アートフェア『UNKNOWN ASIA 2023』でアジア各国とのリアルな交流、再びーー140組超の中から一筆書きアーティストがイープラス賞を受賞
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紀陽銀行 presents UNKNOWN ASIA 2023
アジアのアーティストが集結する国際アートフェア『紀陽銀行 presents UNKNOWN ASIA 2023』が9月15日(金)から17日(日)までの3日間、グランフロント大阪 北館 B2Fのナレッジキャピタル コングレ コンベンションセンターにて行われた。2015年の初開催からコロナ禍を乗り越えてたどり着いた9回目の今年は、昨年叶わなかった海外アーティスト・ギャラリーとの交流が復活。今回もSPICE編集部では、15日(月)に行われたVIPプレビューにて気になるアーティストをピックアップ。あわせてイープラス賞の受賞者も紹介する。
紀陽銀行 presents UNKNOWN ASIA 2023
コロナ禍を越えた「アジアとの再会の年」
ここ数年は新型コロナウイルスの影響を受けてきた『UNKNOWN ASIA』。2020年はオンライン、2021年はオンラインと実会場を組み合わせたハイブリッド形式での開催を経て、昨年ようやく実会場での開催がカムバック。しかし海外アーティストの来日が叶わず、ポスター作品を「ASIAN Artists Poster Exhibition」として展示する運びとなった。
そして迎えた今年の『UNKNOWN ASIA』は「アジアとの再会の年」となった。日本をはじめ中国、香港、韓国、タイ、マレーシア、インドネシアといった多くの国と地域から、140組を超えるアーティストとギャラリーが参加。来場者は3日間延べ13,111名と昨年から大幅に増加した。やはりリアルな交流はエネルギーを生み出す。昨年より参加アーティストが増えたこともあり、会場の熱気は非常に高まっていた。
紀陽銀行 presents UNKNOWN ASIA 2023
一般公開日の16、17日には、ホワイエでARグラフィティアプリ「STREET WRITER」の体験ができるなど時代に即した内容で、アート表現の可能性やマーケットについて触れる機会が用意された。会場内で行われたトークセッションにはDMOARTSギャラリーディレクターの高橋亮やSkeleton Crew Studio スタジオマネージャーの石川武志をはじめ、昨年グランプリを受賞した岡田将充ら、これまでの『UNKNOWN ASIA』に関わりのある面々が登壇した。
紀陽銀行 presents UNKNOWN ASIA 2023
初日のVIPプレビューの目玉は、200名にも及ぶスポンサー、審査員、レビュアーによる投票。これまでそれぞれに10枚託されていたレコメンドシールが今年は廃止され、投票できるアーティストが1組に減少。素晴らしい才能があふれるブースの中から1組を選ぶのは至難の業とあって、会場を何周もしながら、時間をかけて賞を授与するアーティストを選んでいた。
ここからは気になったアーティストをピックアップする。そしてイープラス賞受賞者も紹介しよう。
Mr.空空
メインビジュアルを手がけた中国のMr.空空
『UNKNOWN ASIA 2023』のメインビジュアルに起用されたのは、1986年中国山東省生まれのMr.空空。水面に揺れる対象物をそのまま写し取ったような、S字曲線で描かれる作品が特徴だ。彼は今回、1つの審査員賞と3つのレビュアー賞を受賞した。
Sky
本人も作品もパワフル
作家活動を始めて2年半のSkyは『UNKNOWN ASIA』初出展。2年前までは飲食業を営んでいたが、コロナ禍で店舗を休業中、幼少期に絵を描くことが好きだったことを思い出し制作を行うようになり、現在は作家活動に勤しむ。彼女の作品の根源的なテーマは「天と地、闇からの光、古のエネルギー、生命を表すこと」。ダイナミックな筆致で描かれた抽象画はまさにエネルギーを内包する。
コロナ禍に飲食業から転身したSky
ブースに並んだ3枚の大きな絵。向かって右側の作品は「未来」を、左側の作品は「過去」をテーマに描いたとSky。未来は女性、天国、光、内側などの意味が、過去は男性、地球、影、外側などの意味があると話す。そして真ん中の白いキャンバスは「現在。今、この瞬間」。この白いキャンバスの前に自分が立つことで、過去と未来の繋がりの間に生きていることが感じられ、写真スポットとしても楽しむことができる。これは「今この瞬間の世界、 自分がやりたいように好きにやっていけるというメッセージ」と語る。さらに作品を通して自己表現ができるようになり「解き放たれた感じがする」と顔を輝かせ、「関西は好きだし、大阪で絵を買ってくださってる方が多かったので、関西も拠点のひとつにしたい」と笑顔で話してくれた。
伊吹
UNKNOWN ASIAに出るのが夢だったと話す伊吹
建築への憧れを立体作品で表現した伊吹は、いつか出展してみたいという気持ちを持っていた『UNKNOWN ASIA』に初参加。作品のテーマは「空中建築」。地上が砂漠化して住めなくなり、空中に都市を作ったというストーリー性のあるものだ。もともと平面で作品を描いたり、木製スマホケースにレーザー彫刻を施して販売していたが、「空中建築」を立体にするとどう表現されるか知りたくなったそう。木の棒が組み込まれた作品は、どこか飛行船のようにも見える。
砂に埋もれた名刺は自由に持ち帰ることができた
「もう故郷に戻れない悲しさ、住んでいた事実を風化させたくないという想いから、そこで暮らしていたことを忘れぬよう足跡を残すことにした」と話す伊吹。観賞者もその欠片に触れるように、砂漠化した地上に刺さっている名刺は自由に持ち帰ることができた。今後はアトリエを探しながら立体物を制作したいと意欲を見せていた。
