矢野顕子、長岡亮介、青葉市子――3人の“本物”が鳴らした金沢の夜、やわらかく強く美しい『BABY Q 金沢場所』

18:00
レポート
音楽

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『BABY Q 金沢場所』 2026.8.9(SUN)石川・金沢市文化ホール

2026年8月9日(日)、弾き語り形式の回遊イベント『BABY Q 金沢場所』が金沢市文化ホールで開催された。出演者は青葉市子、長岡亮介、矢野顕子。『Q』は、2019年に神戸ワールド記念ホールや両国国技館で、「CUE=素晴らしい音楽に触れる“キッカケに”」、「休=最高の休日に」という想いを込めて立ち上げられたインドアフェス。そして、コロナ禍の2021年夏に東京・大阪で弾き語り形式の『BABY Q』が始まり、同年冬に広島、2022年は1月に北海道、8月に横浜、9月に大阪、12月に福岡、2023年7月には東京でも実施された。2024年は3月の名古屋、6月の沖縄、8月の金沢と開催。2025年にも金沢で開催され、約1年ぶりの金沢場所となった。

会場ロビーでは、厳選された北陸のお土産が『BABY Q 金沢場所』のオリジナルトートバッグに入れられて販売された。2024年1月1日に能登半島地震が発生し、その後すぐに2024年の開催企画が動き、その年も物産販売が行なわれ公演の売上金の一部は被災地への義援金として寄付された。全国で開催されるイベントだからこそ、地域への配慮が感じられたし、意義のある金沢場所だと心から思う。

17時30分開演。一番手は青葉市子。照明が暗くなり、青葉が現れると、舞台後方のランプが灯る。軽くハミングしながら椅子に座り、セッティングしていく。ギターを爪弾き、ささやくような声で挨拶を。1曲目「テリフリアメ」が幻想的な世界へ導くように静かに歌われる。夏の金沢に来るのは久しぶりで、楽しみにしていたこと、そして「凄い先輩たちが待ち受けてますから、ちゃっとやって去りますので」と茶目っ気たっぷりに話す。そして、映画館で「銀河鉄道の夜」を観て、家に帰ってから書き上げた「アンディーヴと眠って」へ。「月の丘」では、歌われる世界観まで丁寧に説明されるので、より楽曲の世界に入り込める。「ひかりのふるさと」では、「きらきら」という言葉が印象的であった。

アコースティックギターを置き、横を向いて鍵盤へと座る。8月21日公開の映画『しらぬひ』で主題歌と劇伴に関わったことを明かし、梅林太郎が作曲した「しらぬひ」へ。この日、初めて演奏するにあたり、自身のピアノが拙いことも打ち明けながら、「8月9日にこの世界に鳴らせたらという小さな願いがあって。世の中にいる全ての人間たち、生き物たちに向けて……」とも語る。お聴き苦しいといった言葉を謙虚に伝えていくが、そんなことは一切なく、誠に味わい深い音色。声も柔らかく、歌も優しい。創造・破壊・渦潮という言葉が、とても良いメロディーに乗る。映画は熊本の話であり、「劇場で観て欲しいです。今を生きている人たちだったら、どこかで響く作品です」と観客に語りかける。あのが主人公の声優を務めること、監督と初期からプロットを共有していたことも明かし、作品への深い思い入れも伝わってきた。

「いろいろな気持ちが花束のようにぎゅっとなりますようにという歌」と説明された「bouquet」。心地良い歌であり、透き通るような声……。7月にリリースされた「さよならペンギン」では、「小さなころから自分の中にだけいる友達っていますよね?」と観客に話しかけるも、一瞬戸惑う観客に、「いる、いる」と念押しするシーンはチャーミングであった。「そんなイマジナリーフレンドの曲です」と披露された歌は明るく、ペンギンの鳴き声のような可愛い声も出す青葉に、思わず場内も和む。そのままギターを置き、パンっと手を叩いて終わったのも心に残っている。

最後の曲は鍵盤に座り、2022年公開の映画『こちらあみ子』の主題歌「hello/もしもし」。「もし」と穏やかなメロディーで歌い出され、「もしもし」という言葉も聴こえてくる。途中<胸にしみる 空のかがやき>とも歌われる。美しい歌が重なり合い、「もしもしきこえますか」とも問いかけられる。聴こえてくる美しい歌にじっと耳を澄ませる、素敵な時間であった。青葉は、大きく手を振って去っていく。

