野平一郎、ソロ・リサイタルは古典から現代音楽まで“小品の美”をたどるプログラム

インタビュー
クラシック
2016.6.1
野平一郎

野平一郎

作曲家、ピアニスト、指揮者、音楽ホールの芸術監督、指導者、執筆者と、幅広く活躍する野平一郎が6月にソロ・リサイタルを開催する。作曲家ならではの視点による深い音楽解釈と、難曲を次々と弾きこなすテクニックで、古典と現代音楽を混ぜ合わせたプログラムが披露されるようだ。今回はリサイタルのタイトルとなっている“Moments musicaux(楽興の時)”をキーワードに、野平本人に小品にこだわって選曲されたプログラムのそれぞれの魅力について伺った。



――プログラミングのポイントは。

シューベルトの「楽興の時」の原題は "Moments musicaux"、つまり瞬間の音楽。短い時間の中に作曲家のメッセージが凝縮された音楽に興味を覚えました。そこで、小さい作品を集めて小品の持つ瞬間美を、みなさんと一緒に楽しもうと思います。シューベルトはアンサンブルでは随分演奏しているものの、ピアノ・ソロに取り組むのは初めて。年齢を重ね、シューベルトの持つ自然な歌心が体の中に染みこんで一体化できるような気がして、今はシューベルトに特別な親近感を覚えます。
 

――前半に演奏するバッハとベートーヴェンの聴きどころを教えてください。

バッハの 「シンフォニア」は、楽譜見開き 2 ページで完結しているところが興味深い。いかに短い時間の中で音楽を展開していくか、すごく考え抜かれた作品。楽譜の校訂(音楽之友社)で指使いを解説したので、ぜひ実践したいと思います。ベートーヴェンの作曲活動の転換期に生まれた 「バガテル(作品33)」 は、それまでのソナタや弦楽四重奏曲などと比べると、思いもよらない展開が待ち受ける音楽。“つまらないもの”、“どうでもよいもの”という意味を持つ小品で、まじめ一環だったベートーヴェンが馬鹿なこともやってみた、そんな面白さがあります。聴く人によってはベートーヴェンなのに変な曲、と感じるかも。作品の面白さは実際に聴いて発見していただきたいです。
 

――後半の現代音楽は、どんな作品でしょうか。

クルタークはブーレーズやシュトックハウゼン、リゲティらと同世代の大作曲家。ピアニスト、教育者としても高名ですが残りの人生を作曲に捧げたいと、1 日のほとんどを作曲活動に費やしています。1973 年から作曲し続けているピアノ作品集『遊び』は、どれもシンプルながら想像力がかき立てられる音楽。ずっと演奏したいと思い、今回初めて取り組みます。『3 イン メモリアム』 は 3 曲すべて演奏しても 5 分程度。短い時間の中に静と動の対比が織り込まれ、瞬間美を存分に感じられるでしょう。篠原眞の『Brevity for piano』 は24曲からなる小品集。拡張、分散音、テンポなど1曲ごとに音楽様式にだけ集中した、ほかの曲とはひと味違う音楽。昨年末に日本で世界初演が行われ、現代音楽を好む人には聴いていただきたい作品です。
 

ピアノの達人・野平一郎が極める小品の数々。瞬間の美をお聴き逃しなく。

公演情報
野平一郎 ピアノ・リサイタル Moments musicaux
 
 日時:2016年6月16日(木) 18:30 開場 19:00 開演 
 会場:浜離宮朝日ホール
 
 料金:4,500 円(全席指定・税込)
 問い合わせ:朝日ホール・センター 03-3267-9990(日祝除く 10:00-18:00)

<プログラム>
J.S.バッハ:3 声のシンフォニアより
 第 1 番 ハ長調 BWV787 第 2 番 ハ短調 BWV788
 第 3 番 ニ長調 BWV789 第 5 番 変ホ長調 BWV791
 第 6 番 ホ長調 BWV792 第 7 番 ホ短調 BWV793
 第 9 番 ヘ短調 BWV795 第 10 番 ト長調 BWV796
ベートーヴェン:7 つのバガテル 作品 33 より
 第 1 番 変ホ長調 第 2 番 ハ長調
 第 3 番 ヘ長調 第 7 番 変イ長調
シューベルト:楽興の時 D780 作品 94 より
 第 1 番 ハ長調 第 3 番 ヘ短調
 第 4 番 嬰ハ短調 第 6 番 変イ長調
***INTERMISSION***
 クルターク:3 イン メモリアム(1988-90)
 ドビュッシー:ベルガマスク組曲(1.前奏曲 2.メヌエット 3.月の光 4.パスピエ)
 篠原眞:Brevity for piano (2015)より

 

 

プロフィール
野平一郎(Ichiro Nodaira作曲・ピアノ
1953年生まれ。東京芸術大学、同大学院修士課程作曲科を修了後、フランス政府給費留学生としてパリ国立高等音楽院に学ぶ。作曲、ピアノ、指揮、プロデュース、教育などの多方面にわたる活動を行う。
 
ピアニストとしては内外の主要オーケストラにソリストとして出演する一方、世界中の名手たちと共演し室内楽奏者としても活躍。古典から現代までレパートリーは幅広く、フィリップ・マヌリやジョージ・ベンジャミン、松平頼則の作品を世界初演、またジェルジュ・リゲティ、武満徹作品ほか多くの日本初演を行なう。近年は指揮者としても高い評価を得る。
 
80 曲以上に及ぶ自らの作品の中には、フランス文化庁、アンサンブル・アンテルコンタンポラン、IRCAM、ベルリン・ドイツ交響楽団、国立劇場など国内外からの委嘱作品がある。2002 年に東京でエレキギター協奏曲「炎の弦」をスティーヴ・ヴァイのソロで、2005 年にはドイツでオペラ「マドルガーダ」をケント・ナガノの指揮で、2006 年にはチェロとオーケストラのための「響きの連鎖」を堤剛のソロで、また 2012 年にはパリでサクソフォンとコンピュータのための「息の道」をクロード・ドラングルにより初演。2013年 9 月にはモスクワで開催された「ザ・シーズンズ国際音楽祭」、2014 年 10 月には台北国際現代音楽祭に招聘され多くの作品が演奏された。2016 年 2 月にはモントリオール交響楽団委嘱作品「祝典序曲」が同オーケストラにより世界初演され大成功を収めた。
 
第 13 回中島健蔵音楽賞、芸術選奨文部大臣新人賞、第 11 回京都音楽賞実践部門賞、第 35 回サントリー音楽賞、第 55 回芸術選奨文部科学大臣賞、第 44 回、第 61 回尾高賞を受賞。2012 年には紫綬褒章を受章。現在、静岡音楽館 AOI 芸術監督。東京藝術大学作曲科教授。
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