUAに提供した「お茶」を歌い出す。もう楽しさしかない。そして、6月に15年ぶりに発表されるソロアルバムから新曲も披露された。生前、レイハラカミが作中音楽を手掛け、原田がナレーションを担当して、谷川俊太郎の詩も盛り込まれたプラネタリウム作品がきっかけとなって生まれた楽曲。ハラカミのエレクトロニカなサウンドに、原田の歌と谷川の朗読する詩も重ね合う。姿が見えないとはいえ、その場にはいる永積と青葉とのコラボレーションでも驚くのに、その場にいなくて姿も見えない谷川とハラカミとのコラボレーションにも驚くしか無かった。
Cornelius
2日目の終盤だというのに、まだまだ新鮮な驚きで包まれる中、遂に大トリCorneliusの時間を迎える。ステージ前方には紗幕が張られて、円状の波形が水の音ともに跳ねている。「Mic Check」が流れて、スクリーンに小山田圭吾(Vo.G)、堀江博久(Key.Gt/NEIL and IRAIZA)、大野由美子(B.Vo.Key/Buffalo Daughter)、あらきゆうこ(Dr)という4人の姿がシルエットとして映し出されて、紗幕が振り落とされて、4人が姿を現わす。過去のライブでも観たことがある演出だが、何度観ても大興奮してしまう。サウンドとシンクロする映像もCorneliusの大きな魅力だが、この日も民族音楽やテルミンを演奏するシーンなどと共に、世界の偉大なる先人ミュージシャンたちの姿も映された。そこには坂本龍一、高橋幸宏も映し出されて、YMOの映像も流れるという胸がキュンとするしかない映像も。だからこそ、YMO「CUE」のカバーには感情が昂った……。
Cornelius
25年前の楽曲「Star Fruits Surf Rider」も全く色褪せることなく流されるし、この2日間通して言えることだが、みんな今の音として昔の楽曲を見事に更新して鳴らしていることに感激した。星も三日月も空に浮かび、小山田が鳴らすテルミンの音もたまらない。ラストは観客が拍手する中、小山田も観客に向かって拍手をして手を振る姿が鮮明に記憶に残っている。あまり感情を露わに出せない小山田だからこそ、より心に感じるものがあった。初日同様、高橋幸宏「PRESENT」が流れる。その後にはYMO「CUE」も流れた。
Cornelius
コロナ禍が落ち着いてきたとはいえ、うんざりする変わりようのない混沌が続くが、抜け出す手掛かりが2日間鳴り響いた音楽から見える気がする。「CUE」の歌詞を借りるならば、そんな感じだろう。
今年ようやく海の中道海浜公園での『CIRCLE』が再開されたばかり。だからこそ、来年以降も何の変哲もない日常として、ずっと海の中道海浜公園で『CIRCLE』は開催され続けて欲しい。
取材・文=鈴木淳史 写真提供=『CIRCLE'23』(撮影:ハラエリ、勝村祐紀、chiyori)
■『CIRCLE '23』セットリスト&インタビュー公開!
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■『CIRCLE '23』LIVE PHOTO
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