中川晃教×小林 唯「それぞれのフランキー・ヴァリの世界を構築したい」〜ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』対談インタビュー
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(左から)小林 唯、中川晃教
2025年夏、ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』が日比谷シアタークリエに帰ってくる。
1960年代のアメリカを代表するポップ・グループ「ザ・フォー・シーズンズ」。その栄光と挫折を、「Can’t Take My Eyes Off Of You(君の瞳に恋してる)」をはじめとするヒットナンバーと共に描いたミュージカルが『ジャージー・ボーイズ』だ。ザ・フォー・シーズンズのリードボーカルを務めるフランキー・ヴァリの声は“天使の歌声”と称され、ミュージカルにおいても限られた人しか演じることができない難役とされている。
2025年5月某日、本作のPV撮影が行われているスタジオにて、中川晃教と小林 唯に話を聞くことができた。日本初演からフランキー・ヴァリを演じ続けてきた中川と、今回から新たなフランキー・ヴァリとして加わる小林。作品を引き継ぐ者と受け継ぐ者、双方の想いが交わるインタビューとなった。
「このチャンスを逃すわけにはいかないという執念がありました」(小林)
ーー2025年の『ジャージー・ボーイズ』がいよいよ始動してきました。日本初演から出演し続けている中川さんの心境から聞かせてください。
中川:日本初演は2016年なので、あれからもう10年近く経っています。でも僕自身は、ついこの間フランキー・ヴァリという役に挑戦したような感覚なんです。初演はシアタークリエで1ヶ月上演させていただいたのがスタート。再演からは全国を回らせていただき、コンサートバージョンの上演もありました。お客様に歌や芝居を届けられなくなったコロナ禍の期間もありましたが、それがいい意味で10年の月日を忘れさせてくれているような気がするんです。こうして様々な劇場や形式で作品を届けてきたからこそ、作品に対する新鮮な気持ちを保てているのだと思います。まるでオリーブオイルにしっかりと寝かせておいしさを閉じ込めた鶏肉のコンフィのように、フランキー・ヴァリの存在が僕の中にしっかりと息づいている感覚があるんです。この例えが合っているかはわかりませんが……(笑)。
中川晃教
ーー新鮮な気持ちながらも熟成されているということですね。一方の小林さんは今回が初出演となります。フランキー・ヴァリ役に決まったときの心境や意気込みを聞かせてください。
小林:とにかく信じられませんでした。フランキー・ヴァリは神格化された、もはや伝説のような役なので、想像もしていなかったんです。『ジャージー・ボーイズ』という作品自体は、いつかご縁があればいいなと思っていました。自分としては、ボブ・ゴーディオ役で参加できたらいいなと最初は考えていたんです。ですが予想外にも「フランキー・ヴァリで歌ってみてほしい」とお声がけいただき、フランキー・ヴァリ役で審査を受けることになりました。
それまであんな高音は出したこともなかったのですが、いざ歌ってみると楽しくて。自分の新しい道が開けたような感覚があり、「もしかして少し可能性があるのかな?」と思えたんです。フランキー・ヴァリの役はボブ・ゴーディオさんの承認をいただかないと演じられない役なので、そこからさらに練習を重ねていきました。承認が下りたと聞いたときはひっくり返りましたね! 劇団四季を退団して2年も経たないタイミングで大抜擢していただいたので、本当に身が引き締まる思いです。
ーーどんなプロセスを経て、フランキー・ヴァリ役を射止めたのでしょうか?
小林:審査のために英語で「Can’t Take My Eyes Off Of You」「Sherry」「I’m in the Mood for Love」の3曲を歌いました。ボブ・ゴーディオさんに歌を聞いていただく段階に進めない可能性もありましたから、とにかく練習したんです。カラオケに5時間こもって声が枯れるまで歌ったり、ボイトレに通ったり、歌わない日はありませんでしたね。そうしてようやく本国に歌唱音源を送るためのレコーディングをすることになり、承認をいただけたんです。何が何でもこのチャンスを逃すわけにはいかないという執念がありましたね。
お互いの歌声は「ミステリアス」「キング・オブ・ポップ」
ーーお二人は歌番組「ミュージックフェア」や先程まで行われていたPV撮影などで、お互いの歌を間近で聴く機会があったと思います。お互いの歌声の印象や魅力はどう感じていますか?
