「みんな違って、みんな良い夜」ヘルシンキ、DYGL、ゲシュタルト乙女、Qoodow、CheCheが味園で鳴らし沸かした『Next To 湯(You)#4』

レポート
音楽
2025.5.17

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『Next To 湯(You)#4』2025年4月6日(日)大阪・味園ユニバース

2025年4月6日(日)に大阪・味園ユニバースにて、関西の名物イベンターである清水音泉によるイベント『Next To 湯(You)#4』が開催された。出演者はQoodow、ゲシュタルト乙女、CheChe、DYGL、Helsinki Lambda Clubの5組。

昨年3月には崎山蒼志、Helsinki Lambda Club、リーガルリリーが出演。昨年8月にはZAZEN BOYSとドレスコーズが出演して、今年2月にはTESTSET(砂原良徳×LEO今井×白根賢一×永井聖一)、LAUSBUB、そして、高野寛 MVF UNIT with 白根賢一が高野の体調不良で見合わせて、崎山蒼志が急遽出演した。味園ユニバースでの名物イベントにすでになっている。

CheChe

大阪は南堀江のレコードショップ・FLAKE RECORDSの店主DJ DAWAが開場からレコードを回して、時刻になり壱番風呂・CheChe。演奏陣4人が勢いよく登場して、少し遅れて満を持してボーカルのHaruhiが現れるが、とにかく1曲目「Wait a minute」から演奏がリズミカルでタイトである。Haruhiの囁く様な歌い方やファルセットも気持ちの良い。

リズム隊の重厚さを感じるが、そのまま重たいビートで2曲目「I Love Koenji」へ。90年代以降のブリットポップなサウンドを全体的に感じるバンドだが、そこに高円寺という日本地名が乗っかるのも不思議なマッチングで秀逸さを感じる。Haruhiが左手でマイクを持ち、軽く上に傾けるスタイルも心くすぐられる。ふてぶてしさ可愛らしさ重厚さ軽快さ全て持ち合わす。

3曲目「幽霊船」ではUKロック直系のサウンドが舞台後方の色鮮やかなライトと合わさり、より映える。この日のライブ時点では未発表だった新曲「ARCH」も披露された。終盤の「Magical Boy」「Prayer」とダンスやディスコのビートも感じさせ、「Medium Star」では抜けが良く拓けまくっている。Haruhiも跳ねながら歌うが、ブリットポップを軸に、日本人が歌うポピュラリティー溢れるロックを見事に体現していた。ラストナンバー「Let Me See」も伸び伸びと歌いきり、良きイベントになる事を決定的にしてくれた。

Qoodow

弐番風呂は地元関西を中心に活動するQoodow。1曲目「水槽」からドラム一発目のカキーンと音の鳴りが良いのに、何とも言えない重さ深さも脳と心に突き刺さってくる。聴く者は音の一発一発に確実に捉えられる、そんな感じ……。「出会いましょう」という福田稜大(Vo.Gt)の言葉も脳に心にこびりつくし、じっくりゆっくり鳴らされる音ながら、爆発していく感もあり、初っ端から目が離せなくなる。2曲目、3曲目とも振り落とされないように、音へと耳を澄ましていく。

変拍子を感じたりと、ひとつひとつの音に興味が向くし、何よりも福田の歌声にも物憂げさや彩りや様々な情感がある。インプロビゼーションの如くな演奏にも魅せられて、ずっと音は続いていく。ここで手に持っていたセットリストを追うのを止めた。今どの曲を演奏して歌っているというよりは、ひとつの音楽を、ひとつの歌を、ひとつの物語を浴びているように思えてきたのだ。音も声も脳と心の中に自然と入ってきて、自然と溶けていく。


轟音ではありながら、時折はっきりと聴き取れる日本語も効果的で、現在どの曲とか関係なく情景が観えてきて情緒を感じる。たゆたうとは、こういうことなのだろうか。平熱のまま熱を帯びている……、緊張感ある浮遊感。最後、メンバー3人がドラムに向かって弾いている時、そんなことをふと想った。

