キズ 晴天の下で“雨男”が放った魂の歌「俺は、お前らの最強であり続ける!」 日比谷野音ライブ公式レポート

レポート
音楽
2025.3.13
キズ

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3月2日に日比谷野外大音楽堂で開催されたキズの単独公演『雨男』のオフィシャルレポートが到着した。


盟友・DEZERTとの2マンライブを終えた翌3月2日、同じ日比谷野外大音楽堂でキズは単独公演『雨男』を開催した。自他ともに“雨男”と認め、1月6日に日本武道館で行われた初の単独公演では40日ぶりの雨を東京に降らせた来夢(Vo)率いる4人組バンド・キズ。この日のグッズTシャツには“雨降上等”の文字までデザインされ、どんなに雨が降ってもライブを敢行するという覚悟を示していたが、なんと、この日は見事な晴天となった。それと引き換えにと言うべきか、2デイズの2日目ということもあり、来夢の喉は本調子とは言えないものに。しかし、だからこその魂の叫びは、彼の歌が“本物”であることを明らかにし、雨粒以上に鮮やかな染みを、会場を埋め尽くしたオーディエンスの胸に刻みつけた。

まだ空の明るい開演時刻。雨音が4月9日にリリースされる最新シングル「R/E/D/」のイントロへとつながって、新衣装のメンバーが登場すると、まずは、エネメルのシスター衣装でドラム台に立ち上がったきょうのすけ(Ds)にどよめきが。さらに、いきなり火花の柱が舞台からスパークして、前日のライブを締めくくった「傷痕」で単独公演の幕は開いた。ステージには稲妻のようなライトが走り、LEDに大写しになるreiki(G)は限界まで目をかっぴらいて客席を威嚇。「日比谷! やれんのか? 全部吐き出せ! 全部ぶつけてこい! 俺が受け止めてやる!」と煽り立てる来夢のハイトーンも相変わらずの凄まじさで、まずは彼自身がすべてを吐き出すことにより、オーディエンスに手本を示していく。だが、その歌声がいつもに比べてザラついていたことに、彼らのファンなら気づいただろう。事実「俺の声が枯れるまでやろうぜ!」と叩きつけた「ヒューマンエラー」で、来夢は「見ての通り、今日、俺は重症だ! 俺は今日、ここで死ぬつもりで来た!」と宣言。圧倒的な歌唱力で場を制圧することが常になっている彼の珍しい姿に、場内の熱狂はより激化して、それはライブの最後まで静まることはなかった。

きょうのすけが乱れ打つドラムに拳が突き上がった「豚」では、reikiとユエ(B)も向き合って笑顔でプレイし、客席に突っ込んだ来夢は「おい、生きてんのか? てめーら!」と煽って、思いのままにエモーションを爆発させる。だが、LEDに映し出される歌詞は、周りに流され自分“らしさ”を失くして生きる人間を“豚”と罵る苛烈なもの。シニカルな歌詞で楽しく暴れるという、そんなギャップこそキズ“らしさ”に他ならない。それは「てめえら、そんなもんじゃねーよな!? 俺は知ってるぞ、お前らのヤバさ。遠慮するんじゃねーぞ! ブチまけて帰れ!」と来夢が焚きつけた「リトルガールは病んでいる。」も同じく。暗くなり始めた空に向かい、縦書きの歌詞が流れるようにプロジェクションマッピングされる演出も見事で、物騒な文言に拳をあげるオーディエンスは、喜怒哀楽で言うところの“喜”と“楽”にあふれていた。しかし、来夢の「叫べ!」の号令で場内に歌声があふれたエンディングでは、今度は空へと昇ったはずの歌詞が墜落するように地上へと吸い込まれていき、爆撃機をモチーフにした歌詞とのゾッとするようなシンクロを実現。緻密な演奏とドラマティックな演出で楽曲世界を体現し、それによって観る者の心と身体を高揚させるパフォーマンスの絶技は見事と言うほかない。

