『明治座 四月花形歌舞伎』花形役者の初役尽くし!制作発表レポート

レポート
舞台
2016.4.2
『明治座 四月花形歌舞伎』

『明治座 四月花形歌舞伎』

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春らしい華やかさと新鮮な魅力にあふれた歌舞伎公演が今年も4月2日から明治座で幕を開ける!

11年に16年ぶりに明治座での歌舞伎公演が復活してから、恒例となっている明治座の花形歌舞伎。次代をになう若手が大役に挑み、また歌舞伎の初心者にもわかりやすいラインナップで人気を博している。出演者は、尾上菊之助、中村勘九郎、中村七之助という華やかな三人を中心に、同世代の坂東亀三郎、坂東亀寿、また彼らに輪をかけてフレッシュな中村梅枝、中村萬太郎、坂東新悟、中村国生、さらに坂東彦三郎、河原崎権十郎、片岡亀蔵、上村吉弥といったベテランのメンバーが脇を固めている。

演目は、まず昼の部は『芦屋道満大内鑑 葛の葉』から。葛の葉狐と安倍晴明の伝説をモチーフに親子の情愛を描く作品で、早替りや子別れの愁嘆なども見どころ。続く『末広がり』は、末広がり(末広の扇)を買うよう命じられたもののそれを知らない太郎冠者は…という、賑やかで軽妙洒脱な舞踊物。最後は『女殺油地獄』。実際に起きた事件を近松門左衛門が人形浄瑠璃のために書き下ろしたもので、緻密な心理描写はもちろん「油屋」での油まみれの立廻りは必見である。夜の部は、井上ひさしの直木賞受賞作『手鎖心中』が原作の『浮かれ心中』。戯作者になりたい大店の若旦那・栄次郎が巻き起こす騒動の数々をユーモアたっぷりに描き、ネズミに乗った“ちゅう乗り”などの演出も楽しい作品。そして、久兵衛が亡き恋人に焦がれるあまりその幻と舞い踊るという、幻想美あふれる舞踊『二人椀久』で幕となる。菊之助、勘九郎、七之助の三人がすべて初役でそれぞれの役を勤めるのも、この公演の大きな眼目となっている。

『明治座 四月花形歌舞伎』中村七之助、尾上菊之助、中村勘九郎

『明治座 四月花形歌舞伎』中村七之助、尾上菊之助、中村勘九郎

3月25日、都内でこの制作発表が行われた。会見には尾上菊之助、中村勘九郎、中村七之助、安孫子正松竹株式会社取締役副社長、三田芳裕株式会社明治座代表取締役社長が出席。それぞれの挨拶の後、質疑応答に移った。

【挨拶】

尾上菊之助 花形歌舞伎では、私は今回明治座さんは初めて出させていただくのですが、実は杮落し興行の時に出演させていただいていて、それが今から23年前でした(笑)。その頃はまだ祖父(七代目尾上梅幸)も元気でしたし、(十七代目市村)羽左衛門のおじ様とかいらっしゃいました。杮落しの次の次の年も歌舞伎の公演があり、その時は七之助さん出てたんだよね…『重の井(子別れ)』。今回このように大役をいただき、本当に嬉しく思っております。勘九郎さんと七之助さんとはコクーン歌舞伎や平成中村座、私にとってすごい挑戦というか、転機となる公演の時に二人とご一緒させていただいて。普段なかなかご一緒できないのが非常に残念で、この場を借りて、ぜひ1年に一度は、一度と言わず(笑)ご一緒させていただける機会を作っていただきたいです。私は『女殺油地獄』の与兵衛と『浮かれ心中』のおすず、それから『二人椀久』の椀屋久兵衛を勤めさせていただきます。どれも初役で、文字通り自分にとっては挑戦の月。皆様どうぞご支援のほどよろしくお願いいたします。


