山内総一郎のソロ初ライブを振り返る、「完璧に光が見えました! まだまだ一緒に旅を続けていきましょう!」

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ファーストライブ The Hole In The Wall
2025.7.9 EX THEATER ROPPONGI

「ライブ楽しい! ライブ最高! 最初のライブでこんなに楽しいのやばっ!」

兎にも角にも、そんな言葉を聞けたことがうれしかった。しかも、まだまだライブの序盤と言えるタイミングで快哉を叫ぶように言ったのだから、自分も含めたバンドの演奏にも観客の反応にも相当に手応えを感じていたに違いない。

フジファブリックの活動休止から5か月、山内総一郎(Vo, Gt)が7月9日(水)、東京・EX THEATER ROPPONGIで、ついに開催した『ファーストライブ The Hole In The Wall』。

これからソロアーティストとして、どんなふうに活動していくのか、それを発表するライブになることは想像できたが、ライブに先駆け、新曲をリリースしたわけではないから、どんなセットリストになるんだろうかと興味津々になっていたに違いない観客に山内は1曲目からいきなり、「飛ばしていくぞ、東京!」と声を上げながらまさかの新曲を初披露したのだった。

演奏後、山内が発表した新曲のタイトルは「あやかし音頭」。彼のプログレ趣味とダンサブルなバンドサウンドとノスタルジックなメロディーが一つになった、ある意味、とても彼らしいこの曲を、「変な曲」と言いながら、山内は「山内総一郎としてやっていくぞという今の自分の気持ちを詰め込んだ渾身のダンスナンバー」と説明すると、「よかったよね?(笑)」と観客に同意を求める。新たに導入したと思しきモダンなシェイプのギターで鳴らしたメタリックなサウンドからは新境地も感じられた。

しかし、新曲はそれだけにとどまらず、「どんだけやるねん」と自らつっこみを入れながら、山内は2022年発表のソロアルバム『歌者 -utamono-』の収録曲、他アーティストに提供した曲のセルフカバー、昨年12月にサントリーのノンアルコール飲料のウェブCMに提供した「Good Fellows」に加え、新曲も次々に披露していった。結局、この日、初披露した新曲は計8曲。セットリストの半分を占める曲数なのだから、山内の意気込みが窺える。

「新曲が続いていますが、溜めこんだ思いや気持ちを一つ一つ曲にして、こうしてライブで歌えることがうれしいです!」

その言葉通り、どの曲にもかなりの思い入れがあるらしく、1曲1曲、そこに込めた思いや曲のテーマを語りながら演奏してくれたので、その言葉とともにこの日、山内が披露した新曲について書き記していこう。フジファブリックの活動休止から、このファーストライブに至るまでの彼の心境の変遷もきっとそこから読み取れるはずだ。

アコースティックギターのリフや、サビで景色が一気に広がるような展開が印象的だった「ソラネコ」は、「人生の選択を歌った、個人的な胸アツソング」。自宅でシルクジャスミンを育てながらふと思った生命のサイクルがテーマだという「Jasmine Flower」は、エレキシタールが鳴るエキゾチックでトロピカルなサイケデリックロックナンバーだ。そして――。

「2月のライブ(フジファブリックの活動休止前の最後のライブとなったNHKホール公演)が終わってから、これからどうやって音楽をやっていこうか考えて、どれだけ悩んでも答えが出なくて、完全に自分を見失うってやつなんやなって。そんな日々を過ごしながら、ある日、ギターをぽろぽろと弾いてたら、“そうだ、やりたことあったやんか”と気づいて、そこからポジティブでもネガティブでもない普通の俺になったんです。ちょっと出かけていったら、素敵な人に出会えたりとか、今日来てくれてるみんなに出会えたりとか、とんでもないことになっている。家を出て歩いていったら、知らん間に海に来ていたみたいな。そんな感覚になったんですよ。ある意味、開き直ったというか、歌詞を書くとき、光とか闇とか表現で使うけど、自分が大事にしていた淡い部分が見えた。それが見えたとき、自分が自分でしかないんだったら、自分を見失ったまま、迷ったまま、みんなを一緒に連れていこうじゃないかと思った。白とか黒とかじゃない、光とか闇とかじゃない、淡い部分を見つけられて、このステージをようやく山内総一郎としてやっていこうと思えた。なので、自分にとって希望の曲です。この曲を書いたことで救われました」

すでに書いた通り、いきなり8曲も新曲を披露したのだから、フジファブリックの活動休止後、着々とソロ活動の準備を進めていたのかと思いきや、実は暗中模索の日々を送っていたというある意味カミングアウトがちょっと衝撃だった「海に来てしまった」。一言で言えば、フォーキーなバラードかもしれないけれど、絶妙な転調を交えるエレキギターの単音リフがそんな一言では語りきれない魅力を放っていたと思う。山内がスライド奏法で加えたギターソロも聴きどころ。バンドメンバーがラララと加えるコーラスがアンセミックに響き渡り、最後はトレモロピッキングを交えながら山内が繰り広げた渾身のギターソロに観客が大きな拍手を送る。

