より華やかに、より深く 『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』初日前会見&ゲネプロレポート~望海風斗×甲斐翔真ver
『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』2023年公演より写真提供:東宝演劇部
この日のゲネプロには、サティーン役:望海風斗、クリスチャン役:甲斐翔真、ハロルド・ジドラー役:松村雄基、トゥールーズ=ロートレック役:上川一哉、デューク(モンロス公爵)役:伊礼彼方。サンティアゴ役:中河内雅貴、ニニ役:加賀楓が出演した。
※以下、配慮はしておりますが、ネタバレを含みます※
物語の舞台は、1899年のパリ。退廃の美、類稀なる絢爛豪華なショー、ボヘミアンや貴族たち、遊び人やごろつきたちの世界。ナイトクラブ「ムーラン・ルージュ」の花形スターであるサティーンと、アメリカ人作曲家のクリスチャンはムーラン・ルージュで出会い、激しい恋に落ちる。
しかし、クラブのオーナー兼興行主のハロルド・ジドラーの手引きで、サティーンのパトロンとなった裕福な貴族・デューク(モンロス公爵)が二人の間を引き裂く。デュークは望むものすべて、サティーンさえも金で買えると考える男だった。
サティーンを愛するクリスチャンは、ボヘミアンの友人たち(その日暮らしだが才能あふれる画家トゥールーズ=ロートレックや、パリ随一のタンゴダンサーであるサンティアゴ)とともに、華やかなミュージカルショーを舞台にかけ、窮地に陥ったムーラン・ルージュを救うことで、サティーンの心を掴もうとするーーというストーリー。
『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』2023年公演より写真提供:東宝演劇部
ああ、またあの世界に戻ってきたーー。劇場内に入ると目に飛び込んでくる、上手には巨大な象のオブジェ(サティーンの楽屋がある)、下手にはくるくると回る巨大風車。空間そのものが赤く染まり、絢爛豪華な“非日常”が帝国劇場内に広がる。開演の10分前ぐらいから舞台上にはショーダンサーらが現れる(なので、着席はお早めに!)。ゆったりかつねっとりとした目線と動き。空間の赤さ、動きの遅さを見つめるうち、観客は今ある現実から離れ、徐々に夢や幻想の世界、『ムーラン・ルージュ!』の世界へ誘われていく。
そして、クリスチャンが舞台上に現れ、幕をあげると、本作の1曲目「WELCOME TO THE MOULIN ROUGE!」がスタートする。1曲目からまるでフィナーレのような盛り上がり。出演者も観客もテンションが一気にあがる。本作は19世紀にオペレッタを創始したオッフェンバックから、ザ・ローリング・ストーンズ、エルトン・ジョンやマドンナをはじめとする20世紀に大流行したメガヒット曲、21世紀が生んだ最高の歌手レディ・ガガまで、160年以上にわたるポピュラーミュージック約70曲が散りばめられたマッシュアップ・ミュージカルとなっているため、多くの観客にとってどこかで聞いたことがあるような聴き馴染みのある曲が多く、ミュージカルをあまり観たことがない人でも楽しめるはずだ。
『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』2023年公演より写真提供:東宝演劇部
『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』2023年公演より写真提供:東宝演劇部
会見で井上芳雄が「どんどんお芝居が深まっている」と話していたように、初演から約1年での再演となった今回は芝居が特に心に響いた。初演はまさに華やかなショーの部分に圧倒されたことを覚えているが、今回の再演ではまだ初演の記憶があるうちの上演で、観客側がより深く、いい意味で落ち着いて観られるということ、そしてもちろん全員が続投キャストで、演者たちがキャラクターや作品をより深く理解・表現しているということから、そう感じたのだと思う。ぜひ大きな期待を持って、サティーンとクリスチャンの燃え上がるような恋にときめき、狂い、涙してほしい。
キャストについても言及しておきたい。望海のサティーンは、望海本来の華と芯の強さを持ち合わせているだけでなく、これまでの苦労や仲間への深い愛など、人物の奥行きを十二分に感じさせる芝居。追いかけて追いかけて、ようやく向き合えたと思ったら、桜のようにすっと散ってしまう。そんな儚さもいい。甲斐のクリスチャンは、恋心に火がついたらば、ひたすらにまっすぐに愛を求めてしまう若造感が何よりも魅力的。ポップス寄りの歌い方もまた声質とマッチしていて、非常にハマり役だと思う。松村のジドラーは自称“あっさりめ”というが(笑)、猥雑な部分がありつつ、いち興行主として背負うものが垣間見え、憎めない。
『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』2023年公演より写真提供:東宝演劇部
上川のトゥールーズは、上川が劇団四季出身ということもあって何よりセリフが聞き取りやすいのがいい。芝居が深まり、「芸術家」としての矜恃も初演よりも明確に見えるようになった気がする。中河内のサンティアゴは2幕冒頭の「BACKSTAGE ROMANCE」が最大の見せ場ではあるが(最高に格好いい)、そのほかも情熱ゆえにちょっと空回りしている感じがチャーミング。初演よりもラテンの血を感じるのは気のせいか。伊礼のデュークは、その余裕と自信からか、単純な“悪役”に見えない芝居がいい。決して肯定できないことではあるが、彼にも彼の思いや信念があるのだなと納得してしまう(ちなみに最後のカーテンコールで踊り狂うデュークは本作の見どころの一つだと思っている)。加賀のニニの魅力は、とにかくダンス。キレとしなやかさの両方をあわせ持ち、初演以上にダンスのスキルを上げている気がした。本作を持って芸能界を引退することを発表している加賀だが、ぜひその最後の勇姿も見届けてほしい。
『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』2023年公演より写真提供:東宝演劇部
上演時間は約2時間55分(途中25分の休憩あり)。この帝国劇場で上演される最後の『ムーラン・ルージュ!』、ぜひお見逃しなく!
取材・文=五月女菜穂
公演情報
日程:2024年6月20日(木)~8月7日(水)
会場:帝国劇場
<大阪公演>
日程:2024年9月14日(土)~28日(土)
会場:梅田芸術劇場 メインホール
■キャスト:(各役五十音順表記)
【サティーン】望海風斗 平原綾香
【クリスチャン】井上芳雄 甲斐翔真
【ハロルド・ジドラー】橋本さとし 松村雄基
【トゥールーズ=ロートレック】上野哲也 上川一哉
【デューク(モンロス公爵)】伊礼彼方 K
【サンティアゴ】中井智彦 中河内雅貴
【ニニ】加賀 楓 藤森蓮華
【ラ・ショコラ】菅谷真理恵 / 鈴木瑛美子
【アラビア】磯部杏莉 / MARIA-E
【ベイビードール】大音智海 / シュート・チェン
アンサンブル(E)/スウィング(S) (五十音順表記)
ICHI(E)/乾 直樹(E)/加島 茜(E)/加藤さや香(E)/加藤翔多郎(E)/酒井 航(E)/篠本りの(S)/杉原由梨乃(E)/仙名立宗(E)
高橋伊久磨(E)/田川景一(E)/田口恵那(E)/茶谷健太(S)/富田亜希(E)/平井琴望(E)/堀田健斗(S)/三岳慎之助(E)
宮河愛一郎(ダンスキャプテン E)/米島史子(S)/ロビンソン春輝(S)/和田真依(S)