野平一郎、ソロ・リサイタルは古典から現代音楽まで“小品の美”をたどるプログラム
野平一郎
作曲家、ピアニスト、指揮者、音楽ホールの芸術監督、指導者、執筆者と、幅広く活躍する野平一郎が6月にソロ・リサイタルを開催する。作曲家ならではの視点による深い音楽解釈と、難曲を次々と弾きこなすテクニックで、古典と現代音楽を混ぜ合わせたプログラムが披露されるようだ。今回はリサイタルのタイトルとなっている“Moments musicaux(楽興の時)”をキーワードに、野平本人に小品にこだわって選曲されたプログラムのそれぞれの魅力について伺った。
――プログラミングのポイントは。
シューベルトの「楽興の時」の原題は "Moments musicaux"、つまり瞬間の音楽。短い時間の中に作曲家のメッセージが凝縮された音楽に興味を覚えました。そこで、小さい作品を集めて小品の持つ瞬間美を、みなさんと一緒に楽しもうと思います。シューベルトはアンサンブルでは随分演奏しているものの、ピアノ・ソロに取り組むのは初めて。年齢を重ね、シューベルトの持つ自然な歌心が体の中に染みこんで一体化できるような気がして、今はシューベルトに特別な親近感を覚えます。
――前半に演奏するバッハとベートーヴェンの聴きどころを教えてください。
バッハの 「シンフォニア」は、楽譜見開き 2 ページで完結しているところが興味深い。いかに短い時間の中で音楽を展開していくか、すごく考え抜かれた作品。楽譜の校訂(音楽之友社)で指使いを解説したので、ぜひ実践したいと思います。ベートーヴェンの作曲活動の転換期に生まれた 「バガテル(作品33)」 は、それまでのソナタや弦楽四重奏曲などと比べると、思いもよらない展開が待ち受ける音楽。“つまらないもの”、“どうでもよいもの”という意味を持つ小品で、まじめ一環だったベートーヴェンが馬鹿なこともやってみた、そんな面白さがあります。聴く人によってはベートーヴェンなのに変な曲、と感じるかも。作品の面白さは実際に聴いて発見していただきたいです。
――後半の現代音楽は、どんな作品でしょうか。
クルタークはブーレーズやシュトックハウゼン、リゲティらと同世代の大作曲家。ピアニスト、教育者としても高名ですが残りの人生を作曲に捧げたいと、1 日のほとんどを作曲活動に費やしています。1973 年から作曲し続けているピアノ作品集『遊び』は、どれもシンプルながら想像力がかき立てられる音楽。ずっと演奏したいと思い、今回初めて取り組みます。『3 イン メモリアム』 は 3 曲すべて演奏しても 5 分程度。短い時間の中に静と動の対比が織り込まれ、瞬間美を存分に感じられるでしょう。篠原眞の『Brevity for piano』 は24曲からなる小品集。拡張、分散音、テンポなど1曲ごとに音楽様式にだけ集中した、ほかの曲とはひと味違う音楽。昨年末に日本で世界初演が行われ、現代音楽を好む人には聴いていただきたい作品です。
ピアノの達人・野平一郎が極める小品の数々。瞬間の美をお聴き逃しなく。
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