制服姿の少女・SAIのミステリアスな表情に魅了される 『wataboku solo exhibition“堕冥慈”』レポート

レポート
アート
2023.12.15
『wataboku solo exhibition“堕冥慈”』 (写真=オフィシャル提供)

『wataboku solo exhibition“堕冥慈”』 (写真=オフィシャル提供)

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2023年12月8日(金)から12月25日(月)まで、渋谷PARCO 4FのPARCO MUSEUM TOKYOにて『wataboku solo exhibition“堕冥慈”』が開催されている。

世界中にファンを持ち、活躍の場を拡大し続ける人気の日本人アーティスト、wataboku。本展は、watabokuが一貫して描き続けているオリジナルアイコンの「SAI」を通じて表現した新作約30点を一挙紹介。watabokuの個展としては過去最大規模であり、作品はいずれも初展示という貴重な内容だ。以下、内覧会の様子をレポートしよう。

「傷・痛み」がテーマ 物語性豊かな展示

本展のタイトル“堕冥慈”は「ダメージ」と読むことができる。watabokuは、自身の入院経験や、人は誰しも傷を負っているという気づきから、「傷・痛み」を2023年のテーマに据え、SAIを通じて表現した。

左:《故郷は晴れ》 右:《副作用》

左:《故郷は晴れ》 右:《副作用》

制服姿の少女・SAIは16~17歳の女性で、念動力などの超能力を持つという。名は漢字の「生」に由来し、音読みの「SEI」を少し変えて「SAI」と命名された。本展は、SAIが傷を負って超能力を失い、リハビリを行うことで力を取り戻していくさまを描く。展示空間は時系列になっており、最初の空間でSAIが傷つき、悩み、次にレントゲンなどの検査を行うことで自分のことを知った後、入院して自己を癒す、という流れだ。SAIが、一見ネガティブな傷や痛みを、様々な経験を経てポジティブな力へと変えていく過程が確認できる。

左:《治癒》 右:《患者すくい》

左:《治癒》 右:《患者すくい》

watabokuは、SAIを思うように描けない時期があり、今回のテーマは、自身のモチベーションや力の回復と癒しのために選んだという側面もあったという。会場に置かれた車椅子や松葉杖、資料用のスペースで使われた医療用カーテン、病院のカルテを思わせるキャプションなどは作品にリアリティを与えつつ、SAIや作者であるwataboku自身の努力と葛藤の痕跡を示すようだ。

病院内のような会場。カーテンで仕切られた空間には、制作時の資料が。

病院内のような会場。カーテンで仕切られた空間には、制作時の資料が。

美麗な絵や迫力満点のインスタレーション、制作用資料の展示も

watabokuの絵は本の装画やCDのジャケットイラストなど、さまざまな媒体やシーンで目にするが、本展はそんな作品を、絵やインスタレーションの形で鑑賞できる。

最初の空間では、キャンバス作品の色の鮮やかさや艶やかさ、微妙な線の重なりなどに目を奪われる。絵をアクリルパネルに挟み込んだ作品は透明感が際立ち、パネル部分に金色のペイントで装飾を施して立体的になっているなど、趣向が凝らされている。装飾や仕上げはwatabokuの手によるものなので、展覧会ならではの体験を楽しんでほしい。

《相反》

《相反》

左:《Re:born》 右:《羽化》

左:《Re:born》 右:《羽化》

次のスペースにあるインスタレーション《骨と花》《見透か》は、明るい時はSAIの顔の絵だが、暗くなるとSAIの頭蓋骨が現れる。こちらは絵にレジンを塗った上に映像を投影しており、wataboku作品と映像技術を融合させている。点滅のタイミングや光の加減などにより、まるでSAIのレントゲン写真を撮っているようだ。美しい顔が頭蓋骨に切り替わる瞬間は迫力があり、強烈なインパクトを与える。

