Wez Atlasが語る、ポップミュージックと再対峙したEP「ABOUT TIME」ーー「 人の繋がりに興味があって音楽をやっている」

18:00
インタビュー
音楽

撮影=norico uemura

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「違う場所に住んでいても、誰もが感じる喜びや悲しみがあることにロマンを感じる」。東京を拠点とするヒップホップアーティスト・Wez Atlasは、自身がポップミュージックを目指す理由についてこう話した。普遍的な悩みを分かち合おうとするWezの態度は活動当初から一貫したものであるが、11月27日(水)にリリースしたEP「ABOUT TIME」には、Wezが自身に言い聞かせるために記した言葉だけではなく、仲間やリスナーの存在を強く意識し、「俺ら、頑張るよな」と共に前進しようとする全6曲が収められている。自らの楽しみを見つけ直し、どん底から這い上がったWez。彼が綴った直球の日本語リリックは、私たちのバイブルになっていく。

「自分に言い聞かせる言葉を書いた」
どん底から舞い戻るエネルギーに満ちたEP「ABOUT TIME」

ーー11月27日(水)にEP「ABOUT TIME」がリリースされました。ラップスターへの憧れや愛を歌う「One Life」や、現在地を肯定し<また明日から次のステージ>と綴る「Focus」など、外へ開けたネクストステージ感のある1枚だと感じています。改めて本作を振り返って、Wezさんはどのような1枚になったと感じていますか。

おっしゃっていただいた通り、現状を肯定しつつ、さらにガツガツ前に進んで行きたい気持ちがあって。その思いが滲み出ている作品になりましたし、飾らない直球のメッセージで自分を奮い立たせようと思いながら制作に取り組みましたね。

ーー前への推進力やパワーを欲していたのは、なぜなのでしょう。

もともと俺は挑戦や新しいことが好きなタイプだったんですよ。それこそ、大分で生まれて、アメリカに引っ越し、東京に帰ってくるみたいな大移動をしていても、新しい環境に入っていけたし。でも、段々と挑戦を恐れたり、人の目を気にするようになって、本来の力を発揮できていないなと。そのパワーを取り戻すために、自分にとっての参考書が必要だった。だから、自分に言い聞かせる言葉を書いたんです。

ーー消極的になっていったことで、壁に突き当たってしまったのはいつ頃?

2024年の2月頃は、音楽も作れないような時期だったかな。この時期は、​自分の好きだった遊びや興味があるものにも手を出せていなかったから、心が引っ張られてワクワクすることも少なくて。でも、そこでどん底まで行ったから、もう上がるしかないと思えた。

ーーどん底のテンションの時に、上を向くことは難しいじゃないですか。それでも、Wezさんがやるしかないと思えた理由は何だったのでしょう。

明確なキッカケは思い出せないけれど、極端な話、死にそうになった時、何としてでも生きようとする力ってある気がするんですよ。どんな状況であっても心臓は動き続けるし、力はどこかから湧いてくる。マインド的に落ち切ってしまったからこそ、自然とエネルギーが湧いてきたのかもしれないなと。

ーー底へ向かうベクトルに対する反作用というか?

そうですね。あとは、アートや料理、日光浴、散歩をはじめ、音楽以外の楽しみを見つけられたことも大きかったです。古着屋を巡ったり、ボーリングに行ったりする中で、遊びとしてビートを作ってみようと思えて。そうやって次第に音楽に近づいてきた結果、最後に歌詞を書くことができました。

ーーいきなり音楽活動に戻ろうとするのではなく、生活や他のカルチャーを楽しんでいる中で自然と音楽が入ってきたと。先ほど、自分に言い聞かせるために曲を書いたとお話いただきましたが、<俺も頑張るから やってみよう、まだまだ!>と伝える「Feel It Now」や仲間との日々を歌う「Focus」をはじめ、今作は主語が私(I)ではなく私たち(We)になっていると感じています。歌詞を書く上で、仲間のことも念頭にあったのでしょうか。

同じ気持ちを抱える人に共感してもらったり、仲間を見つけてもらうために、俺は悩みを曲にしているんですよね。今作はそれを改めて分かりやすく言い出したんです。あとは、「俺、頑張る」よりも「俺ら、頑張るよな」の方が心強いじゃないですか。誰かは分からなくても一緒に頑張っている人がいたら良いなと思ったので、広い目線になっているんだと思います。

ーー過去のインタビューでは「日記のように曲を書いているところもある」といった旨をお話されていましたが、今作で広い視点を持てるようになったキッカケは?

