葵わかな&木下晴香が3年越しの想いを胸に再びアーニャ役に臨む~ミュージカル『アナスタシア』インタビュー
(左から)葵わかな、木下晴香
ミュージカル『アナスタシア』が、2023年9月〜10月に東京・大阪で待望の再演を果たす。
本作はアニメ映画『アナスタシア』に着想を得て2016年に制作された愛と冒険のミュージカル。ブロードウェイでも高く評価され世界各国で上演された後、ついに2020年3月に日本初演を迎えた。しかしこの日本初演時はコロナ禍の影響により初日が延期、さらに東京千秋楽以降の全日程が中止となり、幻の作品となってしまった経緯がある。
3年越しの想いを胸に、再び主人公・アーニャ役に臨む、葵わかなと木下晴香にインタビューを実施。葵と木下は、一つひとつ丁寧に自身の言葉を紡ぎながら答えてくれた。
(左から)葵わかな、木下晴香
舞台は20世紀初頭、帝政末期のロシア、サンクトペテルブルク。ロシア帝国皇帝ニコライ2世の末娘として生まれたアナスタシアは、パリへ移り住み離ればなれになってしまった祖母マリア皇太后から貰ったオルゴールを宝物に、家族と幸せに暮らしていたが、突如ボリシェビキ(後のソ連共産党)の攻撃を受け、一家は滅びてしまう。しかし、街中ではアナスタシアの生存を噂する声がまことしやかに広がっていた。パリに住むマリア皇太后は、アナスタシアを探すため多額の賞金を懸ける。それを聞いた二人の詐欺師ディミトリとヴラドは、アナスタシアによく似た少女アーニャを利用し、賞金をだまし取ろうと企て、アーニャと三人でマリア皇太后の住むパリへと旅立つ。記憶喪失だったアーニャは次第に昔の記憶を取り戻してゆく…
同じ頃、ロシア政府はボリシェビキの将官グレブにアナスタシアの暗殺命令を下す。マリア皇太后に仕えるリリーの協力を得て、ついにアーニャはマリア皇太后と会う機会を得るが、グレブがアーニャを見つけ出し…。
ーー前回公演から世の中の状況も大きく変わった今、待望の再演を迎えます。どんなお気持ちですか?
葵:純粋に嬉しいです! 前回公演は日本初演であり、アジア初演でもありました。それもあって私たちキャストもスタッフの方々も「みんなで成功させよう!」という想いが溢れていて、とても熱量のある稽古場だったんです。その熱い想いを放出しきれないまま終わってしまったのもあって、ある意味すごく忘れられない作品になっていました。今回、万全の状態で再演できるご縁に恵まれて感謝しています。3年経って自分自身が成長したことで、アーニャという役にいい影響を与えられるんじゃないかなと。21歳の自分が演じたアーニャと、25歳の自分が演じるアーニャを違う魅力で表現できたらいいなと思っています。
木下:私も再びアーニャとして舞台に立てるということが本当に嬉しかったです! 初演時、精一杯にこの役を演じていたことは確かなのですが、実力の足りない部分が見えて悔しい思いをすることもありました。その後もいろいろな作品と出会い、自分の中で培って成長できた部分もあると思うので、今の私でイチから向き合って作っていきたいなと思います。
ーー葵さんと木下さんは同い年ということですが、お互いに尊敬するところはありますか?
葵:私たち、すごく凸凹が合う二人だと思うんです。似ているところもあるけれど違うところの方が多くて。私はその“違う部分”を尊敬しています。本当にいっぱいあるんですよ! 晴香ちゃんはすごく柔軟でしなやかな印象があります。歌もダンスも上手で、スタイリッシュで……きっとみなさんが知っていることばかりです。
葵わかな
木下:私も一緒に話しているときに、今言ってくれたように“違う部分”があるというのを感じています。わかなちゃんの自分の意見をしっかり持っているところや、普段からちゃんと人と向き合って言葉を交わせるところをすごく尊敬していますし、憧れてもいます。
ーー2020年〜2023年は、コロナ禍でいろいろなことを経験されたと思います。この3年でご自身のどのような変化を感じますか?