「よぉ、日比谷!『雨男』とはどういうことだ、晴れてますね! 明日から雨らしいです。4℃らしいです。命拾いしたね。昨日、戦った宿敵が強敵すぎて、声がこんなですが、僕の歌はカッコいいので。その耳に残して帰ってください」

ここでロッカバラード「黒い雨」を披露し、前置かれた来夢の言葉が真実であることを証明していく。アコギを抱えてアカペラで歌い始めた彼の喉はガサついて、それでも怯むことも誤魔化すこともなく体当たりで声を張り上げる様からは己と仲間と、そしてバンドで生み出した音楽を信じる強さが伝わってきた。渾身の力で歌い上げ、オーディエンスに「歌え!」と求める来夢と楽器隊をライトが明るく照らし出し、歌声が“LaLaLa…”と美しく響きわたる――これぞキズというバンドと彼らを愛する人々の絆なのだ。

続いて、蛍火のような光の粒があふれるなか、軽快かつ切なく愛の歌「十八」を届けると、長いピアのイントロが流れ、ミラーボールが光を吸収して始まったのは「鬼」。絶好とは言えないコンディションで“この命もくれてやろう”と振り絞られる来夢の歌声は、歌詞の持つ意味合いを常よりも切迫感を持って伝える結果となり、聞く者の胸をゾクリと震わせる。LEDへとシルエットを落としていたきょうのすけが着席して一気にリズムを刻み始めると、客席からはクラップが湧き、ユエは強靭なスラップを鳴らして、reikiが胸をかき乱すようなギターソロを放つ間、お立ち台に這いつくばっていた来夢は「叫べ!」と号令。それに応えて声とクラップが場内を満たし、ところどころ声が掠れながらも魂で歌い上げる来夢が贈る“君といたいから 死にたくないな”というクライマックスの一節は、場内に凄まじい感動を巻き起こしていった。さらに「救われたい奴だけ……救われたい奴だけついてこい!」と叫びをあげ、歌い終えた来夢はシャウトを轟かせて倒れ込む。その背後で、まるで十字架にかけられたキリストのように両腕を広げたきょうのすけは、全精力を使い果たして大曲に挑んだ来夢を称え、祝福しているようにさえ見えた。

そこに再び雨音が流れ、雨をモチーフにした未音源化曲「My Bitch」を披露。光の雨がステージに降り注ぐ照明演出は、リリカルなバラードとよく似合い、彼ららしい“生き逃げる”というワードでも、会場の好奇心とリリースへの待望を高めていく。そして雷鳴が轟き、来夢の「さぁ、かざせ!」の声で見渡す限りの腕があがった「ストロベリー・ブルー」では、柔らかなウィスパーボーカルと対照的な重低音プレイが絡み合い、曲中、ブレイクを挟んで「日比谷! 俺は、お前らの最強であり続ける!」と宣言する場面も。壮大なサウンドで“あの場所”へと共に往くことを約束する楽曲が、ここでファンとの“約束の曲”になる展開は胸熱だろう。真紅に染まったLEDをバックにした「地獄」でも、頭と身体を振って狂乱するオーディエンスのクラップは満場一致でピタリとそろい、クライマックスでLEDにリアルタイムの4人が映し出されれば、さらにオーディエンスの暴れっぷりは勢いを増して、大映しになったきょうのすけの顔には満面の笑みが。「全部出せ!」という来夢の命令にステージの上も下もキッチリと応え、それでも「有り余ってるんだろ、まだ、てめぇら! 日比谷! ラスト!」という来夢の叫びから、最新曲「R/E/D/」が放たれる。レーザー光線とプロジェクションマッピングによりステージに映し出された花は、悟りを象徴する蓮のようにも見え、その神秘的なグラフィックと激烈なパフォーマンスが不可思議な対比を為す一方、舞台上でスパークする火花と“この命と燃えてる”のシャウトが抜群のシンクロを果たす。そして4人が去ると、ステージには3本の赤い傷に『雨男』のライブタイトルが浮かぶという、相変わらずのハイセンスなエンディングでオーディエンスを歓喜させた。

