大分・別府のど真ん中で野外イベント『small circle』開催ーーコンパクトながらもインパクトある祭にレキシ、Small Circle of Friends、原田郁子、長岡亮介、青葉市子 with 小山田圭吾&U-zhaanが集結

レポート
音楽
2025.10.22
『small circle’25』 写真=『small circle』提供(撮影:勝村祐紀)

『small circle’25』 写真=『small circle』提供(撮影:勝村祐紀)

画像を全て表示(24件)

『small circle ’25』2025.10.4(SAT)大分・別府 北浜公園

野外イベント『small circle』が10月4日(土)に大分県別府市の北浜公園で開催された。毎年5月に福岡で行われている野外音楽祭『CIRCLE』の新たなスピンオフ企画。Small Circle of Friends、原田郁子、長岡亮介、青葉市子 with 小山田圭吾& U-zhaan、レキシがアコースティックライブを披露。

北浜公園は別府駅からも徒歩すぐの街中ど真ん中にあり、別府湾や高崎山を一望できる。真横は道路であり、ホテルや商業施設に囲まれて、普段は街の催し物などをやる縦長でコンパクトな公園。或る意味、都市型フェスだが、そこまでたいそうなものでもなく、気軽気楽なお出掛け感覚であり、観客も緩やか穏やかに楽しんでいる。全国各地あらゆる野外フェス・野外イベントに出向いているが、こんなに街に溶け込んで、ギュッと密集したものは初めて。このスモール感がちょうど良い。主催者に聞くと、約10年前に別府を訪れた際、宿泊したホテルから北浜公園の景観を観て、いつか野外イベントを開催したいと思ったという。

Small Circle of Friends

1組目はSmall Circle of Friends。九州出身のムトウサツキとアズマリキによるふたり組だが、出演が発表された時に、こんなにぴったりなミュージシャンはいないなと感激した。ムトウも「イベント名を言われる度にドキッとしているのよ」と笑っていた。ふたり共に少し高めの椅子に腰かけて、ふらっと来たようなリラックススタイル。オープンエリアという敷物をひかず基本は立って観るエリアでも、ほとんどの観客が座って、こちらもリラックスして観ている。気持ちの良いトラックにふたりの歌とラップが乗っかる「からっぽ」をぼんやり観ていたら、アズマも「すっごい気持ち良くてぼんやりして」と言っていたので、あながち間違いじゃない感覚だったのだろう。別府温泉が有名なこともあり、大分空港でも足湯を見かけたが、歌う方も観る方も足湯をしているみたいな、そんな感じかも知れないとふと勝手に思う。この身近な距離感は独特である。(ちなみに後日談によると、かつてこの北浜公園の場所は砂浜だったそうで「砂湯」があったとか。感じた独特の雰囲気は、その頃の名残りだったのかもしれない)

9月にリリースされたばかりである13枚目のアルバム『SLOW』から立て続けに4曲披露された後、ふたりが担当する大分交通のCM曲「Bus Life」を少しだけ歌い、そのまま同じバックトラックである「Life is Bicycle」に繋げる。そして、クラムボンのカバーでもお馴染み「波よせて」が歌われる。タイトルはもちろん、歌詞も<海の向こう側><地平線の向こう>など、このロケーションにバッチリ当てはまる歌。ゆらゆら観客も体を揺らして聴いている。ラストナンバーは、ニューアルバム『SLOW』から「バウムクーヘン」。そこから31年前のデビュー曲「Sittin' on the Fence[Back to 1993]」もワンフレーズほど歌われ、ふたりの地元九州で原点から現在点を魅せてくれた貴重なライブとなった。

原田郁子

2組目は原田郁子。クラムボンでカバーする「波よせて」を少し歌ってから、クラムボン「タイムライン」へ。「波よせて」は本家を聴いた後ということもあり、より感慨深いし、10代からSmall Circle of Friendsのファンだと公言しているだけに、原田も嬉しそうに歌う。初っ端からリラックスしている様が伝わってくるが、昨夜から別府に入っており、U-zhaan、長岡、青葉らとの酒宴についても話す。演奏も歌も話も全てがリラックスしているし、福岡出身の原田だが、生まれた頃は大分に住んでいたことも明かされた。真の地元だからこその落ち着きもあったのだろう。

