東野圭吾の心温まるSFファンタジー『ナミヤ雑貨店の奇蹟』主演の多田直人に聞いた
『ナミヤ雑貨店の奇蹟』主演の演劇集団キャラメルボックス、多田直人(撮影/石橋法子)
手紙がつなぐ奇蹟のタイムトラベル感動作、新キャストを迎え決定版が再演!
2013年、演劇集団キャラメルボックスによって舞台化された東野圭吾原作のタイムトラベル・ファンタジー『ナミヤ雑貨店の奇蹟』が装いも新たにプロデュース公演として再演される。本作は今年5月で閉館が決まった大阪の劇場、シアターBRAVA!の終焉を彩るカウントダウン公演。脚本・演出の成井豊が外部キャストを加え、納得の布陣で挑む”決定版”だ。特撮ドラマ『仮面ライダー鎧武』の松田凌、舞台『タンブリング』の鮎川太陽ら新キャストと共にメインの泥棒3人組を演じる多田直人は唯一、初演と同じ役を演じる。舞台『HAUNTED HOUSE』出演のため在阪中だった多田に、大阪で意気込みを聞いた。
◎「初演では物事が収束する痛快さと、人々の悩みに寄り添えた感覚があった」(多田)
--まずは初演の時の感想からお聞かせください。
多田: 稽古前に原作を読んだのですが、ミステリー作家のイメージが強い東野さんが、今回のようなハートウォーミングな作品も書かれるんだという驚きと新鮮さ、構成力の巧みさに感銘を受けました。ナミヤさんや僕らコソ泥3人組がひねり出した悩み相談の回答がこういう風に作用して、過去や未来がこんな風に変わっていくんだ!とどんどんハマって、最後にひとつに収束していく感覚が痛快でした。稽古中は「原作が面白いから大丈夫」という後ろ楯みたいな安心感がありました。とはいえ1ヶ月の稽古では不安や迷いも出てくるので、本番ではお客さんの反応をみながら、やっぱりここ笑いますよね、感動しますよね、面白い作品ですよね!と、答え合わせをしていくような感覚でした。
--原作と成井さんの世界観が交わる瞬間を感じられた?
多田: 原作ものを手掛けるときに成井がポリシーとして掲げていることがあって、それは「原作をそのまま上演する」こと。初演では多少配役で男女の変更はあったにせよ、物語の核は変えていない。成井は年間300冊以上の本を読むんですが、その中から舞台化したい作品を持ってくるので確実に面白い。惚れ込むだけあって、成井の作品とも根底で通じる部分がある。それは本当に悪いキャラクターや陰惨なシーンが出て来ない、人が人を思う気持ちの積み重ねで物語が進んでいく部分とか。稽古場でもすっと物語が入ってきたような感覚がありました。
--初演では男女混合だった泥棒トリオが、再演では原作と同じ男3人組に。
多田: 前回は3人組の1人を女性にすることで、面白い化学変化が生まれました。今回は成井いわく、より原作に基づいた作品になると。他にも初演では女性歌手が「歌います!」と言いつつ軽やかに踊り出す場面があったんですが、今回は”歌える方”をキャスティングしたということで、ちゃんと歌声が聴けると思います(笑)。
--演じる敦也について。
多田: コソ泥3人組のリーダー的存在です。初共演の松田凌くん、鮎川太陽くんは共に好青年で、物語のキャラクターにもよく似合う。20代半ばのフレッシュ感をいただきながら年上としても引っ張っていけたら。
--泥棒役なのに「好青年でぴったり」というのもユニークです。
多田: やってることは悪いことですが、やむを得ない事情があるというか、彼らには彼らなりの正義があってのことだし、演じる上でもやっぱり嫌なやつだとは思われたくない(笑)。どこか憎めないヤツらというのが、この3人組を演じる上で必要な要素だと思う。物語を進める狂言回しのような存在なのでコンビネーションも必要だしコミカルさも求められる、その意味でも好青年がハマる役だと思います。
--唯一、初演と同じ役柄を演じます。
多田: 同じ作品で同じ役を演じたのは、過去に主演した『無伴奏ソナタ』だけ。その時はオリジナルメンバーでの再演だったので、上げられたハードルをきちんと乗り越えられた感覚があった。でも今回は僕以外メンバーがかわるので、ただ初演のハードルを飛び越えるのではなく変化球も提示したい。こういう”飛び越え方”もあるんだと、色々試せる舞台になるんじゃないかと楽しみにしています。
--多田さんが思う本作の魅力とは。
多田: 初演ではナミヤ雑貨店という建物をまるまる一軒、六畳ひと間の住居部分まで細かく再現したので、まず装置部分での驚きがあったんじゃないかな。この作品は人ではなく悩み相談の手紙が時を超えてやり取りされるのがすごくいいアイデアだなと。作品を通して人の悩みに触れることで、自分の悩みが解決したり、こういう考え方もあるんだと気づけたり、私も明日から頑張ってみよう!とか、誰もが抱える大小の悩みに寄り添えた感覚があり、とても意義のある作品になったんじゃないかなと思いました。
◎「”決定版”にたがわぬ、完成度の高い作品になると実感します」(多田)
--シアターBRAVA!11年の歴史上、劇団公演はキャラメルボックスが最多の9公演で出演、それを受けてのカウントダウン公演です。多田さんは劇団の看板も背負われている。
多田: さよなら公演だと聞くにつれ、いまチラシでも自分の名前が一番上にあることの重大さをヒシヒシと感じています、俺でいいのか!と(笑)。でもこうやって取材の矢面にも立たせていただき、しっかりと期待に応えたい気持ちもある。同時に、僕以外にも6名の劇団員が出演することも心強いですし、そこに外部から新たに6名の俳優さんが加わることで、このバランスが良い方向に左右するんじゃないかと。成井が言う「決定版」にたがわぬ完成度の高い作品になると、顔ぶれをみても実感します。
--多田さんは過去9回のBRAVA!公演すべてにご出演を?
