Neibissの“ライフ”が感じられる、ニューアルバム『Daydream Marker』に詰め込んだ挑戦と遊び心ーー『speakeasy podcast』xSPICE連動インタビュー
海外音楽情報専門Podcast『speakeasy podcast』とSPICEの連動インタビュー企画。今回のゲストは、神戸を中心に活動する2000年生まれ2人組・Neibiss。神戸のストリートで出会い、2018年に結成。2022年5月にはtofubeatsのアルバム『REFLECTION』に参加、10月にはEP「Space Cowboy」をリリースした彼らが、24年2月14日(水)にアルバム『Daydream Marker』をリリースした。前作からの変化を振り返りつつ、アルバム収録の楽曲について番組ナビゲーターの竹内琢也がじっくりとインタビュー! Spotifyでは音声と楽曲を組み合わせた【Music+Talk】で(音声限定のパートも)、SPICEではテキストでダイジェスト版をお届けする。
どういうトラックに乗っても「Neibissやな」と言われるのが目標
ーーEP「Space Cowboy」リリースから1年ちょっと。この期間によりNeibissの活動に広がりがあったように感じましたが、2人にとってどんな期間でしたか?
ratiff:前のEPがいろんな人の目に触れた機会になって、今までの活動よりもっと大きめに出れたというか。広い層の人に受け入れられるような作品になったんですけど、そっからアルバム作るとなって。
hyunis1000:ほんとは2023年の4月ぐらいに出来て出す予定だったんですけど……。僕が2023年2月に骨折して2か月ぐらい入院して、5月に退院で(リリースするのは)無理だと。脛骨高原骨折という骨折で。
ーーアルバムが若干遅れるっていう話は聞いたんですけど……あんまり詳しくないんですけど、けっこうな大怪我ですよね?
hyunis1000:歩けるようになったのも6月くらいでした。ごめんなさいという感じで、ratiffと出すタイミングを伸ばそうかとなり……。
ratiff:そこから内容を詰めはじめて、4月・5月に出すとなるとせかせか動かないといけないから、ゆっくりやるかと言って徐々に徐々に完成に向かってったって感じなんですよね。
ーー骨折もありアルバムのリリースが遅れたことによって、変化というか、こっちのがよかったなみたいなのはあるんですか。
hyunis1000:個人的には、「EPOCH」という神戸の洋服屋さんの人がお見舞いに来てくれて、「うちからアルバム出してよ」と言われて僕のソロアルバムが出せました。
ーーどんぐりずとのコラボ曲「DOMBIESS」のリリースもありながら、EPからアルバムに向かっていったのかなと思ってたんですけど。そういう思ってもいなかったアクシデントがあって、アルバムのリリースが遅れたわけですね。
ratiff:けどジャケの案とかも4月・5月ではまだ決まってなくて、どうしようかなと思っていたし。今回、wackwackさんという切り絵のアーティストさんの作品が僕ら結構好きで、ずっと頼みたいねと話していて。展示が去年の夏くらいにあって、ちょうど会えるタイミングがあったりとかで、結構いいリズム感で出来たかなと。ゆっくりではないですけど、ちゃんと1曲1曲の濃度を詰めたりとか、アルバムの曲順に並び替えて何回も聴き直す時間も取れたんで結果的には良かったかなと。
ーー本当に素晴らしいアルバムですよね! 私、すごい好きです。これってコンセプトがあるというよりは、曲をどんどん作っていったという感じなんですかね。
hyunis1000:日常の延長というか、ratiffがビートを作って持ってきて、僕は書いただけなんで。
ーー今回は全曲、ビートがratiffさんなんですよね。
ratiff:ほぼ全曲ぐらいでやったことはあったんですけど、もう1回ちょっとチャレンジしたいなというのと。前のEP「Space Cowboy」はtofubeatsさんとか、パソコン音楽クラブさん、E.O.Uとかの力を借りてやったんで、次はやっぱ「自分らでもできるぞ!」というのを提示できたらなと。
ーー個人的には一聴して、まず1回、アルバムを1番最初から最後まで聴いて、最初にすごい思ったのはトラックがほんとに好きだなと。
ratiff:ほんとですか! うれしいです。
ーーいろんなサウンドが、詰め込まれてますよね。例えばレゲエだったり、ボサノバみたいな曲もあったりしますが、全体の方向性みたいなのはあったんですか。
ratiff:その時に、ブロックハンプトンの解散前のラストアルバムが出たりしてた時期で、全体的にまとまった質感でもいいのかなとか思ってたんですけど、そのアルバムが結構ジャンルバラバラで。めっちゃ歌ってる曲もあれば、ハードなヒップホップの曲もあったり。こういうアルバムって、最近の日本語ラップでもあんまりないかなと。ドリルやったらドリル、トラップやったらトラップみたいなコンセプトでガッと絞られたやつが多かったんで、バラバラでも面白いんかなと。しかもその時その時に、自分の中でちょっと流行りがあったので、ジャングルだったり、ドリルみたいなのも入ってるんです。なので、その時その時の自分の気分で作ったやつを、そのままhyunis1000に乗せてもらってみたいな感じで作りましたね。
ーーリファレンスじゃないですけど、その時にハマってて、次の曲はこんな感じのトラックを作ろうと思うみたいなやり取りとかはあったんですか?
