ショパンの名曲からオリジナルまで。ニュウニュウとともに奥深きピアノの世界へ~「イープラスpresents『ピアノの森』ピアノコンサート2025 Autumn」千秋楽公演レポート

レポート
クラシック
2025.12.24

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2025年11月16日(日)東京・浜離宮朝日ホールで「イープラスpresents『ピアノの森』ピアノコンサート2025 Autumn」が開催された。

ショパン国際ピアノコンクールを舞台に、若きピアニストたちの人間ドラマを描いた、一色まことによる漫画「ピアノの森」。森に捨てられたピアノをオモチャがわりにして遊んで(弾いて)いた天才的な才能を持つ少年、一ノ瀬海(カイ)。幼い頃からピアノの英才教育を受け、引っ越してカイと出会い、親友になった雨宮修平。かつて、数々の音楽コンクールで賞を総なめにしたが、交通事故によってピアニストとしての未来を失い、小学校の音楽教師をしている阿字野壮介。彼らを含め、個性的なキャラが多く登場する「ピアノの森」は、2007年にアニメーション映画化され、2018年・2019年にはテレビアニメとしても放送された。

「『ピアノの森』ピアノコンサート」は、ショパンの楽曲を中心に、「ピアノの森」の世界に浸って楽しむコンサートとして2021年に始まり、人気の高い公演となっている。2025年10月から11月にかけて全8公演で開催された「『ピアノの森』ピアノコンサート2025 Autumn」は、テレビアニメ「ピアノの森」の中で中国人ピアニストのパン・ウェイの弾くピアノを担当したニュウニュウを迎えて行われた。

一色まこと描きおろしの公演ビジュアル

一色まこと描きおろしの公演ビジュアル

この日は「イープラスpresents『ピアノの森』ピアノコンサート2025 Autumn」の千秋楽。各地での公演も好評だったが、最終日のこの日も最高の演奏を聞かせてくれた。

ニュウニュウがステージに登場すると大きな拍手が起こり、客席に一礼して、「ショパン:夜想曲 変ホ長調 Op.9-2」を演奏した。弾き終わると「皆さま、こんにちは。ピアニストのニュウニュウです。本日は『ピアノの森』ピアノコンサート2025 Autumnの最後のコンサートにお越しいただきありがとうございます。あっという間に7公演が終わり、今日が最後になってとても寂しいです」と挨拶し、「いつものように日本語を頑張ります」と話すと温かい拍手が響いた。そして「この公演では私が担当したパン・ウェイが演奏した曲だけでなく、カイや雨宮修平、阿字野など、様々な人物が演奏した曲をお届けします」と伝えた。

ニュウニュウ

ニュウニュウ

オープニング曲に選んだ「ショパン:夜想曲 変ホ長調 Op.9-2」は、実は「ピアノの森」には登場しない曲。「この曲はショパンのすべての作品の中で一番人気で、美しい楽曲ですのでお届けしました」と、演奏した理由を語った。

「ここからの2曲は、ストーリーを想像してお楽しみください」と伝え披露したのは、雨宮修平が第1次審査のプログラムのラストに演奏した「ショパン:バラード 第1番 ト短調 Op.23」と、カイがショパン・コンクールの第2次審査の前夜にバーで演奏した「ショパン:即興曲 第4番 嬰ハ短調 Op.66《幻想即興曲》」。ゆったりとしたテンポで低音域から高い音域へと広がっていく「バラード」、そして多くの人に馴染み深い「幻想即興曲」では流れるような情熱的な旋律から視野がパーッと広がるような美しい旋律へと展開し、オーディエンスをグッと楽曲の、ショパンの世界へと引き込んでいった。

次に演奏したのは「ショパン:ピアノ・ソナタ第2番 第3楽章 変ロ短調 Op.35《葬送》」と「ショパン:ピアノ・ソナタ第3番 第4楽章 ロ短調 Op.58」。「ピアノ・ソナタ第2番」はパン・ウェイが2次審査で弾いた曲で、「ピアノ・ソナタ第3番」はカイが2次審査で演奏。「今回のツアーのために、2曲の中から代表的な箇所を選んで組み合わせましたので、2曲の魅力を感じていただけると思います」と説明したとおり、今回のための特別なアレンジでの演奏となった。重々しい「葬送行進曲」からの疾走感のある「第3番」への展開は、ドラマティックさをより感じさせてくれるものになっていた。演奏が終わると大きな拍手が鳴り響き、第1部が終了。