二番手。長岡亮介。照明が暗くなり、エレキギターを爪弾く。深みのある音が奏でられる。先ほどまでのアコギとはまた違うエレキの響き。その両方を味わえる贅沢さを感じる。エレキの音色のみで聴かせていくが、これが本当に味わい深い。そんな「yukon」から「湖畔」へ。「舟を出そう」という言葉が胸に染み入る良い歌。そして、「こんな素敵なイベントに呼んでいただいて光栄ですけども」と話し始める。

「青葉さん本物。長岡偽物。矢野さん本物」

突如、何を言い出すかと思うが、実は本番前に楽屋エリアで偶然にも私は同じ例えを聞いていた。すると、長岡が言う。

「さっき楽屋でも言っていたら、ライターの人が『オセロなら引っ繰り返って、長岡さんも本物です』と言われて」

確かに私もそう言いましたし、最初から3人とも本物だと思っているものですから。でも、長岡の心に何かしら響いたのであれば嬉しいです。そして、90年以上も歌い継がれているカントリーナンバー「Miss the Mississippi and You」。ヨーデル特有の歌い方に惹かれるが、本人いわく子供の頃にカントリーのアマチュアバンドを観ていて、ヨーデルを歌うおじさんの口に蛾が入るのを目撃し、ダサいと思っていたという。なんていうエピソードだと思うが、もちろん長岡の口に蛾は入ることもなく、素敵なヨーデルであった。

続いては、1950年代のカントリーナンバー「Long Black Veil」。まず不倫の歌として、町で殺人事件が起き、疑われた男は無実であるにもかかわらず、それを証明しないまま処刑されたことが説明される。なぜならば、その人は友人の奥さんを抱いていたからという、これまた、なんていうエピソードだと思うが、長岡いわく「暗い人間なんで暗い歌が好き」とのこと。「静かな曲ばっかりですけど、ずっと静かなんで」と1960年代のカントリーナンバー「For the Good Times」へ。こちらも味わい深いとしか言いようがなく、オレンジ色の照明も映える。3曲続けてのカントリーカバー。こんな渋くて格好良い流れは、本物だからこそ成せる技だと聴き入ってしまった。

次は新曲であり、弾き語りではやったことがないという「サンライト」。「本当に静かですね、すみません」と本人は謝るが、この静かさがおつである。そして、「Profile」はグッドメロディーであり、歌われる言葉もギターの音色もリフレインする感じが素敵であった。どんどん音が重なっていき、また歌になるグラデーションにも聴き惚れるのみ。長岡は、まだ「偽物のステージ」と言い続けていたが、いやいや充分に本物のステージですという言葉しか返せない。

ラストナンバーは「雨」。自然と観客から手拍子が起きる。どう考えても、観客が本物だと思っている証拠であり、賞賛の手拍子のようにも思えた。途中、「この街に生まれ この街に生きる わがふるさと金沢」と五木寛之作詞の「金沢望郷歌」が歌われる。ニクい演出ではあるが、観客全員が「雨」に心を奪われていただけに驚きの展開ではあったが、再び「雨」へと戻り、歌い終わった時の拍手は凄いものがあった。

いよいよ最後は、あのお方。舞台にはグランドピアノが現れる。ご本人、矢野顕子が登場して、ピアノに軽く手を置き、お辞儀。登場しただけで凄い拍手。ピアノに向かって座り、横を向き、こちらを少し見ながらピアノを弾いていく。「DO YOU LOVE ME?(愛されたいおれら)」。1曲目が7月にリリースされたばかりのニューアルバム『生きものたちへ』からの選曲というのも本当に格好良い。新曲であるにもかかわらず、一瞬で、その歌に惹き込まれ吸い込まれていく、まるで魔法のような歌声。少しのけぞりながらピアノを弾き、何度も「愛されたい」と歌われる。1曲目から飲み込まれる。

続く「David」。最初に発表されたのは約40年前であり、いつ私も最初に聴いたか、もはや思い出せないが、自分の中に沁み込んでいるメロディーである。歌い終わりのMCで「金沢に来るのは久しぶりでね。一番最近だと……」と話し出して、「30年くらい前」と笑う。「3年前とあまり変わらない」という感覚も話されたが、確かにその感覚はわかる。私も「David」を最初に聴いたのは、30年、40年も前だが、3、4年前とあまり変わらない感覚。何を言いたいかというと、矢野顕子の歌の普遍性の凄みである。

