「同世代でこの作品をやることに意味を感じている」松居大悟&青柳文子が語る『イヌの日』
(左から)松居大悟、青柳文子
ゴジゲン主宰・松居大悟が、実に4年ぶりに劇団以外の公演を手がける。作品は、長塚圭史の傑作戯曲『イヌの日』だ。阿佐ヶ谷スパイダースが2000年に初演し、2006年にリメイク上演した名作に、30歳の松居が挑むこととなる。出演者には尾上寛之、玉置玲央、そして青柳文子ら同世代の俳優陣が揃った。今や映画監督としても評価が高い松居にとって、本作は劇団以外の場で演劇をつくることの意味を改めて問われる場となりそうだ。
青柳の持つ演劇人にはない無垢な可能性に賭ける松居
■初恋の女の子を15年間監禁する気持ちがわかるなって
――速報コメントでも「長塚作品の演劇に魅了されてきた」と語っていたのが印象的でした。改めて長塚作品との出会いについてから聞かせてください。
松居:僕は母親が演劇好きで、小学生の頃からよく劇場に連れて行ってもらってたんですよ。三谷幸喜さんとか後藤ひろひとさんとか、いろいろ見ていて。その中のひとつが阿佐ヶ谷スパイダース。僕が見たのが、『ポルノ』という作品で、ムチャクチャな話なんだけど、もう衝撃を受けまくって、いまだに忘れられないくらい。何だか見ちゃいけないものを見たような気がしたんです。
――それで、ずっと長塚作品をやってみたいと。
松居:もうずっと思ってましたね。それで、いろいろあらすじとか調べていく中で、『イヌの日』のテーマにとにかくグッときたんです。僕、実は『イヌの日』自体は見たことないんですよ。でも、これをやりたいって。
演出を手がける松居大悟
――この『イヌの日』は、小学生の頃、好きになった初恋の女の子を15年間にわたって防空壕に監禁する男の物語です。正直、かなりトリッキーな設定だなと思ったのですが。
松居:僕はトリッキーというより、むしろわかるなって思っちゃったんですよね。すげえいいなって。初恋の女の子に変わってほしくなくて防空壕に閉じこめる。その気持ちがすげえわかるなって。
青柳:やばいですね、それ(笑)。
松居:共感するというよりも、それを描くことについてわかるっていう感じです。もちろんやっちゃいけないことなんですけど、小学生なんてまだ分別のつかない時期。好きな女の子に大人になってほしくなくて閉じこめてしまう気持ちは、間違っているんだけど間違っていないような気がするんです。それも、一人じゃ可哀相だからって、他に三人も閉じこめちゃうところとか。
――いいやつなのか何なのかよくわからないですよね(笑)。
松居:愛情がまっすぐなんですよ。まっすぐすぎて間違っている。
――青柳さんは、防空壕に閉じこめられた菊沢という役です。まずこの設定についてどう思いましたか?
青柳:最初に松居さんから、「防空壕に15年間閉じこめられた女の子の役なんだけど、やらない?」って言われて。「何それ面白そう、やる!」って詳しくわからないのに言っちゃいました(笑)。15年も閉じこめられていた人の気持ちなんて想像もつかないですけど、自分自身があまり社会にコミットしていない自覚もあるので(笑)、何かできるかもって。
――ということは、青柳さんは松居さんご自身がキャスティングされたんですね。
松居:はい。彼女の芝居は、純粋培養された雰囲気があるんです。そこがピッタリだなって。たぶん演劇人だと、あらゆる技術で“監禁された風”のお芝居になっちゃう。でも、彼女の場合、自分の中のロジックとか方法論があってお芝居をやっているわけじゃない。その感じが、15年間閉じこめられて、小学生のまま大きくなった菊沢にハマるんじゃないかなって。というか監禁されていることにも気づいていないくらいの純粋さが、彼女の演じる菊沢という役にはあってもいいんじゃないかという気がしているんです。
青柳:純粋培養って言葉、結構気に入ってるんです(笑)。悪く言ったら経験がないってことですけど、松居さんがそれに賭けるって言ってくれているので、賭けに失敗することのないよう頑張らなきゃって思っています。
■松居さんの作品にずっと出たかった
――松居さんから見る女優・青柳文子の面白さは?
松居:僕が好きな役者さんというのは、次の瞬間、何してくるかがわからない人なんですね。お芝居の上手い下手って正直僕はよくわからないけど、青柳文子という人には何をしですか全然わからない変なところがある。そこに興味を惹かれます。
――では、青柳さんから見る演劇人・松居大悟の面白さは?
