齋藤飛鳥が語る『テート美術館 ― YBA & BEYOND』の魅力――「共感しなくてもいい」90年代英国アートの楽しみ方

インタビュー
アート
2026.7.3
齋藤飛鳥 撮影=ハヤシマコ

齋藤飛鳥 撮影=ハヤシマコ

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6月3日(水)より、京都市京セラ美術館 東山キューブにて開催中の『テート美術館 - YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート』。同展は、テート美術館の所蔵品を中心に、1980年代後半〜2000年代初頭に英国で革新的な表現を行い、世界的に注目を集めた「YBA(ヤング・ブリティッシュ・アーティスト)」と呼ばれた若手作家たちと同時代の作家の作品を通じて、1990年代英国アートの創作の軌跡を検証するというもの。YBA を含む50名を超えるアーティストの作品が一堂に会する機会は日本では初ということで、アート業界だけでなく、サブカルチャーやファッションが好きな人たちからも熱視線を集めている。今回は京都会場を訪れた同展アンバサダーで音声ガイドも担当する齋藤飛鳥に、英国カルチャーや東京展との違いなどについて話を聞いた。

「イギリスの音楽に触れていたことで、より楽しめた」

以前よりUKロックが好きで、英国の音楽カルチャーに触れていたという齋藤。10代の頃にテート・モダンを訪れて衝撃を受けたというが、英国カルチャーのどんなところが好きなのか。「イギリスは晴れの日が少なかったり、イギリスのバンドも皮肉めいたことを歌っていたり。映画も音楽もすごく知的だけど、ちょっとだけ意地悪が入るようなユーモアのバランスが好きです。ファッションはどの時期も可愛いし、取り入れやすい」

YBAの作品が生まれた背景には、サッチャー政権下(1979〜1990)の政策により拡大した格差や失業率の悪化など、社会的な不安定さや閉塞感があった。そうした状況から生まれた若いアーティストたちの表現は、痛烈な社会風刺や性・身体表現を含むものが多い。同展ではYBA以前の時代から地続きで作品が紹介され、各作品に解説パネルも設けられているため、知識がなくても鑑賞しやすい構成となっている。

その上で齋藤は、同展をより楽しむための英国カルチャーとしてUKバンドの存在を挙げる。

「好きなバンドの歌詞の和訳を見ると、社会風刺や政治について触れているものが多くて。私はそのことを何となく頭に入れた状態でこの展覧会に来たので、だから(あのバンドは)こういうふうに思っていたんだ、逆にこの時代こういうことがあったと言われているけど、本当なのかなと考えるキッカケになりました。イギリスの音楽に触れていたら、もしかしたら(展覧会の内容に)入りやすいかもしれないです」

彼女が好きなオアシスやブラーも、同展と同時代の英国カルチャーを象徴する存在。つまり齋藤は、自然とYBAが生まれた時代の空気に親しんでいたと言える。

「共感しなくてもいい」鑑賞体験の再定義

齋藤は展覧会のアンバサダーに就任した際に「アートは日常にあり、敷居なんて本当はなかったのだと感じます。この感覚に決着をつけるためにも、この展覧会を見届けられることを心から嬉しく思います」とコメントを寄せていた。2月〜5月に国立新美術館で行われた東京展と今回の京都展を観て、その感覚はどうなったのだろうか。「私はアートに全然詳しくないですが、この展覧会の良さは、絵も写真も、立体の作品も映像も音楽も、全部の手法が集まっていること。だからすごく観やすいし、身近に感じやすい。日常にあるものがそのまま素材として使われているのも印象的です」と、改めてYBAの距離の近さ、生活とアートが結びついていることを実感。

そして、作品を観て「アートがわからなくても「この人はこういうことが言いたいのかな」と考えるのは自由。目の前の作品を見れば、心が動くものが多い。敷居の高さを感じず、刺激を受けられる展覧会だと思います」と、10代の時にテート・モダンで感じた感覚が確信に変わったと話してくれた。

つまりアートは日常にも溢れている。齋藤の美術館の鑑賞方法は?「『YBA & BEYOND』のアンバサダーを務めてから、美術館に足を運ぶ機会が増えました。今までは年に数回しか行ってなかったのが、最近は月イチぐらいのペースで行くようになりました。それは多分この展覧会やアートを通して、アーティストたちが表現していることに必ずしも共感しなくてもいいし、刺激を受けなくてもいい。ただ「観た」という事実だけでも自分的には意味があると思えて、幅が広がったから。意識を変えさせてくれたのはこの展覧会のおかげなのかなと思います」と真っ直ぐに述べた。