中川:一緒に歌わせていただいた他にも、『レ・ミゼラブル』のアンジョルラス役や、YouTubeでいろいろな歌にチャレンジされている姿を拝見しました。その中で、僕にとって戦友でもある井上芳雄さんに共通する声質を持っているように感じたんです。もちろん全く別物ですしそれぞれに魅力があるのですが、声質として響くものがありました。さらに、僕がまだ知り得ない小林唯さんの人となり、例えば聴いてきた音楽や、これからどうなりたいのか、何を思って生きているのか……そういった個性を受けて広がる幅を歌声から感じるんです。なので、フランキー・ヴァリ役のみならず、他の役に対しても「この歌声でどうやってアプローチするのか聴いてみたい!」と思わせてくれる、ミステリアスな部分を持ち合わせている歌声だと思いました。
小林:ありがとうございます!
中川:お互いの歌声の魅力を言い合うなんて、恥ずかしいね(笑)。
小林:確かに自分が言われるのは恥ずかしいですね(笑)。僕は、アッキー(中川)さんは日本のキング・オブ・ポップだと思っているんですよ。
小林 唯
中川:やめてください(笑)。
小林:いや本当に! 地声からファルセットまでがシームレスで、どんな音も同じ音圧で出せてしまうんです。「え、その高音を何の力みもなしに出せるの?」と驚かされます。今日のPV撮影でも、長年フランキー・ヴァリを日本でひとりで演じていらっしゃった事実を間近で感じました。それに、アッキーさんが歌うときの体の動きや表情を見ていると、心から楽しんでいらっしゃることが伝わってくるんです。それがやっぱり素晴らしいなあと思います。
中川:実はさっきのPV撮影のとき、動画で歌っている自分の顔を見て吹き出しそうになったんです。“楽しい”が出過ぎるとちょっと鬱陶しいよなあと反省していた矢先に今のお話なので、なんだか傷口に塩を塗られたような……(笑)。
小林:いやいや、心理学的にもミラーリング効果と呼ばれていて、本人が楽しく歌っていると聴いているお客様も楽しい気分になるそうですよ。スターとは“自分自身が楽しんでいる人”だと思うので、アッキーさんはそれを体現していらっしゃる方だと思います。一緒に稽古していきながら、僕もそのDNAを受け継いでいきたいです。
中川:ありがとうございます。褒めてくださっているのはとても嬉しいです!
YELLOWとBLACK それぞれのチームの魅力
ーー2025年公演はBLACK・YELLOW・GREEN・New Generationと、4チーム制で上演されます。小林さんが参加されるYELLOW(小林唯・spi・有澤樟太郎・飯田洋輔)は今回初めて作られたチームですが、現時点での印象や想いを聞かせてください。
小林:4人全員で会ったのはビジュアル撮影のときだけで、有澤(樟太郎)くんとspiさんとはこれから関係性を深めていきたいなというところです。有澤くんは本当に爽やか! 一度しか会っていないのにその人柄がすごく伝わってくる方ですね。spiさんはミュージカル『手紙』を拝見して、歌もお芝居もとても素敵な方。(飯田)洋輔さんは僕と同じく劇団四季出身で、何かとご縁があるんです。10年くらい前に僕が札幌で『キャッツ』デビューした頃から共演していて、二人で飲みに行くような関係でした。劇団を退団したのも同じタイミングで、その後『レ・ミゼラブル』で共演してからまたご一緒できるので、とても感慨深いですね。今の段階ではお互いにまだまだ知らないところもあるチームですが、新しいチームとしてどう仕上がっていくのかすごく楽しみでもあります。
中川:今の話を聞いていると、YELLOWは運命の出会いをしているのだろうなと思うんです。それぞれがキャリアを積んでいて、それぞれに繋がりがあって、今こうして出会っていく。その過程でYELLOWとしてこの4人が揃ったことに運命や奇跡を感じます。『ジャージー・ボーイズ』初演のときに、今の彼らと同じように僕らも運命や奇跡をもらったんです。
(左から)小林 唯、中川晃教
ーー中川さんが率いるBLACK(中川晃教・藤岡正明・東啓介・大山真志)は既に磨き上げられたチームだと思いますが、改めてBLACKの魅力を教えてください。
中川:BLACKは2020年のコロナ禍に結成されたんです。帝国劇場へと劇場のサイズが大きくなるタイミングだったので、プレッシャーを感じる中で生まれたチームでもあります。帝国劇場の公演が中止となりコンサートバージョンへ変更になったことも含め、様々な紆余曲折を経て臨機応変に対応しながら、僕たちなりの答えを模索してきました。元々用意された何かをクリアしていくのではなく、自分たちの中から答えを生み出していくことができたのがBLACKなんです。そう考えると、あとにも先にもBLACKのようなチームは他にないんだろうなと思います。結果としてBLACKには深みが出てきて、それが今の僕たちのひとつの答えになろうとしているのかもしれません。一度観て伝わる魅力もあれば、他のチームを観たときにわかる魅力もあると思います。『ジャージー・ボーイズ』という作品にはゴールがない。そんな気持ちにさせてくれるのがBLACKなんです。
小林:BLACKのメンバーは、JBBとしてコーラスグループの活動もされていますよね。
中川:あれは苦肉の策なんです。作品の再演までに期間が空くと、みんな忙しいからいろいろ忘れちゃうでしょう? それではいいハーモニーは作れません。そうならないためのグループ活動なんですよ。
小林:なるほど。グループでの活動が、いざ作品が上演されるときのBLACKのハーモニーに反映されるんですね。
中川:YELLOWは有澤くんとspiくんが作品の経験者だから、心強いでしょう?
