朗読劇『成瀬は天下を取りにいく』開幕レポート! 初の朗読劇で見えた成瀬の新たな魅力

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09:18
(C)松竹

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朗読劇『成瀬は天下を取りにいく』が、東京・草月ホールにて2025年9月13日(土)に初日を迎えた。本作は宮島未奈による青春小説『成瀬は天下を取りにいく』を原作とした初の朗読劇。脚本を土城温美、演出を野坂実が手掛ける。

初日公演では成瀬あかり役を岩田陽葵、島崎みゆき役を紡木吏佐、西浦航一郎役を梅田修一朗が担当。14日・15日公演では、それぞれ成瀬役を安済知佳と若山詩音、島崎役を諏訪ななかと青木陽菜、西浦役を今井文也と石谷春貴が演じ、全日程違ったキャストの組み合わせが楽しめる。

本記事では、成瀬の新たな魅力に気付かされた昼公演の様子をレポートする。

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朗読劇の醍醐味はやはり声の温度を直接感じ、登場人物たちが生きる世界を想像できるところだろう。滋賀県膳所市に成瀬あかりという少女が本当にいたなら、きっとこんなふうに生きただろう。そう思わせるほど、キャストの声によって人物像が立ち上がり、物語が鮮やかに息づいた。

物語は成瀬(岩田陽葵)が、親友の島崎(紡木吏佐)と組んだお笑いコンビ「ゼゼカラ」の解散宣言をするところから始まる。成瀬が突然発した衝撃の解散宣言を起点に、島崎や大貫かえで(藤寺美徳)、西浦(梅田修一朗)が、成瀬との思い出を回想していくという形でストーリーが進んでいった。

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まず驚いたのは、原作とは構成を入れ替えた序盤。この大胆かつ緻密に計算された脚本によって、たとえば本作で初めて成瀬あかりという人物を知る観客にとっては、「突然、相方に相談もなしに解散宣言をした彼女はどんな人物なんだろう?」と、一気に物語の世界に引き込まれるトリガーとなっていた。同時に、主人公としての成瀬の存在感が引き立ち、淡々とした筆致から感じ取れる原作で触れた成瀬像とはまた違った、成瀬の新たな魅力に触れられたように思う。

成瀬を演じた岩田は、アフタートークで自身はどちらかというと島崎に近いと語っていたが、彼女の演じる成瀬は自分なりの芯が通っているからこその凛とした強さと、年相応の感情の豊かさとを感じさせてくれた。言葉だけを拾えば淡々として見える成瀬。しかし、そこに彼女の芝居が乗ったことで、成瀬の雄弁さが持つパワーを肌で感じられ、島崎や西浦が彼女に惹かれてやまない理由がストンと胸に落ちてきた。彼女の透明感ある声は、嘘のない常に本気な成瀬にぴたりとハマるのだろう。終盤では、他者が語る成瀬から、成瀬が語る成瀬の物語へと移っていく。そこで垣間見える成瀬の苦悩も繊細に描き出していたのが印象的だ。

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そんな岩田と共演経験もある紡木が演じるのは、成瀬の幼馴染であり親友の島崎。島崎はとにかく成瀬が大好きなのだ。島崎が高いコミュ力を持っているから、周りから「変わっている」と言われる成瀬とも一緒にいられるのではなく、島崎自身が成瀬から目が離せないのだろう。紡木の演じる島崎の“親友力”の高さのおかげで、島崎への解像度が一気に上がるのを実感したほどだ。

2人は「ゼゼカラ」のコスチュームである、西武ライオンズのユニフォーム姿で登場。作中では「ゼゼカラ」としてネタを披露するシーンもある。関西弁を交えての成瀬と島崎の息のあった掛け合いを、リアルなコントのテンポで楽しめるのも本作の見どころだ。

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そして、中盤から登場するのが、成瀬に一目惚れする広島からやってきた少年・西浦。先日、稽古場を取材した際、西浦を演じる梅田は、初共演となる岩田と本番でどんな化学反応が生まれるのか楽しみだと話してくれた。その言葉通り、稽古で見学した際の西浦とは印象が少し違っていて、岩田の演じる成瀬に惹かれていく様子を色鮮やかに表現。成瀬に恋をしてボルテージが上がっていく西浦を、ときに甘酸っぱく、ときにコミカルに演じる。西浦が頑張る等身大な姿に、客席からはエールにも似た笑いが自然と生まれる場面もあった。

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そして、アンサンブルとして全公演に出演し、さまざまな役で作品を支える藤寺美徳、南波遥海、渡邉秀哉にも注目を。藤寺は成瀬が苦手な大貫かえで役にて存在感を発揮。自分にないものを持つ成瀬への複雑な感情や、周りからの視線が気になるという思春期の揺れる心を繊細に演じた。南波は島崎の母役などを担当。幅広い年齢層を巧みに演じ分けてみせた。渡邉は西浦の幼馴染・中橋結希人役を爽やかに演じ、西浦とのコンビ感もなんとも微笑ましいものに仕上がっていた。

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本編終了後には全公演でアフタートークも実施される。西武ライオンズファンである岩田が、衣裳と同じユニフォームを私物として持っていて、稽古初日に持参しようか悩んだエピソードを披露すると、客席から笑いが巻き起こる一幕も。クロストークや事前に募集した質問に答えるコーナー、プレゼントコーナーなどが実施され、本編同様、一瞬で時間が過ぎ去ってしまった。最後に、主演を務める岩田が「この作品を通して、前向きな気持や自分らしさ、明日を頑張ろうと思えるようなパワーがお届けできていたら嬉しいです」と締めくくると、劇場いっぱいの拍手に包まれた。

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本作では、成瀬、島崎、西浦は3人とも違った高さのセットの上に立つ。高低差のあるセットは、それ自体がキャラクターごとに“自分の立ち位置”を持つことを象徴しているようにも見えた。その人にはその人の道があり、一番高い場所に立つ成瀬は、きっと“天下”を見据えているのだろう。

原作の成瀬シリーズは、12月刊行予定のシリーズ第3作『成瀬は都を駆け抜ける』にて完結することが先日発表されたばかり。成瀬という我が道を行く少女の物語の終わりが見えた今だからこそ、改めて始まりの物語、この朗読劇で触れてみてはどうだろうか。

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公演情報

朗読劇『成瀬は天下を取りにいく』
 
公演日:2025年9月13日(土)~15日(月・祝)
 9月13日(土) 昼の部:開演 14:30、夜の部:開演 18:30
 9月14日(日) 昼の部:開演 14:30、夜の部:開演 18:30
 9月15日(月・祝) 昼の部:開演 13:00、夜の部:開演 17:00
※開場は、開演の30分前を予定しております。
会場:草月ホール

原作:宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』(新潮文庫刊)
演出:野坂実
脚本:土城温美
主催・製作:松竹株式会社
後援:日本テレビ放送網株式会社

出演:
9月13日(土)岩田陽葵/紡木吏佐/梅田修一朗 他
9月14日(日)安済知佳/諏訪ななか/今井文也 他
9月15日(月・祝)若山詩音/青木陽菜/石谷春貴 他
 
情報
料金:全席指定 SS席:11,000円(税込)、S席:9,900円(税込)
 A席:8,800円(税込)、B席:6,600円(税込)
 
■公演公式 HP・公式 X
・公式 HP:https://plan.shochiku.co.jp/naruseakari_roudoku/
・公式 X(旧 Twitter): https://x.com/naruse_roudoku
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