新宿・歌舞伎町で歌舞伎を上演! 中村勘九郎、中村七之助らが思いを語る『歌舞伎町大歌舞伎』会見レポート

レポート
舞台
2024.1.23
中村虎之介、中村勘九郎、中村七之助、中村鶴松(右から)

中村虎之介、中村勘九郎、中村七之助、中村鶴松(右から)

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新宿・東急歌舞伎町タワーのTHEATER MILANO-Zaにて、2024年5月3日(金・祝)〜26日(日)『歌舞伎町大歌舞伎』が上演される。

もともと新宿では、1945年に空襲の被害を受けた後、戦災復興事業として劇場や映画館などの娯楽機能を集中させようという動きがあり、この地に歌舞伎の劇場の誘致を図っていたことから「歌舞伎町」と命名された。歌舞伎の劇場建設は実現しなかったものの、1956年には当時都内最大規模の劇場・新宿コマ劇場、座席数、広さともに日本一を誇った映画館・新宿ミラノ座を擁する新宿東急文化会館(後の新宿TOKYU MILANO)が開業するなど、エンターテインメントの中心地として発展。新宿コマ劇場は2008年、新宿TOKYU MILANOは14年に閉館したが、15年には新宿東宝ビル、23年には東急歌舞伎町タワーが開業するなど「エンターテインメントシティ歌舞伎町」を目指し、街づくりが推進されている。

新宿ミラノ座の名前を継承するライブエンターテインメント施設としてオープンしたTHEATER MILANO-Zaは、この春開業1周年。周年に彩りを添える、「歌舞伎」公演となりそうだ。

1月23日(火)、都内で記者懇談会があり、中村勘九郎、中村七之助、中村虎之介、中村鶴松が登壇した。その様子を写真とともにお伝えしよう。

中村勘九郎

中村勘九郎

ーー皆様から一言ずつご挨拶を頂戴したいと思います。

勘九郎:歌舞伎町で、歌舞伎ができます。とても嬉しいです。というのも以前、赤堀(雅秋)さんの演出で、(中村)獅童さんが、歌舞伎町で歌舞伎を上演されておりまして。歌舞伎町という、猥雑というか、人間の欲と野望が渦巻く場所で、歌舞伎を上演していて、歌舞伎にあっているなと思って。いつかどこかで、歌舞伎町もそうですけど、新宿の地区でやりたいなと思っていました。今回MILANO-Zaという新しい劇場で歌舞伎が上演されることを本当に嬉しく思います。
 
獅童さんがやっていたときは、街にあった猥雑とした演目でございましたけど、今回は歌舞伎みに溢れている『正札附根元草摺』というおめでたい踊りから『流星』という洒脱な踊り、歌舞伎舞踊の中でも、両極端な舞踊をご覧いただきまして、そのうちに、新作と言ってもいいんですかね。七之助主演で勤める「貧乏神」をモチーフににした落語ベースの世話狂言をご覧いただくということで、「歌舞伎を見たな」という感じになってくださると思います。
 
多分、初めて歌舞伎をご覧になるお客様も大変多いと思いますので、 肩の力を抜いて、「あ、歌舞伎ってこんなに身近なものなんだ」、「こんなにわかりやすい、理解できるんだ」というような作品をラインナップしておりますので、観に来てくださったお客様の反応が、今からとても楽しみにしております。

七之助:私、MILANO-Zaにうかがったことがないので、どういう舞台機構なのかも全く分からず、そして「貧乏神」をベースとした新作『福叶神恋噺』ですけれども、この内容も、実はどういったものか、全然わかってないんですね(笑)。もちろん原作の「貧乏神」は知っていますし、あらすじも知ってるんですけども、まだ台本ができていないので……和気藹々と行きましょうね。よろしくお願いいたします。

虎之介:今回は新宿で歌舞伎ということで、私は新宿にTOHOシネマズぐらいしか行ったことないんですけど、今回初めて新宿で歌舞伎をするということで、今から楽しみです。多分、お客様の層もまた普段とはまた違った感じだと思うので、そちらも結構楽しみにしています。

この前(脚本を務める)小佐田(定雄)さんに会ったときは「セリフがめちゃくちゃ多いので、よろしくお願いします」とだけを投げかけられましたので、とりあえずまず台本をいただいて、面白い作品に仕上げられればなと思っております。

鶴松:この歌舞伎町で、歌舞伎という公演に、お兄さんたちとともに、そして虎之助さんとご一緒させていただけること、嬉しく思います。まずは歌舞伎の舞踊が2本ありまして、新作に繋がります。トップバッターとして、しっかりと虎之助さんとともに若い力で盛り上げていきたいと思います。

歌舞伎町という土地には、僕はあんまりちょっといい思い出がないので、10年ぐらい近寄らないようにしていたんですけれども、久しぶりに歌舞伎町にうかがって、いろいろ楽しめたらと思います。よろしくお願いいたします。

中村七之助

中村七之助

ーー鶴松さん、何があったんですか?

