バーミンガム市交響楽団に女性音楽監督誕生
バーミンガム市交響楽団は公式サイトで新音楽監督を発表した
その名はミルガ・グラツィニテ=ティーラ
バーミンガム市交響楽団といえば、若きサイモン・ラトルがアンサンブルを磨いてともに世界へと雄飛したオーケストラであり、そして近年ではアンドリス・ネルソンスがその最初の国際的な活躍の舞台として見事な演奏を聴かせてきたオーケストラだ。2020年には創立100年を迎える伝統を持ち、エイドリアン・ボールトのような大指揮者との時代もあったこのオーケストラは、現在では一定の成功を勝ち得ても守りには入らない、積極的に新しい試みに取組むことで「イギリスの地方のオーケストラ」と簡単にはくくられない独特の存在となった。しかし音楽監督を足かけ8年にわたって務めたネルソンスがボストン交響楽団、そしてライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のポストに就いたことから2015年7月に離任し、オーケストラは音楽監督不在で今シーズンを迎えざるを得ない状況に陥っていた。
たしかに音楽監督不在は厳しい事態ではある、しかしその苦境を越えるため、これまでチャレンジを恐れず才能を抜擢してきたオーケストラは誰を選び、どこに向かうのか。その動向は静かに、しかし確かな注目を集めていた。そんな中、今月4日ついにオーケストラは新たなシェフを発表した。その名を見て、すぐに納得できた人はそう多くないだろう、申し訳ないことだが「なによりまずその名をどう発音すればいいか」という反応が世界的に見られたほどに知られていない指揮者が選ばれたのだから。選ばれた新音楽監督の名はミルガ・グラツィニテ=ティーラ(Mirga Gražinytė-Tyla)、現在ロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めるリトアニア出身の、29歳の女性だ。
我々音楽ファンには一見突飛にすら思えるこの発表だったが、しかしオーケストラの内部的には順当な人選だったのだろう。彼女は昨年7月に初めてバーミンガム市交響楽団を指揮した演奏会の好評を受けて、急遽今年の1月にも招かれ、それらの演奏を経たうえで音楽監督に就任と、段階を踏んでの決定だったのだから。
では経歴を見てみよう。1986年生まれの彼女は11歳にして音楽を志し、グラーツ、チューリヒなどで学び、2011年には早くもハイデルベルク劇場の第二楽長となっている。2012年にはネスレ&ザルツブルク音楽祭ヤング・コンダクターズ・アワードを受賞し、ベルン歌劇場の楽長となり、…と、この数年に目覚ましい活躍をしてきたことがわかる。
しかし、来日公演のない彼女の指揮姿に触れた方は少ないことだろう。現在、もっともその雰囲気が感じ取れるのはロサンゼルス・フィルがYouTubeで配信しているこちらの動画になるだろうか。
幸いなことにバーミンガム市交響楽団は定期的に来日公演を行っているので、新たなコンビネーションの音楽を日本公演で聴く日もそう遠くはないだろう。
バーミンガム市交響楽団の来日公演は今年6月にも予定されている。さすがに決まったばかりの音楽監督とではなく、彼女に負けず近年活躍の舞台を広げる山田和樹が指揮者としてこのオーケストラと共演するのだ。もう少しタイミングが早ければもしかして……などと思わなくもないけれど、柔軟性の高いバーミンガム市交響楽団との共演は山田和樹の等身大の音楽が引き出されるものとなるだろう。各地での公演をぜひ注目していただきたい。