ポップミュージックとは何なのかを考える中で、沢山の人に届くことが大前提だと改めて気づいたんです。だから、目の前にいる日本のリスナーを意識して、日本語も増やしたし。あとは、大学時代の仲間が社会人になり、その頑張っている様子を見たこともキッカケでした。大変そうな皆に良いメッセージを送りたいなと考えたんですよ。

ーー改めてポップミュージックを志向した結果、個人的な表現に留まるのではなく、他者の存在をより意識した楽曲になった。

自分が作った曲はできるだけ多くの人に聴いてほしいし、俺は人の繋がりに興味があって音楽をやっているんです。違う場所に住んでいても、誰もが感じる喜びや悲しみがあることにロマンを感じる。だから、人と何かを共有したい、繋がりたいと強く思っているんですよね。あと、自分はレコード屋でディグっていたタイプではなく、ラジオから毎日流れてくる音楽を聴いていたタイプで。アメリカに住んでいた時は、その音楽が誰もが知っているHIP HOPだった。だから、俺のルーツにあるJ.コールも実はかなりポップなことをやっているし、自分が進みたい方向はポップスターなのかなと。

ーー前作「This Too Shall Pass」は「なるようにしかならない現実をどうにか楽しんでいこう」というメッセージが表れた作品だったと思うんですね。一方で今作は<やらなくてがっかりより やって失敗しちゃえ>と背中を押す「One Life」をはじめ、自分から1歩踏み出すことで決まったルートも楽しく変えてしまおうといった積極性を感じるのですが、いかがでしょう。

確かに「This Too Shall Pass」はゲームで言うところのNPC()みたいに、「何をしても結果は決まっているから、それを楽しもうぜ」って感覚で。今作はそれに比べると、主人公のように「自分で自分の未来は変えられるよ」みたいなイメージがありますね。「This Too Shall Pass」の時は、将来や家族、お金に対する悩みが大きくて、音楽でそれを発散することが救いだったんですよ。でも、段々と音楽自体を楽しめなくなり、音楽が救いではなくなった時に完全に押しつぶされた。それが2月のタイミングだったんです。でも、その先で楽しさも明日への気力も見つけ出すことができて。そうやって、どん底から自力で抜け出せたから、「俺ってNPCじゃないんだな」というか、ちゃんとパワーがあることに気づけた。それで変化した人生観が、作品にも反映されているんだと思います。

※Non Player Character:人が操作しないプログラムで制御されたキャラクター

「最近は“俺、日本人だな”って感覚になってきてる」
強まる日本への関心とリスナーへの愛を昇華した日本語詞

ーー日本語の歌詞が増えたことについても聞かせてください。今作では日本語のパンチラインがふんだんに盛り込まれていますが、これまで同様に英語を主軸にするのではなく、日本語も組み込んだ歌詞を書くことにしたキッカケは何だったのでしょうか。

2023年、2024年とアメリカの『サウス・バイ・サウスウェスト(SXSW)』に出演して、「アメリカって遠いな」と感じたんです。もちろん、物理的な距離もだけど、夢を叶えるためには目の前のステージを1歩1歩クリアしていかなきゃなって。そう思って振り返った時に、これまでの日本のライブもどこか伝わりきっていない感覚があった。MCで演奏した曲のメッセージを伝え直すこともありましたし、このタイミングで挑戦してみたいと思ったんですよね。あとは、日本のHIP HOPをリスナーとして楽しみ始めたことも理由の一つでした。