YBAの若い芸術家たちの発信する力、強い意志に刺激を受けたという齋藤は、「そもそも声を上げることは難しいし、どうしても「右にならえ」したくなってしまう。だけど私は「声を上げることは大事」ということを声に出して言いたいですね。イギリスの90年代のネガティブな出来事を知った時、良いことばかりではないけどできるだけ心を平穏に保ちたいし、それによって自分の身の周りにも平穏をもたらしたい。やはり平和は大事だなと思います」と主張した。

京都展のお気に入りはヴォルフガング・ティルマンス

齋藤飛鳥お気に入りのヴォルフガング・ティルマンスの展示

齋藤飛鳥お気に入りのヴォルフガング・ティルマンスの展示

東京展から約4カ月、京都展を観た感想は?「4カ月前と今の私の心情が違うのか、京都展ならではの配置や作品と作品の距離感が違うから感じているのかはわからないですが、「あれ、東京で見た時ってこんな感じだったっけ?」と思う作品がたくさんありました」と声を弾ませた齋藤。

中でも印象に残ったのはヴォルフガング・ティルマンスの展示。「壁一面の写真の配置にも意図があり、細かい位置まで考えられていると聞いて、より一層それぞれの写真の意味を考えたくなりました。今まで見えていなかった写真の良さも出てるような気がして、すごく好きです」と微笑んだ。

音声ガイドで気づいた“伝えること”の難しさ

齋藤は音楽家・細野晴臣とともに、同展のアンバサダーと音声ガイドを務めている。細野と音声ガイドを録るにあたり意識したポイントを尋ねると「細野さんは実際にイギリスにも住んでいらっしゃったし、アートにもお詳しい。なのでその部分はお任せして(笑)。私は素人目線に近い、一般的な感覚でガイドを録りました。作品の背景や意図についての説明は難しく聴こえてしまわないように、できるだけフラットに、皆さんの耳にスッと入り、気軽に聴けるよう意識しました。実は私、美術館で音声ガイドはほとんど使ったことがなくて。でも今回、展覧会のことを教えていただくために学芸員の方と一緒に会場を回ったり、音声ガイドを録ってみて、説明されながら観るとより作品の良さが伝わってきたので、今後は積極的に使うと思います」と笑顔を浮かべた。

また音声ガイドをやってみたいという気持ちは?「音声ガイドを録るにあたって、いただいた資料をたくさん見たり、自分なりに勉強して臨んだつもりでしたが、実際に作品を目の前にすると、作品からパワーや感情が伝わってきて自分が学んだことがすごくちっぽけに感じられて。そういうことを、もっときちんと私の声で皆さんにも伝えられるお手伝いができるように、と考えると「もう少し表現の仕方を変えられたんじゃないか」と今になって思うことがあります。なので、もしまたガイドをさせていただく機会があったら、ぜひ活かしたいです」と意欲を滲ませた。

バーバリーに込めた展示への寄り添い

最後に、この日のファッションチェック。東京展ではバーバリーのトレンチコートに、フランシス・ベーコンの「1944年のトリプテティク(三幅対)の第2ヴァージョン」に合わせた赤いネイルをあしらっていた齋藤。「今回はバーバリーさんの上品で洗練されたワンピースを選びました。着飾るというよりは作品の雰囲気に自分が共存でき、入り込めるようにという意味でシックにまとめましたが、耳元に牛とアヒルがいます(笑)。展示作品の中に馬や脳みそという変わったモチーフがあったので、動物やポップな要素を入れたいなと思い、耳だけ遊びました」と笑顔でポイントを教えてくれた。

齋藤が語るように、同展は難解な理解を必要としない。観ることで何かが揺さぶられる体験そのものに意味がある展覧会といえる。

取材・文=久保田瑛理 撮影=ハヤシマコ

イベント情報

『テート美術館 ― YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート』
会期:2026年6月3日(水)〜9月6日(日)
開場時間:10:00〜18:00(入場は閉場30分前まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は開館)
会場:京都市京セラ美術館 新館 東山キューブ
入場料金(税込):一般2,300円、大学生1,500円、高校生900円
※中学生以下入場無料(未就学児は要保護者同伴)
※団体料金は20名以上
※専門学生は大学生料金で入場可能
※学生料金でご入場の方は学生証のご提示をお願いいたします。(小学生を除く)
※障害者手帳等をご提示の方は本人及び介護者1名無料(障害者手帳等確認できるものをご持参ください)
 
主催:テート美術館、ソニー・ミュージックエンタテインメント、ABCテレビ、キョードーエンタテインメント、京都新聞、FM802/FM COCOLO、京都市
協賛:バーバリー
協力:日本航空、ヤマト運輸
後援:ブリティッシュ・カウンシル
公式ホームページ:https://www.ybabeyond.jp/
お問い合わせ(京都会場のみ):京都市京セラ美術館 075-771-4334
X:@ybabeyond
Instagram:@ybabeyond
Facebook:@ybabeyond
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