それは終わらないファンタジア~ カレン最後のライブで見せた「ClariSであるということ」
2024.10.26(sat) 『ClariS AUTUMN TOUR 2024 ~Via Fortuna~』@LINE CUBE SHIBUYA 昼公演
遂にこのツアーが始まったな、と感じるものがあった。
2014年から10年間クララと共にClariSとして活動してきたカレンがこのツアーを持って卒業することを発表。発表時は衝撃が走ったが、カレンの「結婚して、私が育ってきたような温かい家庭を築きたい、という私のもう一つの夢を叶えるため」という理由は、すぐに暖かく迎えられたと思っている。
とは言え最後となる二人のステージを見るために、開演前から会場付近には多数のファンの姿も、グッズ販売されているTシャツも開演前に完売という状況だ。
ツアー初日となるこの日だったが、始まる前からもう一つ衝撃があった。クララが前日のリハーサルで足に怪我を負い、動きを制約した中でのパフォーマンスとなるという発表が当日オフィシャルから出されたのだ。心配する声もあがる中、いよいよ開幕の時間を迎える。
ステージには仮面を被ったClariSの二人、カレンがクララの乗っている車椅子を押して登場した。椅子に座った形でのパフォーマンスを行うことを発表すると客席からは歓声が。
「その分カレンがいっぱい動いてくれると思うので!」
との声に笑顔で答えるカレン、一緒に楽しもうという言葉を受けて、いよいよライブが始まる。
一曲目は代表作「コネクト」。初っ端からのフルスロットル、確かにクララはステージ中央のハイチェアに座りながらの歌唱だが、怪我を感じさせないパフォーマンス。元々静のクララ、動のカレンという印象はあったが、ポイントポイントでフォローするようにカレンに近寄り、あるときはステージを駆け回り客席にアピールするカレン。何も変わらないClariSのライブだ。
ライブでの人気曲「仮面ジュブナイル」、そして「Prism」からは仮面を外してのパフォーマンス、どこかこれまでの軌跡をたどるような構成なのだと意図に築きつつ、二人の歌唱に聴き惚れる。本当に二人の歌声が心地よい。
TVアニメ『ニセコイ』オープニングテーマ「CLICK」も10年前の曲とは思えない新鮮さで耳に飛び込んでくる。1stシングルである「irony」からタッグを組んできた、kzの作り上げたアップテンポなビートポップ感を歌いこなすClariSの安定感はもっと注目されていい。
「足以外は心も元気で、ずっとカレンと楽屋で笑いあってるくらいだったので、ご心配をおかけしました!」
にこやかなクララのMCに客席も少しホッとしたような喜びの声が上がる。「確信してる!今日は絶対最高の日になる!」との声に更にスロットルを上げたフロアに投下されたのは「again」「Gravity」「SHIORI」「PRIMALove」と人気曲たち、バンドのアレンジもしっかり効いて、ある瞬間はスリリングに、かと思えばロマンチックにも切なさも感じられる音楽の幅は実力の証だ。
「blossom」では「みんなペンライト持って!」と声を掛けるとそこまで以上にペンライトの明かりが灯る。会場全体で音楽を作り上げるこの感じ、ライブを見ていると心底実感する。
ClariSバンドのソロパートから披露されたのは、10月に発売されたコンセプト・ミニアルバム『AUTUMN TRACKS -秋のうた-』からのメドレーコーナー。オリジナル曲となる「秋のグラディエント」からして80~90年代の歌謡曲テイストあふれる一曲。クラシックギターの音色も哀愁を感じさせる一曲からは、松田聖子の「風は秋色」、小泉今日子の「木枯しに抱かれて」と80年代を代表するアイドルポップを続けてくる、レトロフューチャーユニットの面目躍如というには自分たちの曲としてしっかりと歌い上げる。
ここからはソロパート、柴咲コウがRUI名義でリリースしたヒット曲「月のしずく」をクララが歌う。低いキーのメロディはクララがしっかりと大人になっていることを感じさせてくれる。確かに着席でのパフォーマンスではあるが、それがあまりにもマッチしている歌唱が心地よい。さあ次はカレンのパートだ、岩崎宏美の「思秋期」。
原曲が発表されたのは1977年となんと47年前、それでも新鮮に耳に届いてくるのは楽曲の持っている普遍的な素晴らしさと、それを歌うカレンのパフォーマンスだろう。バラードと言えばクララ、という印象があったClariSだが、ラストライブで哀愁あふれるこの箇所を見せてくるあたり、やはり惜しいという思いが抑えられなくなる。
衣装もチャーミングなものに着替えての後半戦、クララはうさぎ、カレンは猫と自身たちを象徴する動物の耳がついたカチューシャも可愛く決まっている。かわいい!という声援が飛ぶ空気を更にブーストするかのように「ヒトリゴト」「CheerS」、そしてスケール感を広げて「アリシア」「ALIVE」とキラーチューンをダイナミックに展開していく。
