ピアニスト、作曲家として亀井聖矢が次なるフェーズに追い求めるものは――初の書き下ろし自作曲を含む新レパートリーで贈るリサイタル・ツアーがスタート

レポート
クラシック
2026.4.14

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国際コンクールへの挑戦の期間を経て、今、ミュージシャンとして自らが追い求めたいものを自由に究めるフェーズに入った亀井聖矢。2026年4月13日(月)に東京・サントリーホールで行われたリサイタルでは、そんな彼の新しい一歩を見届けることになった。

亀井によると、この日のリサイタルのテーマは「想像力」。
音楽は、言葉よりもより自由な想像の可能性を受け手にあたえるものだが、なかでも作曲家が具体的なイメージを表現する目的で書いた性格的小品は、想像の感性がより具体的な方向に刺激されるものだろう。
今回のプログラムはそんな性格的小品ばかりが集められ、しかも日本初演となる自作曲も入って、亀井曰く「想像力を膨らませながら主体的に楽しんでほしい」ものだとのこと。曲間のお話でも「同じ曲でもそれぞれに感じることは全く違うかもしれない。でもそれでいい」というメッセージをしきりに伝えていたのが印象的だった。

そんなリサイタルの冒頭を飾ったのは、シューマン=リストの「献呈」。原曲はシューマンが花嫁となるクララに愛を込めて贈った歌曲であることが知られるこの名曲を、亀井は、彼ならではの重量感のある音で、つややかなテノールを思わせる音色と独自の歌い回しで奏であげていく。
ここで、演奏曲についての簡単な紹介をはさんで、シューマン「謝肉祭」へ。やはりここでも1音目から重く華やかな音で聴き手の耳をひきつける。1曲1曲のキャラクターを緻密に表現し分ける描写力で、シューマンの想像力が構築したミステリアスな“仮面舞踏会”を目の前で展開してくれた。

休憩をはさんで後半は、ラフマニノフと亀井の自作で構成される時間。
ラフマニノフの「絵画的練習曲」について、「明確に絵を連想させる作品として書かれているけれど、ラフマニノフはそれぞれにその内容を示すタイトルをつけることはせず、説明をすることも好まなかった。僕自身の中にもイメージはあるけれどあえてお伝えしないので、みなさんがそれそれに想像してください」と亀井。
まず演奏されたのは、Op.33より第7番、第2番とOp.39より第4番、第1番。1曲目の1音目から、ラフマニノフばりに大きな亀井さんの手でつかまれる和音がのびやかに響き、一気にホールがラフマニノフらしい響きで満たされる。20世紀に生きながらロマン派の精神を強く保った作曲家の美点、甘くて重い音楽の魅力を、高い集中力とともに、大きなスケールで描き上げてくれた。

そしてここで、亀井自身の手による「3つのエチュード」が挟まれる。これらはシューマンとラフマニノフの作品に取り組むなかで生まれた作品だということだが、特に「絵画的練習曲」からのインスピレーションに関連する練習曲ということで、間に挟む形で演奏することにしたとか。
きらめき、揺らめく光の自由なうねりを見るような第1曲「眩光」、クールな世界を目の当たりにした高揚を感じる第2曲「未知」、そしてもっともミステリアスで新しい印象を残した第3曲「倦怠」。フランス風の瀟洒なきめこまやかさや遊びがかわるがわる現れ、想像力を刺激するエチュード集だ。
これから作曲に力をいれたいという亀井による大切な日本初演の一回に立ち会うことができ、聴衆からは熱い拍手が贈られた。

そして再びラフマニノフの世界へ。Op.39-5は、体全体を使って奏される低音の歌の迫力が絶大、Op.39-6では、重厚な音の合間に清涼感のある輝かしい音がはさまれ、また亀井ならではの爆発力が存分に活かされた演奏。Op.39-9はねっとりと重いラフマニノフらしい音を体全体を使って打ち鳴らし、音楽が高揚して、ピアノ椅子から立ち上がりながらの打鍵とともに渾身のフィナーレへ。テクニックなどフィジカル上の困難から解放された自由自在な表現を聴くにつけ、亀井にはラフマニノフをもっとレパートリーとして取り上げてほしいと願わずにいられない後半となった。

「非常に激しい曲が続いたので、全身全霊、出し切りました……」と話した亀井だが、客席からの大きな拍手に応え、アンコールでは「原点に回帰する」と、リストの「ラ・カンパネラ」を披露。おなじみ彼の十八番レパートリーだが、前よりもまた一段と洗練された表現になっていて驚く。常に前進する姿勢、その時の感性に従う大胆さ、聴き手とオープンにコミュニケーションをとる能力の変わらぬ高さを最後まで見せてくれた。

終演後にはサイン会が行われた

終演後にはサイン会が行われた

取材・文=高坂はる香 撮影=福岡諒祠

公演情報

亀井聖矢 ピアノリサイタルツアー2026
Supported by MUFG Wealth Management

日程・会場
4月13日(月)東京 サントリーホール 終了
4月14日(火)大阪 フェスティバルホール
4月16日(木)愛知 愛知県芸術劇場コンサートホール
 
予定プログラム:
シューマン=リスト:献呈、謝肉祭 Op.9
ラフマニノフ:絵画的練習曲「音の絵」Op.33、39より
亀井聖矢:3つのエチュード
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