『オールザッツ漫才』『せやねん!』の名物テレビマン・村田元が新劇場「SkyシアターMBS」の支配人就任、目指すのは「ないとアカンと言われる劇場」

インタビュー
舞台
2023.10.18
村田元

村田元

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『ちちんぷいぷい』(2021年3月放送終了)や『せやねん!』という関西における「国民的番組」や、お笑いファンであれば見逃すことができなくなった年末特番『オールザッツ漫才』。これらを手がけ、業界人のみならず関西のテレビっ子の間でも「ムラゲンさん」の愛称で知られている、村田元(はじめ)。そんな村田が、2024年3月27日(水)にオープンする劇場、「SkyシアターMBS」の支配人を担当することになった。テレビの世界で演出、プロデューサーなどをつとめて約30年、劇場支配人として新たな一歩を踏み出す村田はどんな劇場作りを目指しているのか。これまでの番組制作のエピソードを掘り下げながら、SkyシアターMBSについて話を訊いた。

SkyシアターMBSはJPタワー大阪内でオープン ※パース図は今後変更となる可能性あり

SkyシアターMBSはJPタワー大阪内でオープン ※パース図は今後変更となる可能性あり

●『オールザッツ漫才』の超若手トーナメント、原点は『幽☆遊☆白書』

――村田さんは「関西のテレビ好き」を長年楽しませてきたテレビマンで、とりわけ私を含む40代以上は村田さんが作った番組とともに青春時代を送ったと言っても過言ではありません。そんな村田さんがSkyシアターMBSの支配人に就任されたのはある意味、驚きでした。

もともと演劇が好きでしたし、それこそ30年くらい前に読売テレビさんで放送されていた、古田新太さん、生瀬勝久さんらのコント番組『現代用語の基礎体力』みたいな番組が作りたくてMBSに入ったんです。そして、古田新太さん、福田転球さん、山内圭哉さんが出演する『パンチ・デ・ニーロ』などを制作しました。そうやってテレビのことをずっとやってきましたが、「そろそろ若い人にいろいろ任せていこう」となったとき、「じゃあ自分にとって次の一手はなんだろう」と考えたんです。で、新しい劇場ができると聞いて「テレビはやりたいことをやってきたし、次は劇場に携わってみたい。何かやらせてください」と手を挙げました。ただ、まさか支配人をつとめることになるとは考えてもいませんでした。

村田元

村田元

――村田さんは伝説的な街ブラ番組『見参!アルチュン』でも山内圭哉さんを起用されていましたね。

月曜から木曜まで深夜30分枠で番組をやることになって、そのプロデューサーとして『見参!アルチュン』『パンチ・デ・ニーロ』『¥8万長者 走れ!スッカラくん』『よるこ』の各番組を企画しました。どれも自分が好きな出演者の方に集まってもらって。『見参!アルチュン』の山内圭哉さんは、中島らもさんが立ち上げた劇団、笑殺軍団リリパットアーミーのメンバーとしても存在感がすごくあったし、共演のケンドーコバヤシさんは自分が関わっていた『オールザッツ漫才』でずっとネタを観ていました。ちなみに『オールザッツ漫才』はADから入って、ディレクター、総合演出、プロデューサーを担当していきました。そのなかで自分が一番おもしろいと思っていた芸人さんが、ケンコバさんなんです。松口VS小林、モストデンジャラスコンビ、そしてピンになる流れを『オールザッツ漫才』で目撃してきたこともあり、めちゃくちゃ好きです。同じく『アルチュン』の共演者である女優の藤谷文子さんは、愛読していた雑誌『映画秘宝』で連載もやっていらっしゃったのを知っていて、「この人しかいない」と。そんな3人が揃ったので、案の定、おもしろい番組になりましたね。

――『オールザッツ漫才』時代のケンコバさんのネタはすごかったですね!