ーー難しい質問になりますが、使う言語は帰属意識やアイデンティティに直結すると思うんですよ。日本語を使えば日本モードに、英語を使えばグローバルな視点になることも考えられて。さらにWezさんは日本にもアメリカにも住んでいた時期があって、日本とアメリカ双方にルーツがある。そういったバックグラウンドの上で、今作で日本語の歌詞を書かれたことや日本のリスナーをより念頭に置いた理由には、Wezさんの中で「日本がホームだ」といった感覚もあったのかなと。

確かに、最近は「俺、日本人だな」って感覚になってきてる。もちろん、どっちのルーツもあるんですけど、「今この瞬間は、どちらかというと日本人だな」って時間が多い。チームと話す言葉やライブのMC、SNSの発信も日本語だし、日本語で話すことと日本人だという意識は繋がっていると思いますね。とはいえ、英語を喋っているから、アメリカ人だとは思わなくて。英語は世界共通の言葉だから、ニュートラルな状態になるかも。

ーー「日本人だ」と思う場面が増えてきたことと、日本詞が増えてきたことはリンクしていますか?

間違いなく連動していますね。もちろん、さっき話したみたいに日本のリスナーに聴いてほしかったのも理由だけど、俺自身がさらに日本に興味を持ち始めたり、日本人のことを深く知りたかったことも要因としてあると思います。

ーー日本語ラップを聴き始めたのも、日本へのさらなる関心と繋がっている?

前までは心のどこかでアメリカのHIP HOPが日本のHIP HOPよりも優位だと感じていたんですよ。でも、そもそも言語も構成も全く違うし、アメリカの文化を日本に持ち込んで種を蒔いた人がいたから日本のHIP HOPがあるんだと思ったら、凄く面白いなと。比べるんじゃなくて、それぞれを違う視点で見始めたことで、日本語ラップを試さないのは良くないと思ったんです。それで実際にやってみて、いずれはスーパー二刀流でどっちも最強になりたいなって。

「気合いを皆に届けたい」初ワンマン&Skaaiとの共演を控えた
『Wez Atlas LIVE 2025』

ーー1月24日(金)東京・渋谷WWW『Wez Atlas LIVE 2025』は、Wezさんにとって初めてのワンマンライブとなります。初ワンマンのメモリアルな公演になると思いますが、どういったライブにしたいですか?

ここでお話した気合いを皆に届けたいと思っています。バンドセットも仕上がってきていますし、新曲はほとんどやっていないので、ライブではどうなるのか自分でも楽しみですね。

ーー1月31日(金)大阪・CONPASSでの公演は、Skaaiさんを招いてのツーマンライブです。ワンマンとは違った雰囲気になると思いますが、こちらはどのようなライブになりそうでしょうか。

Skaaiとは遊んだり、セッションもするんですけど、一緒にステージに立ったことはないから、純粋にドキドキしています。彼のライブは迫力もあるので、良いコンビになるなと。東京、大阪どちらのライブも、とにかく楽しませますし、2025年の良いスタートを切りたいです。

取材・文=横堀つばさ 撮影=norico uemura

リリース情報

『Wez Atlas LIVE 2025』
・2025年1月24日(金)
 場所:SHIBUYA WWW
 OPEN 18:00 START 19:00
 with w.a.u Featuring Guests:Sagiri Sól、Skaai
 
・2025年1月31日(金)
 場所:心斎橋 LIVE SPACE CONPASS
 OPEN 18:30 START 19:00
 with w.a.u Guest:Skaai

リリース情報

EP「ABOUT TIME」
2024年11月27日(水)リリース
1. Intro
2. One Life
3. Glow
4. Feel It Now
5. 40℃ (colder)
6. Focus
 

Wez Atlas feat.Skaai「My Village」
2025年1月15日(水)配信リリース
Linkfire: https://lnk.to/gRiTxU

公式サイト:https://wezatlas.jp/
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