宇多田ヒカルの新作「GOLD 〜また逢う日まで〜」を深掘り、Spotifyで制作秘話を語るーー『New Music Wednesday [Music+Talk Edition]』ロングインタビュー × SPICE連動記事
Spotifyの人気ポッドキャスト『New Music Wednesday [Music+Talk Edition]』のスペシャルインタビューシリーズとSPICEの連動企画。今回は、7月28日(金)に新曲「GOLD 〜また逢う日まで〜」をリリースした、宇多田ヒカルがゲストに登場! 楽曲が生まれた経緯から共同プロデューサー・A. G. Cookとの制作について、そして音楽と建築の類似性、同楽曲が主題歌となっている映画『キングダム 運命の炎』(7月28日公開)との関連性やSNSでの落とし物写真についてなど、番組ナビゲーターの竹内琢也が深掘りしていく貴重なロングインタビューとなった。SPICEでは、Spotifyで配信中のエピソードをダイジェストでお届け。インタビュー本編は、ぜひSpotifyで楽曲と合わせてチェックしてみてほしい。
ーーSpotifyでは2022年1月にアルバム『BADモード』がリリースされたタイミングで、「Liner Voice+」にて宇多田さんご本人に全曲解説をしていただきました。その中で、ドラマ『最愛』の主題歌「君に夢中」について、歌詞はなかったもののドラマの前から楽曲があったというお話もあったんですけど、今回の「GOLD 〜また逢う日まで〜」についてはいかがでしたか? 映画のお話があってから書き始めた感じですか?
タイアップがあると「書き下ろし」というじゃないですか。だけどタイアップのある作品のために書くことはないんですよ。曲の内容を自分では選べないから、その時に考えていることや感じていることだったり、「これを書きたい!」と思ったことがタイアップに合わせられるかな?という感じでちょっと寄せるのか、自分から出てきたものと作品に多分に含まれている感情みたいなテーマとリンクする共通点が見えるとできるんです。どんな人の物語でも、その真髄まで突き詰めていくと真実のような、一箇所の深い洞窟の池みたいなところにみんな共通して繋がってると思うんですよ。なので、真髄に向かっていけば、(作品とも)繋がるみたいな。
ーーその「真髄に繋がる」でいうと、宇多田さんは以前にも何度かお話されていますが「人間はみんな同じだと思っている」というコメントをされているじゃないですか。それに繋がるような考え方ですよね。
そうですね。魂ってそんなに変わんないのかな、みたいな。
ーー「人間はみんな同じ」と思っているのはつまり?
例えば、みんな全く同じ体験というのはありえないですけど、感情は痛みとかと同じだと思っていて。ほかの人の痛みは感じることができないけど、生物学的な反応として仕組みは同じじゃないですか。だから感情も外的要因に対して脳がどう反応するか、そこから放出される成分で体が心臓がバクバクするとかアドレナリンとか、皮膚や臓器、神経がこういう脳内物質が出て……という何でできているかという意味では「人間はみんな同じ」だなと。感情や記憶、感覚はみんな個人個人で違うと思いがちだけど、それも含めてみんな同じなんじゃないかなと。悲しさや嬉しい気持ちとか、がっかりする気持ち、ウキウキする気持ちはみんなそれぞれ違うものに対して感じるかもしれないけど、その気持ち自体は同じだよなって思う。
ーー楽曲制作をする上で、この考え方は密接にリンクしてるんじゃないかなと予想しているんですけど、どうですか?
創作物って、全部そうじゃないですか? それの証明というか。私も子供の頃、すごく寂しい思いをしてる時に、子供用の小説を1日1冊ぐらい読んでいたぐらいフィクションを読んでて。そこに没入した理由が、「私が感じてる感情は、もう誰かが感じて本にしてるんだ」みたいな証明に繋がっていたんですね。この作家の人が書いた本が有名な本になっていて、たくさんの人が共感してるということは「孤独だなと思う気持ちは、みんな同じ気持ちを持ってそう感じてるだけなんだな」という証明みたいなものだった。凄くそのことに救われたというか、孤独を感じてることにも安心を感じられて。私が自分で感じたことを書いたり音楽にしたものを、結果としてたくさんの人が「私のことを見てるのって思うぐらい、私の気持ちも書いてくれている!」と言ってくれる人もいるんで、やっぱりそうなんだなという確認みたいにもなってます。
ーーでは、この映画の話があったからという訳ではなくて、原型というかイメージがあって楽曲は作られていたと。
先にありましたね、この曲も。実は後半のちょっと早口になるコードのパートからできていて。引っ越したお家にピアノを置いているんですけどスタジオスペースがまだ完成してなくて、1年ぐらいほとんどピアノだけで作業してたんですね。だから、凄く作曲のコード感とメロディーに立ち返ることができたというか。アレンジもそんなに考えないで、とにかく一番の骨組みのコードとメロディーに集中する時間が増えて、ピアノでひたすら作業していて。その時にそのパートのコードとメロディーと、<いつか起きるかもしれない悲劇を……>の言葉もほとんど最初の頃に出てきて、すごくそこが気に入ったんですね。これ今凄く作りたいけど、映画の話もあってエンディングのシーンでバラードをお願いしたいとお話しをいただいてたので、これで始めるわけにはいかないなと。そう思って、そのあと前半のバラードっぽい部分をずっと考えていたんですけど、なかなかできなくて……。
ーー前半が後にできたんですね。
そうですね、それで3〜4か月ぐらい悩んで。でも、そういう時は釣りをするみたいな感じなんですよ。私の仕事は待つことだと思ってて、自分の海原の時間帯とか海流とか風向き、魚の生態とかもちろんよく知ってるし、どうしたら捕まえやすいか、自分の釣りやすい場所は分かってるんです。だから、そこにとりあえず極力いて待つしかないから、まぁ何とかなるよなとは思っていて。それで今回でA. G. Cookとは3曲目なので、「一緒にできない?」と聞いたら、「いいよ。その時、ちょうどロンドンに帰るし」と言ってくれて。
ーーということは、一緒にスタジオで作業?