自分の今までの人生で一番嬉しかったことがあって。『オールザッツ漫才』で、ケンコバさんがジャケットと白いブリーフで登場するネタがありましたが、そのブリーフのところに「復讐」って書いてあったんです。その後日、『HUNTER×HUNTER』の単行本を読んでいたら、作者の冨樫義博先生の一言の欄に、白いブリーフに復讐と書いてある絵と「大阪のTVおもしれぇ~​」という言葉が書かれていて。それを見たとき「テレビをやっていて良かった」と感激しました。

SkyシアターMBSの舞台(2023年6月撮影)

SkyシアターMBSの舞台(2023年6月撮影)

――『オールザッツ漫才』はテレビ番組ですが、土台は「舞台」ですよね。

まさにそうなんです。板の上でネタをやってもらって、セットを組んで。その場にあるもので、そしてライブ感でいろいろ作っていくのがすごく楽しかった。今も続いている超若手のトーナメント戦がありますが、あれは『幽☆遊☆白書』の「暗黒武術会」みたいなトーナメント表をイメージしたものでした。トーナメント表って、誰と誰が対戦するかとか、誰が勝ち上がったかとか、それを見るとワクワクするじゃないですか。あれがやりたかったんです。それに、生放送でやらんかったら後から反省しか出てこない番組ですから(笑)。なにが起きてもやりきるしかない。そういう生のお祭りだからこそ、めちゃくちゃ楽しくて。そして、そこにお客さんが入ってくださることに嬉しさがありました。

――『オールザッツ漫才』の舞台的なおもしろさはそこですよね。お客さん、そしてその後ろの芸人さんたちが湧くことですべてが成立していくという。

後ろに芸人席を組んだのも、出演人数が多かったからなんです。100人近い出演芸人さんがいますが、そうなると全員に楽屋が用意できない。スタジオにいてもらうしかないんです。だったらワーッと盛り上げてもらおうと。それに今でこそ『オールザッツ』は50組の超若手が出るとしたら、出演枠をかけたオーディションをしなきゃいけなくなるくらいなんです。でも僕が最初やっていたときは、50組揃えることが大変でした。そんな時代だったから、どこの誰だか分からない芸人さんもいっぱいいて。そうなるとお客さんもノリがつかみづらい。だけど後ろの芸人さんがワーッとやってくれることでノリが生まれてくる。お客さんも「おもしろがって良いんだ」「この人、おもしろいんだ」とスッとつかめるようになるんです。

●「こういう劇場だったら良いな」がたくさん詰まっている

JPタワー大阪とJR大阪駅(2023年6月撮影)

JPタワー大阪とJR大阪駅(2023年6月撮影)

――舞台は、稽古で作品の8割くらいができあがって、残りの2割は本番の劇場の雰囲気で埋まって、そして作品が完成するとよく言いますよね。『オールザッツ』もまさにそんな「舞台」な気がします。もしかすると村田さんのなかには、劇場作りの一つの理想としてそういう『オールザッツ』的なものを目指したいんじゃないかなと。

さすがに劇場規模が大きいので難しいのですが、でも個人的な理想の一つはそうかもしれません。旧大阪中央郵便局庁舎跡地という抜群の立地に劇場ができるメリットは、今まで演劇を観たことがない人も気軽に来てもらえる点。「劇場でお芝居を観るのはこんなに楽しいんだ」と知ってほしい。いろんな人が観に来たり、「あんなことやりたい、こんなことやりたい」とアイデアを持って来てくれたりすることで、大きな盛り上がりが出てくると思います。「こういうものじゃなくてはならない」みたいな考え方を突破するものが出来上がってほしいです。だからなるべくいろんなことを叶えていきたいですし、「あらゆる創造力に応える劇場」でありたいと思っています。​

客席(2023年7月撮影)

客席(2023年7月撮影)

客席(2023年7月撮影)

客席(2023年7月撮影)

――観劇環境はいかがですか。

「観やすく、演じやすい」をモットーに、お客様にも演者にも快適な観劇環境を追求しました。まず、座席は座りやすさにこだわりました。座面が楔型になっているので、膝裏を圧迫することがなく疲れづらい。また、どの座席からでもステージが観やすいような座席の配置にしました。1,289席でありながら、舞台と客席の一体感を感じられる濃密な空間は、お客様・演者ともに最上のコンディションを生み出すと考えています。劇場スタッフには、シアターBRAVA!(2016年5月に営業終了したMBS所有・運営の劇場)に携わっていた先輩たちもいて、「こういう劇場だったら良いな」がたくさん詰まっています。

Sky presents 舞台『中村仲蔵 ~歌舞伎王国 下剋上異聞~』

Sky presents 舞台『中村仲蔵 ~歌舞伎王国 下剋上異聞~』

――現在発表されている公演ラインナップも色とりどり。

オープニングシリーズ第一弾は、藤原竜也さんが主演のSky presents 舞台『中村仲蔵 ~歌舞伎王国 下剋上異聞~』。以降も、ミュージカル、ストレートプレイ、コンサートなど、多彩なラインナップをお届けします。そしてMBSは10年間、『らくごのお時間』を放送していますから、もちろん落語もあります。MBSの番組と連動させた企画もたくさんやりたいと思っています。あと『オールザッツ漫才』もなにかやりたいですよね。個人的な思いですので、何も決まっていませんけど(笑)。