ゲシュタルト乙女

くるり「ワールズエンド・スーパーノヴァ」をDJ DAWAが流す。日本の音楽をこよなく愛する台湾出身のバンドである参番風呂のゲシュタルト乙女を迎えるには、最高の音楽おもてなし。ボーカル・ギターのMikan HayashiとベースのCrocus Huang(アース)は着物を着ている。観客からの歓声も起きて、早くも待ち望まれて受け入れられていることが伝わってきた。1曲目「生まれ変わったら」から日本語の歌を本当に本気で大切に大事にしていることがびしばしと理解できる。

台湾出身のMikanだが、全編日本語で歌う。「大阪ただいま! 最初で最後の初めての味園ユニバース」と流暢にMCでも話される。そこから「日曜日」の「週末の」という歌詞が歌い出されるが、驚くくらいに日本語の発音が良すぎた。当たり前だが単なる発音というだけの意味合いでは無くて、メロディーへの乗り方が抜群に良すぎる。この歌い出しには、とんでもなく聴き入ってしまう。

MCでは相変わらず観客たちに丁寧に話しかけていく。「初めましての人いる?」という問いかけからの「Nice to 密 you」の繋ぎも微笑ましかったし、旗を振って歌う姿もキュート。そして、曲終わり、手紙を書いてきたと話し、味園ユニバースへの想いや清水音泉への感謝を述べる。次の味園ユニバースへの想いを込めた「再見」も含め、この流れには日本人として感情が動かざるおえなかった……。しっかりと幸せな気持ちを届けてくれたライブ。

DYGL

四番風呂はDYGL。凄い歓声が起きる。今年2月にリリースされた1曲目「Just Another Day」から心と体が踊りまくる。格好良い……、文章を書く人間でありながら、情けないが、この言葉しか出てこない。初めてDYGLのロックンロールを聴いてから、早10年は経つが、初期衝動が宿りまくっている。観客フロアにはビール片手に踊りまくっている人々が一瞬で多発していた。音が唸りまくっている。秋山信樹(Vo.Gt)が「お願いします!」と音同様に躍動感ある声で放つ。続いても変わらず想うのは、ただただ格好良いということ。凄みがあるし最早貫禄すらある。凄い勢いで大爆発していく。音が、歌が飛び跳ねまくっている。もしもグルーヴィーという言葉を使いたいのであれば、今この時しか無いというほどにグルーヴィー。

『Next To 湯(You)』というイベント名も出して、感謝を伝える。キャリアある格好良いロックンロールバンドの素直・誠実な姿勢にも感激すらしてしまう。2018年のナンバー「Bad Kicks」も年月を感じさせない全く色褪せないポップキャッチ―さであり、軽やかにエモーショナルに、やはり大爆発していく。全てに弾け飛ばされてしまい、思わずノートとペンを近くの丸机に置いて、音に身を委ねて、ひたすら踊る。考えるのでは無く感じたい。あくまで職務放棄では無い事を慌てて記しておくが、それくらいの圧倒的威力。

大阪を拠点に活動するneco眠るの森雄大からギターを借りたというギター忘れた話も挟みつつ、その上、森が営む飲食店へサポートという言葉で観客を促すのも粋であった。夏にはニューアルバムリリースの予定がある話から、何とその次のアルバムからと「Hyperfixation」へ。壮大で凄みがあり過ぎてハードな速いナンバーだが、うなりだけでなく、うねりもあるのだが、冷静になって考えると次の次のアルバムからって……。何はともあれ轟きまくっているし、地力の凄まじさに驚愕するのみ。4月23日(水)にリリースとなった「Big Dream」も一早く聴けたが、ギターのカッティングからして畳みかけられるし、普段はnever young beachで叩く鈴木健人のドラム爆裂さ、秋山だけでない下中洋介、嘉本康平によるトリプルギターと、まるで海外バンドを聴いているような音圧。完璧に場を掌握している。

