花岡無線電機、創業100周年記念『Sound Letter 2025』名演と共演の数々で社史に残る大団円に
『Sound Letter 2025』2025.7.5(SAT)神奈川・KT Zepp Yokohama
放送局向け音声機器メーカー、花岡無線電機株式会社が今年、創業100周年を迎えたことを記念して、7月5日(土)、神奈川・KT Zepp Yokohamaで主催イベント『Sound Letter 2025』を開催した。90周年記念として行われた2015年の第1回目から数えて6回目となる今回の出演者はトダタダシ、GENTLE FOREST JAZZ BAND、ハンバート ハンバート、赤坂COUNTRY HOUSE BAND、Reiの計5組(出演順)。それぞれにルーツ・ミュージックに根差していることを思わせる、ロック/ポップスだけにとどまらない顔ぶれは、老舗の音声機器メーカーならでは。そんなユニークな音楽観が窺えるところも、このイベントの魅力の1つかもしれない。聞けば、代表取締役社長の花岡克己は社長業の傍ら、この日、出演した長岡亮介と三浦淳悟のバンド、ペトロールズのスタッフも務めているのだそうだ。なるほど。社長自らスタッフとして忙しそうにしていたイベントの模様をレポートする。
トダタダシ
「100周年という晴れの日にステージに立てたことを光栄に思います!」
この日、トップバッターを務めたのは、「Sound Letter」のファンにはすっかりお馴染みのシンガー・ソングライター、トダタダシ。前々回、前回はぺトロールズのドラマー、河村俊秀と組んだユニット、わ。での出演だった。3度目の出演となる今回はアコースティックギターの弾き語りとなる。
チルな魅力もある1曲目の「こどもたちへ」をはじめ、異国情緒と洒脱さが入り混じる、ロックンロールともフォークとも言える全5曲を披露した。「バンドで出る予定が諸般の事情から一人でステージに立っています。非常に心細いです(笑)。みなさんの声援とあたたかい眼差しがあれば乗りきれると思います」と、そんな言葉とは裏腹に歌声もコードストロークも力強い。
シュールでユーモラスな歌詞も聴きどころの1つだが、3曲目の「悶々烈火」は、そんな歌詞を外国語風の発音で歌いながら観客を煙に巻く。最後の「サウジアラビア遊泳法」では、曲が持つラテンの乗りに観客が手拍子で応え、たちまち会場は和気藹々とした空気に包まれたのだった。
GENTLE FOREST JAZZ BAND
弾き語りの次が総勢21人のビッグバンドという振り幅も見どころのうちなのだろう。“踊る指揮者”の異名を持つジェントル久保田率いるGENTLE FOREST JAZZ BANDが演奏するのは、花岡無線電機が創業した頃、世界中で大流行したスウィングジャズなのだが、この日演奏した全8曲中、カバーはグレン・ミラー・オーケストラの代表曲である「In The Mood」1曲のみ。その他7曲は、バンドメンバーによるスウィングジャズ愛に溢れたオリジナルなのだった。混沌をテーマにしたという「Hard “D”」ではスウィングジャズの神様、デューク・エリントンのジャングルビートにオマージュしてみせる。
後半はGENTLE FOREST SISTERSをステージに迎え、ジャズ歌謡なんて言ってみたい「おとこって おとこって」「月見るドール」を披露。そして、ドラムの連打からなだれこんだ最後の「いつでもよんでよ」ではトランペット、サックス、ピアノ、ギター、ベース、ドラムとソロを繋げていったバンドの熱演に客席から大きな歓声が上がった。
ハンバート ハンバート
その熱狂をなごやかな空気に変えたのが佐藤良成(Vo.Gt)と佐野遊穂(Vo)による男女デュオ、ハンバート ハンバート。ふたりが重ねるハーモニーはもちろん、佐藤が「うちのお母さん」で奏でたフィドルや佐野が「おなじ話」「トンネル」に加えたブルースハープの音色も聴きどころだった。
後半、佐藤の呼び込みでペトロールズの長岡亮介がエレキギターと共にオンステージ。2017年発表の楽曲「がんばれ兄ちゃん」には長岡がエレキギターでレコーディングに参加しているが、ライブで一緒に演奏するのはこの日が初めてということで、7年越しでの共演が実現。長岡の閃かせたカントリーリックに観客も盛り上がる。続いて歌詞に反骨精神が滲む「国語」では、長岡のエレキギターと佐野のブルースハープで熱いソロの応酬を繰り広げ、会場の熱も上がっていった。これは「Sound Letter」の歴史に残る名演だったのではないだろうか。ライブMCを集めたCDがリリースされるほど評判のトークもふたりはたっぷりと披露した。
赤坂COUNTRY HOUSE BAND
