北海道・余市町よりドメーヌ・タカヒコの曽我貴彦氏ら7人のヴィニュロンが集結。BLUE NOTE PLACEが提案するワインと音楽で醸される「心地よい時間」
ブルーノート・ジャパンが運営するダイニング「BLUE NOTE PLACE(ブルーノート・プレイス)」。恵比寿ガーデンプレイス内に位置するこの空間では、連日音楽に包まれた心地よい時間が流れている。そこで2026年3月、北海道余市町から注目のヴィニュロン(ワイン生産者)たちが集結し、造り手と共に希少なワインと食、音楽を楽しむイベント“Le Voyage des Vignerons de YOICHI(ヴィニュロン・ド・ヨイチ)”が初開催された。
ヴィニュロンとは、ぶどう栽培から醸造までを一手に担う生産者のこと。厳しい自然と向き合いながら醸されるワインには、造り手それぞれの個性が色濃く表れる。その年のぶどうの収量や出来に左右されるため、生産本数はおのずと限られてしまう。その希少性の高さも相まって、多くのワイン愛好家が注目する存在となっている。この日も、企画側の予想を遥かに上回る反響により、は販売開始後すぐに完売した。当日も、憧れの余市のワインを求めて、会場は別格の熱量に包まれた。
ワインの魅力を形成する「個性の多様性」
この日のブルーノート・プレイスはオールスタンディング形式で実施され、参加者はグラスを手に、思い思いのタイミングで各ヴィニュロンのブースを巡り、造り手との対話を楽しみながらワインを味わうスタイルとなった。ジャズのセッションのように、自由に、ワインと音楽を楽しむ、そんなゆるやかな時間が流れていた。
ドメーヌ・タカヒコ(曽我貴彦氏)
「(余市には)余市川を挟んで右岸と左岸があり、それぞれに多くのワイナリーが存在します。今回はたまたま右岸の『登町(のぼりちょう)』のメンバーが集まりましたが、今の余市は非常に勢いがあります。また、同じ地区にいても性格もワイン造りの考え方もバラバラ。元銀行員がいたり、100年以上続く農家の跡取りがいたり、狩猟を行う者がいたりと、多様な人間が揃っていることがこの町の面白さです」
そう語る曽我氏がこの日用意したのは「ヨイチ・ノボリ パストゥグラン」。ドメーヌ・タカヒコが手がける中でも余市の名を冠した象徴的なキュベだ。ワイン愛好家であっても容易には出会う機会のないこの希少な一本は、会場でも特別なグラスで提供された。
続いて、ステージに並んだヴィニュロンたちがそれぞれの現状を報告した。
MONGAKU VALLEY WINERY(木原茂明氏)
「余市町の中でも南側の標高が高い場所に畑を構え、同一区画のぶどうを共に醸造する『フィールドブレンド』を追求しています。本日は、フランス系7品種を用いながら、主体となる品種を変えることで個性を描き出した4つのキュベをお持ちしました。畑の植栽比率をそのまま瓶に詰めたものなど、混醸ならではの複雑味を楽しんでいただきたいです。」
jiki(村田均氏)
「余市でぶどうを栽培して10年目、現在は委託醸造で理想の味を追求しています。自ら豚や羊を飼い、狩猟(鉄砲)も行う野趣あふれる生活のなかでワインと向き合っています。本日は、かつて余市で一度途絶えかけたオーストリア原産品種『グリューナー・ヴェルトリーナー』をお持ちしました。今の余市の気候に非常に合っており、ホワイトペッパーのような特徴的な香りを楽しめる面白い一本です。」
LOWBROW CRAFT(赤城学氏)
「2019年から畑を取得し、2022年に醸造を開始しました。本日は、自社畑での記念すべき初収穫となったツヴァイゲルトと、2年目のピノ・グリ、さらに隣町の旅路というぶどうで仕込んだスパークリングを用意しています。」
YOKA WINERY(喜久雅史氏)
「福岡出身で、18年の銀行勤務を経て開墾から始めました。ワイナリー名は、故郷の言葉である『よか(良い)』と『余市の香り』をかけています。ドメーヌのものを『よかシリーズ』と呼んでおり、本日はピノ・ノワール、シャルドネ、ケルナーという珍しい配合のロゼを楽しんでいただきたいです。
Domaine Mizuki Nakai(中井瑞葵氏)
Domaine Mizuki Nakai(中井瑞葵氏):
「40年前から祖父が栽培していた畑を引き継ぎ、2023年からワイナリーを開始しました。今日は、その最初のヴィンテージとなるピノ・ノワール100%のロゼをお持ちしました。」
AKI VINEYARD(安藝元伸氏)
AKI VINEYARD(安藝元伸氏):