――劇場会員「ミルデ!」の特典内容はこれから具体的に決まっていきそうですか。

そうですね。もちろん会員の方は、一般販売より早く鑑賞券をお届けできるようにご案内をいたします。バックステージツアーのようなイベントもできたらいいですね。みなさんに喜んでもらえる特典を考えていきたいです。

●「普通に暮らしている人の感覚にちょっと寄り添う、路上の感覚」

村田元

村田元

――村田さんが手がけてきたテレビ番組は、『せやねん!』や『ちちんぷいぷい』のような大衆的な番組か、『見参!アルチュン』や一昔前の『オールザッツ漫才』などディープな番組か、かなり極端に分けられると思うんです。それこそ中間がないというか。そういった極端さから得たことはなにかありますか。

そもそも自分は「こうすれば、この層にウケる」みたいなやり方がよく分からなくて、「おもしろかったら、どの世代でもウケるんちゃうかな」というやり方なんです。みんながおもしろがる「なにか」をいつも探して番組を作ってきました。それで言うと、『アルチュン』『8万長者』はまさにそうですけど、普通に暮らしている人の感覚にちょっと寄り添えるものに興味があるんだと思います。それが、世代とかいろんなことを超えておもしろさにつながっていくのかなと。「路上の感覚」が好きなんです。

――それは『ちちんぷいぷい』のような大衆的な番組にも間違いなくありますよね。

『ちちんぷいぷい』でやっていた、福島暢啓アナウンサーが歌碑を見に行くコーナー「歌碑ものがたり」はその象徴ですよね。ただ、『ぷいぷい』はおっしゃるように「王道のような番組」なんですが、実はそこから外すことばかり考えて作っていたんです。

――なるほど。

かつみ♥さゆりさんが喫茶店の名前の由来を聞きにいく企画「喫茶店図鑑・屋号でGO!もそうなんです。喫茶店を開くのは人生に一度あるか、どうかですよね。そんな大きな出来事なのに「なぜその名前を選んだんだろう」という店名はたくさんある。側から見たらふざけているような店名でも「絶対に意味があるはずや」と。そうやって多くの人にとって役に立たない情報を伝えるのが好きなんですよね。たとえばスーパーで売ってるタワシには製造工場が書いてあるけど、大抵は聞いたことも、行ったこともない町だったりする。「だったらそこに行ってみて、なにがあるんか見てみよう」とか。

――そんな『ちちんぷいぷい』や『せやねん!』は、それぞれ放送される曜日、時間になると関西の人がついつい観てしまう「生活の一部になった番組」にまで成長しましたよね。SkyシアターMBSもそういった劇場になる予感がします。

少し前まで「演劇は不要不急だ」という論調がありました。そうやって「なくても良い」と思われていたものを、「ないとアカンでしょ」と言える劇場にしたい。番組を作ってきて、なくても良いものが、なくてはならないものに変わる瞬間はいつも本当にシビれます。自分としてはその瞬間をこれからも見ていきたいです。

村田元

村田元

取材・文=田辺ユウキ 撮影=川井美波(SPICE編集部)

会場情報

SkyシアターMBS
2024年3月27日(水)オープン
場所:JR大阪駅直結「JPタワー大阪」内
アクセス:
・JR線
 大阪駅[西口]、北新地駅
・地下鉄(Osaka Metro)
 御堂筋線 梅田駅、四つ橋線 西梅田駅、谷町線 東梅田駅
・阪神電車、阪急電鉄
 大阪梅田駅
客席:1,289席
 
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公演情報

Sky presents 舞台『中村仲蔵 〜歌舞伎王国 下剋上異聞~』
2024年3月27日(水)~3月31日(日)
劇場会員「ミルデ!」最速抽選先行:11月1日(水)12:00~11月5日(日)18:00
一般販売:2024年1月18日(木) 12:00~
料金
S席:12,000円 A席:9,000円 U-25:3,000円(全席指定・税込)

ブロードウェイミュージカル『カム フロム アウェイ』
2024年4月4日(木)~4月14日(日)
劇場会員「ミルデ!」先行の詳細は、決定次第、劇場ウェブサイトにてお知らせします。
 
公式X(旧Twitter):@skytheatermbs
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