小林:本当に! 経験者のお二人に、新参者の僕と洋輔さんが加わる形になります。そういえば洋輔さんは過去にハモネプ※に出演していたこともあるくらい、ハーモニーオタクな一面があるんですよ。それもすごく頼もしいですね。
※正式名称「ハモネプリーグ」。学生がアカペラのコーラスで競い合うテレビ番組の企画。
中川:飯田(洋輔)さんのハモネプの話は初めて知りました! BLACKには藤岡(正明)くんがいるから、それぞれのチームにハーモニーオタクがいることになるね(笑)。
中川晃教
小林:確かに(笑)。ザ・フォー・シーズンズという長年一緒にいたグループを、僕らは約3時間のミュージカルで表現していかなくてはならないので、チームに強い繋がりを作ることが大きなテーマであり課題になると思います。僕らは僕らで頑張ります!
「フランキー・ヴァリへの尊敬なくして彼を演じることはできない」(中川)
ーーお二人が演じるフランキー・ヴァリさんは、昨年90歳の誕生日を迎えてハリウッドで殿堂入りされました。その際に初めてステージに立った思い出を振り返り、「14,5歳の頃に学校の発表会で『ホワイトクリスマス』をアカペラで歌った」というエピソードを語ったそうです。お二人にとっての初めてのパフォーマンスはいつでしたか?
小林:僕は高校で演劇学科に通っていたのですが、演劇の授業の1年生公演が初めて人前に立った思い出ですね。普段の授業でやってきたことを発表するようなイベントで、演劇的なエクササイズやエチュードを見せたり、発声練習で有名な外郎売のセリフを言ったり。演劇学科に入ったのは興味本位で、当時はまだこの仕事を本気で目指そうとは思っていなかったんですよ。懐かしいですね。
中川:僕は保育園の発表会で浦島太郎を演じたのが、本当に最初のステージの記憶だと思います。詳細は覚えていないのですが、腰みのをつけて、玉手箱の蓋を開けたらわあーっとなっちゃうみたいな(笑)。きっと緊張していたとは思うんですけど、怖いという感情は不思議とありませんでした。ただステージの上に立っていたことを客観的に記憶している自分がいるんです。きっと自分にとって特別な場所だったんでしょうね。
ーー貴重な思い出をありがとうございます。では、フランキー・ヴァリさんのように表現者として長くステージに立ち続けるために、これから先どうありたいですか?