「120年続く農家の6代目として、東京ドーム約2個分に相当する広大な畑で13種類のぶどうを育てています。本日は、私が就農した際に植え、10年目の節目を迎えた自社ぶどうのシャルドネをお持ちしました。また、委託醸造で造った、私のぶどう100%のピノ・ノワール『AK』もぜひ味わっていただきたいです。」
「都会の洗練」と「余市の風土」の邂逅
BLUE NOTE PLACE 外観
洗練された都市文化を象徴するブルーノート・プレイスという空間に、余市の自然に日々向き合う生産者たちがワインを持ち込む。提供されたワインの多くは、濃厚さや華やかさが個性となる海外のスタイルとは一線を画し、余市の造り手ならではの「出汁(だし)のようなうま味」や「身体に染み入るような優しさ」を湛えていた。
このイベントに企画から携わったブルーノート・ジャパンの片岡氏は、視察で初めて余市を訪れた際の「衝撃」について語る。
「それぞれのドメーヌが持つ哲学、そして自然や醸造との向き合い方が、畑の景色やワインの奥深い味わいに如実に現れていました。これほど熱い志を持つ最強のヴィニュロンが集う場所は、他にはないと感じています」
片岡氏はさらに、ワイン造りとブルーノートが大切にする世界観の共通点をこう分析する。
「技術と感性で人の心を動かすものを生み出す、という点において、弊社の本業である音楽や料理とも非常に親和性を感じています。そうしたシンパシーを余市の皆さんも感じてくださったからこそ、今回のコラボレーションが叶ったのではないかと感じています」
曽我氏もまた会場に流れる空気感との親和性について次のように述べた。
イベント中、造り手たちは自らグラスにワインを注ぎ、来場者との対話に応じた。試験的に醸造された希少なキュベなども提供され、参加者は生産者から直接語られるストーリーに熱心に耳を傾けていた。
余市町の変遷とヴィニュロンの志
いま、日本ではワインの新たなムーブメントが起こっているのをご存じだろうか。
国内のワイン消費全体は低下傾向にあるものの、日本国内で栽培・醸造される「日本ワイン」への注目度は年々高まりを見せている。ただの嗜好品にとどまらず、その土地の風土や造り手の哲学を味わうという、より本質的な楽しみ方が浸透し始めているのだ。
現在、国内のワイナリー数はこの10年で倍以上に増加し、約500場に達している。なかでも北海道余市町は、2011年の「ワイン特区」認定を機に新規就農者が急増した。現在は50軒を超えるぶどう栽培農家と10数軒のワイナリーが点在する、日本屈指のワイン産地となっている。
この10年余りの余市の歩みにおいて、曽我貴彦氏の存在は極めて大きい。地域の変遷と彼が描いた産地のビジョンについては、その歩みを克明に記録した『ドメーヌ・タカヒコ奮闘記:ぶどう畑から見える日本の未来(著・浮田泰幸)』に詳述されている。国内ワイン界でいま巻き起こっている現象とその背景を知るにも最適な一冊だ。
静かなる冬から、芽吹きの春へ
「今、北海道・余市は真っ白な雪に覆われ、畑は静まり返っています。農家は物理的には動けない時期ですが、だからこそ今日は自分たちの体と、魂を込めたワインを動かして、東京の皆さんに会いに来ました。」
「ワインが主役ではなく、この音楽や大切な人との時間のそばに、僕たちのワインが寄り添えていたら、それ以上に嬉しいことはありません。また来年、葡萄が芽吹く頃に良い報告ができるよう頑張ります」
ブルーノート・プレイスと余市の造り手たちとの出逢い。それは、音楽とワインが醸し出す心地よい空間を体験させてくれた。音楽とワインが紡ぐ次なる景色に期待を寄せずにはいられない。
取材・文=SPICE編集部 塩谷由記枝 photo by Eiji Miyaji
書籍情報
ドメーヌ・タカヒコ奮闘記
〜ニッポンの「うま味ワイン」、世界へ〜 / 浮田泰幸
ワイン醸造に迸る熱情の軌跡を描く、快心のノンフィクション。
世界がその品質を認めたワインは、いかにして生まれたのか。
公式サイト:http://www.kb-p.co.jp/publication/domainetakahiko/
関連情報
"Mongaku Valley Life: Field Blend" - Documentary Teaser Trailer
北海道・余市町を舞台に、ワイン造りに挑む生産者たちの暮らしと哲学を描いたドキュメンタリー
『モンガク谷の暮らし ~フィールドブレンド~』
2019年から長期取材を重ね、四季を通じて変化するブドウ畑やワイン造りの過程、そして生産者たちの試行錯誤と挑戦の日々を記録してきたドキュメンタリー作品が制作されている。
監督・撮影・編集:SAHARA(Blackscorpions Film)