世界が注目する若き才能、ギタリスト・山下愛陽がリサイタル開催「色彩豊かなギターの世界を楽しんで」
山下愛陽(C)HIROMI HOSHIKO
山下愛陽(やましたかなひ)は、1997年、ギタリストの山下和仁と作曲家の藤家溪子の間に、長崎で生まれた。幼少の頃より、山下和仁ファミリー・クインテットのメンバーとして音楽活動を行い、13歳でソロ・デビュー。2015年からベルリン芸術大学に留学し、現在は、ベルリンを拠点に演奏活動を行い、ニュルンベルク音楽大学に在籍して研鑽も積んでいる。そんな彼女が、今年(2025年)4月に帰国し、リサイタルをひらく。
――ギターはいつから弾いているのですか?
小さい頃からおもちゃとしてギターに触っていましたが、ちゃんと楽器を構えて弾くようになったのは4、5歳からです。父から手解きを受けました。5歳のとき、父とのカルテットのイタリアでの演奏会に少し出たのが最初でしたね。6歳からカルテットの活動が本格的になり、4~5年してさらに弟が加わり、クインテットとなりました。ギターとともに大きくなりましたが、具体的にギタリストになりたいという夢を持ったのは中学生になってからです。ソロは父をまねて練習し、母からは音楽の理論や表現を教わりました。作曲を習ったりもしましたし、即興もやりました。
――その後、ドイツに留学されました。
中学生のとき、スペインでギターを弾く歌手の方と知り合い、すごく刺激を受けて。もっといろんな音楽を知りたいと留学を決めました。高校を出て、その2年前から兄が留学していたベルリンに留学することにしました。
ベルリン芸術大学ではトマス・ミュラー=ペリング先生に師事し、より詳しい時代背景や理論分析を通して演奏解釈を追及すること、そしてドイツで主流の現代的な奏法を学びました。また、父からは主にセゴビアらの古い奏法を学んでいましたので、今では、きめ細やかで温かく丸い音の出る新しい奏法と、厚みがあり大きな舞台で音を遠くに飛ばすことのできる古い奏法の両者を目的に合わせて使い分けています。
今は、ニュルンベルク音楽大学に在籍して、リュート奏者のビョルン・コレル先生に習っています。そしてこの3~4年はリュートの楽曲をギターで弾くことや編曲にも取り組んでいます。
山下愛陽(C)HIROMI HOSHIKO
――今回のプログラムについて教えていただけますか。
古楽の影響を受けたクラシック・ギターのためのオリジナル曲にも着目し、そのつながりを調べて、歴史的に関連性のある作品を並べたプログラムにしました。
ダウランドの作品はギターで弾かれることも多いのですが、ダウランドは歌曲をたくさん書いた人です。私は声楽も勉強していたこともあって、楽器で歌うことを重視しています。ダウランドの「プレリュード」は、彼の唯一のプレリュードです。「夢想」はトレモロ奏法を採り入れた曲で、その次のレゴンディの「夢の予想曲」もやはりトレモロ奏法で長いパッセージを歌います。
ブリテンの「ノクターナル」は、ダウランドの歌曲がテーマになった変奏曲で、最後にテーマが出てきます。私が特に好きな曲の一つです。声楽をやっているときに、実際にその歌曲を歌ったりもしましたが、歌われている哀しい歌詞が変奏曲の中に散りばめられて、ギター上で再現されているのが本当に面白いと思います。
マルタンの「ギターのための4つの小品」は、ギターのオリジナル作品です。プレリュード、ジーグ、アリアなどのバロックの舞曲の構成を取り入れた、現代的な曲です。
カステルヌオーヴォ=テデスコの「世紀をわたる変奏曲」は彼の最初のギター曲で、彼がこの作品を作ったきっかけはセゴビアが編曲したバッハの「シャコンヌ」でした。シャコンヌ形式のテーマがまず、リュート奏法やルネサンスを感じられるかたちに変奏され、さらに3つのワルツが続き、最後はフォックストロットのステップでジャズ風に終わるという非常にユニークな作品です。
Kanahi Yamashita plays Chaconne from the Violin Partita Nr.2 BWV1004 (J.S.Bach)
――バッハの「シャコンヌ」は山下愛陽編曲とクレジットされていますね。
ほとんどヴァイオリンの原曲そのままで弾きますが、リュートやバロック・ギターを通して古楽を勉強して、一つのフレーズを弾くときに、どの弦で、どのポジションで弾くかでいかに違うかを発見しましたので、それを活かして、運指に凝って編曲しました。主に音は足しませんが、ポジショニングなどを考えました。
――リサイタル直前の4月24日(木)には、アサド兄弟が中心となっている『THE GUITARIST! スーパーギタリスト 夢の競演』にも出演されますね。
カステルヌオーヴォ=テデスコの「世紀をわたる変奏曲」、バッハの「シャコンヌ」、バリオスの「糸紡ぎ娘の歌」を演奏します。アサド兄弟とは、父とデュオでツアーをしていたときに、ポーランドの音楽祭で会ったことがあります。
――最後に、4月28日(月)のリサイタルに向けて、抱負をお願いいたします。
古楽と現代のギターらしい作品と組み合わせたプログラムなので、その共通点とコントラストをお伝えできたらうれしいです。クラシック・ギターのオリジナル作品とダウランドやバッハの編曲ものを通して、ギターのいろいろな音色や表情を、そして色彩豊かな世界をお楽しみいただきたいと思います。
山下愛陽(C)HIROMI HOSHIKO
取材・文=山田治生