亜沙、駆け抜けた2024年ラストライブでみせたのはソロアーティストとしてのセンスとさらなる飛躍への期待
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亜沙バースデーライブ2024 章末-intermission- 2024.12.22(sun) Spotify O-Crest
2024年12月10日、東京ガーデンシアター公演のツアーファイナルで活動休止前のラストライブを行った和楽器バンド(彼らは12月31日を持って活休となる)。和楽器をフィーチャーしつつ、高い音楽性を誇っていたアーティスト集団だっただけに活動休止は惜しまれるところである。ただ、メンバーはそれぞれ強力な個性の持ち主ゆえ、かねてから個々の活動でも注目を集めてきた。
中でもベースの亜沙は、2012年にネットで自作曲「吉原ラメント」を発表して話題に。ジェンダーを超えたビジュアルも多くのファンを引きつけている。ソロ音源も精力的に世に送り出しており、2024年7月には重音テトSynthesizer V版で約10年前に発売した『吉原ラメント~UTAU盤』をリメイクした『詠み人来たりキメラは謡う ~再来盤集~』をリリースし、和楽器バンドの活動も含め、密度の濃い2024年を走り続けてきた。だが、もちろん彼がこのまま1年を締めくくるわけではない! 12月18日が誕生日の彼は、毎年12月にバースデーライブを行っているのだが、今年は12月22日に『亜沙バースデーライブ2024 章末-intermission-』をSpotify O-Crestで開催。会場をみっしり埋めたファンと共に自身の生誕をハッピーに祝った。
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開演時間になると、亜沙のイメージカラーである赤いペンライトが一気に点灯。手拍子に迎えられて、まずバンドメンバーがステージへ。最後に亜沙が赤いチャイナドレス風衣装を纏って登場! 初新衣装のお披露目ということで場内からは歓喜の声が飛ぶ。声援を受けて亜沙は「盛り上がっていこう!」と煽り、1曲目の「ヴィジュアル系レッドラム」へ。彼はベースを弾きながら歌うベースボーカルのスタイルで、アッパーな曲を歌いこなしていく。2曲目には2017年にリリースしたアルバム『麗人オートマタ』のアルバムタイトル曲「麗人オートマタ」をプレイ。場内からは拳も上がり、ライブハウスならではの熱量が急激に上がっていく。3曲には2023年リリースの配信限定シングル「変身シンドローム」が飛び出す。どの曲にも言えることだが、彼の曲はどれも秀逸なメロディーを持つ。前半3曲で場内はすっかり温まっていた。
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最初のMCでは亜沙バンドとしてのライブが1年半ぶりということに触れ、「2024年、ライブ納め! この会場をひとつにしたいと思います!」と勢いをつけて「遊郭跡地」へ。怪しげなタイトルとは裏腹に、バリバリのポップチューンで、多くの観客が一緒に歌う場面も。和テイストの音色を取り入れた「紡縁」では、はんなりとしたサウンドでメリハリをつける。「桜の歌が流れる前に」は文字通り桜をモチーフにした楽曲。キャッチーなサウンドながら、別々な道を行く“春の別れ”“旅立ち”が表現された名曲だ。情緒あふれる楽曲に場内は酔いしれる。切なくさせたところで一転、激しめのギターイントロから「背徳シュガー」へ。オトナの秘めたる背徳の恋愛模様を描いた楽曲が見事。亜沙らしい女性目線の歌詞には共感を覚える女性ファンも多いはず。前半ブロックのシメはベースラインがビシビシ炸裂するシニカルな「幻想老街」。惜しげもなく続く名曲達は圧巻だ。曲が終わると、場内からは、力強い男性ファンの歓声に加え、女性ファンからも憧れにも似た溜息交じりの声が飛ぶ。そう、彼のファンは年齢や性別を超越し、幅広いのが特徴だ。もちろん、かけられた声援には亜沙自身も「アツいですね!」言葉を返したりと、何ともアットホームなムードが漂う。少々呼吸を整えたところで、亜沙は「ここは「携帯電話を出して……ライトをつけるやつですよ!」と、続く曲が「道玄坂ネオンアパート」であることを示唆。観客はみんなスマホのライトをオンにして、頭上で揺らす。小悪魔っぽい女の子を描いたオトナっぽい曲は中盤の効かせどころ。また、この日の会場であるSpotify O-Crestはまさに道玄坂からちょっと入ったところにあるライブハウスである。場所的な臨場感に加え、曲中にはベースソロもあり、観客はそのプレイに酔いしれた。このあと披露された「木漏れ日メロウ」ではアコースティックギターをフィーチャー。ちょっとスパニッシュテイストもあり、亜沙ならではの幅広い音楽性を見せつけていく。
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ここでバンドメンバーによりセッションが始まり、亜沙はしばしステージを離れ本編の大詰めに備える。そしてふたたびステージに戻って響いたのは打ち込みナンバーの「Moonwalker-月の躍り手-」。亜沙はベースを持たず、ハンドマイクで歌唱に専念。ステージ中央のお立ち台に上がって、満員の観客を盛り上げる。「平成が終わる日」では昭和から平成を生きてきた世代にはドンズバで共感を覚えるミディアムナンバー。バラエティー豊かな選曲で、ラストブロックまではあっという間に感じられた。残り3曲を前に観客からは思わず「ボリュームがすごい!」という声が上がったほど。このあとはバンドメンバーの紹介から、和気あいあいのトークタイムへ。メンバー同士のかけあいでも漫才のような(?)楽しさで、場内の空気を和ませた。
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さぁ、ここからは残り3曲(「明和フィロソフィー」「未来性ライフ」「黄昏昭和の駅前で」)に突入。ノリのいい曲達を揃え、会場の一体感は最高潮に……。懐かしさのある「黄昏昭和の駅前で」本編を終えると、“まだまだ!”とばかりにアンコールがかかる。ほどなくステージに戻ってきた亜沙はベースなしでセンターに進み、打ち込みチューンの「to be continued」を歌唱。彼の想いが綴られた楽曲に、観客はじっと聴き入った。ちょっとシリアスな空気が流れたところでMCタイムへ。亜沙は「2024年ラストライブ、皆さん集まってもらってありがとうございました――2025年、またすぐ会えると思います。これからも楽しい時間を作っていけたらと思ってます。2025年もよろしくお願いします! 残り2曲です」と、曲のイントロに進んだタイミングで何と、マニピュレーターの村田氏がバースデーソングを弾き始めるというサプライズ! スタッフがストロベリー味の赤いバースデーケーキを持って登場。観客からも祝福の声が飛ぶ。このおめでたい流れで、亜沙を世にしらしめるキッカケとなった「吉原ラメント」へ。華やかな楽曲でクライマックスを迎え、大ラスは力強いロックナンバー「東京デイブレーク」で“夜明け前は一番暗いから 変わらず今日も歩いていこう”とポジティブなメッセージを歌い上げた。2024年最後のライブをバースデー公演で締めくくった亜沙は「よいお年を! 今日はありがとうございました!」と笑顔で挨拶。代表曲を濃縮したセットリストには、亜沙の並々ならぬ作曲センスが光っていた。一方で、2.5次元的な美しさに相反する親しみやすいキャラも魅力のひとつ。2025年、ソロ・アーティストとしての亜沙の活動にはさらなる期待が高まりそうだ。
取材・文=海江敦士 撮影=Kugino Takahiro
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