「これからは自分でレールを敷いていく」音楽座ミュージカル退団後の高野菜々が再スタート!〜ソロコンサート『GIFT』広島・東京2都市で開催〜
東京公演会場 I’M A SHOW(アイマショウ)前にて
ミュージカル俳優・声優として活躍する高野菜々が、再スタートを切る。
2025年3月末、高野は長年所属してきた音楽座ミュージカルを退団。同年8月には自身が代表を務める株式会社nana lab.を立ち上げた。2026年3月には、広島と東京の2都市で退団後初のソロコンサート『GIFT』を上演する。
激動の2025年を駆け抜けた高野に、ホームである音楽座ミュージカルへの想いと、これからの新たな挑戦への意気込みを聞いた。高野は未来を見つめて目をキラキラと輝かせながら、活き活きとした笑顔で語ってくれた。
退団と起業「いよいよネクストステップへ」
――音楽座ミュージカルを退団された経緯から聞かせていただけますか?
2024年の夏、音楽座ミュージカルの『SUNDAY(サンデイ)』というオリジナル作品に出演しました。初めてオリジナルキャストとしてゼロからイチを作る経験をさせてもらった、特別な思い入れのある作品です。2018年に初演、2020年に再演、昨年が再々演でした。再演時はちょうどコロナ禍で、私の故郷である広島公演が中止になるなど悔しい思いをしました。でも昨年の再々演では広島で大千龝楽を迎えることができて、大きな安堵感と同時に、やりきったなあという達成感があったんです。
――初演から再々演まで出演を重ねていく過程で、役を深めきったということでしょうか?
そうですね。音楽座ミュージカルにおける再演は、実質的には再演じゃないところがあります。たとえ同じ作品を上演するとしても、常に今の時代にフィットするものを作り続けていくのが音楽座ミュージカルです。私自身も、再演の度に役作りを深めようとできる限りのことをやり尽くしました。『SUNDAY(サンデイ)』は原作がアガサ・クリスティの小説だったので、アガサが見たであろう景色を見るためにロンドンへ行ったり、小説に出てくる丘に登ったりしたこともあります。苦労が大きかった分、再々演を終えたあとに「いよいよネクストステップのタイミングかな」と自然に思えたんです。
音楽座ミュージカルが私にとって大好きなホームであることに変わりはありません。音楽座ミュージカルでの経験を通して、自分はオリジナルミュージカルに関わっていると思っていました。でも、実際は誰かに作ってもらったレールの上を綺麗に走らせてもらっていたのかもしれない、と気付いたんです。これまでありがたい環境を作っていただいたからこそ、これからは自分でレールを敷いていく挑戦をしていかなければと感じました。
――その挑戦のために、2025年8月に株式会社nana lab.を立ち上げたんですね。
それもありますが、誰かにとっての居場所づくりをしたいと思ったことも起業のきっかけなんです。私は「人には誰しも消えない孤独がある」と思っていて、そんな私にとって音楽座ミュージカルは絶対的な安心安全の場所でした。19歳で飛び込んで30代半ばまで所属していたので、自分の価値観を作ってもらった場所でもあります。だから今回、自分のレールを作るぞと決めたときに、誰かにとっての居場所作りをどうしてもしたいと思ったんです。それが起業に至った経緯ですね。
――会社を立ち上げてから約4ヶ月、怒涛の日々だったのではないでしょうか。
本当に! 自分が代表という立場になって初めて、見えている世界の違いにも気付かされました。特に実感しているのは「生き方を決めること」の大切さです。人の意見を聞くことももちろん大切ですが、自分がどういう考えに基づいて生き方を選択しているのかという、価値観を持つことの大事さを感じるようになりました。一般的な「良し悪し」や「損得」で判断するのではなく、もっと大切な「信念」を持ちたいと。もし私の価値観がブレていたら、会社の社員のみんなも迷ってしまいますよね。まだまだできてはいないかもしれませんが、責任を持って体現していきたいと思います。
――nana lab.で大切にしている価値観のひとつに、「時間は未来からやってくる」と挙げていらっしゃいます。これはどのような意味ですか?
