世田谷パブリックシアター2026年度ラインアップ発表会レポート~活動のテーマは〈わたしは、この世界でどう営むか〉

2026.4.10
レポート
舞台

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世田谷パブリックシアター2026年度ラインアップ発表会が2026年3月31日(火)に開催され、芸術監督の白井晃、『月を抱く人魚』より脚本の鈴木アツトと演出の生田みゆき、『Yerma イェルマ』より劇作のオノマリコと構成・演出の稲葉賀恵、シアタートラム・ネクストジェネレーションvol.18―演劇―に選出された「yoowa」より劇作の草田陸と主宰・演出の大月リコが登壇した。

ラインアップ発表に先立ち、2026年4月1日から2027年3月末まで、主劇場のパブリックシアターが改修工事のために休館となることが告知された。そのため、2026年度の主催公演事業はシアタートラムを中心に、せたがやイーグレットホール(世田谷区民会館)など代替の施設で開催をしていくことになる。

初めに白井は、年間テーマ〈わたしは、この世界でどう営むか〉に触れ、「近年はコミュニケーションの変化、そしてパンデミックがあり、我々の生活自体が大きく変容してきた感覚を覚えています。お金や生活、家族に対する考え方、子どもを持つとはどういうことなのか。所有していくということも、概念が変化してきていると思うんですね。その中で、私たち自身がこの世界でどういう風に生き営んでいくのか、ということを語れるような作品群を担ってまいりたいと思って、プログラムを制作しております」と挨拶した。

世田谷パブリックシアター芸術監督の白井晃

以降は、白井から主催公演のラインアップを発表しながら、各公演の登壇者がコメントした。

4月25日(土)から始まる『フリーステージ2026』は毎年の恒例企画だが、今年はシアタートラムだけで開催となる。世田谷区内で活動する表現グループが集まって参加する本企画について、白井は「今年はシアタートラムだけですので、密な関係を皆さんに楽しんでいただけるのではないか」と期待を寄せた。

6月8日(月)〜7月5日(日)には、『レディエント・バーミン Radiant Vermin』を上演し、白井が演出を務める。白井にとって最も創作意欲を刺激される劇作家だというフィリップ・リドリーによる三人芝居で、10年ぶりとなる待望の再演だ。清原果耶、井之脇海、池津祥子の出演が決定している。

『レディエント・バーミン Radiant Vermin』メインビジュアル(撮影:設楽光徳)

7〜8月には『せたがやアートファーム2026』が開催される。毎年夏に、子どもから大人まで垣根なく楽しめる演目を集めようという趣旨のフェスティバルで、フィジカルな表現から落語や対談、ワークショップなど盛りだくさんの企画を用意している。小・中・高校生それぞれが対象の「エンゲキワークショップ」や、大学生のインターンシップも実施予定だ。

小中高エンゲキワークショップ

インターンシップ風景

7月下旬は興味深い公演が目白押しだ。まず、カナダのケベック州を拠点に活動する現代サーカスの男女2人組ユニット、アガット&アドリアンによる『ノ.ルム―ふたりのバランス―』を上演。同時期に開催する、スペインのコンテンポラリーダンスカンパニーであるラルンベ・ダンサによる『ステージ・オン!―もうひとつの舞台へ―』は、VR体験をしながら仮想空間でダンスと触れ合える新感覚エンターテインメントだ。さらに、『せたがや 夏いちらくご』では“もっともが取りにくい”落語家の一人として人気の、春風亭一之輔の話芸を楽しめる。

『ノ.ルム ーふたりのバランスー』(©Thibault Carron)

『ステージ・オン!-もうひとつの舞台へ-』(©Pedro Arnay)

『せたがや 夏いちらくご』(撮影:山添雄彦)

また、「せたおん」(音楽事業部)では『アキラさんの音楽放談』と称して、スペシャルプロデューサーを務める宮川彬良氏と白井晃の二人の“アキラさん”による特別なステージをお届けする。白井は「私たちの世田谷文化生活情報センターには、世田谷パブリックシアター・生活工房・音楽事業部・国際事業部の4部門があり、できるだけ横断したいという思いがあります。音楽と演劇の関わりみたいなものを、宮川さんのピアノ演奏も含めながら、楽しくお話をさせていただければ」と述べた。

宮川彬良(©Daisuke)

8月に上演される『月を抱く人魚』―雨月物語より―は、世田谷パブリックシアターが昨年から取り組んでいる「あたらしい国際交流プログラム」の一環として、海外のアーティストや俳優と一緒に公演制作を行う。脚本の鈴木アツトは、「雨月物語は、上田秋成という江戸時代の作家が、日本や中国の古典を下敷きにして書いた怪奇・ホラー小説の短編集です。『月を抱く人魚』は、この雨月物語から4作を主に下敷きにして現代版に構成しました」と説明。演出の生田みゆきについては、「作家性が爆発している印象です。戯曲を拡張するような演出で、俳優のポテンシャルを天井知らずに引き上げるモデレーターでもあります。今回ご一緒するのが楽しみです」と前向きな思いを伝えた。