因みにこの日、山内をバックアップしたのは、山内とは中学・高校からの付き合いという砂パンこと砂山淳一(Ba)、フジファブリックのライブサポートでもお馴染みの伊藤大地(Dr)、そして現在活動休止中の8人組ジャズヒップホップバンド、SANABAGUN.の大樋祐大(Key)の3人だ。今後の活動に迷っているとき、伊藤からスタジオに入ろうと誘われ、砂山を加えた3人で、その時できかけていた「海に来てしまった」を合わせたことが「山内総一郎としてやろうと思えるきっかけになった」と明かした山内は、忙しい3人だけれど、できるかぎりこのメンバーでやっていきたいと考えているという。

「たとえキャンドルのような小さい灯かりでもゆっくり踊り続けよう」というそんな気持ちを込めた「スロウダンス」は、ハチロクのリズムが跳ねる軽やかなダンスナンバー。

SUPER EIGHTに提供した、サビの転調があまりにも鮮烈な「群青の風」のセルフカバーと『歌者』のファンキーなポップナンバー「最愛の生業」を挟んでから披露した「彗星たちのカンターレ」は、60年代のUKサイケあるいは70年代のUKスワンプをオルタティブなロックサウンドで包んだようなバラードだった。実は2022年4月9日のソロライブで披露した「日々の産声」の改題なのだが、「その時とは状況も自分の気持ちも歌のメッセージも変わって、より強い、歌を終わらせないぞという決意の歌になりました」と言うから、新曲に数えてもいいだろう。

そして、本編の最後を飾ったのも新曲の「旅に出る」だった。

「音楽っていうのは、そしてライブっていうのは自分の居場所であり、人生の旅の地図でもあるんです。だから、ここをなくしたくない。今日からこの先もまた、いろいろな音楽、いろいろな景色、そういったものを連れて、あなたと一緒に旅がしたいです。最後の曲は新たな始まりに対して、その一歩を思い描いて、穴から這い出る自分の気持ちを歌にしました」

頭打ちのドラムが前へ前へとバンドの演奏をひっぱるギターロックナンバー。今後は、観客と一緒にシンガロングするライブアンセムになっていきそうだ。

「新曲をたくさん聴いてもらった。めっちゃ作ったでしょ? 集中力を使わせてしまいましたが、聴かせたかったんですよ。新曲も含め、あなたに聴いてもらいたくて作ったんです。だから、届けることができて、本当によかったと思います。1回しかやってないけど、何らかの形で届けられるようにがんばっていきますのでこれからもよろしくお願いします」

そんなことを語りながら、カッティングエッジからメジャーデビューすること、A-UNと名付けたソロプロジェクトを始めること、10月22日にファンキーなポップソング「Good Fellows」を配信リリースすること、10月25日に昭和女子大学人見記念講堂でバースデーライブ『OCTOBER SONGS』を開催することなど、盛りだくさんの発表が観客を歓ばせたアンコールは、20th Centuryに提供した、サビのリズムが3連符になるところが山内ならではと言えるフォーキーなバラード「あなたと」のセルフカバーに加え、ダメ押しするようにさらにもう1曲、新曲を披露した。オープニングも本編の最後もライブのエンディングもすべて初披露の新曲を選んだところに新たなキャリアをスタートさせる山内の思いが窺える。

「完璧じゃない、矛盾だらけの人間なんです。そんな自分を日々許して進んでいきたいと思って作った曲です。テーマはあなたとの並走。背中を押すとか、支えるとかではなく、並んで走っていきましょう!」

タイトルは「人間だし」。グリッサンドと単音リフを組み合わせたギターリフがどこかユーモラスで、ウキウキしてしまうカントリーっぽい魅力もあるポップナンバーだ。曲の後半では、メンバー紹介を兼ねた熱いソロ回しに観客が声を上げる。そして、再びターンが回ってきた山内はトゥワンギーなトーンで奏でる華麗なフィンガリングにサーフ風のトレモログリッサンドやスウィンギーなフレーズを織りまぜ、さらに観客を沸かせると、最後はアンプからジャンプするガッツを見せ、見事にエンディングをキメたのだった。

「完璧に光が見えました! まだまだ一緒に旅を続けていきましょう!」

心の中にぽっかりと空いた穴から見える光景をみんなと確かめて、そこからまた進んでいきたいという覚悟にも近い思いから、ファーストライブのタイトルを『The Hole In The Wall』とした山内がこの日、最後に言った言葉がこれだったのだから思わず胸が熱くなる。

ともあれ、新たな旅はまだ始まったばかりだ。どんな旅に僕らを連れて出してくれるのか大いに期待している、いや、いきなり新曲をこんなに聴かせてもらったら期待せずにいられないだろう。

取材・文=山口智男 撮影=森 好弘

 

 

ライブ情報

山内総一郎バースデイライブ「OCTOBER SONGS」
日時:10月25日(土) 開場16:30 /開演 17:30
会場:東京・昭和女子大学人見記念講堂

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