第2部は、ニュウニュウが編曲を手がけた「茶色の小瓶」でスタート。この日のコンサートで初めてショパン以外の楽曲が登場。この曲はジョゼフ・ウィーナー作曲によるもので、グレン・ミラー楽団によるスィング・ジャズでの演奏がヒット。ジャズのスタンダードナンバーとして日本でも親しまれている楽曲で、CMにも多く使われているので、思わず口ずさんでしまいそうになる曲でもある。カイがショパン・コンクールの受賞者ガラ・コンサートで演奏しており、会場でこの曲を聴いてその場面を思い浮かべた人も多いはず。ここで披露したのは、今回のツアーのためにニュウニュウ自身がアレンジを手がけたバージョン。

軽快な音楽で会場の雰囲気も和やかになったところで、ここからは再びショパンの楽曲を演奏。20曲以上書いたと言われているワルツの中からジョルジュ・サンドと別れた頃に書かれた足取りの重い「ショパン:ワルツ 第7番 嬰ハ短調 Op.64-2」を。ショパンが生涯にわたって書き続け50以上の曲を残している、ポーランドの民族舞曲の一つである“マズルカ”からは、シューマンにも称賛された明るく軽快な旋律が印象的な「ショパン:マズルカ ニ短調 Op.33-2」を選択。さらに前奏曲からは「24の前奏曲」を締めくくる情熱的な「ショパン:24の前奏曲 第24番 ニ短調 Op.28」。“諧謔曲(かいぎゃくきょく)”と呼ばれるスケルツォはショパンは4曲を残しているが、その中で最もポピュラーな「ショパン:スケルツォ 第2番 変ロ短調 Op.31」を演奏。

それぞれの楽曲の説明をする中で「24の前奏曲」に関して「ラストの右手の人差し指と親指でドとミを抑えてゲンコツで力強くレの鍵盤を叩く奏法があります。それはピアニストのダン・タイソンさんが演奏されていました。僕も今日はその奏法で演奏してみます」と伝えて、その奏法に挑戦した。

続いて演奏されたのは、ニュウニュウ編曲による「エチュード・メドレー」。「ショパンのエチュードはとても思い出深い曲です。それは僕が12歳の時にリリースした2枚目のアルバムにも収録されていますし、日本での公演でもエチュードを演奏しましたので、エチュードを弾くと、その時の思い出がよみがえります」と思い入れの深さを伝えてから技巧的なエチュードを感情豊かに演奏してみせた。

ラストは「ショパン:ポロネーズ 第6番 変イ長調Op.53《英雄》」。「この曲を通して、皆様をプログラムの最後にポーランドの大平原へお連れしたいと思います」と言って演奏を始めた。この曲の旋律も多くの人にお馴染みのもので、大胆で力強さもありつつ、軽快で高揚感も与えてくれえる。演奏が終わると、大きな拍手で会場が包まれた。

アンコールを求める拍手に応えて、ニュウニュウが再度ステージに登場。「これからパン・ウェイじゃなくてニュウニュウに戻ります(笑)」と笑顔で話し、4月に浜離宮朝日ホールで行った『ニュウニュウ ピアノ・リサイタル2025』で初披露した4つの小品からなる自作組曲「WEATHER SUITE」を演奏。4つの天気をモチーフにした作品で全部演奏すると20分くらいになるということでメドレースタイルにアレンジしたものを披露した。さらに、「来月(12月)は日本にいないので、クリスマスプレゼントとしてこの曲を演奏します」と伝えて、チャイコフスキーの「くるみ割り人形」より「こんぺい糖の踊り〜行進曲」(ニュウニュウ編曲)を演奏。最後は「本日はありがとうございました。来年もまた皆さんとお会いできることを楽しみにしております」と伝えて、「ショパン:夜想曲 第20番 嬰ハ短調 遺作」で締めくくった。

「ピアノの森」で演奏されていた楽曲を通して、ショパンの楽曲、そしてその世界を体験させてくれたニュウニュウ。演奏曲の中に自身がアレンジしたもの、アンコールでは自作の最新曲も披露するなど、ピアニストとしてのニュウニュウの魅力もしっかりと受け取ることができたコンサートとなった。来年、自身のリサイタル、あるいは「ピアノの森」ピアノコンサートで、再びニュウニュウの演奏に会えるのを楽しみに待ちたい。

取材・文=田中隆信 撮影=池上夢貢

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