「シニカルサスペンス」「Masquerade」は自身たちの楽曲の中でもミステリアスなパート、動きに制限があるクララをサポートするかのようにカレンが躍動する。タンゴステップも鮮やかなカレンのダンスも見納めかと思うと旨に去来するものがある。
それを超えた先にはとびきりキュートな「ふぉりら」では「でもやっぱり好き!」の大合唱、そして「コイセカイ」の純愛的世界観と万華鏡のように雰囲気に空気を変えていく。それがシームレスで引っかかりを感じないのがClariSの凄さなのだが、それは芯として“ClariSらしさ”のようなものがデビューから一貫して貫かれているからなのだろう。
では、“ClariSらしさ”とは何なのだろう?個人的見解だが、どこまで濁らない「清浄さ」のような気がしている。
勿論音楽的な話もできるが、デビュー14年を迎えた彼女たちの多彩な世界は多様な音楽性で組み上げられている。それでもクララとカレンが構築してきた透明感ある関係性は、見るもの聴くものの心をすっと清めてくれるような感覚がある。
ClariSを感じている時だけは自分も誠実で綺麗な人間で居られるような感覚になる。彼女たちを通じて心のデトックスをしているように思える、それはとても貴重な時間のような気がするのだ。
本編最終盤でのメモリアルメドレーは「recall」から、何度も寄り添い、何度も手を合わせ、繋いできた二人の時間が少しづつ終わりに向かっていく。「陽だまり」はカレン作詞のソロ曲だが、一緒に歌いたいという言葉を受けて二人で歌声を重ねていく趣向。感極まるものがいよいよ旨に込み上げてくる。本編ラストは先日リリースされた『ClariS ~SINGLE BEST 2nd~』からの新曲「Evergreen」。
カレンのイメージカラーであるパステルグリーンに染まる空間、クララから、そしてスタッフ、ファンからのラブレターのようでもあり、二人の道のりと、これからを祝福する楽曲。喜びも悲しみも内包した4分間。二人が涙で歌えない時間には鼓舞するかのように声援が飛ぶ、幸福な瞬間だ。
アンコールで改めてカレンが卒業を宣言するも涙。それはそうだと思う、10年間、青春のすべてをかけたものがClariSなのだ。
「私の個人的な理由で、この勢いあるClariSの活動のスピードを止めてしまうのは自分が許せないと思った」
というのはカレンの心からの言葉だろう、それを受け入れて、ClariSを止めないという決断をしたクララの強さ。我々が思っている以上に二人は矜持を持ってマイクを握っている。
ツアータイトルは「Via Fortuna」、意味はラテン語で「幸運の道」。道を違えることになった二人の未来が幸せに溢れていますように、願いと思いを込めた言葉の魔法、叶うことを願いながらアンコールが歌われていった。
アンコールは「Clear Sky」から、カレンが参加した今のClariSの始まりの曲。「リスアニ! Vol. 19」の付録CDとして発表され、これまでベスト盤にだけ収録されてきた曲は、今の二人にとって特別な楽曲だ。アリスが卒業し、カレンを迎えてのClariS、そして今カレンがまた卒業する今、改めて制作したMVでの衣装を着用して歌うことに意味がある。新しい扉を開く準備は、出来てるなんて言いたくないけど、出来ていると言おうと背中を押してくれるような歌唱。
大切な一曲を歌い、改めてライブTシャツに着替えて「PRECIOUS」。「大好き」と「おめでとう」を心から、そして本当のラストは、カレンが参加した新生ClariS初のシングル「border」。歌詞の一言一言が胸に突き刺さるように響く。
「君の居ないそんな世界になってはじめて 今日という日を後悔するなんて嫌だ」
後悔なんてしたくないから、思い切り手を突き上げ、声を上げ、網膜に焼き付けるように、鼓膜に刻むように、ClariSを感じていたい。永遠のような一瞬が泡のように消えていく。メドレーを含めて全23曲、いつも通り、全力でボリューム満点のClariSのライブ。でもきっと次に合うときは、今とは違う形であろう大切な時間が終わった。
余談だが、笑顔でステージを去ったClariSにご挨拶する機会をいただけた、バックステージでも二人は寄り添い、笑顔だった。
「カレンは卒業するけど、私達は一緒のままですから!」
クララの言葉が今も脳裏に浮かぶ、その笑顔があるのなら、きっと僕らも、彼女たちも大丈夫だ。ClariSの旋律は、これからも続いていく。
レポート・文 加東岳史
セットリスト
2024.10.26(sat) 『ClariS AUTUMN TOUR 2024 ~Via Fortuna~』@LINE CUBE SHIBUYA 昼公演