ピアニスト・ニュウニュウと旅する人生の道行きと感情~好評をうけ規模拡大でおくる『Lifetime』リサイタル・ツアー、東京公演をレポート

レポート
クラシック
12:00

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昨年(2024)秋の開催の好評を受け、追加でこの春にも公演を行うことになったというニュウニュウの『Lifetime』リサイタル・ツアー。2025年4月、浜離宮朝日ホール公演は、15人の作曲家とニュウニュウのオリジナル作品を通じ、「喜び、怒り、哀れ、楽しみ、愛、恨み、ロマンス、敵意、悲しみ、愉快、別れ、再会、誕生、老い、病、死」という、人間の16種類の感情や人生で歩む旅路を表現するというもの。

プログラムを開くと、ニュウニュウによる曲に寄せる想いも添えられたバラエティに富んだ曲目がならび、これらを聴きながらどんな感情や思い出が自分の中に浮かぶのか、聴く前から楽しみになる。

冒頭に演奏されたのは、ロッシーニ/リスト「『ウィリアム・テル』序曲 S.552」。一音目からガツンと目のさめるような音で客席全員の注意を惹きつけ、ダイナミックな行進が目前に浮かぶような表現で印象を残した。

マイクをとったニュウニュウは、もはや恒例となった流暢な日本語によるトークを披露。それぞれの作品によせるエピソードや、受け取って欲しい感情を補足しながらリサイタルを進行してゆく。これが比較的淡々とした語りながら、突然に強いメッセージを伝えてくることがあるので、聴衆もハッとさせられていたのではないだろうか。

ベートーヴェン「ロンド・ア・カプリッチョ《失われた小銭への怒り》」では、怒りを抑えきれないヒステリックな感情をどこかユーモラスに表現。自身による「即興曲 第2番《Miss》」では、軽やかな指捌きで、慈愛に満ちたメロディをたっぷり歌った。

「大切な人を抱きしめる気持ちを感じてほしい」として演奏したガーシュウィン=ワイルド「エチュード 第4番《君を抱いて》」は、なめらかなレガートを次々と繰り出しながら、しっとりした音楽の魅力を伝える。

次の曲の紹介をしたあと、一音目の前に長いためをとってから、チェン・ガン&へ・チャンハオの「バタフライ・ラヴァーズ・コンチェルト」より第1楽章のピアノソロ版へ。メロディを慈しむような表現が印象的だ。

「ネガティヴな気持ちは、大事な人にぶつけるのでなく、音楽で発散してください」というメッセージを語ったのちに演奏されたのは、ロシアの三人の作曲家たち。スクリャービンの「12のエチュード」より第12番《悲槍》は、一般に抱かれるイメージを覆すような感情を前に押し出すもので、新鮮だ。ロマンティックに歌うラフマニノフ=ニュウニュウの「パガニーニの主題による狂詩曲」より第18変奏をはさんで、プロコフィエフの4つの小品より第4曲「悪魔的暗示」。持ち前の手指の強さを活かし鮮烈な打楽器的サウンドを打ち鳴らして、センセーショナルな印象を残した。

そして「中国語には、“別れはより良い出会いのためのもの”という言葉があり、僕はそれを信じています」という話に続けて、グルックの歌劇『オルフェオとエウリディーチェ』より「精霊の踊り」。彼は以前オペラが好きだと話していたが、そんな一面が垣間見られる、ドラマティックで情感豊かな演奏を聴かせた。

後半の始まりは、ニュウニュウが「子供の頃、この曲を聞かないと眠らなったと母から聞いた」と紹介した、ブラームスの「子守歌」Op.49-4。前半とはうってかわって優しくなめらかな音を駆使し、あたたかい歌がうたわれ、ニュウニュウにとって本当に愛着のある曲だということが伝わる。

そこからそのままショパンの「英雄ポロネーズ」へ。素速い連続した打鍵が気持ちよく、勇壮な世界を描く。時折、独特の低音を強調してミステリアスな空気を醸したかと思えば、再び勢いを取り戻し、輝かしいフィナーレを迎えた。