小説家・いしいしんじの短編『海と山のすきまで』に原田が曲をつけた歌も歌われる。タイトルが、このロケーションにこれまたぴったりである。さきほど名前があがったU-zhaanが登場して、クラムボン「バイタルサイン」へ。U-zhaanがインドのタンバリンであるカンジーラを叩いての演奏だが、その前にはU-zhaanがレキシの池田貴史と間違われた話などもあり、ほっこりして聴ける。ちなみにU-zhaanと池田の見分けの付け方や、レキシに参加する時のレキシネーム話など愉快な話題もどんどん飛び出す。

最後は詩人の谷川俊太郎との共作曲「いまここ」。谷川の朗読、子供の声などもサンプリングされており、何かが静かに沸き立つ様な浮遊感あるバックトラックも心地良い。10分を超える壮大な曲は圧倒的であり、包み込まれるような不思議な感覚におちいる。終わり、原田が椅子に座ったままくるりと回り、軽やかに去っていくのも素敵であった。

長岡亮介

3組目は長岡亮介。サウンドチェックからOriginal Love「接吻」を歌い、観客は総立ちで聴き、黄色い声援が飛びまくる。田島貴男を真似て歌い、「田島のオジキに怒られる!」と茶目っ気たっぷりな長岡。曇天の空模様だが、そんなの関係無しで楽しめる。いざライブが始まるとギターの音色が幻想的で、もしも白昼夢なんていう言葉を使うならば今かも知れないという雰囲気。「湖畔」もゆらゆらしながら安穏な気分で聴ける。

「Lounge Lover」を歌った後は、「Crazy」→「Miss the Mississippi and You」と洋楽カバーが2曲続く。カントリーミュージックというルーツも感じられたし、ヨーデル的な歌唱法も印象に残った。終盤、雲行きがあやしくなってくると「俺のせいかも」と冗談交じりに話すが、観客たちは特に何も気にせず普通に雨具を取り出して、何事も無かったかのごとく聴き続ける。この野外ライブに自然と慣れた所作には思わず感心してしまう。

「すみません、降ってきちゃって」と長岡は雨を気にするが、そんな中のラストナンバーが「雨」というのもニクい……。雨足が強くなるのと比例するように、そして気にすることなく、観客たちのハンドクラップは強く鳴らされる。歌い終わり、「乾杯! 別府に乾杯! 『small circle』に乾杯!」と瓶ビールを掲げる。雨が降ろうと、そのリラックスした空気感は何も変わらなかった。

青葉市子 with 小山田圭吾& U-zhaan

4組目は青葉市子 with 小山田圭吾& U-zhaan。U-zhaanがひとりサウンドチェックをして、青葉と小山田が登場する。その瞬間、歓声が起きると、すかさずU-zhaanが「僕ずっといたんですけど」とひとこと。観客たちは笑うし、何故か3人は浴衣を羽織り出したりと、温泉旅館の宴会場で催されているみたいなリラックス感。Cornelius「STAR FRUITS SURF RIDER」を青葉と小山田が軽く歌った後、流石の蒸し暑さに耐えかねて、浴衣を脱ぐ3人。

本番1曲目「外は戦場だよ」で、青葉はアコギを爪弾き、つぶやくように歌う。長岡の時は雨足が強くなってきたとはいえ、あくまで小雨であったが、この時間帯は本格的な雨降りとなる。それでも10年ぶりくらいに揃って演奏する3人は朗らかに演奏を続ける。U-zhaanはタブラだけでなく、ホルンも吹き、様々な音色を楽しめる。Cornelius「あなたがいるなら」は、雨が結構降っている模様も相まってか、とてもロマンチックナンバーで、優しいタブラの音にも聴き惚れてしまう。

3人それぞれの曲が披露されていくが、メールで「何の曲やる?」「坂本(龍一)さんの曲やらない?」とやり取りされて決まったという「テクノポリス」へ。可愛らしくもあり壮大なアレンジであったが、U-zhaanも驚いていた様に、何も声色を加工することなく、歌いきった青葉には驚愕するのみ。また、U-zhaanと青葉の朗読劇が微笑ましい「川越ランデヴー」から、青葉が「いっちょ晴らすか! 雨を晴らすか!」と「太陽さん」へ。終わり、「若干、雨強くなったんじゃない?」とU-zhaanは笑い、青葉との軽妙なやり取りをはさみ、最後は細野晴臣のカバーで「悲しみのラッキースター」へ。<雨の中 どこに行こう>という歌詞が、まさに今の天候にフィットして、雨とはいえ心よい感情で聴き終えられた。

