「お客様との一期一会を楽しみながら届けたい」~上白石萌歌が語る、舞台『大地の子』の魅力とは
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上白石萌歌
『白い巨塔』や『沈まぬ太陽』など、数々の大作を世に出してきた山崎豊子による小説『大地の子』を原作とした舞台が、2026年2月・3月に明治座で上演される。
戦争孤児となって中国人教師に救われ、中国人民として育てられる主人公「陸一心(ルー・イーシン)」の命を救い、のちに彼の妻となる看護婦・江月梅(チアンユエメイ)を演じる上白石萌歌にインタビューを行った。
■役の感情に嘘なくお芝居をしたい
ーー物語について、どんな魅力を感じていますか?
主人公の一心はとてつもなく過酷な運命に翻弄されますが、いろいろな人が彼に差し伸べた手をしっかり握ってひたむきに人生を歩んでいきます。読んだ時は何度も心が痛みましたが、読み終わった時にはどこかあたたかい気持ちや清々しさが胸に広がりました。お客様にも、見終わった時に「自分は今をしっかり生きるんだ」という気持ちになってもらえたらいいなと思うので、何度も読んで理解を深めたいです。
上白石萌歌
ーー原作者の山崎さんが何度も取材を重ねて書いた作品に向き合う上で、どういったことを大切にしようと考えているか教えてください。
私自身、戦争を直接経験していない世代ですし、経験した方もどんどん少なくなってきています。その中で、俳優が語り部として物語を届け、今生きる人たちに伝える役割を持っているのかなと思います。
当時を知らなくても、文献を読んで理解を深めたり、自分が知らないことを想像したりすることはできるので、たくさん想像力を働かせ、演出の栗山(民也)さんから受け取る言葉を大切に演じていきたいです。
ーーちなみに、上白石さんが俳優として特に大切にしていること、お芝居におけるこだわりはなんですか?
なるべく、自分から発せられる感情に嘘なくいたいと思っています。役を憑依させられるタイプの人間ではないんですが、必死に考え続ければその役の心にはなれるだろうと思っているので、日々必死に考えています。今回も江月梅として発せられるひとつひとつの感情になるべく嘘なく、心を動かしながらお芝居できたらいいなと思っています。
ーー演じる役の魅力、江月梅をどのような人物として捉えているか教えてください。
私が演じる江月梅は、中国の僻地を回る巡回医療隊員として、いろいろな方を救っています。その中で井上芳雄さん演じる一心の命を救い、のちに妻となる役です。すごく正義感があり、佇まいは静かですが、心の奥に燃えるようなものや芯を持っている人だと思います。
また、彼女の父親は一心と同じように冤罪をかけられた上、迫害されて自殺してしまったので、一心にどこか父親への思いを重ねていると思います。一心の過酷な運命に寄り添い、支えていく妻であり、自分の信念も強く持っている人だと捉えています。今回も、井上芳雄さんや栗山さんの言葉を信じて作っていけたらいいなと思っています。
上白石萌歌
ーー今回に限らず、役を分析するためにされていることはありますか?
私は役に関する妄想をするのが好きで、普段はプロフィール帳を書いています。今回の役にはちょっと合わないかと思いますが、その役の将来の夢や好きな色、休日の過ごし方など、脚本に書かれていない部分まで想像して。直接お芝居に役立つかはわかりませんが、自分がその役を愛するためにやっていることの一つです。
江月梅は実在した人物ではありませんが、史実に基づいたお話なので、時代背景や当時の日本と満州の関係性、中国全体の社会情勢などを学んだ上で、彼女がどんな思いで日々を生き、どんなことを感じていたのか想像したいです。
ーー役について想像することで一心同体になるイメージでしょうか。
役と向き合うときは、「あなたのことを私が一番理解したいよ」という気持ちでいます。役にとって信頼できる人間でありたいですね。
私には憑依させる・役を降ろすといった能力はないので、一人の友達と接するように信頼されたい。私も役を信じ、心の内や運命を想像した上で、手を取って一緒に歩んでいけたらいいなと思っています。
■栗山さんの力を借りて、自分のお芝居を改革できたら
ーー栗山さんの演出で得られたこと、印象深い言葉などを教えてください。
インタビューなどで「あなたが影響を受けた人物は誰ですか?」と聞かれた時、真っ先にお名前をあげるくらいの存在です。以前ご一緒した時、私は20歳くらいでしたが、忘れ難い時間ですね。『ゲルニカ』(2020年)も戦争をテーマにした作品だったので、「生きるってどういうことだろう」、「平和・戦争ってなんだろう」と日々考えました。
栗山さんの言葉はすごく感覚的でありながら、的確にいろいろなことを伝えてくれます。印象的だったのは、「袖にはけるんじゃなく消えてください」という言葉。感覚的なので説明が難しいのですが、すごくわかるんです。
『ゲルニカ』は自分の体を通して役の心をちゃんと味わいながら体現できた感覚があったので、今回もきっと役の心が自分の心に宿るんじゃないかと思います。栗山さんとご一緒するのは5年ぶりなので緊張で背筋が伸びる思いもありますが、お稽古が楽しみです。
上白石萌歌
ーー井上芳雄さんとの共演についてはいかがでしょう。
共演自体は久しぶりですが、姉と何度も共演されているので舞台裏でお会いしたりしていました。勝手ながら親戚のような親しみを持っています。芳雄さんは非常に柔らかくて聡明でユーモアのある方なので、早くお芝居をしたい気持ちでいっぱいです。芳雄さんの素敵なお芝居に身を委ねながら、一心を支える灯火のような存在を演じられたらと思っています。
ーー舞台公演の醍醐味を教えてください。
その演目を何公演やっても一度も同じ回がないこと、演目が生き物のように変化・進化していくのを肌で感じながらお芝居するのが楽しいです。何より、テレビや映画と違ってメディアを介さず、生きているままをお客様に感じていただけるのが一番の魅力だと思います。
私自身も舞台を見にいくのがすごく好きですが、舞台上に人が立ってセリフを発しているのを見ると、「ああ、人が生きているな」とすごく実感します。舞台はお芝居の起源でもありますし、すごく神聖なものだと思っているので、お客様との一期一会を楽しみながら、毎回フレッシュにお届けしたいです。
ーー今回、ご自身の中で目標にしていることはありますか?
栗山さんのマジックみたいなものがある気がしています。『ゲルニカ』では、お芝居の感覚、セリフを通して自分の心を動かすことの大切さなどを学びました。栗山さんは私のお芝居の改革を手伝ってくださった方だと思っています。この前『ゲルニカ』の脚本を読み返したら、ページが真っ黒になるくらい細かくメモしていました。当時の自分の熱量、お稽古で感じた気持ちも改めて思い出しました。今回もいただく言葉を一つもこぼさずに日々過ごせたらと思っています。
上白石萌歌
取材・文=吉田沙奈 撮影=中田智章
公演情報
会場 明治座
原作 山崎豊子『大地の子』(文春文庫)
脚本 マキノノゾミ
演出 栗山民也
出演
井上芳雄 奈緒 上白石萌歌 山西惇 益岡徹
飯田洋輔 浅野雅博
お問合せ 東宝テレザーブ 0570-00-7777(ナビダイヤル/11:00~17:00)