多田: じつは07年の音楽劇『サボテンの花』以来で、BRAVA!のステージに立つのは9年ぶり、すごく久しぶりなんです。ちょうど(取材日から)数日後に舞台『HAUNTED HOUSE』大阪公演が開幕しますが、この舞台の会場もシアターBRAVA!なんです。最後にワン、ツーと駆け込みBRAVA!なかんじですが(笑)、さよなら公演に向けて気合いを高めようと決意を新たにしました。
--歴史に残りますもんね。
多田: ちょっと! 追い詰めないでください(笑)。でも光栄なことです。
--『ナミヤ雑貨店の奇蹟』ですが原作を読むのなら公演の前、それとも後?
多田: 原作ものをやるときにかならず論議されることなんですが、この作品でいえばどちらでもいいんじゃないかな。本作はオムニバスっぽい作りになっていて、それが最後にひゅーっと一本の話にまとまっていく気持ちよさがある。舞台ではエピソード5本のうち3.5本分ぐらいを抜き出した構成なので、原作を読まれた方はあのエピソードをここにねじ込んできたのかと思うのかもしれないし、読んでない方は原作には他にもこんなエピソードがあったのかという楽しみ方ができるんじゃないかな。
--劇団が得意とするタイムトラベルものに期待が高まります。
多田: タイムトラベルって書いた人によって認識が違うんですよね。そもそもタイムパラドックスがあるという人や、未来は変わるんだという人など。中には最初と最後で辻褄が合わず、演じる上で苦労することもあるんですが、優れた原作や脚本になると、ただ書かれたことを実直にやるだけで、すっと一本筋がとおる気持ち良さがある。そこも含めて東野さんの作品は素晴らしいなと。
--ちなみに、多田さん自身記憶に残る手紙エピソードは。
多田: 今はメールやSNSの普及で文字でやり取りする機会は昔より多くなったと感じますし、僕自身頻繁にツイッターをやっていてお客様と交流することもある。一方で本番中にお手紙をくださる方もいて、それはやっぱり違いますよね。もちろんSNSで感想をいただくことも嬉しいんですが、手書きだと本当に気持ちがこもっている。伝わるし、染み入ってくる。手紙って貰うと嬉しいですもん、それが手書きの良さですよね。
--初演を観た方も「決定版」と聞くと見逃せません。
多田: 絶対に違うものになると思いますし、やっぱり見比べられる楽しみというのは、初演を観た方だけの特権だと思う。初演を超える意気込みでやりますので、初めての方はもちろん、初演を観た方も思い出を更新しに来てください。
初演では時代ごとの場面転換もスムーズで、ストレスなくタイムトラベルを楽しめた。装置や照明を駆使したテンポよい演出も印象的だった。再演では多田直人さんと注目の若手たちとのコラボレーションも楽しみのひとつ。何より完成度を増した決定版は、原作ファンも必見!
■脚本・演出:成井豊
■出演:多田直人、松田凌、鮎川太陽/菊地美香、鯨井康介、石橋徹郎/大森美紀子、岡内美喜子、左東広之、小林春世、金城あさみ、近藤利紘/川原和久
■日程:2016年4月21日(木)~5月1日(日)
■会場:Zeppブルーシアター六本木
■料金:7,000円、学生料金4,000円(全席指定・税込)※要学生証
■問合せ:キャラメルボックス 03-5342-0220(12:00~18:00 日祝休み/公演中は16:00まで 日祝休演日休み)
■日程:2016年5月6日(金)~8日(日)
■会場:シアターBRAVA!
■料金:S席7,000円、A席6,000円、学生料金4,000円(全席指定・税込)※学生料金は入場時要学生証(小学生除く) ※未就学児入場不可
■問合せ:シアターBRAVA! 06-6946-2260(10:00~18:00)
■公式サイト:http://www.napposunited.com/namiya/