木下:2020年の『アナスタシア』頃までは、自分じゃない誰かを演じているからこそ怖がらずに舞台に立てる、という感覚が強かった気がします。でもコロナ禍の3年を通して、自分自身を見せることが段々怖くなくなってきている感じがあるんです。結局のところ、演じるのは自分でしかないんですよね。その自分の感覚を通して届けないと、わかなちゃんみたいないい芝居はできないなあって。
葵:いやいやいや(笑)。
木下:急にごめんね(笑)。これまでは役を纏って演じていたのが、自分を通して演じられるように少しずつ変化してきているのかなと思います。
葵:私は俳優としての変化と個人としての変化の2つがあると思っていて。まず俳優としては、いろんな作品や役柄に挑戦させていただいているので「引き出しは増え続けているはず!」という願望があります(笑)。個人としては物事との向き合い方が変わってきて、すごくポジティブになったように感じるんです。
例えば、人生ってどんな状況下でも“どうにもならないこと”ってありますよね。20代前半の自分なら、そういうときはきっと躍起になっていたと思うんです。けれど今は「人生は繋がっているのだから、そのときできなかったことが一生できないわけじゃない」と思えるようになりました。自分の人生をちょっとだけ長く捉えられるようになったことで、肩の力も抜けた気がします。少しずつ柔軟に物事を考えられるようになってきているので、いい時間を過ごせているんじゃないかなと思っています。
(左から)葵わかな、木下晴香
ーー3年間でそれぞれ変化があったということですが、前回と今回の公演でアーニャという役へのアプローチに違いは生まれそうですか?
葵:アーニャはすごくがむしゃらで、なりふり構わず両腕をわーって回しながら走っているような女の子のイメージがありました。3年前の自分たちもまだまだ子どもから大人になったばかりで、それこそアーニャのようにわーって頑張っていたと思うんです(笑)。そういう猪突猛進でがむしゃらな部分がアーニャとリンクする部分だった気がしますし、そう演じていました。それが自分にできるアーニャらしい表現だったんです。
今回改めて「アーニャは一体どんな風にひとりで歩んできたのだろう」と考えているのですが、それによってさらに役が深まって立体的になるような気がしています。劇中、アーニャは記憶を失った少女として描かれていますよね。当時21歳だった私は21年分の記憶がない人として演じていたけれど、今演じたら25年分の記憶がない人になります。記憶を失くして孤独に生きた年月って、人間性にすごく影響を与えると思うんです。なので、少し大人になった自分がアーニャを演じるというのもまた面白いんじゃないかな、と。
木下:当時はアーニャを演じることにただただ必死で、すごく視野が狭くなっていました。もしかしたらそれが彼女のがむしゃらさに繋がっていたかもしれません。久しぶりに台本を読み返して感じたのは、アーニャの強さでした。もちろん前回公演でも、彼女は強い女性だと思っていました。けれどそれは、“記憶を失ってもひとりで生き抜いてきた強さ”だと捉えていたんです。今回感じたのは、“アーニャが自分は何者なのかを取り戻す旅の中で得ていった強さ”です。これは異なる強さだと思うので、その違いを大事にできたらいいなと思いました。今の自分で作品と向き合い直したとき、どんな景色が見えてくるのか楽しみです。
ーー改めて初演時を振り返ってみて、どんなことを思い出しますか?
葵:楽しさを感じられるようになる前に終わってしまった、という感じがあります。舞台では公演を重ねていく中で段々と慣れて体力の配分がわかってきたり、好きな部分が増えていったりしていくのですが、そうなる前に終わってしまったんです。ただ作品は本当に素敵なお話でしたし、プリンセスを演じるということが楽しかったです。
木下:主人公としてひとつの作品の中で生きることが嬉しくもあり、すごく大変でもありました。わかなちゃんが話していたように、私も余裕が生まれる前に公演が中止になってしまって。でも舞台稽古のときに舞台美術を見たときは、出演者側にも関わらずため息が出る程いちいち感動していたのを覚えています。豪華な衣装を着てプリンセスになれる瞬間もすごく楽しかったです。前回は作品を届けられなかったお客様が多かったことがとても無念で悔しかったので、今度はたくさんの方に届けられたらいいなという想いでいっぱいです。
ーー前回公演時、海外から大勢のクリエイティブスタッフが来日していたそうですね。稽古場で特に印象的だったことを教えてください。