これから先の未来を信じることで、今を作っていくという発想です。過去の延長線上に今があると思うと、過去の自分を言い訳にしてしまって変われないような感覚がありました。そうやって過去に縛られるのではなく、理想の未来の姿を見つめて、物事を柔軟に受け入れて変わっていこうという意味なんです。
2026年3月に開催するコンサートのタイトル『GIFT』にもそんな想いを込めました。今という現在地で物事を見たときに、捉え方次第でどんなものでも自分にとってのギフトになるんだよ、と。高野菜々として再スタートを切るにあたって、私はそういう生き方をしていきたいという意思表明でもあるんです。私のソロコンサートではあるのですが、ミュージカル仕立ての要素も入れたいなと考えています。自分自身のこれまでの生い立ちや、ヒストリー的なものを基にして、思いが伝わるようなものにしたいですね。
縁あるゲストとの共演〜咲妃みゆ・新妻聖子・福井晶一〜
東京公演会場 I’M A SHOW(アイマショウ)前にて
――コンサートは広島で1回と東京で2回の公演があり、それぞれ異なるゲストがいらっしゃいます。各ゲストとのご縁を聞かせてください。
私がミュージカル俳優を目指すきっかけになったのが、中学2年生のときに広島で観た劇団四季の『キャッツ』なんです。そこにラム・タム・タガー役で出演されていたのが福井晶一さん。演出でタガーが客席のお客さんをひとりステージ上に連れ去るシーンがあるのですが、どうしてもそれに選んでもらいたくて! どこに座れば連れ去ってもらえるのか、劇場のスタッフさんに聞いてチェックしていました(笑)。結局連れ去ってもらうことは叶わなかったのですが……ミュージカル『生きる』(2023年)に出演させていただいたときに、やっと福井さんとの共演が叶ったんです! 福井さんは元々音楽座ミュージカルがお好きで、作品を観に来てくださったり、『シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ』の東宝版に出演されたり、そういう意味でもご縁がありました。
――音楽座ミュージカルの代表作である『シャボン玉とんだ宇宙までとんだ』には、高野さんも折口佳代役で出演されていました。東宝版で同じ役を演じたのが、咲妃みゆさんですね。
そうなんです。私が東宝版を観劇した際に、福井さんのご紹介で咲妃さんに楽屋でご挨拶させていただく機会がありました。折口佳代という大変な役を演じたからこその苦労を分かち合うことができて、会って間もないのに戦友のように感じたんです。それ以来、一緒に食事に行ったり観劇したり、ありがたいことにとても仲良くさせていただいています。私は彼女の舞台に対する情熱や役作りへの探究心を尊敬していて、ひとりの女優としても憧れています。だからこそ、私にとって大切な広島という場所に来てほしくて、直談判でゲスト出演をお願いしたんです。その想いが通じて、広島での初共演が叶うことになりました。
――同じ役を演じた者同士、通じ合うものがあったんですね。東京公演のゲスト、新妻聖子さんとの出会いはいつだったんですか?
新妻さんとの出会いは、私が高校を卒業して間もない頃です。当時の私は宝塚歌劇団を目指していたのですが、音楽学校の受験に合格できず、人生で初めての大きな挫折を味わっていました。そんなうじうじしている私を見かねた高校の先生が、広島交響楽団のコンサートに学生バックコーラス&バックダンサーとして出演しないかと声をかけてくださったんです。そのコンサートのゲストが、新妻聖子さんと今井清隆さんでした。憧れのお二人との共演ということで、張り切って参加したんです。終了後に新妻さんのお見送りをしたのですが、なんと新妻さんが私のところまで駆け寄って来てくださって「あなた、輝いてたよ」と一言。この言葉がどれほど嬉しかったことか! もう夢も希望もないと落ち込んでいたけれど、新妻さんのような心の温かい方になりたいと強く思ったんです。
その後、新妻さんが音楽座ミュージカルの『21C:マドモアゼル モーツァルト』のモーツァルト役で菊田一夫演劇賞を受賞されていたことを知り、音楽座ミュージカルの存在を知りました。しかもその直後に、音楽座ミュージカル初の関西オーディションが行われたんです。結果的にそのオーディションに合格し、『マドモアゼル・モーツァルト』のモーツァルト役で初舞台を踏ませていただくことになりました。こうして私は新妻さんに夢の種をいただいたので、「Gift for the future ~夢のバトンプロジェクト~」と名付けたnana lab.のプロジェクトの一環として、夢につながるきっかけを作りたいと、広島在住の子どもキャストオーディションを開催したんです。
