薮宏太「作品を通して愛を感じてほしい」 ミュージカル『tick, tick...BOOM!』が開幕【会見&ゲネプロレポート】

レポート
舞台
2024.10.8

舞台上では開演15分ほど前からジョンが部屋の中で過ごす様子が描かれる。少し早めに席に着くことで、ジョン(薮 宏太)の日常生活の空気を感じてから物語に入っていくことができる。

物語は、ミュージカル作家を目指しつつ、30歳の誕生日を目前にして将来への不安に押しつぶされそうになっているというジョンの独白からスタートする。若くして成功した有名なミュージカル作家たちと自身の現状を比べて苦悩するジョンだが、ピアノソロから始まる楽曲はどこか明るくキャッチーだ。

途中から幼馴染のマイケル(草間リチャード敬太)とジョンの恋人・スーザン(梅田彩佳)も加わり、楽曲はさらに豊かに。焦燥感だけでなく、ミュージカル制作に対する熱意や野望を感じさせるナンバーに引き込まれる。

30歳までに何かを成し遂げたい・理想の人生を叶えているはずだったというモヤモヤ、人生の岐路に立った時の葛藤に共感する方も多いのではないだろうか。作品全体に漂うあたたかさと切なさは、ジョナサン・ラーソンの代表作『RENT』に通じる部分もあると感じる。

ビジネスマンとして大成したマイケル、ニューヨークを離れて新しい生活を始めることを考えるスーザンに対し、停滞しているように見えるジョン。自分の作風が流行と違うと嘆きつつ自分を曲げない頑固さが、薮の素朴で柔らかい芝居と歌唱によってチャーミングに表現されていた。

そんなジョンを心配するマイケルの友情、現状を変えようと行動するスーザンの思いも、作品を彩っている。また、会見でも出ていたように、梅田はジョンに向ける優しい表情やダンサーらしいしなやかさがキュートなスーザン、リチャードは朗らかで面倒見がよく、キレのいいダンスが印象的なマイケルというメインの役に加え、数多くの登場人物を演じわける。両親や仕事関係者など、入れ替わり立ち替わり違うキャラクターになって登場する2人も見どころと言えるだろう。

キャストは3人のみだが、歌声のバランスがよく、厚みのあるハーモニーが生まれているのが印象的だ。ジョンの心情を聴かせるナンバーはもちろん、親友2人の関係性を歌唱とダンスで見せるナンバー、ポップでコミカルにバイト風景やスーザンとの喧嘩を描くナンバーなど、楽曲はどれも魅力に溢れている。歌唱はもちろん表情やダンスでも魅せるキャスト陣に、ユーモラスなシーンで笑い声が起きたり、客席を巻き込んだ演出に歓声が上がったりと、劇場全体が熱気で包まれていた。

本作は2024年10月6日(日)に東京・シアタークリエにて開幕。11月3日(土)・4日(日)には愛知・東海市芸術劇場、11月7日(木)~11月11日(月)には大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA WWホールでも公演が行われる。

公演情報

ミュージカル『tick, tick...BOOM!』 
 
東京公演:2024年10月6日(日)~10月31日(木)シアタークリエ 
愛知公演:2024年11月3日(日)~11月4日(月・祝)東海市芸術劇場 
大阪公演:2024年11月7日(木)~11月11日(月)COOL JAPAN PARK OSAKA WW ホール 
 
CAST:
ジョナサン・ラーソン 薮宏太
スーザン・ウィルソン 梅田彩佳
マイケル 草間リチャード敬太(Aぇ! group)
 
スティーブン・ソンドハイム(声) 石丸幹二
 
スウィング AYAKA 石川新太
 
スタッフ:
作詞・作曲・脚本 ジョナサン・ラーソン
演出 アンディ・セニョール Jr.
翻訳・訳詞 高橋亜子
振付 カーラ・プーノ・ガルシア
音楽監督 栗山 梢
美術 石原 敬
照明 髙見和義
音響 山本浩一
映像 上田大樹
衣裳 アンジェラ・ウェント
ヘアメイク 伊藤こず恵
歌唱指導 大嶋吾郎
稽古ピアノ 石川花蓮
音楽スーパーヴァイザー 佐藤真吾
演出助手 福原麻衣
舞台監督 加藤 高
 
製作:東宝/シーエイティプロデュース
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