LEDに黄色い蜂が映され、アンコールは「Bee-autiful days」でスタート。reikiとユエの弦楽器隊はドラム台に集い、和やかにも感じられるムードを醸したところで、来夢が口を開く。

「日比谷! マジで降らなかったな。今日、俺らの勝利だ! この雨男を打ち消すくらいの晴れ男と晴れ女が今日、ここに来てくれたんじゃないですかね。そいつらに感謝します、ありがとう。実は「リトルガール(は病んでいる。)」くらいから記憶がねぇ! 気が付いたら楽屋にいたんだよ。今日、何か伝えられたかなって、ちょっと心配になってる。でもMCがなくても、曲で伝えてるし、歌詞で伝えてると思ってる。MCは言い訳だとも思ってる。なくても伝わってるだろう! お前らに感謝を」

その言葉を音楽で表すべく、続く「雨男」では命の灯のような蛍火が舞うなか、来夢はお立ち台を這いずって、抽象的な言葉遣いで巧妙に隠された感謝を、壮大なオーケストラサウンドに乗せて伝えていく。Cメロではレーザー光線に胸を貫かれながら、しゃがれた声で精いっぱい歌い上げ、「お前ら、全員愛してるぞ!」と叫べば万雷の拍手が。タイトルが象徴するように、来夢自身を表したと言っても過言ではない楽曲がはらむ熱は圧倒的だ。さらにギターを抱えて「死ぬ気で来い!」とスモークの中から「平成」を投下し、拳とヘッドバンギングの海を作り上げるが、そこですべてを出し尽くして空になったオーディエンスに叩きこまれたメッセージは“ただ生きたいだけ それだけでいい”ということ。生きるのに理由はいらない。ただ、生きていたいと少しでも思えるのなら、それで十分なのだ。

そして“生”を実感するのに、ライブほどふさわしい場所はないだろう。アンコールが終わっても客席の声はやまず、再び登場した来夢は「アンコールしたってことは、俺ら今日果ててもいいんだな!? この声が潰れてもいいんだな!? 行くぞ、やってやろう!」と「ELISE」をドロップし、横モッシュするオーディエンスやメンバーをスマホで撮影し始める。最後の最後は初期からのライブ鉄板曲で問答無用に楽しんで、来夢は「ありがとうございました!」と繰り返し感謝を表明。reikiとユエも抱き合ってライブの成功を喜び、きょうのすけはステージの端から端まで移動して頭を下げて、最後に残った来夢は「愛してるぞ! またな」と再会を約束してくれた。

翌日は雨となり、一気に気温も低下。とても野外でライブを観られるような天気ではなく、おそらく『雨男』に参加した誰もが“今日でなくて良かった”と胸を撫で下ろしたことだろう。MCでの来夢の言葉を借りるなら、まさに“命拾い”したわけだが、それも考えようによっては“まだ生きろ”という天からの指令なのかもしれない。そして“生きていたい”と思える日々を、そう過ごせるキッカケを、キズというバンドはもたらしてくれるだろう。

文=清水素子 撮影=小林弘輔( @style_k_ )

セットリスト

雨男
2025.3.2 日比谷野外大音楽堂

SE
01. 傷痕
02. ヒューマンエラー
03. Mr. BiG MONTER
04. 豚
05. リトルガールは病んでいる。
06. 黒い雨
07. 十八
08. 鬼
09. My Bitch
10. ストロベリー・ブルー
11. 地獄
12. R/E/D/
<ENCORE>
SE
13. Bee-autiful days
14. 雨男
15. 平成
<WENCORE>
16. ELISE

リリース情報

LIVE DVD『キズ 単独公演「焔」2025.1.6 日本武道館』
2025年4月9日発売
https://ki-zu.com/discography/

関連リンク

◆Official Site:https://ki-zu.com/
◆Official X:https://x.com/ki_zuofficial
◆Official Youtube Channel:https://www.youtube.com/@kizuofficial
◆SUBSCRIPTION&DOWNLOAD:https://ki-zu.com/digitalmusic/
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