鶴松:大学生のときにですね、まだ全然世間を知らない中、親友だった男の子と2人で飲みにいって、お会計を見たら、20万円ぐらいして……。払えなくて。2人合わせて2、3万円ぐらいしか持ってなかったので。無理ですと言ったら、黒人のキャッチの人が助けてくれたんですけど、もともとのキャッチの人に服をビリビリに破かれて、半分裸の状態のままタクシーに乗ったという記憶がありますね。それ以来、ちょっともう歌舞伎町には近づかないでいました。はい。

ーー普通の飲食店ですか?

勘九郎:普通なわけないじゃないですか! 女の子がいるところでしょ?

鶴松:いや、普通の飲み屋で、2時間飲み放題600円とか……。

七之助:居酒屋なのに20万円取られる!?

鶴松:そうです。そこで初めて、あ、大人の世界って厳しいんだなって思いました……。

勘九郎:こういうこと書くとさ、芝居観に来てくれなくなっちゃう(笑)。多分、お客様の中でも、やはりそういうイメージはあると思います。でも昔と違ってね、彼がやられたのは10年前ぐらいでしょ? もう対応して、いろいろ浄化というのはされていると思うので、安心してください。

中村鶴松

中村鶴松

ーーコクーン歌舞伎のときは古典を再発見する、 古典の魅力を掘り返すといったテーマがあったと思いますけど、今回の『歌舞伎町大歌舞伎』のコンセプトやテーマは?

勘九郎:そうですね。どういう形で歌舞伎町で歌舞伎を上演するか、いろいろとお話をさせていただいた中で、コクーン歌舞伎を踏襲して、古典の作品に演出がついて、新しい解釈でどう今のお客様に発信するか……ではなく。歌舞伎町という特殊な場所で演じるにあたって、まずは僕らのホームの歌舞伎座などでやるのと同じように演出を変えず、その特殊な場所で歌舞伎の持っている底力というものをぶつけてみようじゃないかということで、今回、こういうラインナップになりました。

ーーやはり同じ演目を違う場所でやると、違う感動や発見があるというのは、巡業などで得た経験に基づいているのでしょうか。

勘九郎:全然考えてなかったけど、確かにそうですね。それがやっぱり歌舞伎の持つ魅力のひとつでもあるのかなと思います。今はね、場所のお話をされてましたけれども、歌舞伎って本当にひとつの演目を、例えば古典の作品ですと、もう何百人の俳優が役を勤めている。でもやる人によっての、ちょっと見方、感じ方が変わってくる。それも魅力のひとつなので、場所というのも大きくあると思いますね。

中村虎之介

中村虎之介

ーー皆さんそれぞれ「ここでこういう風にやったらこんな風に違った」と印象に残っていることがあれば教えてください。

虎之介:前回の『天守物語』もそうでしたが、姫路城でやったときと、歌舞伎座でやったときとでは、その役者の発声も感情の持っていき方も、いろいろなことが変わると思うので、違う劇場でやる面白さをすごく感じました。だから今回、新宿での演目と、普段歌舞伎座などで見る演目も、多分ちょっと違って見えるんだなと思います。

七之助:パワーをもらうことはありますよね。姫路城という本物が後ろにあることもありましたし、歌舞伎座であったら、ホームで歌舞伎座でという緊張感と嬉しさとが混じり合った感じになりますし。

勘九郎:父の教えで、例えば地方の芝居小屋に行ったら、それは受けるよ。だけど、それに乗っちゃいけない、絶対に乗っちゃいけない。歌舞伎座だとかでやっていることと同じことをしなさいと言われてきて、そうやっているんですけれども、観たお客様から「今回、中村座はセリフを変えてくれたんですか?」と聞かれることがあるんです。同じことしているんですよ。演出も同じだし、アドリブもないんですよ。これ、不思議だよね、

