ワッツ・オン・ブロードウェイ?~B’wayミュージカル非公式ガイド【2023年夏・最終号】
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4月にブロードウェイに行ってきた。観てきた9本を、また1年かけて2~3本ずつ紹介していこうかな、どの順番がいいかな、などと思っていたら、鬼才ボブ・フォッシーの振付をフィーチャーした『ダンシン』が5月に、アンドリュー・ロイド=ウェバー大先生の新作『バッド・シンデレラ』が6月に早くもクローズ。ロイド=ウェバー作品では、4月に(筆者にとっては今回最大の渡航目的だった)『オペラ座の怪人』も大大大千秋楽を迎えており、ブロードウェイは実に44年ぶりに“ロイド=ウェバー作品のないシーズン”を迎えている。
『バッド・シンデレラ』も『ダンシン』も、確かに駄作というか、ブロードウェイレベルに達していない印象だったことは否めない。とはいえ少なくとも『バッド・シンデレラ』に関しては、キャスティング次第で日本では割と受けそうな気もしたので取り上げたかったのだが、本連載は“上演中の”作品を紹介するものなのでひとまず除外。残り7本となるわけだが、実はタイトルにしれっと書いた通り、SPICEでの本連載は今号をもって終了となるのでここは景気よく(?)、先のトニー賞で作品賞に輝いた2作を取り上げることとしよう。
■新作作品賞『キンバリー・アキンボ』
通常の4倍ほどのスピードで老化する難病を患い、16歳にして老婆のように見える女子高生キンバリーの物語。と聞くとついお涙頂戴のホームドラマか学園ものを思い浮かべがちだが、強烈すぎる叔母が登場したあたりからクライムサスペンス味を帯びていく。その展開(原作はデヴィッド・リンゼイ=アベアーの戯曲)と、伯母を筆頭に両親やボーイフレンド、同級生たち一人ひとりが立ちまくったキャラクター設定、そして次々と伏線が回収されていく芸の細かさが見事な、なおかつ最後にはちゃんとお涙も頂戴できる良作。作品賞、脚本賞、楽曲賞、主演女優賞、助演女優賞(叔母役)、というトニー賞の結果からも分かるようにビジュアル的な派手さはないので、シアタークリエあたりでの日本版妄想が膨らんでいる。ベテラン女優ヴィクトリア・クラークが演じるキンバリーは仕草が完全に女子高生で、老婆に成り済ますシーンが本当に“変装”に見えた。さて、日本版のキンバリー役は――?
■リバイバル作品賞『パレード』
今回観た9本のなかで最も“食らった”感の強い作品。アメリカ史に残る冤罪事件をジェイソン・ロバート・ブラウンの音楽で問いかける『パレード』を、筆者は今まで海外で観たことがなく、ただ森新太郎演出による日本版が出色の出来だったためそのことに不満もなかったのだが、やはりさすがはマイケル・アーデン。当然ながら森とは全く違う、人種のるつぼニューヨークだからできるキャスティングと演出で、ドキュメンタリーのようにリアルで目を覆いたくなるほど衝撃的な『パレード』を打ち出してきた。特に一幕と二幕それぞれのラストシーンは、ユダヤ人の主人公レオ・フランク役のベン・プラットの凄まじい覚悟が滲む名演もあり、まさに圧巻。プラットが主演男優賞を逃したのは残念だが、昨年日本で『ガイズ&ドールズ』を演出した際には「トニー賞2度ノミネート」だったアーデンのプロフィールが、この作品をもってついに「トニー賞受賞の演出家」になったことはめでたい限りだ。
【2023-24シーズンの新作】
*情報は2023年6月29日時点のもの
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』6月30日プレビュー開始予定
言わずと知れた大ヒット映画の舞台化。ロンドンでオリヴィエ賞を受賞してのBW入り。https://www.backtothefuturemusical.com/new-york/
『グーテンバーグ!ザ・ミュージカル!』9月15日プレビュー開始予定
日本でも上演歴のあるオフのコメディが『~モルモン』の初代主演コンビを得てオン進出。https://gutenbergbway.com/
『Harmony』10月18日プレビュー開始予定
ドイツの6人組エンターティナーの実話をB・マニロウの音楽で綴る。S・ボーゲスも出演。https://harmonyanewmusical.com/
『Here Lies Love』プレビュー中/7月20日開幕予定
『ムーラン・ルージュ!』の演出家による超参加型ミュージカル。劇場を改造して上演中。
https://herelieslovebroadway.com/
『メリリー・ウィー・ロール・アロング』9月19日プレビュー開始予定
オフで
『Once Upon A One More Time』プレビュー中/7月22日開幕予定
