林一敬・松島勇之介・西田大輔が描く、“まだ誰も知らないあの時代”~舞台『Arcana Shadow』インタビュー
(左から)林一敬、松島勇之介、西田大輔
西田大輔 作・演出による新作舞台『Arcana Shadow』。平安末期を舞台に、京の都の闇の中、己の使命を果たすべく生きるふたりの陰陽師を中心に繰り広げられる“令和の絵巻物”である。本作で謎多き陰陽師・蘆屋道満を演じる林一敬、そしてライバルとなるその名も高き陰陽師・安倍晴明を演じる松島勇之介は今作が初共演。西田を交え、これから始まる稽古、そして本番へと続いていく新たな挑戦について語り合った。
ーー作品情報が解禁された際、西田さんは今作のテーマを「祈り」だとおっしゃっていました。「祈り」からどのように陰陽師の物語へと着想が広がったのでしょうか。
西田:世界的にもそうだと思うのですが、「祈る」っていう行為は本当にまだ何もない時代からあったんですよね。例えば、作物に降らす雨を「祈り」という行為で願っていたとか……でもそういう信仰って、テクノロジーがこれだけ発達した時代なっても実は変わらない。それって何なんだろうなって思ったんです。僕はそれを「結局人って形のないものを思うもので、それは今も続くんだなよ」と感じ、「じゃあ人が人を想うということは?」と考え、そこをかけ合わせる物語を創ろうと思った。そこに陰陽師という日本にしかない題材を取り入れたら良いんじゃないかと思いついたのが、始まりですね。
ーーお二人はこの物語、どのような印象を持たれましたか?
林:僕は「陰陽師と言えば安倍晴明」というイメージを持っていたのですが、主人公は民間の陰陽師の蘆屋道満だと聞いて新鮮に感じました。その蘆屋道満を自分自身が演じるというところではまだ「これ」という確実なものは持っていなくて。ここから改めて人物像を作っていくのがとても楽しみです。
松島:僕は西田さんの作品を何作も拝見しているのですが、お芝居の深さはもちろん、大きな要素として殺陣があるよなぁと。しかもすごい激しい……手数もめちゃめちゃ多い殺陣をつけているイメージなので、今回陰陽師のお話だと聞いて、そこはどうなるんだろう? って、まず、思いましたね。安倍晴明として、印を結んでの呪術の戦いを西田さんはどう表現されるのかなど、いろいろ想像してしまいました。
ーー物語の軸となる蘆屋道満vs安倍晴明。演じるお二人の印象はいかがですか?
西田:今日二人とたくさん話す時間があって、その中で彼らなら想像以上にさらに面白くなるなって、確信に変わりました。話してるとすごく分かるんですけど、二人とも共通点としてものすごく芯がある真面目さを持っている、でも発する言葉の音色も違えば、考えもまったく違うので、いいコンビだなぁと。晴明と道満、もしかしたら本来は逆でもしっくりくるかもしれないんですけど、あえてこの配役なのがまためちゃめちゃ面白くなる予感になってるなって、僕は思っています。
ーー林さんと松島さんは今作が初共演となります。
松島:はじめましてがビジュアル撮影のときだったんですけど、林くん、後光が差してまして。あの時は僕が先に撮影して入れ替わりで林くんが入って来たんですけど、道満の扮装姿が眩しかった〜(笑)。照明とかじゃなく、本当に光って見えたんです! お話ししてみても、まだとても若いのに考え方もしっかりされてますし、適当なことを言わない、自分がしっくりきてないものをそのまま出すことができないっていう、ある種の正義感がある方なんだなって感じています。そういう方がやられる道満というのはすごく楽しみですね。
林:ありがとうございます。自分はそのビジュアル撮影のとき、松島さん、陰陽師のあの扮装がめちゃくちゃ似合ってて、僕のほうこそ「安倍晴明、この人でぴったりだな。すげえっ」と思ってました。ちゃんとお話ししたのは今日が初めてなんですけど、しゃべりやすいというか、基本、僕、緊張してるんで(笑)、ご挨拶も恐る恐るになっちゃうんですけど、松島さんはすごいいい人そうなのが伝わってきて、分かんないこととかあったら素直に聞けそうだなと思いました。安心しました。
松島:そうなんだ。でも稽古が始まったら「僕じゃなく西田さんに聞いたほうがいいですよ」って言っちゃうと思います(笑)。
林・西田:(笑)。
松島:一緒に考えながら、一緒に作っていけたらなと思います。
林:はい、よろしくお願いします。
松島:こちらこそお願いします。
ーー演出的な構想などもぜひお聞かせください。
