「ピアフの人生をみんなで成立させたい」大竹しのぶ×梅沢昌代×彩輝なお×廣瀬友祐×藤岡正明による『ピアフ』キャスト座談会

インタビュー
舞台
2026.1.8
左から 彩輝なお、藤岡正明、大竹しのぶ、廣瀬友祐、梅沢昌代

左から 彩輝なお、藤岡正明、大竹しのぶ、廣瀬友祐、梅沢昌代

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2026年1月、通算200回を超える『ピアフ』上演15周年記念公演が開幕する。

フランスのシャンソン歌手エディット・ピアフの生き様を、「愛の讃歌」や「バラ色の人生」といった名曲の数々と共に紡いでいく本作。パム・ジェムス作×栗山民也演出×大竹しのぶ主演により、2011年から上演を続けて多くの人々を魅了してきた。

初演から出演を続ける大竹しのぶ、梅沢昌代、彩輝なお、そして今回初参加となる廣瀬友祐、2013年公演以来のカムバックとなる藤岡正明ら5人に話を聞いた。座談会では、ピアフと彼女を愛した人々の関係性や、作品にまつわる懐かしい思い出が口々に語られた。

演出家・栗山民也の稽古場は?

大竹しのぶ

大竹しのぶ

――演出の栗山民也さんが率いる『ピアフ』の稽古場は、いつもどんな感じなんですか?

大竹:栗山さんがどんどん稽古を進めていくので、やっている私たちがあたふたしちゃう感じです(笑)。ゆったりのんびりではなく、次から次へ新しいことに取り組んでいくんです。

藤岡:栗山さんの現場はいつもそうですね。集中してスピーディーに進めていくので、ありがたいことに稽古が終わる時間も早いんです。

大竹:終わりが早い分、残って自主練をすることもよくありますね。

藤岡:廣瀬くんは、栗山さん演出の経験は?

廣瀬:ミュージカル『スリル・ミー』(2023年)で、一度ご一緒させていただきました。

梅沢:『ピアフ』は廣瀬さんのように初めて参加する方もいらっしゃいます。緊張したり戸惑ったりすることもあるかもしれませんが、やりたいようにやっていいんですよ。

大竹:そうそう。まずは自分が思った通りにやってみるのがいいと思います。

梅沢:役者は想像力。自分で発想したことを持ち込んで稽古場で出せば、演出家とセッションできます。栗山さんはそれにしっかり応えてくれる、良い演出家だと思いますよ。

彩輝:私は栗山さんのダメ出しが好きです。自分が出ていないシーンでも、稽古を見ているとすごく勉強になるんですよ。印象的なのは、『ピアフ』初演のときに「ドイツ語っぽく喋って」と言われたこと(笑)。私の役がドイツ人だからなんでしょうけれど、「日本語をドイツ語っぽくとは?」と、毎回思い出してしまいます(笑)。

大竹:稽古中は栗山さんの表情を見ているだけで「今の芝居気に入ってないなあ」とか「これは気に入ったんだなあ」とか、すぐにわかります(笑)。

藤岡:確かに(笑)。きっと栗山さんの頭の中には、見たい画がはっきりと描かれているんでしょうね。

約一カ月半にわたる公演期間。オン・オフの切り替えは……

藤岡正明、廣瀬友祐

藤岡正明、廣瀬友祐

――公演期間、日々新鮮に役を演じるためにしていることはありますか?

藤岡:僕は恥ずかしい話、お酒ですね(笑)。

一同:(笑)。

藤岡:本番が終わったあとは、お酒を飲んで身体と脳みそをオフにしないと眠れないんですよ。寝ないと翌日に響いちゃうでしょう? だから、僕は公演中は絶対にお酒を抜きません!

大竹:普通逆だよね(笑)。「公演中はお酒を飲みません」ならわかるけど(笑)。

廣瀬:僕みたいにお酒が飲めない人は、どうしたらいいですかね?

藤岡:そっか、廣瀬くんは飲めないんだっけ。

彩輝:私の場合は、家に帰ってからちょっとした時間にパズルゲームをしています。仕事と全然関係ないし、何も考えずにいられるじゃないですか。意識してやっていたわけじゃないけれど、それが自然とオンオフの切り替えになっていたのかなと思います。

廣瀬:なるほど。僕は何か決めてやっていることやルーティンのようなものが全くないんです。ただ、毎公演とても緊張するので、そういう意味では無意識に新鮮にできているのかもしれません。

大竹:私も決まってやっていることはないなあ。しいて言えば、最近『リア王』に出演していたときは、開演5分前に “社長ギャグ”をしていました(笑)。衣装で男性もののスーツを着ていたので、キャストのみんなが揃っているところで「◯◯くん、頑張りたまえ」みたいな。それがいつも楽しみでしたね(笑)。

梅沢:私も本番が始まる前はすごく緊張するんですよ。だからいつも、舞台袖のソファに座って心の中でお祈りをしてから舞台に出るようにしています。時とともに亡くなる人が増えていくので、お祈りの時間もどんどん長くなっちゃうんです(笑)。