『月を抱く人魚』―雨月物語より― 脚本の鈴木アツト

生田は、「本作が『あたらしい国際交流プログラム』であるところも、私にとっては大事にしたいなと思っている部分の一つです。昨年もこのプログラムに参加し、『不可能の限りにおいて』の上演に向けて本当に魅力のある俳優の皆さんと一緒に稽古したのは、今でも宝物のような日々。その経験を経た上で、今度は書き下ろし作品という次の挑戦で、私たちも次のステップに進めるような企画になればいいなと思っております」と述べた。

『月を抱く人魚』―雨月物語より― 演出の生田みゆき

9〜10月に上演する『Yerma イェルマ』は、スペインの詩人・劇作家のフェデリコ・ガルシーア・ロルカが1930年代に書いた傑作『イェルマ』を出発点に、劇作をオノマリコが務め、構成・演出を稲葉賀恵が手がける意欲作だ。稲葉は、「最初に『イェルマ』を一読したときは、自分が主人公のイェルマにあまり共感できなかった。しかし、それはなぜだろうと思ったときに、私が生きる今の我が国で男性性や女性性に対して考えてしまうようなイデオロギーの存在を感じ、演劇作品として再構築するにあたり、主眼を置くべき部分が見えてきた」と説明。続けて、「今回、こうしたテーマへの視座が一番深いのではないか思っている、オノマさんに劇作をお引き受けいただいた」と述べた。

『Yerma イェルマ』構成・演出の稲葉賀恵

オノマは「自分たちが社会制度によって培ってきた気持ちは、自分たちの心の深いところまで届いているものなので、例えば服を着替えるように考え方をすぐに変えることはできない。そこに気がついても苦しさがつきまとうところを、今回の物語の中で描いていければ」と述べ、現代の日本とは国も時代も異なる古典作品を、今あえて演劇として表現することの意義を伝えた。

『Yerma イェルマ』劇作のオノマリコ

芸術の秋ともいえるシーズンにも、さまざまな企画が用意されている。10月には秋恒例のフェスティバルとして、世田谷アートタウン2026『三茶 de 大道芸』を開催。スウェーデンを拠点に活動するサーカスカンパニー、ザ・ヴェッセル・プロダクションズが初来日する『ヴェッセル ―宇宙の旅―』も要注目だ。

『三茶de大道芸』(©佐々木利江)

『ヴェッセル -宇宙の旅-』(©Tobias Fischer)

12月には、シアタートラム・ネクストジェネレーションvol.18―演劇―に選出された「yoowa」による『GARDEN』を上演する。主宰・演出の大月リコは「yoowaは2021年に旗揚げをした若い団体です。このような貴重な機会をいただけたことを大変ありがたく思っております」と挨拶。作品については、「母を亡くした男ばかりの一家が住む、高台に建つ家の庭が舞台となる音楽劇です。現代社会で価値観が多様化していく中で、“男女”のような記号として扱われる言葉が先鋭化・形骸化している印象を受けて、そこに違和感を覚え、そうした言葉の向かう先は何なんだろう?というところを発端として構想しました」と述べた。

「yoowa」主宰・演出の大月リコ

yoowa_Vol.0「スプリング・スプリング』(©Ryucam)

劇作の草田陸は、「男性の主人公を書き始めてすぐに、会話の起こりの言葉は女性と男性でどういう違いがあるのか、という疑問が浮かびました。例えば、『お前がやったのか』というセリフに対して、『俺はやってないよ』と言うと普通の会話文になりますが、『親父、俺はやってないよ』と言う男は、自問自答を一回挟んでいるのではないか。そんなことを考えながら、男性とは、女性とは、ということを考えるような作品になりました」と説明。鋭敏な若い感性で表現する、新たな才能たちに期待が高まった。

「yoowa」劇作の草田陸

年明けの2027年2月には、台湾の伝統芸能を現代的に表現するダンスカンパニーの闖劇場/Dashing Theaterが『扮仙(バンシエン)/オープニングセレモニー』を上演。続いて2〜3月にはドイツの劇作家ベルトルト・ブレヒトの代表作をベースにした『ヨハンナ』を脚本・鈴木アツト、演出・白井晃のタッグでお届けする。白井は「原作の『聖ヨハンナ』は食肉工場との社長と、社長に抗議する団体のリーダーとなる女性の話。30人以上が登場する作品を、6人の俳優で現代的にアレンジしていきたい」と意欲を伝えた。

『扮仙/オープニングセレモニー』(©Yang Tzu-Yi)

年度内に2本の作品を手がけることになり、今まさに脚本作業を進めているという鈴木は、「原作は1920年代のアメリカのシカゴが舞台ですが、現代社会が抱えている食品業界の話や、労使の関係も含まれるような形に持っていけたら」と構想を述べた。

『ヨハンナ』演出の白井晃と脚本の鈴木アツト

2027年3月には演劇ワークショッププロジェクト『地域の物語2027』を実施予定。そのほかに、劇場が注目するアーティストやカンパニーを招聘する「フィーチャード・シアター」、3本のダンス提携公演、不定期開催の劇場体験などを計画している。