中川:常にまっさらでいたいですね。18歳のときにミュージカル『モーツァルト!』でデビューして以来、20代、30代、40代ときて、そのときどきで本当に素晴らしい経験をさせていただきました。この経験は自分が歩んできた全てですが、決してひとりでは成し得なかったと思うことばかりです。舞台に立つことにおいても、歌うことにおいても、その素晴らしい経験は確実に自信となっています。でも一方で、気持ちは常にピュアでい続けたいと思うようになってきました。ピュアな気持ちを忘れずに走り続けていきたいですね。
小林:僕も他にやりたい仕事はないので、体が動かなくなるまでずっとこの仕事を続けていけたらいいなと思っています。そのために、この仕事の何が好きで、何が楽しいのかというところに常に立ち返るようにしています。もちろん辛いときもありますが、続けていくための最大のモチベーションは好きであることだと思うので。シンプルに、それだけは忘れないようにしていきたいです。
小林 唯
ーー中川さんは日本版のフランキー・ヴァリを長年ひとりで担ってきました。花村想太さんや小林さんのように新しいフランキー・ヴァリが誕生していく中、役を引き継いでいく意識もあるのでしょうか。
中川:引き継いでいくというよりも、長く愛される作品にしたいという気持ちが近いかもしれません。『ジャージー・ボーイズ』のフランキー・ヴァリ役は、僕にとって30代の転機となった作品であり、役でもあります。ミュージカルの歌唱法だけではなく、ポップスの歌唱へのチャレンジをさせてもらえるという点で大きな転機になりました。そういう役と巡り会えたことが、自分の人生と重ね合わせたときに幸せだなあと思えるんです。
『ジャージー・ボーイズ』では、我々はスターとして生きなければなりません。これは僕にとって他の作品では味わえないものでしたし、大切にしていきたいものでもあります。フランキー・ヴァリへの尊敬なくして彼を演じることはできないと思っていますし、僕は彼を尊敬しています。どれだけ尊敬しているかは言葉で言い尽くせないのですが、舞台でその姿を見ていただきたい。それが再演に臨む自分を突き動かす原動力にもなっているんです。スターとして生きること。フランキー・ヴァリを尊敬し続けること。これらが引き継いでいきたい想いであり、この作品に携わっている者としての誇りでもあります。
小林:僕は今キャスティングされたという段階で、まだまだこれからやらなきゃいけないことが本当にたくさんあります。今日、この作品に対する熱い想いを聞くことができたので、みなさんが培ってきたものを受け継ぎつつ、アッキーさんはアッキーさん、僕は僕の新しいフランキー・ヴァリの世界を構築していきたいと思います。
(左から)小林 唯、中川晃教
取材・文=松村蘭(らんねえ) 撮影=山崎ユミ
公演情報
■脚本 マーシャル・ブリックマン&リック・エリス ■音楽 ボブ・ゴーディオ ■詞 ボブ・クルー
■演出:藤田俊太郎
フランキー・ヴァリ 中川晃教
トミー・デヴィート 藤岡正明
ボブ・ゴーディオ 東 啓介
ニック・マッシ 大山真志
ボブ・クルー 加藤潤一
ジップ・デカルロ 阿部 裕
ノーマン・ワックスマン 戸井勝海
メアリー ダンドイ舞莉花
ロレイン 原田真絢
フランシーヌ 町屋美咲
リードエンジェル 柴田実奈
ハンク LEI’OH
ドニー 山野靖博
ストッシュ 杉浦奎介
ジョーイ 石川新太
フランキー・ヴァリ 小林 唯
トミー・デヴィート spi
ボブ・ゴーディオ 有澤樟太郎
ニック・マッシ 飯田洋輔
ボブ・クルー 原田優一
ジップ・デカルロ 川口竜也
ノーマン・ワックスマン 畠中 洋
メアリー ダンドイ舞莉花
ロレイン 原田真絢
フランシーヌ 町屋美咲
リードエンジェル 柴田実奈
ハンク 大音智海
ドニー 山田 元
ストッシュ 伊藤広祥
ジョーイ 若松渓太
フランキー・ヴァリ 花村想太
トミー・デヴィート spi
ボブ・ゴーディオ 有澤樟太郎
ニック・マッシ 飯田洋輔
ボブ・クルー 原田優一
ジップ・デカルロ 川口竜也
ノーマン・ワックスマン 畠中 洋
メアリー ダンドイ舞莉花
ロレイン 原田真絢
フランシーヌ 町屋美咲
リードエンジェル 柴田実奈
ハンク 大音智海
ドニー 山田 元
ストッシュ 伊藤広祥
ジョーイ 若松渓太
フランキー・ヴァリ 大音智海
トミー・デヴィート 加藤潤一
ボブ・ゴーディオ 石川新太
ニック・マッシ 山野靖博
ボブ・クルー 原田優一
ジップ・デカルロ 川口竜也
ノーマン・ワックスマン 畠中 洋
メアリー ダンドイ舞莉花
ロレイン 原田真絢
フランシーヌ 町屋美咲
リードエンジェル 柴田実奈
ハンク LEI’OH
ドニー 山田 元
ストッシュ 伊藤広祥
ジョーイ 若松渓太
※「TeamBLACK」、「TeamYELLOW」に加え、TeamYELLOWの配役をベースにフランキー・ヴァリ役のみ花村想太が演じる「TeamGREEN」、さらには、フレッシュなキャストで贈る「New GenerationTeam」の公演を1公演予定。
■製作:東宝株式会社、WOWOW
■作品公式HP https://www.tohostage.com/jersey/
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