七之助:本当に言われるよね。何にも変えていないんですけど「この間観たときより現代語を入れたんですか?」「アドリブを入れましたか? すごく見やすかったです」ってね。これは劇場やその場の雰囲気もあるでしょうし、あと、MILANO-ZaならMILANO-Zaのお客様がいらっしゃるじゃないですか。だから、そういう方たちと、いつも歌舞伎座に足を運んでくださる方とが混ざるといい化学反応のようなものが出る可能性があるんですよ。今回も新宿というあまり歌舞伎をやらない土地でやることで、お客様同士の面白い化学反応が起こることを期待してます。

この「貧乏神」は新作ですが、なぜ新作にしたかというと、いろいろ新しい方に観てほしいから。新作の方が食いつきがいいから。でももしかしたら新作よりも『正札附根元草摺』や『流星』にすごく感動する方がいらっしゃるかもしれない。「感動した!」というパワーはいつも観ているお客様にも伝わるんですよね。不思議に。だから、そういうものがひとつになって新たなものができる可能性はありますよね。振りとか音は絶対一緒なので、そういうの楽しみ方もあるかもしれませんね。

鶴松:僕も巡業などではお兄さんたちと一緒にいろいろな各地を回らさせていただいておりますし、本当に土地土地によってお客様の反応が全く違っていて。スペインでお兄さんと踊らせていただいたときは、もちろん踊りを観てはいるんですけれども、歌や音など、見方が違うなと。国や地域ごとによって違うので、勉強になることは多々あります。

歌舞伎町にちなんで、ホストっぽく……と言われてポーズを決める(笑)。中村虎之介、中村勘九郎、中村七之助、中村鶴松(右から)

歌舞伎町にちなんで、ホストっぽく……と言われてポーズを決める(笑)。中村虎之介、中村勘九郎、中村七之助、中村鶴松(右から)

ーー皆さんの新宿・歌舞伎町の思い出やイメージを教えてください。

勘九郎: ロボットレストラン、面白かったね。

七之助:面白かったよね。お兄さんが1番上だったかな? 多分僕たち後輩でロボットレストランに行って。舞台が真ん中にあって、客席が対面なんですよ。の関係で一列に並べなくて、僕たち組と若手組と、バラバラに座ったんですけどね、向こうの人たちが騒いでる姿がとても滑稽で(笑)。

歌舞伎の俳優さんたちは「盛り上がれ」と言ったら、こういう方が歌舞伎観に来てくださったらすごく嬉しいなというぐらい盛り上がるんですよ。一般のお客さんの10倍ぐらい盛り上がっている。あー、面白い人たちだなって思いましたね。

勘九郎:特殊な店が多いので、あんまり飲みにはね。 飲みに行くのでしたら、花園の方に行っちゃいますね。ゴールデン街とか。

七之助:びっくりしたことがあったんだ。ゴールデン街って、1本ずつ道があるじゃないですか。1本1軒行こうという計画をして、まず普通にスタンダードに開いているお店に行って、2軒目、バーっと歩いて、ふっとなんか止まったんですよ。本当にわかんない扉をカチャって開けたら、「あら、どうしていらっしゃったんですか?」と言われたんですね。 父(十八世中村勘三郎)も行っているとこだったんです。「お父様のボトルみたいのありますよ」って。これはびっくりしましたね。こういう縁があるんだなと。今ふと思い出しました。

勘九郎:あとは、ホストのオーナーやっていた人が友達で、ホストクラブに男で行きました。あの人たちは仕事なんでしょうね。男の客にもちゃんと命がけでコールをしてくれて(笑)。これ楽しいな、女の人だったらはまっちゃうかもしれないなと思いました(笑)。今回、歌舞伎町で歌舞伎をやるにあたってすぐ連絡をくれたのは、中村亀鶴さん。「ホストクラブの求人みたいなアドトラックをやったらどうって?」と提案してくれました(笑)。