その長岡は赤坂COUNTRY HOUSE BANDのメンバーとしてもオンステージ。同バンドは、カントリーバンドのライブも楽しめる赤坂の老舗レストラン、カントリーハウスのマスター、平尾勇(Ag.Vo)を擁する5人組。
「俺がここに連れてきましたって言ったら言い方があれだけど」(長岡)と挨拶した長岡は20代の頃から同店に出演し、今でも時折、ステージに立つのだそうだ。多くの人に赤坂COUNTRY HOUSE BANDのライブを見てほしかったのだろう。
カーター・ファミリーの代表曲で長く歌い継がれている名曲の「Will The Circle Be Unbroken」をはじめ、カントリークラシックを中心にした選曲は、長岡によるものだという。バンドの演奏は骨太だ。朗々と歌い上げる平尾の歌声も、とても80歳とは思えない。長岡もフライング・ブリトー・ブラザーズの「Wheels」とウィリー・ネルソンの「Night Life」の2曲でボーカルを担当。ジミー・ロジャーズの「California Blues」とボブ・シーガーのロックンロール「Old Time Rock & Roll」では、この後、トリを務めるシンガー・ソングライター&ギタリスト、Reiもカウガール姿でオンステージ。観客をシンガロングとハンドクラップで盛り上げた後、長岡と繰り広げたギターソロ対決も見どころだった。
そして、ラストは観客の手拍子が鳴り響く中、平尾が見事なヨーデルを披露した1920年代から歌い継がれるカントリーブルースの定番曲「Columbus Stockade Blues」で締めくくる。
Rei
この日、最年少にもかかわらず、トリを任されたReiはその期待に見事応え、イベントの大団円を飾るにふさわしい盛り上がりを作り上げたのだった。
この日、彼女がペトロールズの三浦淳悟(Ba)と多くのアーティストのサポートを務める伊藤大地(Dr)と演奏したのは、ファンキーな「COCOA」をはじめ、今年デビュー10周年を迎える彼女のレパートリーの中からライブの定番曲を40分のセットリストに凝縮したとも言えそうな全7曲。才気に溢れたギタープレイを閃かせながら、ステップを踏み、ワンピースを翻してヘッドセットマイクで歌う彼女はまさにエネルギーの塊だ。
「前回の90周年イベントにも呼んでいただきました。あれから10年、あっという間でした。花岡無線電機さんが取り組んでいる音楽にまつわる事業に仲間として入れてもらえてうれしいです!」(Rei)
長岡亮介をプロデューサーに迎えた2015年発表の1stミニアルバム『BLU』収録のフォーキーな「eutopia」を挟んでからの後半戦は、スウィンギーな「Lonely Dance Club」から、エンディングまで「What Do You Want?」「BLACK BANANA」と一気にたたみかける。
「シンガロング!」と声を上げ、なだれこんだ超アップテンポのファンクナンバー「BLACK BANANA」では三浦から、伊藤、Reiとソロを回して、客席を沸かせる。この時、彼女が弾いたカルトな人気を誇るギター、アメリカン・ショウスターは長岡のものか?
そして、「社長がどんなに素敵な人なのか、みんな会いたくないですか? 花ちゃーん!」というReiのコールに応え、照れ臭そうにオンステージした花岡社長も交え、「Banana-na-na-na -na!」と全員がシンガロング。「Sound Letter」の歴史に、いや、花岡無線電機の社史に残るクライマックスとともに4時間に及んだイベントは大団円を迎えたのだった。
取材・文=山口智男 写真=@sibtv_photosia
イベント情報
”Sound Letter 2025”』
2025年7月5日(土)@ KT Zepp Yokohama
・出演:
赤坂COUNTRY HOUSE BAND
平尾勇/長岡亮介/村中靖愛/長坂勇一郎/佐藤一人
ジェントル久保田(リーダー、指揮、tb)/村上基(tp)/松木理三郎(tp)/赤塚謙一(tp)/
佐瀬悠輔(tp)/張替啓太(tb)/大田垣″OTG″正信(tb)/高橋真太郎(tb)/石川智久(btb)/
多田尋潔(as/cl)/菅野浩(as)/大内満春(ts)/上野まこと(ts) /
小嶋悠貴(bs)/海堀弘太(pf)/加治雄太(g)/藤野″デジ″俊雄(wb)/松下マサナオ(ds) /
Gentle Forest Sisters出口優日/木村美保/伊神柚子
トダタダシ
ハンバート ハンバート
Rei
Rei(Vo./Gt) / 三浦淳悟(Ba) / 伊藤大地(Dr)
花岡無線電機創業 100 周年記念サイト
https://www.hanaoka-m.co.jp/100th/