藤岡:そういえば、ばんちょうさん(辻萬長)※がものすごくルーティンを大切にする人でしたね。

大竹:そうそう! 何時何分にお稲荷さんを2個食べるとか、トイレに行く時間も決まっていました。

藤岡:全部が分刻みなんですよね。そのルーティンが崩れるのがとにかく嫌だという人でした。

梅沢:だから話しかけちゃいけないんです(笑)。

大竹:昔、誰かがばんちょうさんにいたずらを仕掛けたことがありました。トイレが少ない劇場で、ばんちょうさんが入れないように先にトイレに入ってしまったんです(笑)。「開けろ〜!」って怒っていましたね(笑)。

梅沢:お稲荷さんを勝手にひとつ食べちゃういたずらもありました(笑)。

藤岡:ばんちょうさんと共演していたとき、そのルーティンは何のためにやっているのか聞いたことがあります。そうしたら、やっぱり舞台に上がるための準備なのだと。ルーティンをこなしながら、少しずつ役に入っていくんだそうです。

大竹:舞台袖にもすごく早く着いていたよね。私はいつも直前なのに。ああ、懐かしいなあ。ばんちょうさ〜ん!

※2011年からルイ・ルプレ役で『ピアフ』に出演。2021年8月に亡くなった。

名曲揃いなだけじゃない、演劇で伝えられる“生々しさ”

彩輝なお、梅沢昌代

彩輝なお、梅沢昌代

――『ピアフ』には名曲がたくさん登場しますが、特に好きなナンバーを教えてください。

藤岡:う〜ん、絞るのは難しいなあ。

大竹:私、藤岡くんが歌う「帰れソレントへ」好きですよ。みんなが歌う「リリー・マルレーン」も好き。舞台の奥からみんながバーッと出てきて、一人ひとりが心の底から歌うシーンがすごく好きなんです。

彩輝:あのシーンを前から見ていられるのは、しのぶさんだけですもんね。私は「モンデュー」が好きです。ピアフが「神様 神様♪」と歌うところ。しのぶさんも美しいですし、祈りのように歌う声のトーンも含めて大好きなんです。そういえば最近、音楽監督の甲斐(正人)先生の歌稽古も始まりましたね。

梅沢:甲斐先生からのアドバイスも好きです。「ミロール」という曲の歌詞に「おいでよ」とあるのですが、そこは両手を広げて「みんなおいでよ!」という気持ちで歌うようにと。音の話ではなく、身体と心を使って「おいでよ!」と表現するという意味ですね。とても素敵だなあと思いました。

彩輝:甲斐先生の指導は情熱的ですよね。私は「ミロール」でみなさんが動き回っている裏で影コーラスをさせてもらっているのですが、あの曲は息継ぎする間もないくらい大変なんです。

廣瀬:「ミロール」は戦争が終わったあとの歓びの歌なので、パワフルにエネルギッシュに歌わなくてはいけないシーンなんですよね。まだ稽古の序盤なのですが、今の時点でもう結構大変。これから稽古が進むにつれて、もっととんでもないことになるんだろうなと覚悟しています。

――『ピアフ』の前回公演の初日の2022年2月24日、ロシアとウクライナの戦争が始まりました。劇中の「戦争が始まりました」というセリフが現実とシンクロして、客席で観ていて鳥肌が立ちました。

梅沢:あれは現実でも今まさに戦争が始まった瞬間だったから、演じている我々役者もざわっとした心持ちで舞台上にいた気がします。ただ、私たちは戦争をわかっているつもりでいて、直接は体験していないんですよね。

大竹:そういえば「いつかロシアとウクライナの戦争が終わったときに、現地の人たちが『ミロール』を歌ったらどうなるだろうね」と、梅ちゃん(梅沢)と話したことがありました。

藤岡:13年前に『ピアフ』に出演したときの栗山さんの言葉を思い出します。「世の中では戦争が起こっていて、だけど僕は『演劇で世界は変えられる』と思ってこの世界に飛び込んだ。時が経った今でもそう信じている」と。すごく印象的で素敵な言葉ですよね。実際に今も世界中で戦争は起きていて、じゃあ我々に一体何ができるのかというと、演劇を通して何かを届けることなんですよね。戦争を経験したことがない人たちに、戦争はフィクションじゃないんだよと、画面越しでは伝えられない生々しさを伝えていきたいです。

ピアフを取り巻く熱き「愛」の物語。
ひとりの力じゃ絶対に成り立たない

――みなさんそれぞれの役のやりがいを教えてください。まず、ピアフの親友トワーヌ役の梅沢さんはいかがでしょう?

