1回落ちて200万円? 日米スタントマンの給料事情や高齢化問題まで アクション監督たちが語りまくる『アクションサミット』レポート後編

レポート
イベント/レジャー
2016.6.13


スタントマンが怪我をしたらどうなる? 知られざる保険事情

 

高瀨將嗣氏は労災問題改善のため、地道な活動を続けている

高瀨將嗣氏は労災問題改善のため、地道な活動を続けている


横山:みなさんに怪我とどう付き合うかというのを、保険の話も交えて聞きたいです。みんなアクション監督、管理職になっちゃいましたが、コンプライアンスの問題からも、怪我はさせちゃダメじゃないですか。特に役者さんを怪我させるなんてとんでもない。

辻井:それについては、日俳連の高瀬さんから。

高瀬:基本的に実演家は、個人事業主の枠にくくられていたので、いわゆる労働災害の保険、労災保険が下りないと言われていたんです。普通のお勤めの方というのは、仕事上の怪我、または通勤途中の怪我には全部保険が下りるんです。この保険料は、被保険者である自分が払うのではなく、雇用主が払う。俳優は誰に雇われているのかというところが漠然としていたので、個人事業主になっていたわけです。これはスタントマンも同じなんですね。スタントマンという職業は、危険だから労災が下りないんではなく、自分自身が経営者=雇用主だから労災が下りないと言われていたんです。けれども、ここのところで厚生労働省の認識が変わってきた。

横山:どう変わったんですか?

高瀬:今、あるスタントマンのチームは会社になっていて、プレイヤー全員を社員として扱っていたんです。そうしたら、幸か不幸か、その後の作品で怪我人が2人でたんですね。これには、キチッと労災が下りました。3ヶ月間の入院で、復帰までに小一年かかったんですけど、休業補償も全部出たんです。ただ、そこに至るまでにはそれなりの時間もかかった。だから、防衛策として掛け捨てでも傷害保険に入っておかないとダメですね。実演家のために、制作会社が掛け捨ての保険を全部組んでくれるというのは、稀なんですよ。高橋レーシングのボス(髙橋勝大氏)も、何べんも怪我をして六十数箇所の骨を折ったとおっしゃてましたが、たぶん、ご自分で治療費を払って治してるんだと思います。1つの作品を組むときには、制作期間中だけでもいいから、キチンとした掛け捨ての保険を出演者全員にかけるべきだと思いますね。そうでなければ、労災の申請をきちんとするべき。

横山:この中で骨を折ったことのある方は?

一同:(全員が挙手)

谷垣:まあ、そりゃあね(笑)。

横山:折ったときの気持ちはどうでした?

坂本:いや、「仕事したなあ」って思います。

谷垣:あとは、練習で折ってたらアホみたいだから、それが映像に残っていたら嬉しい。それによるかなあ。

辻井:すいません。ぼくはいつも現場で折るより、コーディネーターのときに折るほうが多いです。スタンドでは折らないけど、普段で怪我するんです。

一同:(笑)


Q&Aコーナーではアクション監督たちへの率直な質問も
 


今回の『春のアクションまつり』は、観客との距離を縮めるためトークショー形式で開催された。そのコンセプトを反映し、『アクションサミット』では質問コーナーも設けられていた。アクション映画ファンからの率直な質問に、アクション監督たちは気さくに答えている。

観客A:アクション監督だけでなく、監督もされている方もいらっしゃいます。谷垣さんはこれから監督される予定はありますか?