ついに登場、B・スピアーズのジュークボックス。但し伝記ではなくオリジナルストーリー。https://onemoretimemusical.com/
【2022-23シーズンの準新作】
『&ジュリエット』
M・マーティンのヒット曲で綴るロミジュリの後日譚。トニー賞無冠につき短命かも(涙)。
https://andjulietbroadway.com/
『A Beautiful Noise』
ニール・ダイアモンドの伝記系ジュークボックス。M・メイヤー演出、W・スウェンソン主演。
https://abeautifulnoisethemusical.com/
『キャメロット』7月23日まで
10月に日本でも上演されるラーナー&ロウの古典。演出はB・シャー(日本版は宮田慶子)。
https://www.lct.org/shows/camelot/
『Kimberly Akimbo』
早老症の女子高生の物語をJ・テソーリの音楽で。トニー賞で作品賞含む5冠を達成。https://kimberlyakimbothemusical.com/
カンダー&エッブ音楽、LMミランダ追加作詞、S・ストローマン演出。トニー賞装置賞。https://newyorknewyorkbroadway.com/
J・R・ブラウンの代表作をマイケル・アーデンが演出。トニー賞リバイバル作品&演出賞。https://paradebroadway.com/
とうもろこしが題材の抱腹絶倒コメディ。ノンバイナリー俳優がトニー賞助演男優賞。
https://shuckedmusical.com/
マリリン・モンロー主演の名作映画をC・ニコロウが演出・振付。トニー賞振付賞など4冠。
https://somelikeithotmusical.com/
『スウィーニー・トッド』
ソンドハイムの傑作を『ハミルトン』の演出家がリバイバル。トニー賞照明&音響賞。
https://sweeneytoddbroadway.com/
【ロングラン作品】
■日本で既に上演された/されている作品
『アラジン』
ディズニーアニメが舞台ならではの手法で表現された秀作。魔法の絨毯は本当に魔法。
https://www.aladdinthemusical.com/
→2020年春号で紹介済(https://spice.eplus.jp/articles/266843)
『シカゴ』
『オペラ座の怪人』の閉幕を受け、上演中の作品としては最長ロングランとなった名物作。
https://chicagothemusical.com/
→2020年冬号で紹介済(https://spice.eplus.jp/articles/263251)
『ファニー・ガール』9月3日まで
58年ぶりのリバイバル。M・メイヤー演出。『glee』のリー・ミシェルが最後まで登板予定。
https://funnygirlonbroadway.com/
2021年のトニー賞受賞作。原作はB・ラーマン監督の映画。日本版、絶賛上演中!
https://moulinrougemusical.com/
→2023年春号で紹介済(https://spice.eplus.jp/articles/316630)
『シカゴ』に次ぐ2位を安定飛行中の大名作。ン十年ぶりに観たが相変わらず満席だった。
https://www.lionking.com/
→2020年冬号で紹介済(https://spice.eplus.jp/articles/263251)
『ウィキッド』
開幕から20年近くが経ち、ようやく
https://wickedthemusical.com/
→2020年春号で紹介済(https://spice.eplus.jp/articles/266843)
■日本未上演の作品
2011年のトニー賞を制した、もはや“古典”の領域の傑作。1周回って日本語版を妄想中。
https://bookofmormonbroadway.com/
→2020年春号で紹介済(https://spice.eplus.jp/articles/266843)
『グレコメ』の演出家が現代的に描くギリシャ神話。2019年のトニー賞で8冠を達成。
https://www.hadestown.com/
近年最大のモンスター級ヒット作。ディズニー+で配信中(日本語字幕付き)。
https://hamiltonmusical.com/
→2021年夏号で紹介済(https://spice.eplus.jp/articles/289039)
M・ジャクソンの伝記系ジュークボックス。トニー賞受賞の主演俳優は降板しロンドンへ。
https://mjthemusical.com/
→2022年夏号で紹介済(https://spice.eplus.jp/articles/304899)
ヘンリー8世の6人の妻がガールズパワーを炸裂させる痛快作!バンドまで全員女性。
https://sixonbroadway.com/