ロンドンのスタジオで一緒に録るのは初めてですね。
ーーA. G. Cookとは、「One Last Kiss」「君に夢中」に続いての3曲目ですよね。彼自身もアーティストで、これまでにいろんなアーティストと関わってきた方だと思うんですけれど。「One Last Kiss」の時は完全にリモートでの作業でしたか?
そうですね。
ーー「君に夢中」はニューヨークで?
はい。ニューヨークのちょっと広めのホテルの部屋をとって。そこにスピーカーとか機材を入れて。
ーーホテルで録ったんですか。
音が大丈夫そうな部屋を選んで、ライブとかに機材を出しているところにお願いして、セッティングして。あとはあたしも彼もラップトップとインターフェースとかがあればできるタイプなので、機材はそんなに要らないからその部屋で2〜3日で。
ーー気になるのは、A. G. Cookの関わり方が3曲とも同じような感じなのか、今回は少し違っていたのかどうなのかなと思って。
どんどん速くなっていますね。お互いを良く知って、だんだん慣れてくるというか。信頼が増していくから、音楽的に打ち解けていくというか。キッカケは私がずっと一緒にトラックを作る人を探していて、ディレクターさんがこの人は合うんじゃないかなと紹介してくれて。でも、彼がよく仕事を一緒にしていたりコラボレーションしてるアーティストについて、「例えばチャーリー・XCXとか」と最初に言われて。まぁ、ちょっと共通点も感じる部分はあるかなと。型にはまらないシンガーソングライターみたいな。器用だけど、ちょっと誤解もされやすくもあり、根も優しそうな感じ。そういう意味ではなんか分かる、もしかしたらそういう共通点をディレクターさんも感じて言ったのかなとも思いつつ(笑)。
ーーたしかに、そういわれるとそうかもしれないですね。
でも音の感じは、彼女の方がアグレッシブな音色というか、荒ぶった感じというか。だから合うのかなとか思っていて。なので、とりあえずA. G. Cookとオンラインでお話ししてみようかとなり、話をしたらすごいいい人で、話しやすくて、何か一緒にできそう、分かってくれそうと思ったんですね。なおかつ、やりにくいタイプだと思うんです、私。プロデューサー的には、私もプロデューサーだから自己主張がある人だとぶつかっちゃうから。だけど私のやりたいことを分かってくれて、それを支えてくれる人で。その柔和な人柄も創作の上での姿勢も、まさに私を立てて引き出してくれる、面白がって新しいことを一緒にやってくれるところだったり。それから親が二人とも建築家というのもあって、そこも含めていいなと思って。音楽と建築は、物を作るジャンルでいうとすごく似てると思うから。
ーー建築と、音楽はどういう風に似ているんですか?
建築も音楽も空間作りで、無を構築することじゃないですか。建築でいうと、家を造るといっても壁を作ったり家を使う人も壁を使っているわけじゃなくて、その無の空間を使う。音楽も、例えば世界中の音を全部入れられるけど、ほとんどの音は入れない。隙間や音がない空間をどう音で区切っていくかという作り方ですよね。だから音は、壁とか屋根とか、階段とかフロアのような、ある意味で仕切りみたいなもので、その中を人が漂えるようにする、人を包む空間を作っているものなのかなって。音楽も無音で始まり、無音で終わるじゃないですか。ミックスとかアレンジをしてると、その立体的な空間作りを特に感じますよね。この周波数はカットしようとか、低音の周波数が多過ぎてごちゃごちゃしてるからフィルターかけてカットしようとか。
……つづく
さらにインタビューは、楽曲のサブタイトルにまつわる話や映画『キングダム 運命の炎』との関係について。そして話は広がり仕事感や音楽と言語についての捉え方についても。詳細は、Spotifyにてチェックを!
取材=竹内琢也 文=SPICE編集部(大西健斗)
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『New Music Wednesday [Music+Talk Edition]』
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