中村七之助、父の遺志を継ぎデヴィッド・ルヴォー演出×近松で深津絵里とWヒロインに!

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大阪の取材会に出席した中村七之助(撮影/石橋法子)

大阪の取材会に出席した中村七之助(撮影/石橋法子)

エロティックな心中ものを基に“究極愛”を描く、オリジナル新作劇

遊女小春、治兵衛、その妻おさんの三角関係を描いた近松門左衛門の代表作「心中天網島」をベースに、まったく新しい“究極の愛”を描く『ETERNAL CHIKAMATSU』。イプセンやチェーホフ、三島由紀夫に歌舞伎まで、ヨーロッパと日本を行き来する中で、とりわけ現代の日本で古典作品を上演することの意味を自問しつづけてきたというイギリス人演出家、デヴィッド・ルヴォー。今作は「過去の声を今どう聞くか」という彼のテーマに共鳴した、今は亡き中村勘三郎と交わした“約束”を実現するもの。勘三郎とデヴィッド・ルヴォーのアイデアを基に作家の谷賢一が新たに書き下ろすオリジナル戯曲だ。台本の完成が待たれる中、父の遺志を引き継ぎ深津絵里とダブル主演を務める中村七之助が、大阪で意気込みを語った。

あらすじ:ほんのちょっと、15分だけの恋のはずだった。止むに止まれぬ事情から、売春婦になったハル(夫と子供あり)。割り切って始めた商売だが、 足繁く通うジロウ(こちらも妻子持ち・現在失業中)と命懸けの恋に落ちる。周囲の反対を押し切ってこの恋を全うすることが出来ないと諦め、ハルはジロウに愛想尽かしをしたふりをして心ならずもジロウと別れる。自暴自棄になって街をさまよっていたハルは、かつて遊女の涙で溢れたという蜆川(曽根崎川)のあった場所で、ハルと同じ境遇にある、妻も子供もいる紙屋治兵衛と命懸けの恋をしている遊女小春と出会い、近松門左衛門の江戸の世界、古い古い恋の物語に引きこまれていく。


◎「古典歌舞伎を海外の方がどう演出し、何が生まれるのか楽しみたい」(七之助)

―――歌舞伎の魅力を現代に伝えたいという勘三郎さんの想いが詰まった企画です。

渋谷・コクーン歌舞伎、平成中村座しかり、父は有言実行のひと。その中の一つに歌舞伎の演目を海外の演出家に手掛けてもらいたいという夢があった。ルヴォーさんとは近松でいこうというところまで話していたようです。父が亡くなり、夢はついえたかに思えたんですが、ルヴォーさんがその約束を覚えていて下さった。死してなお夢を叶えようとする父の思いと、その約束を息子である私に託して下さったルヴォーさんの優しさに感謝しています。

中村七之助(撮影/石橋法子)

中村七之助(撮影/石橋法子)

―――女形として演じる遊女・小春について。

遊女でありながらも、人を愛する気持ちを貫き通したいと考えている。悪い事をしている自覚もある、人間味あふれる役です。理性と本能の狭間で揺れ動きながら、最後には歯車が狂ってしまう。心中はいけないことですが、それゆえに純粋な美しさとエロスも感じられる。今回は遊女という身を売っている女性というのがポイントで、人間のより深い悲しみの中で生きている女性なんだと思います。

―――歌舞伎では、これまでたくさんの近松作品にご出演です。

そうですね、色々あります。『俊寛』(近松門左衛門作の人形浄瑠璃「平家女護島」2段目より」)もそうですし、『封印切』は僕の人生の中でも一番多く出演させてもらっている作品だと思います。今までに4回ぐらいかな、僕は遊女梅川役で相手役の忠兵衛は全部違う方でした、(忠兵衛は)浮気ものなので(笑)。

―――歌舞伎ではないところで上演する、近松作品の魅力とは。

愛のために命を懸ける作品が多いですよね。人間の葛藤、生々しさがあるにも関わらず最後は美しいものとして納得させてしまう。近松が描く愛の物語は、現代に通じるものがあると思います。『封印切』(※注釈1)の忠兵衛にしても人間味に溢れている。懐にある小判は蔵屋敷に届ける客からの預かり金だと分かっていても封を切ってしまうのは、恋敵にバカにされた口惜しさと、好きな女の前で恥をかきたくないという思いから。当時封印を切ることは首が飛ぶことを意味するので、歌舞伎では切ったという人もいれば、切れたと見る人もいる。古典歌舞伎の世界でも色んな解釈や型がある。

【※注釈1:『封印切』は、飛脚屋の養子忠兵衛が遊女梅川と不埒な恋の末に破滅に向かう、近松の人形浄瑠璃「冥途の飛脚」を改作した世話物。当時信用に関わる為替(客からの預かり金)は封印を切っただけで手をつけたとみなされ死罪となった】

中村七之助(撮影/石橋法子)

中村七之助(撮影/石橋法子)

今作ではそこに、海外の演出家の目が加わる。現代の日本の演出家と組んだときでさえ、「こんな解釈をするんだ」という驚きがある中で、バックボーンの違う海外の方が近松を演出したときにどんなものが生まれるのか。そこが凄く楽しみであり、僕がこの企画で一番楽しみにしているところです。