観客全員が矢野に夢中になっていることがわかるし、矢野がピアノを弾き出すと、観客全員が集中して見て、聴く。が、当の本人は「何か意味あるように弾いていますけど、何も意味はないですよ。身も蓋もないですね」と微笑む。一挙手一投足を見逃せない、聞き逃せない状態。そんな中、続いて歌われるのもニューアルバムからの曲。ここ何年か宇宙を題材にした曲を書いており、野口聡一宇宙飛行士と知り合いという特権も得て、ご家族にも話を聴いたという。宇宙飛行士は行きたくて行く人だが、送り出す家族や愛する人たちは、どういう思いでいるかを描いた「YOU ARE SPECIAL TO ME」へ。

しかし、公で演奏するのが3回目ということもあり、間違いもあり、そこから、「ちゃんとやるのは」という自身の言葉を「別にちゃんとやっていないわけではなく……」などと注釈を入れて、「ダメですね! このドツボに入る感じ!」と苦笑い。この前も全く同じことを経験したと話しながら、キーを弾きながら探っていく。「このへんは71歳なんで差し引いてください」と言うも、「他の曲やるわ!」とすっぱりと方向転換。「ちょっとヒドイですよね!」なんて言いながらも、「慣れ親しんだ曲」と言って歌われたのは、「ごはんができたよ」。46年前の代表曲を思いがけず聴けた喜びと、突然歌われたとは思えない新鮮な破壊力に打ちのめされる……。最初から歌われる予定だったような力がみなぎっている。「ごはんができたよ」というシンプルな言葉がメロディーに乗った時のポップでキャッチーな凄み。

余韻に浸る中、「ちょっと業務連絡しますね」と後ろを向いて、袖の方へ何か話しかける。「若い時は日常生活に支障がないですけど、何事も私は記憶ができなくて。最近は危ないですもん! 慈悲にとんだスタッフがいて、今、楽屋の歌詞カードの中から持ってきてくれるはず。そろそろかな!」と観客に説明をして、最後の「そろそろかな!」と言った瞬間、本当にスタッフが現れる阿吽の呼吸というか神業的なコンビネーションには感動しかない…。そして、やはり新曲の「THE RIVER」へ。<会いたい 今 あなたに会いたい>というまっすぐな言葉に打たれる。<やわらかく強く なりたい>という言葉も素敵である。

リズミカルなピアノの音色を聴いていると、耳馴染みのあるメロディーが……。「TONG POO」。YMOの、坂本龍一の、あのメロディーに、矢野が言葉を乗せて歌う。至福の時間……。46年、48年も前の曲が、歌が、2026年現在も新鮮に輝き、生きたメロディー、生きた歌として聴けるのは、本当に幸せすぎる。もちろん、歌い終わると、凄い拍手が起きる。

「金沢で青葉さん、長岡さん、凄い才能の方々とできるのは光栄です。だんだん後続に譲るという、どこかの企業のCEOみたいなことを言っていますけど」

そう言った後の言葉がとてつもなかった。

「全然、その気ないですよ!」

笑いながらの言葉とはいえ、その力強い言葉は、ただただ嬉しかったし、今もニューアルバムを創作し続けているというのが何よりの証し。現役感しか感じない。その後、「何の関係もない曲やりますよ」と言って、「ラーメンたべたい」と歌い出すのも粋。何気ない所作すべてが格好良くて痺れる。壮大なメロディーやポップなシャウト、全てに持っていかれる。レコードデビューから早50年。まだまだ来年4月まで色々なことが計画されているという。

「もし今日のコンサート気に入ったら、また足を運んで下さい」

今日のコンサートを目撃した人は全員必ず次のコンサートを目撃したくなるだろう。それくらいのコンサートであった。

いよいよラストナンバー。

<欲しいものは たくさんあるの>と、「ひとつだけ」が聴こえた瞬間、自然と涙ぐんでしまった人も多かったであろう……。これこそ歌の力。素晴らしいコンサート。ピアノに軽く手を置いてお辞儀をし、可愛くステップを踏んで、手を上げて去っていく。まるで魔法のような時間。

本物と本物と本物がお互い高め合って築かれた本物の時間。これ以上、何も言うことはない。観客、スタッフ、関係者も、あの場にいた全ての人が、本物のコンサートを目撃できたことに心震わせた夜であった。

取材・文=鈴木淳史 写真=『BABY Q』提供(撮影:吉野純平)

イベント情報

『BABY Q 金沢場所』 
日程:2026年8月9日(日)
会場:石川・金沢市文化ホール
出演:青葉市子、長岡亮介、矢野顕子
 
主催:Q実行委員会
企画制作:TONE/FOB企画
オフィシャルサイト:https://day-off.today(今日はお休み!)
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