広島での活動は「表現における個人的なミッション」
――子どもキャストオーディションに合格された方は、コンサート『GIFT』に出演されるそうですね。
そうなんです。広島県呉市在住の小学5年生(10歳)才迫絆生(さいさこ・きい)さんに決まりました。対面でワークショップをしながらのオーディションだったのですが、私や審査員が歌のディレクションをしたあとにもう一度歌ってもらったら、別人のようにガラッと変わったんです。きっと彼女自身も意図していないような変化だったと思います。周りを元気にさせる力を持つ、爆発的なものでした。才迫さんには広島公演と東京公演の両方に出演してもらいます。彼女にはミュージカル仕立てのコーナーで私自身の子ども時代を表現してもらいたいなあと、今ワクワクしながら演出や脚本を考えているところです。
――コンサートを広島で開催されたり、広島在住の子どもたちのオーディションを行ったり、故郷の広島には特別な思い入れがあるんですね。
広島での活動は、表現することに対して持つ個人的なミッションなんです。モーツァルト役を演じた『21C:マドモアゼル モーツァルト』は戦争もテーマとして含まれている作品なのですが、当時、音楽座ミュージカル創設者の相川レイ子さんから「あなたは広島に生まれたのだから、その意味をもっと考えなさい」という言葉をいただきました。それを機に、自分のルーツをしっかり持って生きていこうと思い直したんです。もしかしたら広島に生まれたことに意味はないのかもしれないけれど、そこに自分がどう意味を見つけるかが大事なのだと思います。
相川さんは2016年に亡くなったのですが、彼女の存在は私の人生に大きな影響を与えてくれました。劇団の作品を体現しているような、愛に溢れた方でした。普通の人は絶対に選ばないような選択をする人でもありました。“Give and Take”ではなく、“Give Give Give Give”の精神だったんです。綺麗事だと思われてしまうかもしれないけれど、でも私はそんな彼女の生き方をこの目で見て、憧れてきました。彼女の生き方こそが音楽座ミュージカルマインドだと思います。そのマインドは、私にとってギフトなので、nana lab.でもみんなで一緒にワクワクしながら創造する時間を作っていきたいんです。
――最後に、nana lab.として、そして高野さん自身として描いている展望を聞かせてください。
私の創造の原動力は孤独にあります。一般的に孤独はネガティブな意味で捉えられますし、みんななるべく見ないようにして生きているかもしれません。でも、私は誰しもが抱えている心の中のぽっかり空いた穴を、表現を通してじんわり温められる存在でありたいと願っています。例えばコンサート『GIFT』を観に来た方が「明日から頑張ろう」と思ってくださったり、人と人とが心から繋がれる安心安全な場所を作ったり……そのためにも、まずはしっかりと自分のホームの根を生やしていくことが大事だと考えています。故郷の広島はもちろん、いずれは海外展開もして、いろいろな場所でゼロからイチを作ることで想いの共感を増やしていきたいです。
ヘアメイク=西 由里加
取材・文=松村蘭(らんねえ)撮影= Mayu Yamaguchi
公演情報
日程:2026年3月13日(金)19:00開演(18:30開場)
会場:JMSアステールプラザ 中ホール(広島県広島市中区加古町4番17号)
ゲスト:咲妃みゆ
日程:2026年3月22日(日)14:00開演(13:30開場)/18:00開演(17:30開場)
会場:I'M A SHOW(アイマショウ)(東京都千代田区有楽町2丁目5番1号 有楽町マリオン(有楽町センタービル)別館7F)
ゲスト:14:00公演:新妻聖子/18:00公演:福井晶一
広島公演 SS席:8,800円/S席:6,600円/A席 4,400円(全席指定・税込)
東京公演 SS席:8,800円/S席:6,600円(全席指定・税込)
2025年12月1日(月)12:00~
https://eplus.jp/nanakono/
制作:ジェイ・ツー
運営:広島公演・キャンディープロモーション/東京公演・サンライズプロモーション
後援:テレビ新広島、広島エフエム放送
協力:イープラス、洗足学園音楽大学