西田:さっき勇之介くんも言ってたんですけど、もう1幕からこれでもかってぐらい、殺陣があります。今回戦わない人がいないので、全員、全総力戦うんですけど……でも陰陽師ですからね。これが幕末のお話だったらある種刀しかないんだけど、でもファンタジーの世界でさらに陰陽師ですから、もう何でもありのすごい殺陣シーンが作れるんです。魔法……って言っちゃ駄目ですね、「呪術」を使えるのでもう無限に広がる面白さがあるんじゃないかなと。観ていても、すごくワクワクすると思いますよ。今作は比較的若々しい座組だなと思っているので躍動的な瞬間をたくさん作るつもりですが、でも演出としてむしろ「静寂」がテーマ。だから、それがまたいつもの僕の作品とは違った雰囲気にはなるんじゃないかなと思っていて。そこはたぶん、誰も想像してないと思うんです。本を読んでも絶対分からないので。
松島:台本で「安倍晴明が印を素早く切り……」って描写が何度かあって、そうか、「印」か、と。この作品に出演させていただくにあたって陰陽師を描いた映画なども何作か見たんですけど、それぞれ色があるといいますか、いろんな形の印の結び方があって面白いですよね。自分がどうやるかの想像は正直まだついてはいないですけど、でも西田さんについていけば間違いないかなと思っております。
林:僕もまだ実際にやるにあたってのイメージはあまり固まってないんです。刀を使っての殺陣は経験あるけれど、素手というか、呪術でやる戦いなので……。どういう演出でどう完成するのか、そしてみなさんがどう観てくださるのかが自分でも楽しみです。
ーー林さんは本作が舞台初主演になりますね。
林:自分自身将来の夢として「主演舞台」を目標に掲げていたんですけど、それを決めた翌年にこの作品が決まって、もう本当に嬉しくて! 思い出に残るような舞台にしたいと考えています。
松島:僕はまだ主演ってやったことがなくて、だからアドバイスとかは全然できないんですけど……林くんはかわいさ溢れるというか、誠実さがものすごいある。今回の舞台、多分たくさんの俳優仲間も観に来ると思うし、道満はみんなが「やりて〜」って言う予感がする魅力的な役。だからこそ林くんにしかできないことが確実にあるなと思ってます。
林:ありがとうございます
西田:僕も林くんの様子を見ているともうイチローか?! って思うくらいの向き合い方で……彼はちょっとした質問にも決して言葉で適当に返したり、口八丁手八丁みたいな感じでやり過ごしたりしない。初々しいし、この寡黙で真面目な感じがとてもいいと思う。だからそこを大事にしてほしいな、と……この先もずっとね。勇之介くんは3年前ぐらいに一度ご一緒していて、ものすごくハングリーな俳優だなと思った。3年経ってこうやって出会っても成長の跡が見えるいい目をしてるし、でもたぶん根本は変わってなくて。だからこそ、今回彼に僕が晴明を用意したのは「その感情を簡単には出させないよ」っていうところでお芝居を作って欲しかったから。そうやって内面のを広げていくお芝居を、まっすぐな林くんの道満と共に作れたら良いですよね。
松島:安倍晴明って僕の中ではすごい懐が深くて、ゆとりがあって、完璧で、器の大きいような人物を想像していたんですけど、今回この台本を読んでみて結構追い詰められてるような印象がありまして。ピンチにもなりますし、道満に噛み付いていくようなところもあって……今までの自分のイメージと何かちょっと違うキャラクター像をこれからの稽古で見つけていかなきゃなって考えています。
林:僕は蘆屋道満という人をこの舞台が決まるまでは知らなくて、調べてみたら「悪の道満」って周りから呼ばれているような人だったんですよね。なので悪い役なのかなと思ったら、やはり全然そうじゃなくて。結局、「悪の道満」ってみんなが思ってるだけで、実際は違うんだなぁと感じています。
ーー自己犠牲だったりとか。
林:はい。そういう部分も探り探り、稽古からなにか見つけ出せたらなと思います。
西田:本を書いてるのは僕なんで、物語の「ゼロからイチ」は確かに僕なんですけど、でも同時に舞台のゼロからイチは生身の俳優と共にやりたいなと思っています。仮に原作があったとしたら印を結ぶシーンも決まったポーズがあって、舞台上でもその通りにやればいんですけど……なんというか「決まってるからそうやればいいじゃん」っていうのはやっぱりつまらないですからね。気持ちがあってそのポーズになるわけで。なのでこの作品ではもうある意味そこにあるすべてを2人がゼロからイチで発したものを、共に目指していく。ここからやって日々稽古をしにいく過程で、この道満、この晴明は自分でしかできない、みたいなものになってほしいなっていうのはありますね。