葵:日本と海外の文化の違いをひしひしと感じました。例えばキャラクターひとつにしても、私たち日本人からしてみると不思議に思う行動があることも。動きを演出してもらっている中で「あ、これって日本人独特の感じ方なんだな」と気付かされることがあって興味深かったです。
木下:そうだね。演出でつけてもらった動きに合わせて、役者である私たちがその動機付けをしていくという感じでした。
木下晴香
葵:あれは私たちの戦いだったね(笑)。元々完成された作品の演出を踏襲する公演だったので、日本版だからといって動きを変えるようなことはできなかったんです。文化が違うことによる価値観の違いって本当に存在するんだなと思うと、すごく面白くて。どうやったら演出が意図するエッセンスを芝居の中に落とし込めるのか、ということを考えて稽古していたような気がします。
木下:深い話でもなんでもないんですけど、すごく覚えていることがあって。『アナスタシア』はキスシーンがある作品ですが、そういう作品の稽古場って“いつからちゃんとキスシーンを練習するのか”で、なんとなくざわざわしてくるんですね(笑)。でもこの現場では演出の方が「(パン、と手を叩いて)はい! 今日からちゃんとやるよ!」とはっきり言ってくださったんです。変に探り合う感じがなかったので、こちらも「あ、はい! わかりました!」みたいな(笑)。それが海外らしくラフな感じでよかったなあと、すごく印象に残っています。
ーー台本を読ませていただきましたが、読めば読む程アーニャという役が魅力的じゃないと成立しない物語だと感じました。そんな大切な役に再び挑むにあたっての意気込みをお願いします。
葵:子どもの頃に憧れたおとぎ話のような、すごく素敵なお話ですよね。しかも今の自分にも共感できる、ひとりの女性のサクセスストーリーでもあります。アーニャは自分の手で道を切り開いていく力強いヒロイン。そんな彼女だからこそ、観ている方の一番近くに寄り添えるキャラクターであり、憧れてもらえるようなキャラクターであり、背中を押してくれるような面も持っているのかもしれません。今おっしゃっていただいたように、いろんな方面の魅力がある人物だと思います。3年という月日が経ってこうしてまたアーニャを演じるというのは、きっと何か巡り巡ってのものがあってのことだと思います。今の自分にできる誠実な向き合い方をして、前回よりもさらに素敵なアーニャにしたいです。
木下:アナスタシアの祖母である皇太后のセリフで好きなものがあります。それは「自分で自分を認めない限り、何者にもなれない」というもの。コロナ禍で「私に何ができるんだろう。私って一体何なんだろう」と考え続けた日々がある中で、このセリフがすごく響いたんです。前回公演では、アーニャという少女の過去を巡る旅という作品の捉え方をしていましたが、今は「自分は何者なのか」を問い続けているアーニャがひとりの人間としての生き方を取り戻していく物語だと思っています。そうしたアーニャの姿は、観てくださる方にも何か通ずるものがあるんじゃないかな、と。彼女ががむしゃらにもがく姿を全力で生きて、歌も芝居もしっかりパワーアップして作品をお届けできるよう、精一杯頑張りたいと思います。
(左から)葵わかな、木下晴香
■葵わかな
スタイリスト:岡本純子
ヘアメイク:竹下あゆみ
■木下晴香
スタイリスト:大野紗也
ヘアメイク:沖山吾一
取材・文 = 松村 蘭(らんねえ) 撮影=池上夢貢
公演情報
【東京公演】2023年9月12日(火)~10月7日(土)東急シアターオーブ
【大阪公演】2023年10月19 日(木)~10月31日(火)梅田芸術劇場メインホール
日程:2023年10月20日(金)
会場:梅田芸術劇場 メインホール (大阪府)
開演:18:00~
【手数料0円・座席選択】一般発売
受付期間:2023/7/1(土)10:00~2023/10/20(金)18:00
申し込みは【こちら】
スタッフ:
[脚本]TERRENCE McNALLY(テレンス・マクナリー)
[音楽]STEPHEN FLAHERTY(ステファン・フラハティ)
[作詞]LYNN AHRENS(リン・アレンス)
[振付]PEGGY HICKEY(ペギー・ヒッキー)
[演出]DARKO TRESNJAK(ダルコ・トレスニャク) 他
葵わかな・木下晴香/海宝直人・相葉裕樹・内海啓貴/堂珍嘉邦・田代万里生/大澄賢也・石川
禅
/朝海ひかる・マルシア・堀内敬子/麻実れい
渡久地真理子・西岡憲吾・武藤 寛・村井成仁・山中美奈・山本晴美
内 夢華・鈴木蒼奈・戸張 柚
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