ratiff:「SURF'S UP」もhyunis1000が僕に「ちょっとドリルやってみてほしい」みたいなふうに言ってくれて、僕なりに作ったらどうなるかなと思って作ってみた曲です。
hyunis1000:結構、実験的なことが多かったですね。
ーー同じ部屋とかで、こういう曲がいいよねみたいな聴く時間とかって、今はあるんですか?
hyunis1000:あるっすよね。
ratiff:毎回集合したら、集まって2時間ぐらいだらだらYouTubeとか聴きながら喋って、最近あった話とかこれ良かったよとか話しながら、「こういう雰囲気いいな!」とかあればそのままインスピレーションを受けて作ってみる、みたいなことはずっとやってるかもしれないですね。
Neibiss - FLASH (Audio Visual)
ーーその感じがすごく出てる気がします。日常の延長線上というか、遊びの延長線上みたいな雰囲気がアルバムに詰まってる感じもしますし。サウンドはいろんなサウンドになんか影響を受けつつ、それぞれサウンドが全然違うんですけど「Neibiss」だなという感じがして。たとえば、アルバム中盤の「FLASH」ですかね。この曲はドラムンベースですか?
ratiff:ジャングルとドラムンベースみたいなのを聴いていた時期で、「Space Cowboy」を作るくらいの時に、もともと僕がトラックで持ってたんです。だけどドラムンがあんまり気に入ってなくてボツになってて、そこにhyunis1000が「こういうのどう?」みたいな提案してくれて。
hyunis1000:僕は僕でジャングルを作ろうとしていた時期があって、アーメンブレイクスを集めたりしてたんですね。それをこのトラックにはめてみたら、なんか合うんじゃないかと思って渡して、それをはめてみたらはまって。そのまま歌詞を書いて再構築したらできた感じですね。
ーーこの1〜2年とかって、特にジャングルやドラムンベースみたいなサウンドも割とポップフィールでもトレンドの1つというか、すごく聴く機会が増えた印象はありますね。そういうとこの影響もちょっとあったと。
ratiff:ニア・アーカイヴスとかをhyunis1000が聴いてて教えてもらってたんですけど、DJとかでもよくジャングルかけるようになって、自分らの曲でもあったらおもろいなと思って作れたみたいな感じですね。
hyunis1000:「WOW WAR TONIGHT 〜時には起こせよムーヴメント」とかめっちゃ聴いてて。ジャングルでのラップとかとりあえず集めてた時に、「H Jungle with t や!」と。
ーー「WOW WAR TONIGHT 〜時には起こせよムーヴメント」って、たしかにちょっとテンポアップとかしますよね!
ratiff:そうですね。アーメンブレイクスぽいのも入って。
ーーH Jungle with tってその「ジャングル」だったんですね!
ratiff:そうやと思うんですけどね!
hyunis1000:小室さんのジャングルセットがある、みたいな。
ーーそうだったんですね、ちょっと驚きです。
hyunis1000:だからちょっと歌詞もサンプリングしたりしましたね。
ーーサンプリングで言うと、スチャダラパーとかも使ってますかね?
