いまこの瞬間の自分自身を正確に舞台上に置きたい――舞台『宇宙と浮遊する六畳』22歳の演出家カワノヨウタインタビュー
カワノヨウタ主宰の演劇団体「様相」がシンガーソングライターの崎山蒼志を客演に迎える舞台『宇宙と浮遊する六畳』が、2025年6月21日(土)・22日(日)に東京・下北沢の小劇場楽園で上演される。崎山にとってはこれが初めての舞台出演。演出を務めるカワノは崎山と同じく現在22歳。高校生の時にYouTubeで知ったラーメンズに影響を受けてコント制作を開始、現在は本多劇場グループで働きながら演劇制作に取り組む。今回はカワノに、崎山を演劇に誘った理由や二人の関係性、表現方法として演劇を選ぶ理由などを話してもらった。
ミュージシャン崎山蒼志との出会い
──カワノさんは高校生だった2018年にYouTubeでコントの発表を始めて、2021年ごろからは演劇を主な活動の場としながら発信を続けています。今回は同い年で友人のミュージシャン・崎山蒼志さんとタッグを組んで作品を作られるということですが、二人の出会いから伺えますか?
知り合ったのは2年前で、僕がスタッフとしてお手伝いしていた渋谷の「SYNCHRONICITY」というフェスに崎山くんが来て、僕に声をかけてくれたのがきっかけでした。そこから1年くらいはただただ仲良く遊ぶ日々が続いて、ほぼ毎日一緒にいました。知り合ったのがお互い20歳になった年で、「もうなんでもできる! 遊べるぞ!」というタイミングだったので、二人で朝まで飲んでその日の夕方にまた集合して飲んで……みたいな。
──そこからどんな流れで一緒に作品を作ることに?
話が少しさかのぼるのですが、僕は18歳の時から本多劇場グループで働いていて、総支配人の本多愼一郎さんにもとてもお世話になっています。働き始めた当時は地元のアトリエを借りて公演をしていたのですが、20歳になるころ本多さんに劇場を使うように言ってもらって、小劇場楽園で初めて公演を打ったのが2023年8月でした。崎山はその舞台も観に来てくれて。ふつう関係者として観劇する時って後ろの方で大人しく観るイメージがありますけど、崎山は最前列に座って大笑いしながら観てて。「変な人だなあ」って気になっていたんですが、作品を気に入ってくれたみたいです。それで本多さんからまた劇場を使うように声をかけてもらったので、崎山に「なんかやんない?」とLINEで誘ってみたら、「やりたい」と返ってきて。僕としては仲のいい友だちを誘っただけだけど、結果的には大物ミュージシャンと一緒にやることになった、みたいな状況です。
──5月中旬から稽古を始めたと伺っていますが、友だちと一緒に仕事をする感覚はいかがですか?
仕事をする感覚でやるとうまくいかないだろうと思っていて。二人でしゃべってる時に熱が入って目がパキパキになるくらい夢中になる瞬間があって、一緒に作る時にもその感覚を目指すようにはしています。
──台本を読んだ限り、崎山さんが役者として演じるわけではないようですね。
最初に役割を決めすぎないで、進めながら考えようと。音楽に関しては、深夜に崎山の家に行って、「どうする?」って話し合ってます。彼の所属事務所にも確認を取る必要があるのですが、でも音楽を作るやりとりに関しては友だちっぽいテンションのまま進めてる感じです。崎山には舞台上に立ってその場その場で音を鳴らしてもらおうと考えていて、「音楽」というよりは「音」になるんじゃないかと思っています。
昨日最新の演出案を出して少し肩の荷が下りたけど、おそらく本番までにはこれも変わるだろうなと思っています。むしろ、変わり続けていくことに安心するというか。(取材時点で)本番まで三週間あるのに、いまのアイディアのまま進んでいたらヤバいなって。
──最後まであがこうと。
そうですね。それがあきらめなかった証拠になるかなと思います。だからあと三週間は寝れない日々が続くなぁ、って。
ラーメンズの影響で下北沢へ
──プロフィールに大学在学中とありました。授業に通いながら演劇を作っているのですか?
いえ、大学は休学してます。いまは4年生になる前で、在籍は5年目です。とても理解のあるいい先生で、「8年在籍できるから、自分で計算して授業に出てくれたらうれしいけど、まあ出なくてもいいんじゃない?」と言われて。それはそれでちょっと寂しい気もしますが(笑)。
──「たまには授業に来い!」と言ってくれる方がうれしい?