ーーそのためにも稽古は結構ハードにやっていこうかな? と。
西田:そうですねぇ、僕的にはハードじゃないんですけど(笑)、結果、ハード。
林・松島:(笑)。
西田:でも楽しい稽古だと思います。
林:「ゼロからイチ」……稽古もこれからなので本当にまだそれもちょっと全然分かってなくて、でも……やっぱりこの自分らしさも作品の中で出せたらなとは思ってます。ごめんなさい、今はそれしか考えてないです。まだちょっと、やっていきながらじゃないと分かんなくって。
西田:うんうん。
松島:そもそも安倍晴明はいろんな人より高いところ……高次のところにいると思うんですね。でも今回この作品で、松島勇之介としての僕はいろんな方にお世話になって、いろんな方に教えていただく立場です。なので、ある種等身大じゃないですけど、そういう安倍晴明でいられたらいいんじゃないかな、と。
西田:二人ともそれでいいと思うよ。
ーー林さんは念願の初主演ということもありますし、改めてみなさんにとってのエンターテインメントのいちジャンルとしての舞台、その魅力を言葉にすると?
林:舞台も映像もライブもやっぱりそれぞれに良さがあってそれぞれでしか見せられないものがあるんですけど、やはり舞台っていうのは生身のお芝居を見せる場なので、僕らもお客様も互いに感情にきやすいのかなって思ってて。それで言うと、舞台はまさに失敗が許されない、緊張感がありますよね。
ーースリリング。
林:そうです。僕はそこがとても楽しいなって思ってます。いつかは極悪な役とか、やってみたいですね。
西田:いいねぇ。あとで言っといて。
林:(笑)。
松島:僕は逆に映像の経験がほとんどないので比較はできないんですけど、やっぱり舞台は好きです。何がどう好きとかっていうのは明確に分かんないですけど……楽しい瞬間ももちろんあるし、でも自分はまだまだだって苦しんだり悔しい思いもするし。そういうこと全部を生み出してくれるのが舞台っていう感覚ですかね、今は。その瞬間にいろんな感情を感じられるので……自分が続けてることの意味、答えもそこにあるのかなって。でもまぁ、シンプルに好きなんだと思います。
西田:僕は「作ることは出会うこと」っていうのが舞台を続けているテーマ。それにこれは100%言えるんですけど、演出家って決して偉くはないんですよ。俳優と同等。もっと言えば主役もスタッフさんももう全員イーブンですよ。そして全イーブンで「僕はこう思ってるんだけど、このシーンのやり方面白くない?」って言うと「面白いです」。じゃあ、その面白いっていう気持ちをらったぶんこちらも返していく、いっぱいくれたらいっぱい返して……みたいなことを現場で積み重ねていくのは、やっぱり舞台でしかできない面白さだなと思ってるんですよね。映像の素晴らしさはたくさんあるんですけど、舞台はいわゆる「ずっと生きてる」っていうことでもあるから、年齢なんかも関係なく、一緒に作っていく。それが一番の楽しみですし、だからこそ面白いものを出さなかったら舐められるなとか、互いにちゃんとプレッシャーもありながら付き合っていける関係に、僕はやっぱり魅力を感じます、とても。
ーー座組を拝見すると、今作でもそうやって共に過ごしてきた「西田組」と呼べる俳優さんが名を連ねていますね。
西田:言ったら普段僕が活動しているディスグーニーで主役をやってる奴らがここに集ってバチッとワキを締めてくれてる。みんな本当に素晴らしい俳優だと思いますし、いい俳優っていい人間だなと僕は思っているので、その彼らの心意気が嬉しいですよね。で、そういう意味では全員で「負けてられるか」みたいな場所にもなるから、本番までも本当に楽しみ。たぶんものすごく面白いことになると思います、彼らがいてくれて。
ーー本日が顔合わせ。いよいよ全てがスタートします。
松島:今日、撮影前に鏡の前に座った瞬間、メイクさんに「緊張してる?」って言われて。それぐらい、今日の僕はだだ漏れてました、緊張が(笑)。でも最初にこうして3人で話せてよかったです、すごく。ここに来るまで相当ビビってたっていうのもあるんで(笑)。でも、いつもの自分のように、西田さんにも皆さんにもやりたいようにやりたいことをぶつけてやろうっていうような気持ちになりました!