中村勘九郎 今回この4月、桜咲く賑やかな時期に芝居ができますこと、また明治座さんは3年ぶりに出演できますこと、何よりもやはり菊之助さんとご一緒できるのが本当に嬉しいです。菊之助さんの芝居に対する姿勢は舞台上だけではなく普段から「尊敬」という言葉だけでは表せないぐらい素晴らしい、見習いたい方なので、一緒に芝居をさせていただいていても、とても楽しいですし、毎日毎日いろんな発見が自分自身の中でもできるので、本当に嬉しく思います。今回私は『末広がり』、これは勘九郎の会でうちの父(十八代目中村勘三郎)が一遍しかやってない踊りですが、『女殺油地獄』では七左衛門を、『浮かれ心中』もやらせていただきます。父ゆかりの演目ができますことも本当に嬉しいし、こうやって花形でいろんな演目、新たなチャレンジをできる場があるのは本当に嬉しい。千穐楽まで一生懸命勤めますれば、どうぞよろしくお願いいたします。

 

中村七之助 明治座でまた芝居がやれることを本当に嬉しく思っております。今気づいたのですが、菊之助のお兄さんも全部初役で、うちの兄(勘九郎)も全部初役で、私も全部初役なんですね。これはなかなかないんじゃないかなと。若手公演、「花形」ってつくのがピッタシというか。僕は10代の時に浅草公会堂で、花形歌舞伎で育ててもらった恩がありますが、その気持ちにタイムスリップして、今ドキドキしてきました(笑)。新たな挑戦の4月という、世の中も一歩踏み出す月ですし、私たちも一歩踏み出して、また努力精進をして、愛する歌舞伎をどんどんいろんな方に広めていきたいなと思っています。どうぞお足をお運びくださいませ。

 

 

【質疑応答】

『明治座 四月花形歌舞伎』

『明治座 四月花形歌舞伎』

 

──昼の部で『女殺油地獄』にお三方が出演されますが、近松作品の魅力について伺いたいです。

菊之助 現代に通じる普遍性をよくあの時代に近松さんは書いてくださったなと本当に感謝の念に堪えません。『油地獄』は、近松さんの中でも男女の恋模様を描いてない、唯一といってもいいぐらいの作品と聞いています。複雑な家庭環境が生み出してしまった一人の青年が起こしてしまう事件。お金に困って衝動的に殺してしまうというのは、これは(片岡)仁左衛門のお兄さんの当り役として何度もお演じになられてますが、いつもゾーッとする思いで芝居を観ておりました。常々近松の作品には、以前は『封印切』の梅川を勤めさせていただいたことはありますが、なかなか関東の人間にとってはさせていただける機会が少ないので、今回『油地獄』をさせていただきたいと申し上げて、受けていただいた時には非常に嬉しかったし、今回仁左衛門のお兄様が監修ご指導してくださるということで、先日も公演にもかかわらず間でお部屋に呼んでお話をしてくださり、先日は公演が終わって夜10時半とかだったのですが、明けて1時過ぎぐらいまでお話をしてくださいまして。後輩に自分の感じてきたこと、されてきたことを伝えようという風にしてくださってることが非常にありがたくて。その思いに応えるべく、今回の与兵衛は本当に気合いを入れて頑張りたいと思います。

勘九郎 上方のお芝居の主人公という男は、何か欠けてるんですね。その“欠けている男”というのはすごく魅力的で、私も『封印切』の忠兵衛をやらせていただいた時、とても楽しかったですし、この与兵衛は、菊之助さんも仰った通り、いつの時代も起こる、今の時代すぐ身近で起こっているような事件が書かれているものが今残っているのはすごいことですし。私が演じる七左衛門はちょこっとしか出てこないのですが、被害者家族ですから、観てるお客様に、彼が掛取りから帰ってきてお吉が惨殺されている死体を第一目撃者として発見する。そのイメージをお客様の中に膨らませられるような役作り、芝居にしたいと思います。