レキシ

大トリのレキシ。本番前、楽屋裏で待機してると出番を控えたレキシこと池田貴史が発声練習的に往年のヒットナンバーを高らかに熱唱している。大トリ本番前で、それも悪天候なのに、いつも以上にリラックスしている池田を頼もしく思う。登場SE的に法螺貝が鳴り響き、舞台袖から暖簾をくぐるような軽やかなステップで池田が舞台へと現れる。「雨ごめんな! 俺のせい! アフロは雨が天敵!……雨だけど、まだまだ歌いません!」とフランクなトークを続ける。そんな愉快な雰囲気作りのおかげなのか、観客は雨にも関わらず悲壮感は一切無く、池田のおしゃべりを心から楽しんでいる。

「別府の空を見上げると、一面の星ではなく武士」という流れから、1曲目「きらきら武士」へ。舞台が雨で滑るか滑らないかを端的ながらも入念にチェックするという本来は全く必要ない場面も楽しんで観れてしまうのだから、池田のエンターテイナーっぷりは素晴らしい。別府温泉というコール&レスポンスからドリフターズ「いい湯だな(ビバノンロック)」の一節を歌うというお調子者モードに魅せられながら、気が付くと池田は鍵盤を掻き鳴らす本気モードも魅せる。それも通常の大所帯では無くて、鍵盤・カホン・アコギという4人の少数精鋭部隊。コンパクトなステージでコンパクトな編成なのに、いつもと変わらない威力を放つというインパクトのデカさ……。いつどこで誰とやろうとも何も変わらないインパクトの凄みに拍手を送るしかない。

自分はケビン・コスナーだという自己紹介から、ありとあらゆるカバーをぶっ込んでいくスタイルも通常通りで、すっかり観客たちは雨を忘れているし、いつのまにやら雨もやみそう。羽織も脱いだと思いきや、十二単に着替えようとするが、そこも一筋縄にはいかず、90年代の珠玉のコント「MR. BATER」ワンシーンも盛り込まれたりと、ずっと一筋縄ではいかないし、「KMTR645」では、イルカのビニール浮き輪が「別府の海に帰してやってください!」と言い放たれて、観客の上を飛び交っている! 本人いわく「椅子の上に座って落ち着いてやりたかった!」とのことだが、これがレキシスタイル! 

『CIRCLE』出演も10年ぶりであり、そんな特別な時間には、レキシネームがニセレキシのU-zhaanも引っ張り出されて、カンジーラとの即興演奏で「RYDEEN」を謎の替え歌で歌う! ジャーマンテクノばりに、スクエアプッシャーばりに、U-zhaanのカンジーラが高速で繰り広げられ、そこにのせて池田は90年代の大ヒット曲を歌う。楽しみながらも最後まで、そんな感じかなのかと想いつつも、最後は「狩りから稲作へ」を歌いながらの無事着地。ずっと観客たちは稲穂を振っている熱狂興奮状態であったし、ライブが終わった頃には完全に雨はやんでいた。

終演後、会場にはRoger Nichols & The Small Circle Of Friends 「Don't Take Your Time」が流されている。この粋な終わり方も『CIRCLE』らしい。そして、YMO「テクノポリス」も流れていた。余韻に浸りながら、まだまだ胸騒ぎは終わらないし、早くも春の福岡『CIRCLE』→秋の別府『small circle』という恒例行事が九州の新たな風物詩にならないかと期待してしまう。池田の言葉を借りるならば、「別府また来年!」と心持ちである。

取材・文=鈴木淳史 写真=『small circle』提供(撮影:勝村祐紀)

イベント情報

『small circle’25』
日程:2025年10月4日(土)
会場:大分・別府 北浜公園

■出演者
青葉市子 with 小山田圭吾 & U-zhaan
Small Circle of Friends
長岡亮介
原田郁子
レキシ
 
主催: TONE / BEA
企画・制作: TONE / BEA / 音泉温楽
 
■オフィシャルサイト http://circle.fukuoka.jp
シェア / 保存先を選択