尾上菊之丞インタビュー『The MELT -Cross of Roots-』 高橋大輔出演『氷艶』の縁がクロスする新たなアイスショー
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尾上菊之丞(おのえ きくのじょう)
2026年5月2日(土)から5日(火)に開催される、アイススケートショー『The MELT -Cross of Roots-』。高橋大輔、荒川静香をはじめとするスケーターに加え、NEWSの増田貴久や歌手の平原綾香ら多彩なアーティストが、日替わりで出演する。
本公演の背景にあるのは、2017年に始まった『氷艶 -hyoen-』で育まれた縁だ。『氷艶』は、スケートと日本文化の融合をコンセプトに、物語性を打ち出した作品を生み出してきた。『The MELT』は、そのカンパニーによる新基軸の作品になるという。
構成・演出・振付を手掛けるのは、尾上菊之丞。構成補佐・振付には村元哉中が名を連ねる。『氷艶』から続く縁が、『The MELT』でどのような世界を描くのか。菊之丞に、作品のテーマや共演者たちへの想いを聞いた。
■『氷艶』から生まれた新機軸、『The MELT』
ーー『The MELT』はどのような公演となりますか?
『氷艶』をルーツにもつ、スケーターや俳優、歌手の皆さんとつくるアイスショーです。ただし、その位置づけは『氷艶』とは異なります。前半は『The MELT』というタイトルから発想を広げたプログラム、後半は、副題の「Cross of Roots」につながる、過去の『氷艶』のナンバーを抽出し、再編するプログラムを考えています。
客席参加型の一幕もあるそうです!
これまで『氷艶』では、物語を伝えるべく高橋大輔さんたちスケーターが、スケーティングだけでなく歌やお芝居に挑まれたり、プロジェクションマッピングを取り入れたりしてきました。そこから、エンターテインメント性を最大限にまで高めたアイスショーが生まれています。その点で『The MELT』は、スケーティングやパフォーマンスそのものが、より中心になります。
氷上に陸(ステージ)は作らず、全員がオン・アイスでパフォーマンスします。17人のスケーター、8人のアーティストそれぞれに、見せ場があるように構成にしています。
三代目尾上菊之丞。日本舞踊尾上流四代家元。舞踊家として自ら舞台に立ちながら、新作歌舞伎、宝塚歌劇団、OSK日本歌劇団、花街舞踊など幅広い舞台の演出・振付を手がける。
■氷の上で溶け合う表現
ーー前半のプログラムは、“MELT(溶ける)”がテーマとなるのですね。
『The MELT』というタイトルは、プロデューサーさんから頂きました。
スケートリンクというのは、氷上で繰り広げられるあらゆる表現を映し出すもの。そう解釈をした時、エッジの摩擦の熱がリンクを溶かし、滑らかな水がたゆたい、表現者たちのパフォーマンスがそこで溶け合っていく。スケーターが舞うことで、光が差し、水が輝き、様々な色彩が見えてくる。水と言えば、生命の芽生えでもある。そうしたイメージが、ひとつながりのものとして立ち上がってくれたらいいですね。
……と、僕の思いがつい抽象的で根源的なものへ向かっていくのは、どうしたって僕自身の土台が伝統芸能の世界にあり、日本の祈りのようなものを身近な題材としてきたからでしょう。
ーー前半が、“MELT”から広がる神秘的でアーティスティックな世界観だとすれば、後半は、氷上で出会ってきた皆さんが、その作品の記憶と向きあい、希望の未来に心を馳せるパートと言えます。菊之丞さんにとっても、『氷艶』シリーズは、日本舞踊家でありながらアイススケートとの縁がクロスした場ですね。
はじまりは松本幸四郎(当時:市川染五郎)さんが、大輔さんとW主演をされた『氷艶』1作目の『破沙羅』に、振付で参加したことです。歌舞伎とフィギュアスケートのコラボレーションは、もともと幸四郎さんの想いが詰まったものでした。アイススケートの側からお声がけをいただき『氷艶』が始まり、2019年の2作目以降も様々に関わらせていただいて、今に至ります。
ーー2021年には、『氷艶』のカンパニーによるアイスショー『LUXE』が開催されました。『氷艶』とは異なる、高橋大輔さん演じる主人公の成長物語を、世界巡りに仕立てたレビュー形式の公演でした。
あの監修・演出が、僕にとって初めての“伝統芸能の要素がない”作品となりました。コロナ禍の難しい時期に、大きなプレゼントをいただいたような感謝の気持ちでやらせていただきました。同時に、日本舞踊の世界で培ってきたものが通用するんだ、という手ごたえを得る経験にもなりました。
■菊之丞が惹かれる、スケーターの清々しさ
ーーアイススケーターの方々との創作はいかがですか?