七之助 今ちょうど『心中天網島』というのをやっておりまして(『ETERNAL CHIKAMATSU』)、また近松の作品に2ヶ月続けて出させていただき、今回の『心中天網島』の場合はイギリスのデヴィッド・ルヴォーさんが、海外の方から見た近松作品をどう現代とミックスして掘り下げていくかという。稽古からずっと話を聞いていて、私もわかってるつもりではいたのですが、改めて海外の方から言われると、近松の凄さ、奥の深さ、伏線がたくさんあったりということがすごく力強く伝わってきて、今回『女殺油地獄』にも繋がるようなことがたくさんあったのはとても嬉しい。2ヶ月続けて近松に携われるのは素晴らしいことですし、人間味溢れる近松の作品は、今にも通じると思います。いろんな方に観てもらいたいですし、今回のコクーンを観て、初めて近松作品に出会った方も多くいらっしゃると思います。必ずやこの明治座にも来てくださると思うので、この三人の味というか、近松の作品は絶対出てきますので、心から芝居をして、素晴らしい『女殺油地獄』になってほしいなと思うし、やらなくちゃいけないなという気持ちでいっぱいです。

『明治座 四月花形歌舞伎』

『明治座 四月花形歌舞伎』

──明治座の舞台ならではの歌舞伎の楽しみ方、魅力、また初めて歌舞伎をご覧になる方にこういうところを楽しみにしてほしいという点は。

菊之助 明治座さんに出させていただくのが本当に久しぶりなので、たぶん劇場に入ったら非常に懐かしいと思います。歌舞伎公演だけではなく、歌舞伎ではない演目を観てらっしゃるお客様がたくさんいらっしゃるので、歌舞伎をあまりご覧になったことがない方でも今回の演目はすべてわかりやすいものが揃っていると思うので、歌舞伎ってすごく魅力のあるものなんだなと思っていただけるように勤めたいです。

勘九郎 芝居見物って1日のイベントだと思うんですね。明治座さんは人形町、美味しいお店もいっぱいありますし。お洒落して、芝居を観にきて、その後にご飯を食べながら芝居の感想を言い合ってという、1日のイベントに、初めて観てくださるお客様もしていただければいいと思いますね。

七之助 今皆様が言ってくれたことと、あと自分で言うのもなんですが、このチラシを見て演目を見た時「すごく面白そうだな」と思いました。「これはお客様に喜んでいただけるな」と素直に、客観的に見れました。あまり歌舞伎をご覧になったことのない方は、チラシを見て題名だけではどういう内容なのかとか、「漢字ばっかりだから難しいんじゃないか」と思いがちでしょうが、ぜひ来てください。菊之助のお兄さんも仰った通り、初めて歌舞伎をご覧になるお客様でも楽しめますし、いつもご覧になっているお客様でもすごく堪能できる演目立てですので、昼夜ともに観ていただければ嬉しく思います。

──初役の緊張もあると思いますが、それをほぐすリラックスがあれば。

菊之助 逆に教えていただきたいですが(笑)どの公演でも初日というのは独特の緊張感があって、でもそれがあるからこそ火事場の馬鹿力というか。緊張感は不可欠なものなんだなといつも思ってます。勘九郎さん七之助さんとは、一緒に板の上にあがっていると、不思議な力というか化学変化が私の中では起こって、いつもは出ないような力が出てくるんですよね。ですから今回も、お二人と板の上に立つのが非常に楽しみで、稽古が待ち遠しいです。

勘九郎 僕、緊張しぃなんですが、父に「良い緊張はいいけど、悪い緊張というのは、それまで稽古してなかった、どうしよう、どうすればいいんだろうという緊張だからそれはいけない」という言葉をもらっているので、良い緊張を楽しむようにしています。菊之助さん、七之助もそうですが、初役って緊張するんですけど、すごく楽しみですね。「これからこの役を自分ができるんだ」と思うのも楽しみだし、その役に魂を入れて、自分の台詞でなく自分の肉体から出る言葉で役ができるというのは、今からとても楽しみです。

七之助 今兄が言いました通り、稽古だと思います。悪い緊張が出ないようにするということは父に本当に口を酸っぱく言われてましたので。良い緊張で初日を迎えられること、また、この『女殺』はもっともっと稽古したいですね。稽古すればするほど緊張もなくなっていくし、台詞もお腹に落ちて、変な雑念を考えないでやればやるほど、作品が良いですから、どんどん良いものになっていくだろうし。歌舞伎役者の場合は毎日できますし、これが最後ではないので、またどんどん世代世代、年年でご一緒させていただいて、二人で『女殺油地獄』というものができあがっていくのも一つの魅力かもしれませんので、今回はこの年でしかできないものを、少ない稽古ですが、そこに全力をかけて一生懸命やりたいと思います。