あ、でも、勝手に行ってます。僕は社会学を演劇制作のベースにしているので、作る上でわからないことが出てきたら、それに該当しそうな授業を探して勝手に聞きに行ったりして。仲の良い先生だったら、近くの中華屋に一緒に行ってわからないことを教えてもらうこともあります。
──じゃあ大学はお休みして、本多劇場グループで働きながら演劇を作っていると。元々演劇に広く携わりたい思いがあったのでしょうか?
そういうわけではなかったんですが、僕が高校のころからずっと好きなラーメンズの小林賢太郎さんがよく本多劇場を使っていたという理由だけで「下北沢周辺にいたいなぁ」と考えていたら、運良く本多劇場グループそのものに拾っていただいて。本多でのバイトは大変だけど楽しいですね。本多さんがとにかくタフで、経営をしながら誰よりも手足を動かす方で。劇場の水道やエアコンが壊れたら自分で直すし、本当にスーパーマンみたい。だから多少のことでは泣き言を言えないですね。
──本多さんの近くでいい経験を積まれているのですね。今回のお話の内容についても伺いたいです。台本を読んで、身近な気づきや生活のちいさなつまずきを創作の発端にされているように感じました。
今回僕は原案と演出を担当して、脚本は武田朋也さんにお願いしたのですが、とにかく二人で対話しながら作っていきました。おもしろいと思うことや最近考えていることを武田さんにたくさん話したら、「なんかさ、隠してることあるでしょう?」って。「自分が思う、自分の嫌いな部分について聞きたい」と言われて、そこからはもう地獄のような日々で。僕が話したことのフィードバックとして「カワノの弱いところ」を武田さんがものすごい数挙げてきてしんどかったです……。
──それは辛い……。
いつも自分のダメなところに向き合わざるを得ないから、公演中は毎回「これで演劇はやめよう」と思いながらやってるのに、終わるとまた「次は何しようかなぁ」って劇場押さえちゃって。
──自分以外の何かをテーマを選んで演劇を作る方法もあると思いますが、毎回自分の弱い部分に向き合って創作することにはどんな理由がありますか?
いま現在の、22歳の自分というものを舞台上に正確に置きたい気持ちがあるのかもしれないです。僕は、舞台上に乗っているものは現在である必要があると思うんです。昨日の自分とは考えや気分が変わっていくなかで、常に現在の自分を舞台に乗せたい。質問の答えになっているかわからないけど、そんな気持ちがあります。そういう意味で言うと、YouTubeと違ってログが残らないのも演劇の好きなところです。明日になったら全然違うことを言ってるかもしれないから、ログが残らない方が幸せだなと思います。
──今回の公演はすでにが完売していますし、今後ますます活動が発展していきそうですね。
そうですね。でも僕はずっと、自分はひっそりと路地にいるようなイメージを持っています。車がビュンビュン通るような大通りが得意じゃないから、路地にいたい。崎山もアニメ主題歌のようなメインストリームの仕事をしていますが、彼にとって演劇は路地ですよね。僕にとっても、ミュージシャンの友だちと演劇を作ることには路地感があります。
──二人にとって路地っぽい企画だと。
はい。そういえば、最初はこの演劇で東京の話をやろうと話していました。僕は神奈川出身で、崎山は静岡出身です。夜中に二人で散歩をしながら、「東京ってどんな場所だと思う?」と聞いたら、「大通りはずっとうるさいけど、一方路地に入ったら静か」と崎山が答えていたのをいま思い出しました。二人とも路地が好きなのかも。
──路地での自由な活動が誰かに見つかると、大通りに引っ張り出されそうです。
そうしたら僕は次の路地を探して動こうと思います(笑)。
取材・文=碇雪恵 撮影=荒川潤
公演情報
2025年6月21日(土)開場12:30 開演13:00/開場17:00 開演17:30
2025年6月22日(日)開場12:30 開演13:00/開場17:00 開演17:30
※各回の終演後、カワノヨウタと崎山蒼志によるアフタートークを実施
カワノヨウタ
崎山蒼志
オオサワクン
原案/演出:カワノヨウタ
音楽:崎山蒼志
脚本/音響/舞台美術:武田朋也
照明:海老原日和(eimatsumoto Co.Ltd.)
衣装/ヘアメイク:長尾朋佳(TOKABI)
宣伝美術:古戸森陽乃(かるがも団地)
ビジュアル撮影:TOKABI
Web制作:瀧澤榛花
制作:吉年歩騎/小山内美遥
プロデューサー:吉年歩騎
S席 (1列目・グッズ付)9,500円
A席 (2列目以降)5,500円
・『宇宙と浮遊する六畳』特設サイト
https://yoso-web.com
・「様相」公式X(@yo_so_2025)
https://x.com/yo_so_2025
・「様相」公式Instagram(@yo_so_2025)
https://www.instagram.com/yo_so_2025