ratiff:今回はスクラッチのネタとかが一緒のやつはありますね。レコードとかで「バトルブレイクス」というのがあって、スクラッチの声ネタとかが大量に入ってるんですよ。そうするとやっぱ日本語ラップと被りがどうしてもあるので、僕的にはそんなに意識してなくて。リリックをサンプリングするときはもちろん意識はしてますけど。スクラッチの声のネタがかぶるのは結構あるあるなことなのかなと。しかも、あえてやりたかったのもあって。今回のアルバムがサンプリングミュージックじゃなかったんで、スクラッチとかはヒップホップの質感を残してやりたいなみたいなのがあったので、そういう要素を入れたという感じですかね。
Neibiss
ーーそれは聞けてよかったです。いろんな影響がほんとにありますね。ほかにもすごく印象的だったのは「Take It Easy」ですね。レゲエで、Neibissはいろんな箱で育ったストリートですけど、レゲエとも遠くなかったのかなと。
hyunis1000:出会ったのが、レゲエの人たちが作った箱みたいな感じでしたしね。
ratiff:ヒップホップDJとレゲエのDJが一緒になるイベントもめちゃくちゃあって。そういうところに16歳とか17歳とかで、hyunis1000と遊びに行ったりしていて。
hyunis1000:そもそもratiffの親がレゲエを好きだったらしくて、根にあるっぽいんすよ。
ratiff:そうですね。親が好きで、自然に聴いてたっすね。昔はヒップホップが好きやからレゲエが苦手で。怖い、いかつい! みたいな。けど、クラブに行くようになって、今はめちゃくちゃ好きですね。
hyunis1000:BPMも遅いしゆっくりできるしね。
ratiff:ジャングルもレゲエの派生だったりするんで。レゲエの倍落としたリズムに、倍速でドラムをはめるみたいな。ベースとかもレゲエのルーツのままだったりするので、そのまますんなり入れたというか。
hyunis1000:カッコ良い先輩がジャンル関係なく流してる音楽の中に絶対にレゲエが入ってるんで、強制的に好きになっていきました。
ーーこのアルバムだけじゃなくて、Neibissのサウンドって単純にいろんな曲のジャンルからの影響というよりは、Neibissのライフの中での影響みたいな感じがリスナーとしては感じるんですよね。スタイルですかね、Neibissという。
hyunis1000:うれしいっす。ラッパーじゃなくて、いち人間として俺はやろうとはしてる。
ratiff:確かに。俺もそれはあるっすね。
ーー人生というか、遊んでるライフみたいなのがのっかってる感じがすごいします。
ratiff:やば。
hyunis1000:めっちゃいいっすね。
ーーなんでかはわかんないですけど、結構みんなそう思ってると思いますけどね。
ratiff:アルバムを作るときにそれを目指したところがあって。どういうトラックに乗っても「Neibissやな」と言われるのが目標というか。一貫性が全部にあるみたいなのが良かったんで。
Neibiss - Looking 4u (Official Music Video)
ーーそれはどうやって表現しようとしたんですか?
ratiff:「Space Cowboy」の時に自信がついたのはあって。前までは僕がトラックのプロデュースとしての権限を持っていて、僕がどうにでも見せ方とかできたんすけど、前の時からtofubeatsさんやパソコン音楽クラブの乗ったことないようなトラックに僕もラップはラッパーとしてチャレンジするみたいな。 それが結構良かったので、2人で乗っかったらNeibissの形になるんじゃないか、みたいな自信がついて今回の作品になりました。なので最後の曲「Looking 4u」とかは特に、音色もヒップホップじゃないし生音っぽい質感で、今まであまりやってこなかったんですけど、2人ともマック・デマルコとかスティーヴ・レイシーとか好きだったんで、そういうゆるいロック曲もやりたいなと。なので今回は、どれでも乗せたらNeibissになるんじゃないか、みたいな実験的な感じでもありました。
ーー「Soulful World」は、同名のディズニー映画からインスピレーションを受けてますか?
ratiff:そうですね。あの映画をhyunis1000に「観て!」と言って。好きそうかなと思って。
hyunis1000:それを観て、感想をラップにした感じですね。
ratiff:1個の作品から派生した作品を作ってみたくて、それがうまくしまった感じですね。あと、hyunis1000しかラップをしてなくて、僕はサビだけ。hyunis1000のソロの延長線っぽい感じもあるし、Neibissっぽさもあるし。
hyunis1000:僕のソロは、結構「死ぬ」「生きる」ということを意識するときあるので、「絶対にわかると思うから」と言われて、自分と映画を重ねて作った感じなんですよね。
ーーCampanellaさんとの楽曲「4 season feat. Campanella」が入っていますけれど、交流はいつからですか?