徐々にスピードがアップしたり、駆け抜けていったり、自由に解放されて、ぐうの音も出ない。気が付くとベースの加地洋太朗はサックスを吹き鳴らしているし、もう音にやられまくるのみ。ちなみに11曲鳴らして、この日時点でリリースされている楽曲は2曲のみ。ほとんどが夏のニューアルバムからの楽曲であり、次の次のアルバムの楽曲もありと驚嘆しかない時間。

Helsinki Lambda Club

大トリ伍番風呂はHelsinki Lambda Club。DYGLが草木一本も残らないくらいに強烈激烈なライブをした後に、どうヘルシンキが音を鳴らしていくかにしか興味が無く、或る意味とてもワクワクドキドキしていた。「My Alien」で緩やかなリズムビートで自分たちのペースを完全に築き上げながら、聴く者を自然に巻き込んでいく浮遊感ある世界を作り上げていく。DYGLとは全く異なる音世界を瞬時に鳴らして、観客たちを魅了していく様は流石である。橋本薫(Vo.Gt)の「たくさん踊って帰って下さい!」という言葉に落ち着き払った決意を感じた。

2曲目「キリコ」はリズムビートもアップしていき、稲葉航大(Ba)のベースも心地良い。「Happy Blue Monday」では、一定の鉄壁なリズムとビートで、観客フロアをダンスフロアに変身させていた。徹底的に踊らせようとする強い意志が届きまくる。<I go I go><I know I know>という言葉が飛び込んでくるのも快い。「Good News Is Bad News」では更にグイッとギアを入れた感覚を覚えたし、実際にギターカッティングも特徴的なフレーズで、DYGLに続いて踊るのみの空間。それも色々な踊り方がある事を改めて再認識できる。橋本がギター持たず歌うことで、歌の力強さを特に感じられた。

橋本は「素敵な夜です」と話し出して、今年度初大阪であることも話す。そして、DYGLの次の次のアルバムからの曲で指輪がブチンと切れたことも明かした。それくらいの大衝撃ということだが、橋本は冷静に「みんな違って、みんな良かった」と表現した。そうそう、これが音楽の良いところなんだよなと心から思う。「満足っちゃ満足ですけど、もうちょっと良い夜にできるように頑張ります」という言葉からも、静かながらも熱情が感じた。バトンを繋いでいきながらも、前者より良いものを表現したいという気概が嬉しい。「みんなで、この夜に集中して」と言うように、演者だけでなく観客も踏まえて、その場にいる全員で良い夜を創り上げていくのだろう。

メロディアスな「たまに君のことを思い出してしまうよな」から、<チューチューリーダッタ>と一緒に口ずさんでしまう「収穫(りゃくだつ)のシーズン」へ。フィッシュマンズを想起させる多幸感溢れる浮遊感に包まれていくし、それは盤石の体制でもあった。どこまでも攻めていく。ラストナンバー「See The Light」でも地に足をつけた音が鳴らされていき、ねっとりと愉悦に浸れた。アンコールで再び現れた橋本は、「味園に乾杯!」とビールを高く掲げる。

「一緒に歳を重ねていくと良いバンドだと思うんです。僕も良い歳の重ね方をしていくんで」

この日の橋本の言葉には穏やかで柔らかいものの確固たる自信すら感じられた。そして、アンコール「ロックンロール・プランクスター」へ。今まで溜め込んでいたものを一気に大放出する様な爽快さ。立派に大トリを務めあげた。

終演後もDJ DAWAがレコードを回し続ける。その傍でイベント担当女史がイベント名のモトネタにもなったThe Police「Next To You」が収録されたレコードをやりきった顔で抱きしめていた。音楽を愛しまくっている人が企画して、音楽を愛しまくっているバンドがライブをして、音楽を愛しまくっている人だけが集った祭だったのだなと噛み締める。

「Next To 湯(You)」は立て続けに、「#5」を4月29日(火祝)にa flood of circle、オレンジスパイニクラブ、PK shampooを迎えて、今までと同じく味園ユニバースで開催された。まだまだ「Next To 湯(You)」は進化していく。

取材・文=鈴木淳史 写真=清水音泉 提供(撮影:渡邉一生)

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