梅沢:いつかの公演で、終盤のシーンで私(トワーヌ)が登場したときに拍手をしてくれた方がひとりいたんです。「あー」という小さな声も聞こえました。きっと「ピアフのためにトワーヌが来てくれた」と思ってくださったんだなあって。それがとっても嬉しくて、そう思ってくださるお客様のためにも頑張ろうと思いました。トワーヌは貧しいときからピアフと共に暮らし、いつも側にいるわけではないけれどピアフをずっと見守ってきた人。口汚いところもあるけれど、どこかでピアフと繋がっていて大事に想い続けているんです。しのぶちゃんとの信頼関係があるからこその、ピアフとトワーヌだと思います。

――ピアフの盟友であり、女優で歌手のマレーネ・ディートリッヒを演じる彩輝さんは?

彩輝:今のお話を聞いていて、マレーネもピアフが落ち込んでいるときに登場するのかもしれないなと思いました。マレーネとピアフは歳の差があっても、同じ時代に女性として生まれ、過酷な状況下でも人を愛し、愛され、たくましく生きてきました。二人は互いに奔放で、自分に正直な女性であったところも似ていると思います。マレーネから見ても、響き合う魂のようなものを感じたのでしょう。マレーネが登場するのは短い場面ではありますが、それらを大切にしながら、舞台上の空気として醸し出していけたらと思います。

――ピアフを愛する男たちを演じるお二人はいかがですか?

藤岡:僕はイヴ・モンタンや他にもいろいろな役を演じますが、本当にしのぶさんのお芝居は毎日違うんですよ。ピアフとして存在して、その瞬間を生きていらっしゃる。だから一緒に舞台に立つこちらも、目が合う、呼吸をする、会話をするということを一公演一公演、徹底的に大事にしていきたいです。昔、吉田鋼太郎さんとお酒を飲んでいたらすごいことを言われました。「(芝居が)上手い役者はいっぱいいるんだ。でも上手いだけじゃ食っていけない。“すげえ”上手くなきゃいけないんだ」と。だから、“すげえ”上手かったら、しのぶさんのピアフに愛してもらえるのかなと思います(笑)。

廣瀬:ワンシーンワンシーンが短くて、ピアフの人生がギュッと凝縮されている作品だと思います。特に男たちがピアフと愛し合うシーンは、本当に一瞬なんです。まささん(藤岡)が今「“すげえ”上手い」と言っていましたが、ともすればしのぶさんの演技力だけで成り立ってしまうことも大いにあると思うんです。もちろん芝居は相手ありきだということはわかっています。でもそう思ってしまうくらい、しのぶさんのピアフの芝居からは凄まじいものを感じました。なので、僕はマルセル・セルダンとしてしっかり存在して、ピアフの愛やマルセルの愛がより鮮やかになるように挑戦していきたいです。

――最後に、ピアフを演じる大竹さんもお願いします。

大竹:『ピアフ』は本当に熱い芝居だと思います。そしてやっぱり、愛がテーマの作品です。私、ピアフとテオ(ピアフの生涯最後の恋人、テオ・サラポ)が二人で歌う「恋は何のために(A quoi ça sert l'amour)」が好きで。「愛は哀しくない 愛はずっとあなたの耳に残っているでしょう だから辛いことがあっても私はずっと愛を信じるわ」と歌うんです。ピアフはそうやって生きてきた人なのだと思います。そんなピアフの人生をみんなで成立させたいです。廣瀬くんが「しのぶさんの演技力だけで」と言ってくれましたが、ひとりじゃ絶対に無理。冒頭のパリの街のシーンは、一瞬にして作品の世界観やどんな人たちが生きているのかがわかる演出になっているので、ひとりでも力を抜いたらきっと目立ってしまいます。芝居というのはひとつの絵がずっとめくられていくようにできているので、それをみんなで一緒に作ってお見せしたいですね。でも、私たち(大竹と梅沢)はまず10代を演じなくちゃいけないのよねえ。もう無理なんじゃないかっていつも思います(笑)。

梅沢:そんなの最初(初演)から無理なんですよ(笑)。

大竹:そっか〜、最初から無理だったのね。失礼しました(笑)。

藤岡:いやいや、お二人共ここまで15年間やってきたわけですから!

大竹:そうね(笑)。2026年公演もみんなで頑張りましょう!

取材・文=松村蘭(らんねえ) 撮影=荒川潤

公演情報

上演15周年記念公演『ピアフ』

作:パム・ジェムス 演出:栗山民也
主演:大竹しのぶ(エディット・ピアフ)
出演:梅沢昌代(トワーヌ) 彩輝なお(マレーネ・ディートリッヒ)
廣瀬友祐(マルセル・セルダン) 上原理生(シャルル・アズナブール)
藤岡正明(イヴ・モンタン) 山崎大輝(テオ・サラポ)
川久保拓司(ルイ・バリエ) 前田一世(ブルーノ) 土屋佑壱(ルイ・ルプレ) ほか
 
【公演日程】
2026年1月10日~1月31日 日比谷シアタークリエ
2026年2月6日~8日 愛知・御園座
2026年2月21日~23日 大阪・森ノ宮ピロティホール
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