青柳:これまで2本、ゴジゲンの舞台を見させてもらったんですけど、テンポもすごいし、内容も予想がつかないというか、何が出てくるのかわからない面白さがあって。これ、どうやって演出してるんだろうって思いました。演技も大げさじゃなくて、日常で喋っている感じで、それもすごく好きでしたね。
松居:お、いいヤツだ(笑)。
青柳:だから松居さんの作品に出たいって、ずっと言ってたんです。ただ、私がああいう感じの中に入ってやっていけるのかはわからないんですけど…。
松居:まあ今回はゴジゲンとは別だし、どうなるかわからないしね。
――そこなんですよね。個人的にもゴジゲンの感じと長塚さんの作風って重ならないイメージだったので、それをどう松居さんが演出するのかはかなり注目しています。
松居:どうなんだろう。僕もどうなるか、まだわかってないところが多くて。ただ、圭史さんに寄せるより、立ち向かうつもりです。もちろん憧れてはいるけれど、『イヌの日』をやりたいと思ったのも、あらすじやテーマにグッと来たからであって、憧れとは別の話なんですよね。今のところ当時の上演映像も見ないつもりだし、阿佐ヶ谷スパイダースがやっていたようにはしない気がしています。
プライベートでも親交の厚いふたりだが、舞台での本格的な共演は初。
――劇団以外の場で舞台の演出するのも相当久しぶりですもんね。
松居:なので、やり方については今すごい悩んでいるんですよね。普通に本読んで、台詞を覚えて、立ち稽古をしてシーンをつくってっていうのに意味あるのかなって。
――ゴジゲンではかなりラフにつくっていると聞いています。
松居:稽古場で普通に話して、その何気ない会話から生まれたものを広げてっていう感じですね。そういうロジックで今回もやっていくかもしれない。とにかく怖いことが、演劇を嫌いになることなんですよ。
――嫌いになる、とは。
松居:やっぱり演劇って役者と向き合うことが多い分、嫌なところも見るし、ストレスもある。一時は稽古場に行っては泣いて、もう辞めよう、実家帰ろうって思ってたこともありましたから(笑)。
青柳:今回は楽しくやりましょうよ!
松居:そうだね、楽しくやらないとね。特に今回は好きな人と好きなテーマでやれるんだから楽しくないわけがないって信じてる。やっぱり劇を好きでいたいからね。
青柳:うん。私、毎日お菓子持って行きますから(笑)。
――それだけ辛いことが多いのに、こうして演劇に戻ってきちゃったわけですね。
松居:そこは正直、「エイッ!」て決めたところはあります。30にもなって学生みたいなことは言ってられないなって。
青柳:でも、ずっと子ども心でいたいっていうのもあるんじゃないですか。松居さんの舞台見ててもそういうところあるし、今回の『イヌの日』もそうじゃないですか。
松居:そうかも。だから、地下でみんなが戯れているところとか、変にカタチになりすぎないようにしたいなって。“楽しんでいる風”の芝居にするとしんどいじゃない? 僕の頭で固めすぎて、それをみんなに押しつけるから辛くなるんだと思う。ここでは、みんなでどうしようって言いながらつくれたらいいのかなって、何か見えてきた気がする(笑)。
■青柳文子が下北沢でセミの鳴き声をするって時点で面白い
菊沢真理恵役の青柳文子
――個人的には、モデルとして活躍されてる青柳さんが、劇中にあるようなセミの鳴き声とかされるのかなと思うと、ちょっと想像つかないです(笑)。
松居:そう。青柳文子が下北沢でセミの鳴き声をするっていう(笑)。
青柳:私、ニワトリの鳴き声得意だから大丈夫だと思います(笑)。
――スズナリの舞台に立つのも初めてですよね?
青柳:初めてです。スズナリでお芝居を見たこともなくて。
松居:年季がすごいよ(笑)。
青柳:でもみんなに「スズナリでやるんだ、いいね」って言われるんで、すごく楽しみです。
――青柳さんのイノセントな感じとスズナリのギャップがたまらないですよね。じゃあ、最後にそれぞれ意気込みを。
青柳:早く稽古に入りたいですね。そして、この作品が何なのか早く掴みたい。まだ何を掴めるかはわからないですけど、何かを掴んで、それをそのままお客さんに伝えられたらいいなって思っています。
松居:もちろん長塚さんへの憧れもあるんですけど、同世代でこれをやるってことに、今、すごく意味を感じていて。よく知ったメンバーみんなでこのテーマに立ち向かうことを大事にしたいなと思っているんですよ。(村上)航さんを除いて、みんな20代後半から30代前半。(玉置)玲央とも初めてで、絶対に柿(柿喰う客)とは真逆の玲央をつくろうって。間違っても体のキレとか使わない。武器を封じて、牙をもいでやりたい(笑)。
青柳:じゃあ私が代わりにキレッキレでやります。今、ちょうど筋トレしてるところだから(笑)。
松居:この『イヌの日』って英語にするとDOG DAYSで、「とにかく暑い日」って意味なんですよ。タイトルもそれが由来になっていて。だから、とにかく暑い夏にしたいですね。スズナリを熱気いっぱいの夏にするので、ぜひそれを体感しに来てください。
幅広いフィールドで活躍する松居が長塚作品をどう演出するか、期待が募る
1985年11月2日生まれ。福岡県出身。06年にゴジゲンを結成。全作品の作・演出を手掛ける。12年、『アフロ田中』で映画監督デビュー。15年、『ワンダフルワールドエンド』でベルリン国際映画祭出品。ミュージシャンのPVも手がける。16年冬、監督作『アズミ・ハルコは行方不明』が公開予定。
青柳 文子(あおやぎ・ふみこ)
1987年12月24日 生まれ。大分県出身。『Soup.』『SPRiNG』『JILLE』などの人気ファッション誌でモデルとして活躍する傍ら、女優としても映画『知らない、ふたり』やドラマ『ゴーストレート』に出演。自らが発信するカルチャーマガジン『青柳文子マガジン あお』も発売中。
◆日程:2016年8月10日(水)~8月21日(日)
◆会場:ザ・スズナリ(下北沢)
◆作:長塚圭史
◆演出:松居大悟
◆出演:尾上寛之、玉置玲央、青柳文子、大窪人衛、目次立樹、川村紗也、菊池明明、松居大悟、本折最強さとし、村上航
◆一般発売:6月25日(土)
◆主催・企画製作:ゴーチ・ブラザーズ
◆公演に関する問い合わせ:ゴーチ・ブラザーズ TEL.03-6809-7125(平日10:00~18:00)