保屋野美和(ピアノ) 作曲家の放つ特別な“色”を共有したい
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保屋野美和
作曲家の放つ特別な“色”を共有したい
コンサート・ピアニストにはタフネスが求められる。聴き手を魅了する幅広いレパートリーや、肉体的・精神的な安定性は誰もがキープできるものではない。そのいずれをも持ち合わせているのが保屋野美和だ。彼女のデビューCDが1月21日にリリースされ、30日に記念リサイタルが行われる。保屋野はイタリアの「IBLAコンクール2014」の覇者。祝祭的でハードなスケジュールで知られる同コンクールでは、入賞者によるアメリカツアーも行われる。
「IBLAは音楽家として鍛え上げられたコンクールでありツアーでしたね。まるで音楽祭のようなコンクールで、出番も曲数も多いのです。記念の米国ツアーは2週間にわたり、ラヴェルの『ラ・ヴァルス』を毎日のように弾きました。デビューCDは、IBLAで弾いた曲を中心に、バッハからスクリャービンまで様々な作曲家の放つ特別な“色”を共有させていただきたいと思い、『ファルベン』(ドイツ語で“色”の意)と題しました」
得意とするスクリャービンからは、「2つのマズルカ op.40」と「2つの小品 op.57」を収録した。
「スクリャービンは、恩師の黒田亜樹さんと共に展開しているプロジェクトでも追求していて、最近とくに私が焦点を当てている作曲家です。op.40は彼の最後のマズルカです。ショパンからの影響や舞曲の枠組みから離れ、自分らしい世界に足を踏み出しています。『小品』の第1番は、スクリャービンが主和音で曲を終わらせていない最初の作品。神秘和音に辿り着く一歩手前の、彼の挑戦がうかがえる特別な曲ですね。リサイタルではソナタ第3番という、より規模の大きな作品も取り上げます」
ショパンの作品からは、バラード第4番をプログラムした。
「ショパンの中でも金字塔的な作品なので、デビューCDで取り上げるのには多少ためらいもありました。でも、私の精神的な成長を映し出してくれる作品ですし、弾くたびにリニューアルさせてくれる特別な曲なので、CDでもライヴでもお届けできるのを嬉しく思っています」
現在はハノーファーに拠点を置き、音楽大学で指導もしている。
「ドイツでは外国人というマイノリティであることを自覚する経験も多いですが、音楽家として仕事をするときは瞬時にその垣根が消え、“地球人”であると実感します」
この1年で欧米でのステージ数を飛躍的に伸ばし、グローバルな活動に期待が掛かる保屋野だが、日本で始まる意欲的な取り組みも楽しみだ。
取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年1月号から)