皆さんが表現者として一流であることは、あらためて僕が申し上げるまでもありません。圧倒的に華があり、たとえば大輔さんや静香さんが氷上に登場すれば、どれほど大きな会場だって空気がガラッと変わります。
そして常に感じていることですが、スケーターの皆さんとの仕事は清々しくて、大変気持ちが良いです。
初めて大輔さんにお会いした『破沙羅』のとき、大輔さんは三味線をとり入れたナンバーを踊られました。とても複雑な振りがあったのですが、彼は稽古場でひとり壁に向かい、ひたすらその動きを繰り返していました。僕の感覚の「徹底的な反復」の遥か上をいく、徹底的に、愚直に反復するアスリートの姿でした。技術が数値化される世界で、自分のベストや限界と勝負をしてきた方々だから、徹底的に完成度の高い身体表現を目指す。彼にとっては競技でもエンタテインメントの舞台でも、変わらないのだと感じました。
振付・構成補佐の村元哉中(左から3人目)。
彼らの清々しさの理由が、そのストイックさにあるのかどうかは分かりません。ただ「爽やかな青年」という意味ではなく、自分のやるべきことにフォーカスし、ストイックにツッコんでいく。その清々しさに惹かれるんです。『氷艶』に参加されたアーティストの皆さんが、“氷艶LOVE”になられる理由も、そこにあるように感じます。少なくとも、僕はそうでした。
■Rootsの交差点に宿る、カンパニーの関係性
ーー『The MELT』は、まさにリピート出演の方々が集います。昨年の『氷艶』に続くご出演の、増田貴久さん(5/2、3)。2019年の2作目以降、続けて参加されている平原綾香さん(5/4-5)、福士誠治さん(5/4)。
増田さんは前回が初参加でした。アイススケートの上達のスピードがですね……フフッ(思い出し笑い)、本当にすごかったです。 ローラーブレードの経験がおありだそうですが、そういうレベルの話ではありませんでした。今年はどんなパフォーマンスを見せてくださるのか、僕も楽しみです。平原さんは、まさに歌姫。彼女が歌えば、ステージの空気がごっそり持っていかれる(笑)。今回は最新曲「祈りにみちて」をリリース後初披露してくださり、その生の歌唱にあわせて静香さんが舞います。
アーティストの皆さんも、スケートの技術を着実に上げてこられています。言葉や歌だけでなく、彼らの氷上での佇まいにもご期待ください。そして幸四郎さんも、声で特別出演してくださいます。僕にとって、こんなに心強いことはありません。これだけの方々が揃うわけですから、「心して、かからねば」と気が引き締まります。
帯状の紗幕をつかった演出中、想定外のぐるぐる巻きに。
ーー作品づくりの中で「アイスショーだからこそ」と意識されることはありますか?
たとえば衣裳ですね。スケーターの技術をご覧いただくのであれば、無駄を削ぎ落とし空気抵抗の少ない衣裳が本来はもっとも望ましいはずです。競技用の衣裳も、スケーターの技術を阻害しないための工夫が緻密に積み重ねられています。言い換えれば、飾りや演出は加えるほどマイナスにもなりうるわけで。でも、それがエンターテインメントの舞台となれば、マイナスが別のプラスに転じたりする。『氷艶』は、そのバランスを試行錯誤しながら、アイススケートの新しい可能性を探ってきたのだと思います。
その上で、僕が手がけるからこそ生まれる切り口は、やはり提示していきたい。でも、それは意図的に創るのでも、決して奇をてらって創るものでもなく、「こんなショーを見てみたい」と自然に立ち上がり生まれるものである方が、ずっと素敵だろうと思っています。
ーー最後に読者の皆様へ、一言お願いします!
(振付・演出補佐の)村元哉中さんは、見どころは「全部です!」とおっしゃっていました(笑)。本当にその通りです。“『氷艶』を再編”と言いましたが、過去のままのシーンは一つとしてありません。“水は常に流れていく”です。
青山凌大さんのお誕生日でした!
また『The MELT』では、『氷艶』や『LUXE』で育んできたカンパニーの関係性が、少なからず表れてくるはず。長く見てくださっている方には、このカンパニーが積み重ねてきた時間、物語、関係性ごと、温かみをもって感じていただけることと思います。そして初めてご覧になる方には、これまでにないアイスショーの魅力に触れていただければ幸いです。
『The MELT -Cross of Roots-』は、5月2日(土)から5日(火)までKOSÉ新横浜スケートセンターで開催。
取材・文・写真(集合写真を除く):塚田史香
公演情報
1日3公演 開演11:00/開演14:30/開演18:00(※4日間計12公演)
荒川静香
村元哉中
織田信成
田中刑事
友野一希 他
増田貴久(歌手・俳優)
大野拓朗(俳優・モデル)、エリアンナ(歌手・俳優)、財木琢磨(俳優)、長谷川開(歌手)、青山凌大(俳優・声優)
※長谷川 は3日のみ出演。
平原綾香(歌手)
福士誠治(俳優・声優・歌手) ※福士は4日のみ出演。
大野拓朗、エリアンナ、財木琢磨、長谷川開、青山凌大