『明治座 四月花形歌舞伎』

『明治座 四月花形歌舞伎』

──『浮かれ心中』で、勘三郎さんの当り役を演じられることについては。菊之助さんには、初役に対する思いは。七之助さんは前回、勘三郎さんと一緒に出てらっしゃいますが、その思い出は。

勘九郎 僕もこれ(をやると)思ってなかったんです。それで会社(松竹)が『浮かれ心中』…なるほど、明治座はぴったりだなと。いつかやりたいとは思ってましたが、本当に馬鹿馬鹿しいお話で、でも喜劇の裏には闇があるというのを井上(ひさし)先生がよくお書きになっている作品。改めて原作の『手鎖心中』を読んだ時、「面白いな、これもドラマとかでやってみたいな」という気分にもなりましたが、この『浮かれ心中』を小幡(欣治)先生が栄次郎目線から書かれて、父が大好きで何度も勤めている役。本当に他人様を笑わせたい、笑ってもらえるものなら石ころでも笑わせたいという人間が、いろんなことをしてしまう茶番ですが、茶番は本気に勝てるのかというお芝居で、とても楽しみにしています。これももっともっと稽古したいんですが、多分僕以外も(坂東)彦三郎のおじ様が前回父の『浮かれ心中』にも出てくださったのですが、あとはみんな初役だと思うので、今まで父の『浮かれ心中』を何回も観て、全然違う作品になると思いますし、話し合って良い作品にしなければいけないなという気持ちでいっぱいです。

菊之助 とにかく栄次郎さんを好きなんですよね。栄次郎さんのためだったらなんでもやりたい。で、栄次郎さんからも好かれる女性じゃないといけないと思いますし。とにかく栄次郎に対する思いというか、可愛らしさというものも大事にして、稽古でどういうものに作り上げていくのか、今から楽しみです。

勘九郎 今回、菊之助さんとやらせていただくということで、今までの台本にない、原作に書かれている台詞があるんですが、それは言いたいなと思っております。

七之助 僕は出させてもらってたのですが、最後、幕外で父と二人になって、ずっと(中村)福助のおじが二人でアドリブで楽しくやってたんですけど、僕は父とやる時は緊張してましたので何もできなくて、1日だけ会話できたかなと思ったら「お前、やりにくいよ」と言われました(笑)。すごく引きつって、喜劇でお客様は笑ってたんですけど、僕は全然笑えてなかったという苦い思い出がありますが、このお芝居は虚と実の間というか、作者の苦悩であったり、「作者が現実に勝てるのか」と言っててもお芝居だったり、いろんな楽しみ方ができる作品なので、馬鹿馬鹿しいところもあれば、ちょっと考えさせられるところもある、ほろっとくるところもありまして。個人的な感想では、うちの父はちゅう乗りして、下に(十代目坂東)三津五郎のおじ様がいらっしゃったのが、最後のシーンは思い出してぐっときてしまうんではないかなとは思うんですが、そんな湿っぽく観てもしょうがないので、舞台稽古を楽しくどこかで観てみたいなと思っています。

〈公演情報〉

『明治座 四月花形歌舞伎』

『明治座 四月花形歌舞伎』

『明治座 四月花形歌舞伎』

[昼の部]

一、芦屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)

   葛の葉

二、大沼信之 作

   末広がり

三、近松門左衛門 作

   片岡仁左衛門 監修

   女殺油地獄

[夜の部]

一、井上ひさし作「手鎖心中」より

   小幡欣治 脚本・演出

   大場正昭 演出

   浮かれ心中

   中村勘九郎ちゅう乗り相勤め申し候

二、二人椀久

出演◇尾上菊之助 中村勘九郎 中村七之助 他

●4/2~26◎明治座
 〈料金〉一等席14,000円 二等席6,500円 三等A席5,000円 三等B席3,000円【学割】各席種2割引(全席指定・税込)

〈お問い合わせ〉明治座 03-3666-6666(10:00~17:00) 

公式HP http://www.meijiza.co.jp/info/2016_04/


【取材・文・撮影/内河 文

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