ここからはニュウニュウの自作による「4つの小品」で、「Rainy Day」「Storm」「Rainbow」「Sunny Day」。「Sunny Day」以外の3曲は日本初演とのこと。雨の続いた日に晴れを恋しく思って書いた曲、苛立ちや不安を表現するような嵐の曲、それらが去ったあと現れる美しい虹を描いた曲、明るく晴れやかな空を表現するジャジーな曲と続く4部作。人間の心を映す空のストーリーを見るようだった。

プログラムの最後に置かれていたのは、ベートーヴェンの交響曲 第5番《運命》より第1楽章。ピアノを限界まで鳴らし切るかのようなオーケストラも顔負けのパワーのあるサウンドを駆使し、ベートーヴェンの交響曲の世界をピアノに転写する。運命の力強さ、残酷さ、エネルギーや前進する力をたっぷり届けてくれた。

本編で既に盛りだくさんのリサイタルだが、アンコールにまず、「薔薇色の人生」のニュウニュウによるジャズアレンジ版。惜しげもなくロマンティックさを前回にした演奏に、会場中うっとり。

そして最後に、「花火のようなまぶしいクラシックの魅力を味わってほしい」と、2023年のカウントダウンイベントのために書いたという、5分で8曲の名曲が入ったメドレー作品。ここまでさまざまな曲をパワフルに弾いた今なお、強靭なフィジカルとキレの良いテクニックで、時に体を弾ませながら、「運命」「熊蜂の飛行」「トルコ行進曲」「ハンガリー舞曲」「英雄ポロネーズ」「チャイコフスキーのピアノ協奏曲1番」「ラ・カンパネラ」「誰も寝てはならぬ」が連なる輝かしい音楽を弾き切った。

たくさんの音楽を浴び、大興奮の聴衆から贈られる喝采にニュウニュウはお辞儀と指ハートで応え、おやすみなさいのポーズをとって、演奏会の幕を閉じた。

取材・文=高坂はる香 撮影=池上夢貢

今後の公演予定

『ニュウニュウ ピアノ・リサイタル2025』
6月1日(日)開場13:00/開演13:30 川西市キセラホール
全席指定:¥5,000(税込)
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演奏曲目:
ロッシーニ:《ウィリアム・テル》序曲より フィナーレ
ベートーヴェン:ロンド・ア・カプリッチョ《失われた小銭への怒り》
ニュウニュウ:即興曲 第2番 “Miss”
ガーシュウィン:エチュード第4番《君を抱いて》
チェン・ガン&ヘ・チャンハオ:バタフライ・ラヴァーズ・コンチェルトより第1楽章
スクリャービン:12のエチュードより 第12番《悲愴》
ラフマニノフ/ニュウニュウ:パガニーニの主題による狂詩曲より第18変奏
プロコフィエフ:4つの小品より第4曲:悪魔的暗示
グルック:歌劇《オルフェオとエウリディーチェ》より「精霊の踊り」
プッチーニ:歌劇《トゥーランドット》より「誰も寝てはならぬ」
ブラームス:子守歌 作品49-4
坂本龍一:Energy Flow
ショパン:英雄ポロネーズ
ニュウニュウ:4つの小品
Rainy Day /Storm /Rainbow /Sunny Day
ベートーヴェン/リスト:交響曲第5番《運命》第1楽章
 
『プレミアムナイト Delicious Sound~美味しい協奏曲の宴~』
6月4日(水)開場18:15/開演19:00 紀尾井ホール
指定:¥7,000(税込)
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『俺クラ・スペシャル 人気ソリストたちが集結!極上の音楽を!』
6月13日(金)開場18:00/開演18:30 札幌コンサートホールKitara大ホール
プレミアム席:¥7,500(完売)
A席:¥6,000
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『関西フィルハーモニー管弦楽団 第15回城陽定期演奏会』
8月24日(日)開場13:00/開演14:00 文化パルク城陽 プラムホール
全席指定(一般):¥4,500
全席指定(学生):¥2,000
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