―――現代の演出家とはこれまで串田和美さん、野田秀樹さん、いのうえひでのりさん等の作品にご出演です。

初めて組んだのが串田さんでした。串田さんの演出はとりあえずやってみてというスタイルで、僕らが一生懸命作り上げてもいや違う、こういう感じじゃないの繰り返し。内心「いい加減にしてくれよ!」となったところで、ある瞬間にパッとやると串田ワールドが出来上がっている。そこで僕らが串田さんの手の平で転がされていたことに気付くというのが、毎回不思議でした(笑)。野田さんはまた違ってて、すごく緻密。こういう理由があるからこういう動きになるんだと演出されることで、そこに野田さんが描くキャラクターの強さや芸術性がバンとでる。そして、さらに凄いのがいのうえさん。そこで右足出して右向いてからセリフを言ってと、細部にまで演出がつきました。三者三様に全員違ってて、これは面白かった。今回のルヴォーさんは言語も違うので、どういうアプローチでくるのか。まずは全員が同じ方向を向いてぶれがないように努めていきたいですね。

◎「美しくこだわりの強い深津絵里さんとなら、良い舞台になる」(七之助)

―――女優との共演は今作がほぼ初めて。一足先に深津絵里さんとはポスター撮影で対面されました。

中村七之助(撮影/石橋法子)

中村七之助(撮影/石橋法子)

(ポスターを見つつ)キレイな方でしたよ。残念なことに僕はこれまで、テレビでもドラマでも男性との共演が多かったので、そんな中、ポスター撮影の現場ではカメラマンから「(深津さんと)もっと顔を近づけて」と言われて。この時の僕、すごい脇汗ですよ(笑)。深津さんはこだわりの強い方だと伺っていますので、どんどん舞台がよくなるんじゃないかな。

―――歌舞伎をベースにした現代劇で、女形はどう演じる。

僕だけが顔を白く塗ってわざと古典的にやるのが効果的なのか、衣裳やかつらがどうなるのか。全てはこれからですが、先日の新派や歌舞伎の女形として培った経験を生かして、できる範囲のことはチャレンジしていきたい。

――初めての新派出演となったのが、一昨年の新橋演舞場「十一月新派特別公演」。女形として『鶴八鶴次郎』の鶴八という大役を担われました。

あの時は初めての新派出演を前に(坂東)玉三郎のおじさまから「苦しみなさい」と言われて。あの玉三郎のおじさまが言うくらいだから、よっぽどだなと。これまで水谷八重子先生の姿などをみていて素敵だなと、やるなら顔は極力地色でいきたいなと思って、舞台稽古では2回ほど地色で試させて頂きましたが、家で録画したビデオをみたら二丁目のおかまでしたね。これはちょっとダメだなと(笑)。しょうがないから白くして。極力避けたかったんですけどね、白く塗ることで表情とか何か一つあるわけじゃないですか。そこが、リアルな感じがしないんじゃないかなと思って。

中村七之助(撮影/石橋法子)

中村七之助(撮影/石橋法子)

歌舞伎の女形は男ばかりの中で演じればこそ活きるものがあるわけで、現代の芝居の中にポンと入っても横に本物の女性がいたのでは叶わない。女性はたとえ痩せていたとしても、体つきや空気感が丸いんですよ。今回も一人だけ白く塗ることが効果的なのか否か、試すことは多いですよ。

―――未知なるチャレンジに満ちた舞台は見所や発見が多そうです。

よく歌舞伎をみるときに「勉強させていただきます」という方が多いのですが、本来歌舞伎にしても勉強はいらなくて、見たままの感じ方でいいと思う。今回に関してはなおさら歌舞伎とも違うので、何も考えず楽しんで頂きたい。

蜆川でハルと小春が出会う場面も果たして物理的に出会っているのかどうか、幻想的なシーンになると思います。川ってそういう(あの世とこの世の境界線の)象徴でもあるので、上手いなって。個人的にも2016年一発目の舞台が、歌舞伎で培ってきたものを色々と試せる作品ですごく嬉しい。僕がお客でも、ちょっと見てみたいと思いますし。出演者やスタッフが一丸となって一つのゴールに向かって突き進む、そのパワーに期待して欲しいですね。

中村七之助(撮影/石橋法子)

中村七之助(撮影/石橋法子)

会見では年相応の男らしさを漂わせつつ、舞台では妖艶な”女”として歌舞伎の伝統と技を今に伝える中村七之助。今作では、海外演出家と実力ある俳優たちとの化学変化でどんな魅力を開花させるのか、見逃せない!

 
公演情報
『ETERNAL CHIKAMATSU ―近松門左衛門「心中天網島」より―』
 
■作:谷賢一
■演出:デヴィッド・ルヴォ―
■出演:深津絵里、中村七之助、伊藤歩、中島歩、入野自由、矢崎広、澤村國久、山岡弘征、朝山知彦、宮菜穂子、森川由樹、中嶋しゅう、音尾琢真
 
<大阪公演>
■日程:2016年2月29日(月)~3月6日(日)
■会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
■料金:全席指定11,500円(税込)※未就学児入場不可
■問合せ:梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ06-6377-3888
 
<東京公演>
■日程:2016年3月10日(木)~3月27日(日)
■会場:Bunkamuraシアターコクーン
■料金:S席11,500円 A席9,000円 コクーンシート6,000円(税込)
■問合せ:梅田芸術劇場(東京)0570-077-039 ※未就学児童入場不可 ※コクーンシートはご覧になりにくいお席です。予めご了承の上ご購入ください ※車椅子でご来場予定のお客様は、当日のスムーズな案内のため、公演全日までに梅田芸術劇場までお連絡ください
 
 

 

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