中央:《骨と花》。儚げな表情を浮かべたSAIの顔が……

中央:《骨と花》。儚げな表情を浮かべたSAIの顔が……

中央:《骨と花》。頭蓋骨に切り替わる。レントゲン写真を撮っているかのよう。

中央:《骨と花》。頭蓋骨に切り替わる。レントゲン写真を撮っているかのよう。

歩みを進めると、車椅子や松葉杖などが置かれた病院のような空間が広がっている。中央の医療用カーテンに囲まれた資料用のスペースでは、白衣や制服、聴診器など、watabokuが資料として使ったものや、その際のメモなどがずらりと並ぶ。watabokuがこういった資料を公開することは初めてとのことで、貴重な機会だ。

制作時の資料。超能力者であるSAIのためにESP実験用のカードも。

制作時の資料。超能力者であるSAIのためにESP実験用のカードも。

制作時の資料。聴診器や白衣は絵に反映されている。

制作時の資料。聴診器や白衣は絵に反映されている。

一番奥の空間では、水槽の中にSAIが浮かんでいる。3枚のパネルでそれぞれ泡などを投影する重層的な作品で、微妙な表情が再現されているので、SAIは休んでいるようにも、うっとりとまどろんでいるようにも見える。なお、《骨と花》や《見透か》などや、こちらの水槽のインスタレーションは、セイコーエプソン株式会社の技術協賛によって実現したものだ。

水の中に浮かぶSAIのイメージ。

水の中に浮かぶSAIのイメージ。

唯一無二のキャラクター、SAIの魅力あふれる展示空間

SAIの傷や痛みにまつわる物語のように展開される本展は、主人公であるSAIの魅力に満ちている。SAIは、制服を来た少女、という一見わかりやすい外見を持ちつつも、特徴を一言で語るのは難しいキャラクターのように思う。見た目は儚い印象だが、凜とした雰囲気があり、内面は繊細そうだが、眼差しに力がある。弱さと強さ、線の細さとインパクトの強さといった相反する要素が同居しているのだ。

《再生》

《再生》

SAIのモデルになった人は、watabokuの高校時代の初恋の相手だという。その人は隣のクラスに所属しており、仲は良かったが何を考えているのかわからない部分があったそうだ。手が届きそうで距離があり、理解できないところはあるが大切な存在という、唯一無二のミステリアスなイメージがSAIの魅力のひとつであり、国を問わず見る者を魅了するのだろう。恐らく今回の制作は、watabokuが記憶の中でSAIにまつわる思いを掘り起こし、今後の展開を探る過程でもあったのだと思う。

左:《ちっぽけ》 右:《VS卑屈》

左:《ちっぽけ》 右:《VS卑屈》

本展はグッズも充実しており、Tシャツやフーディーなどのアパレルや、コンパクトミラーやミニタオルやカードなど、こだわりのアイテムが揃っている。中でもwatabokuのサイン入りポスターは、色の重なりやメタリックな加工などが際立つ、素晴らしい仕上がりだ。こちらは新しい印刷技術を駆使しているとのことで、是非実物を見てほしい。

なお、今回の展示作品とEDITION作品は、会場に来た人のみを対象として抽選と先着で販売される。

物販コーナー

物販コーナー

watabokuの個展として最大規模の『wataboku solo exhibition“堕冥慈”』は、SAIの唯一無二の存在感を余すところなく伝え、また今後の発展や可能性をうかがわせる内容だ。是非会場に足を運び、謎めいて美しいSAIの魅力を堪能してほしい。


(C)wataboku
文・写真=中野昭子 写真(一部)=オフィシャル提供

イベント情報

『wataboku solo exhibition“堕冥慈”』
会期:2023年12月8日(金)~2023年12月25日(月) 11:00~21:00
※入場は閉場の30分前まで。最終日は18時閉場。
会場:渋谷PARCO 4F・PARCO MUSEUM TOKYO(東京都渋谷区宇田川町15-1)
入場料:1,000円(税込)
展覧会公式HP:https://art.parco.jp/museumtokyo/detail/?id=1349
※企画内容は予告なく変更になる可能性がございます。
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