林:あの……緊張してるのを隠そうとしたりするんですよ、僕って。多分今も僕は松島くんよりもめちゃくちゃ緊張してるんだけど、それをどれだけ出せないか、みたいな我慢比べみたいなことを、ちょっとずっと自分の中でやっちゃってます(笑)。
西田・松島:(笑)。
林:でもお二人とお話しできて、そしてこんな素晴らしい演者さんたちが揃っているんですから、ここからは隠さずに分かんないこととかもどんどん聞いていこうって思いました。
ーー第一関門、突破。
林:(笑)。
松島:見どころ盛りだくさんですし、西田さんが作る陰陽師のお話がどうなるのか、そして、そこに参加する僕はどう生き抜くのか……僕も未知の楽しみに本当にワクワクしています。なので、皆さんももう単純にワクワクしながら劇場まで来てくださったなら嬉しいですね。いろんなことが少しづつ落ち着いてきていますし、ぜひ劇場を出たあとには「あれってこういうことだよね」なんて感想を、お友だちと駅まで話しながら帰ってくださればなって思います。
林:まずは初主演舞台をやらせていただけること、本当に嬉しいです。ありがとうございます。皆さまには初主演舞台に立つ僕の姿をぜひ目に焼き付けていただきたいです。また、陰陽師という初めての役どころを演じる“新しい自分も”見ていただきたいです。あとは……殺陣にも注目してください! 刀など使わずに素手で呪術などを使って殺陣をすると思うので、そのあたりもしっかり注目していただけたらと思います。
西田:陰陽師という題材はこれまでも映像でも舞台でもたくさん作られてきました。でも断言できるのは、この『Arcana Shadow』はどこにもない物語だということ。皆さんが想像しているものとは全く違う作品になっていることでしょう。それだけは自信を持って言えます。近頃は配信も増えてきましたが、でもやっぱり舞台っていうのは、生で体験してほしい世界。劇場の扉を開けて、同じ場所で同じ時間を生き、そしてまた劇場の扉を開けて帰ってくれる……。その出会いの喜びはやっぱり何ものにも変えがたいものなので……ね。もしまだ迷ってる方がいたら、ぜひこの扉を開けてみませんか? 我々、お待ちしております。
取材・文=横澤由香
公演情報
日程:2023年7月1日(土)~9日(日)
会場:サンシャイン劇場
林一敬(ジャニーズ Jr.) 伊波杏樹 松島勇之介
西銘駿 安西慎太郎 木崎ゆりあ 内田将綺(学芸大青春) / 小澤雄太(劇団EXILE) 栗山航 / 鈴木勝吾
書川勇輝 本間健大 和田啓汰 田上健太 中土井俊允 土居健蔵 海本博章 成瀬広都
作・演出:西田大輔
全席指定:9,900 円(税込)
(C)2023・Arcana Shadow. ALL RIGHTS RESERVED.
舞台公式Twitter: https://twitter.com/Arcana_ShadowSt
#舞台アルカナ