身近で奥深い和食の魅力を、多角的な視点でたっぷり紹介 特別展『和食』レポート
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特別展『和食 ~日本の自然、人々の知恵~』
特別展『和食 ~日本の自然、人々の知恵~』が、2024年2月25日(日)まで、国立科学博物館(東京・上野公園)にて開催している。「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されたのは、10年前の2013年。本展は、日本で育まれ、世界で知られる和食を、科学や歴史といった多角的な視点から分析し、日本の豊かな食材や調理技術、時代の中の変遷、そして未来におけるあり方まで、魅力を幅広く紹介するものだ。
ここでは、本展の音声ガイドナビゲーターを務め、元乃木坂46のメンバーで現在は女優やファッションモデルとして幅広く活躍中の白石麻衣と、誕生20周年を迎え、ごはんとおやつが大好きなリラックマが本展応援キャラクターとして登壇した取材会と合わせ、報道内覧会の様子を紹介しよう。
白石「お米をたくさん食べられるおかずが好き」
白石麻衣
本展について、昔から今までの和食を紹介する見ごたえのある展覧会だと話す白石。「全体の感想と、特に印象に残った展示は?」という質問には、「お水の大切さや、いろんな種類の大根が展示されているコーナーもあって、初めて知ることが多かったので、私自身も勉強になりましたし、ワクワクしました」と語る。自身が担当した音声ガイドについては「私自身も学ぶところが多かったです。クイズなどを楽しみながら(展覧会場を)回れるかな、と思います」と述べ、自ら学びながら本展を楽しんでいる様子が印象的だった。
自身のYouTubeチャンネルでも動画をあげるなど、日頃から料理に慣れ親しんでいる白石。「一番好きな和食は?」という質問に、「生姜焼きだったり、豚の角煮だったり、唐揚げだったり……茶色いものが多いんですけど、お米をたくさん食べられるおかずが好きですね」とはにかみながら回答。つくってみたい和食については、「本展でもお魚が多く展示されていたので、お魚料理のバリエーションを増やしてつくれたらいいなと思います」と話し、和食愛を示した。
来場者へのメッセージとして「どなたでも楽しめる展覧会になっているので、和食の文化や歴史を知っていただき、より食への興味を持っていただけたらいいなと思います」と述べ、「お腹が空くような写真や展示物が多いので、帰る頃には、今日のメニューどれにしようかな、みたいな気持ちになれたらいいなと思います。是非たくさんの方に来ていただけたら嬉しいです」と語った。
最後に、和食をイメージしてつくられた、本展オリジナル衣装を着用したリラックマも登場。白石はリラックマとは初対面とのことで、こんにちは、と明るく挨拶しながら、「とってもかわいいです」とほほ笑んだ。
白石麻衣とリラックマ
和食の食材そのものの魅力が満載
日本は世界でも有数の生物多様性を持つ国で、和食の豊かさも、豊富な食材に裏打ちされている。会場に入ると、あらゆる生命の源であり、料理に欠かせない水が展示されており、日本の水質はミネラルの含有が少なく、だしを取るのに向く軟水であることが示される。
水の硬度を上げる地質資料など。
続いてキノコや山菜、野菜やイネ、海藻や魚介類といった食材がずらりと紹介されている。和食に欠かせない食材の一つとしてダイコンが挙げられるが、日本はダイコンの種類が世界一多く、800種以上が存在するというから驚きだ。
日本全国から集めた25種類のダイコンのレプリカ。それぞれに個性がある。
ピーマンの葉やニンジンの花などの標本も。普段は食べる部分しか見ることのない植物の花々や枝葉は、驚くほど美しい。食材は、店頭に並ぶ時はカットされていることが多いので、本展は全体像を確認できる貴重な機会と言えるだろう。
花が咲いた状態の野菜を対象とした生物標本。一つひとつが美しい。
キノコはかわいらしいものや不思議なかたち、藻類は全体像の想像がつかないようなかたちが多く、自然の生み出す造形の多様さに驚かされた。
キノコの標本とレプリカなど。キノコは食用でも、調理中に毒の蒸気を出すものもある。
藻類の標本。緑色の印象が強い藻類だが、実は茶色のものが多い。
魚介類の実物標本・模型は迫力満点で、巨大なマグロやマンボウ、カニなどはひときわ目をひく。マグロ属は世界で8種類生息しているが、日本近海ではそのうち5種類が漁獲されるという。貝類なども数多く紹介されており、海に囲まれている日本が、豊富な魚介類を食材にできることへのありがたさを実感できた。
魚介類の実物標本や模型など。マンボウやタカアシガニなど、ダイナミックで迫力がある。
その他、微生物の働きを利用することで、種麹や酒、しょうゆやみそなどを生み出す「発酵」、和食に欠かせないもので、うま味を生かす「だし」など、日本の食文化を支え、豊かにするものを一挙に紹介。豊富な食材を研究し、それらを活かすために自然の営みを利用してきた昔ながらの知恵に驚嘆させられる。