河合郁希
UNKNOWN ASIA出展は初めての河合郁希
大阪出身の河合郁希も『UNKNOWN ASIA』初出展。風景を抽象化したシリーズ「No.(ナンバーズ)」を主に手掛けている。「日常の風景、抽象、複製」という3つの要素に重きを置いて制作するシリーズで、ひとつの風景を同じ構図で抽象化を強めて描いていくことで、鑑賞者の記憶を喚起し、新たな認識の獲得を促す。
同じ風景を抽象化してゆく「No.(ナンバーズ)」シリーズ
河合は「人の記憶は遠のけば遠のくほど、どんどん曖昧になっていく。僕の作品を通して見てる人の記憶を掘り起こしたり、思い出したりしてほしい」と穏やかな表情で話す。本シリーズは実験感が強く、その時々で作品ごとにテーマを変えて制作しているそう。そのためできるだけ無機質で、日本のどこにでも見られるような風景を選んでいるのだとも話していた。
白兵衛
今年美大を卒業したばかりの白兵衛
白兵衛は、今年春に旧京都造形大学(現京都芸術大学)を卒業したばかりのフレッシュな作家。レビュアーをつとめる北岡良太が代表を務める、奏 -KANADE-のアパレルブランド「HeuuGenn」のデザインなどを担当している。『UNKNOWN ASIA』への出展も初で、プロの道を歩み始めたばかりだ。
祖父との大阪での思い出を作品に
全てが新作の今回のテーマは「大阪」。そこには、尊敬していた大好きな祖父の存在が色濃くうつる。本作の制作期間中に祖父を亡くした白兵衛は悲しみに襲われたが「それでも絵は描かないとあかんので、大阪に住んでいたおじいちゃんの存在の大きさや性格、好きだった赤色を踏まえて龍という形に落とし込みました」と話す。人物の力強い眼差しと、原色を使った鮮やかな色使いから感じるものは、真っ直ぐに前に向かってくるエネルギー。デジタルながらこの迫力は言い知れぬものがあった。
chikako adachi
2022年から作家活動を始めたchikako adachi
マニキュアを画材として使っていたのは『UNKNOWN ASIA』初参加のchikako adachi。美術鑑賞は好きだったものの、ほとんど芸術と無縁の生活を送っていたが、休職を機に2022年から制作活動を開始。マニキュアを使う理由は、絵の具よりも身近だったから。「本来消費材として使われるマニキュアをキャンバスに落とし込み、自己表現のひとつとしてアウトプットしようと思った」とも話す。社会人として働く中で感じた「着飾ること、綺麗でいること」が「消費、消耗されること」になってしまうという違和感が制作活動のキッカケとなった。
画材はマニュキュアを使用
マットな下地の上にペイントされたダイナミックな表現、海洋生物のような艶めきとゆらめき。「人の命や、綺麗や元気でいれる瞬間には限りがあると思うんですけど、その瞬間を衝動的に切り取るように絵を残したい」と語る。彼女の作品から生命力を感じる理由はそこにあるのだろう。また「(展示して)観てくれた人と対話することでやっと絵が完成する。発表することで学ぶことがすごく多い」と話す。写真手前の大きなグレー地の作品はマニキュア60本を使ったそうだ。今後はさらに大きなサイズを描けるように制作環境を整えつつ、作品を増やしていきたいと意気込んでいた。
Meellameel
タイから初めて出展した、Meellameel
タイ・プーケット出身のイラストレーターMeellameelの作品は、物語の挿絵のような雰囲気で、観る者に思考の余白を与える。
ストーリー性のある作品が素敵だ
デジタルツールで絵を描く彼女は、日常の何気ない瞬間を切り取って作品に昇華。デザイン性の高い構図やコントラストの強い色遣い、影の存在感が、平面ながら奥行きと立体感を生み出し、非常に印象深かった。
イープラス賞はYUIHALFが受賞
イープラス賞を受賞したYUIHALF
そしてイープラス賞を受賞したのは、一筆書きをメインに活動しているイラストレーターYUIHALF。オンラインを含めると今回で3度目の出展となる。彼女の代名詞と言える一筆書きのスタイルは、『UNKNOWN ASIA 2020』に初参加する少し前に、他のイラストレーターとの差別化・独自化をはかるためにたどり着いたのだそう。2021年はスポンサー賞を含む3つの賞を、2022年は4つのレビュアー賞を受賞し、現在は企業HPのイラストやロゴ、CDジャケット、グッズイラストなどを手がける。
一筆書きで描く作品たち
作品を制作する際に心がけているのは繋がり。「1本に繋がっている流れまで重視している」と話す。下絵を描いてから線を取る方式で描く洗練された線やデザイン的な構成はもちろん、彼女の明るくて気さくな人柄も印象に残る。彼女に投票したイープラス関西支社長も「オシャレだけど気取っていないし、1本の線の作品でずっと見られる作品はなかなかない。昨年もすごく良かった!」と絶賛していた。今後は「自分が好きなゲームやスポーツ、お笑いに関われたらめちゃめちゃ嬉しいです」と意気込む。ちなみにイープラス賞のほかには、1つの審査員賞と3つのレビュアー賞を受賞した。
なお、グランプリはマレーシアのテキスタイル作家のMarcos Kuehが、一般来場者が選ぶオーディエンス賞は大阪芸術大学卒のクリエイティブユニットTRIGGERが受賞。両ブースとも人がひっきりなしに訪れ、賑わっていたのがとても印象に残っている。
海外アーティストとのリアル交流も戻ってきた『UNKNOWN ASIA』。来年は記念すべき10回目の開催を迎える。年々熱気が増していると感じるアジアのアートマーケット。来年もまた新たな出会いを楽しみに、1年を過ごしたいと思う。
取材・文・撮影=久保田瑛理