新橋演舞場「初春花形歌舞伎」中村獅童インタビュー
中村獅童
ダイナミックにファッショナブルに!
獅童流「歌舞伎の楽しみ方」
中村獅童の2016年は新橋演舞場「初春花形歌舞伎」でスタート。演じるのは『車引』の松王丸と『弁天娘女男白浪』の南郷力丸で、どちらも新春にふさわしい華やかな演目である。新作歌舞伎や岩松了作品などを通し、演劇人としてさまざまなアプローチを続けている獅童の歌舞伎俳優として本領が発揮される舞台だ。公演に対する思いを獅童が語る。
--『車引』は『菅原伝授手習鑑』という物語の中の一幕。目にも鮮やかな色彩で歌舞伎の様式美に満ちた作品ですね。
中村獅童
まさしく「ザ・歌舞伎」という演目です。これはもう意味を追求せずに歌舞伎の持っているダイナミックな演出法であったり大仰な演技法であったり、見たまま感じたままを楽しんでいただければと思います。短い時間の中に歌舞伎の魅力が凝縮されています。
--獅童さんが松王丸を初めて演じられたのも新春の公演でした。
浅草でのことだったのですが、歌舞伎を初めてご覧になった方が「デビルマンって松王丸の鬘から来ているんじゃないか」と話していたと聞いて、若い子の感性って面白いなと思った記憶があります。本当にまさにそうかもしれない! 歌舞伎はハリウッドのSF映画にも影響を与えているとも言われているんです。
古典となった今では隈取とか衣裳とかもみんな普通に受け止めているけれど、最初に見た人はびっくりしたと思います。そういう常識にとらわれない、歌舞伎本来が持っている「傾(かぶ)く精神」というものが流れています。
--松王丸には梅王丸と桜丸という三つ子の兄弟がいて、その三兄弟の物語。兄弟それぞれ隈取にも違いがあって面白いですね。
中村獅童
そういう役柄によっての違いなども注目していただければ。あの隈取にはちゃんと理由があって、あれは浮き出た血管を表しているんです。型をきっちり守りつつもそういう内側からの燃えたぎるパッションを大事に、魂を込めて勤めたいと思います。
--型という演技法、演出法はきっちり決まっているものなのですか。
見得をする時の形はもちろん、立ち位置から何から何まで細かく決まっています。それは歌舞伎の伝統の中で時間をかけて練り上げられたもので、それによってダイナミックな演技が成立しているんです。
--例えばフィギュアスケートなどの表現スポーツにも通じるものがありますね。
そうかもしれません。そうしたものを見る時と同じように、感覚的に楽しんでいただきたいですね。
--『弁天娘女男白浪』は5人組の盗賊の物語。獅童さんが演じる南郷力丸は侍のふりをして、市川海老蔵さん演じる弁天小僧と一緒に呉服店に強請りに行くのですね。
中村獅童
わかりやすく言えば江戸時代のアウトローのストーリー。ふたりが強請りに行く「浜松屋の場」は芝居の中で芝居をしているわけですが、そこをあまり意識しすぎずにやれたらと思います。南郷は弁天小僧の兄貴分。華やかな弁天に対して南郷に渋みがあるとふたりが実に格好良くなりますので、そういう南郷を目指したいと思います。
--五人男が揃いの衣裳で勢揃いする場面はいつもわくわくします。
名せりふもありますし、見た目がとてもファッショナブル。悪さもするけどおしゃれにも人一倍気を遣う、みたいなアウトロー精神を感じます。今で言うならみんなで揃いの革ジャンを着てバイクに乗る、というような感覚でしょうか。『車引』にも言えることですが、そういうビジュアルの美しさは歌舞伎ならではだと思います。
--時代物の『車引』、世話物の『弁天娘女男白浪』。それぞれのジャンルの面白さが楽しめそうですね。
両方のよさを実感していただくのにいい機会ですし、歌舞伎を初めてご覧になる方にもとてもわかりやすい演目です。また自分は出演していませんけれど『七つ面』という舞踊作品もあります。初春の新橋演舞場では歌舞伎のいろいろな要素が楽しめ、どの演目も新春にふさわしく華やかなものばかり。歌舞伎という日本特有のエンタテインメントをぜひ楽しんでいただきたいと思います。
(文/清水まり)
■日時:1/3(日)~1/24(日)
■会場:新橋演舞場 (東京都)
■出演:市川海老蔵 中村獅童 市川右近 他
演目:
菅原伝授手習鑑
一、車引(くるまびき)
松王丸 獅 童
桜丸 春 猿
杉王丸 廣 松
藤原時平 市 蔵
梅王丸 市川右近
二、弁天娘女男白浪(べんてんむすめめおのしらなみ)
白浪五人男
序幕 雪の下浜松屋の場
稲瀬川勢揃いの場
大詰 極楽寺屋根立腹の場
同 山門の場
滑川土橋の場
弁天小僧菊之助/青砥左衛門藤綱 海老蔵
日本駄右衛門 市川右近
忠信利平 市 蔵
赤星十三郎 笑三郎
浜松屋宗之助 鷹之資
浜松屋幸兵衛 右之助
鳶頭清次 友右衛門
南郷力丸 獅 童
三、歌舞伎十八番の内 七つ面(ななつめん)
元興寺赤右衛門 海老蔵
舞台番右近 市川右近
班女御前 笑三郎
常陸大掾百連 家 橘
吉田少将惟貞 友右衛門
口上 右之助
■公式サイト:http://www.kabuki-bito.jp/theaters/shinbashi/play/452