hyunis1000:2~3年前くらいですかね? 昔18歳ぐらいの時に神戸でライブとかで来られてたのを観ていた、憧れの人という感じで。
ratiff:僕らの出てたレギュラーパーティーのスペシャルゲストで出ててね。けど、なんも喋りかけられてなくて。
hyunis1000:僕がソロをRC SLUMという名古屋のレーベルから出したんですけど、それで名古屋に行くことが増えて。それで名古屋でライブとかも重なったり、自然とちょっとずつ。
ratiff:神戸の先輩がCampanellaさんを呼ぶ時にhyunis1000を呼ぶことが増えてきて、僕も何回か挨拶して覚えてもらえるようになって、繋がりができて。そこから1ヶ月1回ぐらいのペースで各地各所で会うように。
hyunis1000:全然久しぶりじゃないね、と言われるようになって(笑)。
ーーいいですね、そういう関係の繋がりで。
ratiff:それで一昨年ぐらいに、Campanellaさんの主催パーティーにもNeibissで呼んでもらえたりして、徐々にですね。
ーー「Space Cowboy」のリリースパーティーにも参加されてますよね。楽曲を制作するのは今回が初めて?
hyunis1000:僕はソロで2曲ぐらい一緒に。ついにNeibissでもできました。
ratiff:Campanellaさんのライブ中にhyunis1000が客演で出てきたりするのを見ていて、「いいなぁ。Neibissでもやれたらなぁ」と思っていたので。hyunis1000でやる時はトラップな感じで、高速なラップやったので。
hyunis1000:最初のリリパの時に、CAMPY(Campanella)さんが「Neibissの20歳ちょっとくらいの曲をやります!」と言って、ブーンバップをやってたんですよね。
ratiff:あんまCAMPYさんが最近そういうのをやらなくて。最初、僕もトラップの感じでやろかなと思ってたんですけど、CAMPYさん入ってもらうし、ブーンバップに乗ってもらおうかと思って。CAMPYさん的には久々にこういうBPM帯に乗るから難しかったらしくて。けど、「絶対に完成させるから待ってて!」と言ってくれて。
ーー制作はどんな感じでは進んだんですかね。
ratiff:僕らがバースを埋めて、サビを埋めて送って、そっからCAMPYさんが持ち帰ってずっと書いてくれる、みたいな。結構2、3回くらいリリック書き直したみたいなこと言ってたんで結構悩んでやってくれたんやなと。
ーーこれはアルバムで言うと、最初に出来上がろうとしてたタイミングではできてたんですか?
ratiff:できてなかったですね!
hyunis1000:だから僕の骨折のおかげですね。
ーー骨折してなかった場合は、アルバムに入らなかった。
ratiff:ほんまや、入ってなかったですね!
hyunis1000:必要な骨折だった。
ーー「必要な骨折だった」(笑)。さて、アルバムのリリースパーティーも東京と大阪で決定しています。東京は4月23日(火)に渋谷 WWW & WWWβでtofubeatsさんらスペシャルなゲストを迎えて開催。大阪は5月6日(月)に心斎橋CONPASSで初のワンマンとなります。
ratiff:毎日この日のこと考えてますね。
hyunis1000:全曲やってもちょっと時間が足りないかもしれないから、全曲やるかもしれないし……。
ratiff:MCでめっちゃ頑張って喋るか。本編がだいたい90分くらいあるんですけど、僕ら最高でも45~50分くらいしかやったことなくて。今考えてるのは、4月ぐらいからスタジオ入ったり。僕的には東京と大阪で絶対内容変えたくて、どっちも来てくれるみたいな人もいるかもしれないんで、ワンマンの方もワンマンの方で今までやったことないことしたいなとを考えてます。
hyunis1000:懐かしい曲ができるのがすごい楽しみですね!
ratiff:ライブで1回しかやったことない曲とかも全然あるんで。
ーーファンにとってはむちゃくちゃいいですね!
ratiff:ちょっとあったかい感じで。今回のアルバムを聴いてよかったなと思った人が来てくれたら嬉しいですね。それと僕らクラブのオールナイトイベントとかも多いので、今までライブに行けなかったり、お仕事で来れてなかった人とかもいると思うので、そういう人たちにも来てもらえたら嬉しいですね。
取材=竹内琢也 文=SPICE編集部(大西健斗)
リリース情報
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ライブ情報
時間:Open/Start 18:00
:https://t.livepocket.jp/e/neibiss_hyunis1000
枚数限定(販売期間 2.13 (Tue) 23:59まで/規定枚数に達し次第終了)