『地域の物語2027』(撮影Maki Suzuki)

これらの主催公演のほか、学芸事業では、地域社会の活性化を目指して行う「コミュニティプログラム」、地域社会の抱える課題解決に演劇の実践を通じて向き合う「地域連携プログラム」、舞台芸術にかかわる技術者を育てる「専門家育成」に加え、出版物の制作や鑑賞サポートなど精力的な活動を展開する。

デイ・イン・ザ・シアター

目まぐるしく変容する現代社会の中で、〈わたしは、この世界でどう営むか〉という2026年度の年間テーマは、誰にとっても身近な問題を示している。自身を取り巻く世界を感じながら、〈わたしは〉という主語で主体的に考えていく姿勢。わたしは、の後に一呼吸を置くような読点〈、〉のニュアンスに、自分が今ここで何をして、どう生きるのかを問われているような想像が広がる。当事者として思考する人間の姿を、演劇を通じて表現したり、観客に訴えかけたりする視点に、多くを気づかされる1年間になるだろう。一つ一つの演目を楽しみながら、〈わたしは、〉に続く言葉を考えたい。

文・写真(発表会の様子)=さつま瑠璃、広報画像=オフィシャル提供

イベント情報

世田谷パブリックシアター 2026年度公演事業(主催公演)ラインアップ

『フリーステージ2026』
さまざまな団体が、多彩なジャンルの音楽、ダンスで、華麗なステージを繰り広げます。
■日程:2026/04/25(土) ~ 2026/05/06(水・休)
■会場:シアタートラム

『レディエント・バーミン Radiant Vermin』
英劇作家フィリップ・リドリー×白井晃の刺激的な三人芝居、10年ぶり待望の再演!
■日程:2026/06/08(月) ~ 2026/07/05(日)
■会場:シアタートラム
 

せたがやアートファーム2026
アガット&アドリアン『ノ.ルム―ふたりのバランス―』

カナダ発、いま最も注目を集める新鋭サーカスカンパニーが初来日!
■日程:2026/07/21(火) ~ 2026/07/23(木)
■会場:シアタートラム

せたがやアートファーム2026
VR&ダンス『ステージ・オン!―もうひとつの舞台へ―』

誰でも気軽に楽しめる、VR(仮想現実)&ダンスの新しい体験が登場!
■日程:2026/07/22(水) ~ 2026/07/29(水)
■会場:生活工房 ワークショップルーム

せたがやアートファーム2026
『せたがや 夏いちらくご』

世田谷の夏の風物詩、子どもも大人も楽しめる人気寄席公演
■日程:2026年7月下旬
■会場:せたがやイーグレットホール(世田谷区民会館)

せたがやアートファーム2026
『アキラさんの音楽放談』
せたおん・スペシャルプロデューサーの宮川彬良が世田谷パブリックシアター芸術監督の白井晃をゲストに迎えておくる、特別な音楽企画が登場!
■日程:2026年7月下旬
■会場:シアタートラム
 
あたらしい国際交流プログラム
『月を抱く人魚』―雨月物語より―
江戸時代の傑作をもとに鈴木アツトが現代劇として書き下ろし、生田みゆきの演出で舞台化
■日程:2026年8月
■会場:シアタートラム
 
『Yerma イェルマ』
ロルカの傑作を出発点に立ち上げる、生きる価値を見出そうとする女と男たちの物語
■日程:2026年9月〜10月
■会場:シアタートラム

世田谷アートタウン2026
『三茶de大道芸』
三軒茶屋が“アートタウン”になる、恒例の大道芸フェスティバル!
■日程:2026年10月
■会場:キャロットタワー周辺
 
世田谷アートタウン2026関連企画
ザ・ヴェッセル・プロダクションズ
『ヴェッセル ―宇宙の旅―』
協働と信頼をテーマに宇宙を旅するコンテンポラリーサーカス
■日程:2026年10月
■会場:せたがやイーグレットホール(世田谷区民会館)

シアタートラム・ネクストジェネレーション vol.18 ―演劇―
yoowa『GARDEN』

若い才能の育成企画「シアタートラム・ネクストジェネレーション」
■日程:2026年12月
■会場:シアタートラム

闖劇場/Dashing Theater(チュアン劇場/ダッシングシアター)
『扮仙(バンシエン)/オープニングセレモニー』
台湾のコンテンポラリーダンス界を牽引するカンパニーが初来日!
■日程:2027年2
■会場:シアタートラム

『ヨハンナ』
白井晃演出、鈴木アツト脚本で立ち上げる新たなブレヒト演劇
■日程:2027年2月〜3月
■会場:シアタートラム

『地域の物語2027』演劇発表会
地域の多世代にわたる参加者が語らい、観客とともに考える演劇発表会
■日程:2027年3
■会場:シアタートラム

■公式サイト:https://setagaya-pt.jp/stage/lineup/
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