酒づくりに使われる酒米。普段見る機会はほとんどないので、貴重な機会だ。
卑弥呼や織田信長の食事の再現も 和食の歴史を知る
日本においては、縄文時代から弥生時代に入ると稲作が始まり、米を主食にするようになる。その後、古墳時代が始まると、国家が肉食を否定し米の生産を重視したため、米と魚を中心とする食事が成立した。また、神に献上する食事である神饌(しんせん)料理においては見た目も美しくする必要があったそうで、これが和食の基本となる。
縄文時代の食材。自然と共存する生活だったことが分かる。
その後、鎌倉時代に中国で学んだ僧侶たちが精進料理を伝えることで調理技術が発達、江戸時代には料理屋や料理本が出現し、発酵調味料が生産されるようになる。それまでの料理は、限られた人に提供されるものだったが、料理屋と料理本が一般化することで、お金を出せば誰でも楽しめるものとなった。江戸の後期になると屋台や居酒屋なども増え、浮世絵などにも食に興じる庶民の姿が登場した。
江戸時代の屋台の再現空間。すしや天ぷら、そばなど、現代でも馴染み深い料理が。
明治時代に入ると、海外から洋食(や中華料理)が入ってきて、日本の食の総称として「和食」の輪郭が定まっていく。また、西洋料理が入ってきて、洋食と和食を折衷したような料理も生まれる。そして20世紀になると、和食の見直しなども行われるようになった。
明治時代の西洋料理書から再現した料理の再現模型。
会場には、和食の歴史的な流れとともに、その時代に生きた人々の食卓も再現されている。各地の遺跡の発掘物から再現された卑弥呼の食卓、天武天皇の孫にあたる長屋王の邸宅跡から出土した木簡から再現した貴族の食事、江戸時代の文献から再現した、織田信長が徳川家康をもてなした時の饗応膳などは、贅と工夫を凝らした内容だ。歴史上の偉人たちも、現代に通じる食材を口にしていたことが分かって親近感を覚えた。
卑弥呼の食卓の再現模型。炊き込みご飯やマダイの塩焼きなどがおいしそう。
織田信長が徳川家康を三日にわたってもてなした際の、豪奢な饗応膳の再現模型。
和食の地域性や可能性も一挙紹介
出身地が異なると、和食の料理名を聞いて思い浮かべる内容が違うこともあるだろう。その代表格ともいえるのは雑煮であり、会場の「雑煮文化圏マップ」で各地の雑煮を確認することができる。みそや餅、具などに多様な地域性を見ることができて楽しい。
雑煮文化圏マップは、「丸餅すまし汁文化圏」といった分類がなされていて楽しめる。
その他、和食の技や道具、美や季節に焦点を当てたインスタレーション、料理レシピ投稿・検索サービスの「クックパッド」のデータを都道府県別に分析したパネル、地域で栽培されてきた伝統野菜の説明、乾物や漬物が注目されている非常食や保存食の紹介、世界各国で広く愛され、共有されているすしの写真など、和食の可能性を広げるような展示も充実している。
世界各地で集めたすしの写真。すしの概念が広く共有されていることが分かる。
本展は公式ガイドブックや各種のお菓子、食品サンプル、大根ピンバッジや海藻コースターなど、和食の展覧会らしいグッズも充実している。リラックマとのコラボレーションも実施しており、オリジナルイラストの商品や、食べ物にちなんだぬいぐるみなども多数販売されているので、見逃さずにチェックしたい。
物販コーナー。リラックマとのコラボ商品も見逃せない。
目に美しく、食べておいしく、自然の恵みと人々の知恵を実感できる和食は、海外でも知られており、広く定着している文化だ。一方で本展を鑑賞すると、和食は非常に奥が深く、知らないこともたくさんあり、また和食を知ることは日本を知ることでもあるのだと実感させられた。身近な和食の魅力を再確認できる特別展『和食 ~日本の自然、人々の知恵~』は、2024年2月25日(日)まで、国立科学博物館にて開催中。
文・写真=中野昭子
イベント情報
会期:2023年10月28日(土)~2024年2月25日(日)
会場:国立科学博物館(東京・上野公園)
住所:東京都台東区上野公園7-20
開館時間:9時~17時(入場は16時30分まで)
休館日:月曜日(12/25,1/8,2/12,2/19を除く)、年末年始(12/28~1/1)、1/9(火)、2/13(火)
※会期等は変更になる場合がございます。
TEL:050-5541-8600 (ハローダイヤル)
【公式サイト】https://washoku2023.exhibit.jp
主催:国立科学博物館、朝日新聞社
後援:文化庁、農林水産省、和食文化学会、和食文化国民会議
協賛:キッコーマン、三和酒類、JR 東日本、TOPPAN、パナソニック ホールディングス
協力:クックパッド
巡回会場:全国巡回予定。※詳細は決定次第、展覧会公式サイトでお知らせします。