『歌舞伎町大歌舞伎』の会見の様子

『歌舞伎町大歌舞伎』の会見の様子

ーー「貧乏神」の件をもう少し詳しく教えてください。配役を見るだけで原作といろいろ違いそうだなと思いますが。

七之助:小佐田さんとは、兄が(笑福亭)鶴瓶さんの落語を観に行ったのがきっかけで、これは歌舞伎になると思い、とんとん拍子で、歌舞伎座の方で初めてかけさせていただいて、赤坂でもやらせていただいて、大変好評を得たんですけれども。落語から来ている歌舞伎もたくさんありますが、面白いなと思って、8月の納涼歌舞伎で新たな挑戦をしたいと僕は思って、小佐田さんと選んだのは「星野屋」という作品でございまして。
 
今回、新宿という新たなところでやるという話が来たときに、先ほど兄が申しました通り、歌舞伎の底力を見せたいと思っているので、古典を選んでも良かったのですが、やはり歌舞伎を初めて見るお客様が多いでございましょうから、新作というものがあると足を運んでいただける機会が多くなる。それで、この新作の「貧乏神」だったんですけど、時間の問題とか、劇場の問題とか、人数の問題とか、いろいろな制限の中で選びました。

長屋の喜劇ですので、落語みがすごく溢れた作品だと思いますし、落語の中でも、情というよりも可笑しみが多い。2人の掛け合いが面白いけれど、その落語のテンポ感を歌舞伎で出すのは難しい。その辺も考慮しつつ、僕が主演ということもあって、貧乏神を女性にしました。そして、大工を虎之介くんがやってくれるんですけども、全体的にどう転んでいくのか。すごく落語的なオチじゃないですか。なので、ちょっと舞台的には難しいと思うんです、あのままだと。これを女性にしたことで、これからは推測の話をしますけども、ま、ちょっと恋愛感情が生まれるんでしょうね? と思いません?

虎之介:僕も落語を聞いたとき、結構、終わり方がすごく難しいなと思って。で、蓋をあけてみたら「恋」という字が入ってたので、あ、そっちの要素も入っているんだと。七之助さんが(役柄的に)僕に対して献身的に働いてくれるのが嬉しい。やっぱり辰五郎という人間はダメ人間で、お酒も好きで、普段の真面目な僕とはすごく掛け離れてるので、そこをどうやって出していくのかな。けど、本当はすごくやりやすいような気もしています。

七之助:(虎之介さんとは)ずっと一緒にやってますので、キャッチボールは大丈夫だと思います。

ーー今回はTHEATER MILANO-Za1周年の位置付けですが、今後も定着化させたいなどの思いはあられますか?

勘九郎:どうでしょうね。幕が開いてみないと分からない部分もあるんですけれども、こうやって新しい場所を開拓して、歌舞伎の息吹を劇場に入れさせていただけるのは嬉しいことです。またこれが僕たちだけではなく、違う歌舞伎でMILANO-Zaでやるのはね、今、本当に劇場がどういうわけかなくなってきちゃってるので……そのきっかけとなればいいかなと思います。歌舞伎が公演できる劇場として。

七之助:本当にその通りだと思います。MILANO-Zaはいろいろな演目がかかっているので、MILANO-Zaについているお客様や初めて歌舞伎を観てくださるお客様が「歌舞伎って面白いな」と思って、東京であったら、 ホームの歌舞伎座や新橋演舞場に足を運んでいただけるようなきっかけとなる公演になればいいなと思っております。


取材・文・撮影=五月女菜穂

公演情報

『歌舞伎町大歌舞伎』
 
【日程】2024年5月3日(金・祝)~26日(日)
【会場】THEATER MILANO-Za
 
演目と配役
一、正札附根元草摺(しょうふだつきこんげんくさずり) 一幕
 
曽我五郎時致:中村虎之介
小林妹舞鶴:中村鶴松
 
流星(りゅうせい) 清元連中
 
流星:中村勘九郎
牽牛:中村勘太郎
織女:中村長三郎

落語「貧乏神」より
小佐田定雄 脚本
今井豊 茂 演出

二、福叶神恋噺(ふくかなうかみのこいばな) 一幕
 
貧乏神おびん:中村七之助
大工辰五郎:中村虎之介
貧乏神すかんぴん:中村勘九郎
 
前売開始】2024年3月24日(日)10:00~
【ご観劇料(税込)】1等席 13,500円 2等席 8,000円 3等席 4,000円
 

【公式サイト】
松竹ホームページ: www.shochiku.co.jp
Bunkamura ホームページ: www.bunkamura.co.jp
 
【主催】 松竹株式会社 Bunkamura TST エンタテイメント
【製作】 松竹株式会社 Bunkamura 
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