谷垣:無くはないですけど、ぼくはやっぱり、他人のフンドシで好き勝手に相撲をとるのが好きなので(笑)。

坂口:うん。監督よりそのほうがいいですよ。

谷垣:それとやっぱりね、監督だと“アクション”というジャンルになるわけじゃないですか。そうすると、ジャンル、ジャンル、ジャンルでがんじがらめになる。だけど、アクション監督をやっていると、ファンタジーものがあったり、時代劇があったり、現代ものがあったり、自分がド真ん中で得意じゃないのも(依頼が)くるわけじゃないですか。そこをなんとかかんとか、自分が向いている風にやるっていうのが、なかなか面白いことで。例えば、ラブコメでもアクションはあったりするわけですが、ラブコメって、自分が生きている間……今世紀中には絶対に監督では(依頼は)こないと思うんです。毎回違うことをやるのが面白い。観ている人にしてみれば、同じことをやってるようにしか見えないでしょうけど、自分の中では面白いと思ってるんで。

観客A:なるほど。

谷垣:だから、今はそっち(アクション監督)のほうが面白いかな、って感じですね。もう一つ言えるのは、例えばぼくがアクション監督だったら、10億円の作品を任されたりしますよ。でも、監督になった瞬間に、2,000万円になっちゃうじゃないですか(笑)。

一同:(笑)

谷垣:それは絶対にあって。でも、お客さんはそんなこと知ったこっちゃないですよね。それで、「監督作になるとつまんないね」って言われちゃう。勝負のやり方がもとから違う感じはしますね。どうですか?

坂口:あってますよ。だいたい、あってます。

谷垣:おおむね、間違いではないですよね。

辻井:根本的に、ぼくは監督の才能がないのでやりません。

一同:(笑)

観客B:ほかの方の作品で、嫉妬したものはありますか?

辻井:とりあえず、『るろうに剣心』です。

坂本:基本的にぼくはみなさんがやっているのを一通り観ますね。映画が好きだというのもありますが。ちょうどぼくが特撮作品をやってるときに、横山さんもずっと『GARO』をやっていたので、お互いに刺激しあって、というのはあったりする。基本的にみなさんの作品は、DVDとBlu-rayを買って観ています。

下村:ぼくも、映画・テレビは一応すべてチェックしてます。みなさん知り合いだからというのもありますが、やっぱり各アクション監督によってスタイルが違うんですよね。そういうのを勉強したいな、というのもあるので。

横山:ぼくは『変態仮面』ですね。『GARO』みたいな真面目なのばっかやってるので。

辻井:あれ、『GARO』は真面目かな?

横山:真面目じゃないときもありますけど(笑)、一応、真剣にやってるつもりです。

田渕:ぼくは、辻井さんがやった『十三人の刺客』が一番大好きです!

辻井:一応ウチ(Stunt Japan)の社員なんで(笑)。

園村:ぼくも『るろうに剣心』ですね。低予算をやることが多いので、大作に憧れが(笑)。

鈴村:ぼくは同期の園村くんが作ってるのを観て刺激を受けてます。負けないようにしたいです。

谷垣:まったくアクションじゃないんだけど……この間、『太陽』を観たんです。すごい長回しなんだけど、アクションがしょぼくなってるわけじゃなくて、そうとう監督がずうずうしくないと役者にやらせられないな、っていうことをやってたんです。例えば、橋なんかで普通に倒れるところだと、ぼくらがアクション作るときはだいたいの作り方があるから、「こんなとこにマット置かないで」って思うわけですよ。自分があの作品でやってたとしたら、作品を壊しちゃったんじゃないかな、って思います。普通だったらアクション部が絡んでてもおかしくないようなシーンを、アクションじゃない文法で撮られてるのを観たんで凄いと思いましたね。

 


■編集後記:
アクション映画・ドラマの裏側は我々が普段知ることのない世界だが、ほんの少し覗いてみただけでもこれだけ知られざるエピソードが飛び出してくるのである。『るろうに剣心』などのヒットで注目を浴びはじめた業界ではあるが、華やかな面だけではないことが、ほんの少し理解できたのではないだろうか。もともと、『ジャパンアクションアワード』は、日本のアクションやスタントマンなどの地位向上とアクション俳優発掘などを目指し設立されたもの。『アクションサミット』でのスタントマンの高齢化、保険や給料問題についてのトークは、如実にその現実を表している。

一方で、第4回ジャパンアクションアワードの結果からわかるように、24歳のスタントマン・田中大登や、地道にアクションに取り組んできた三元雅芸が評価を受けたことなど、明るい話題も多かったのも事実。このイベントがさらに注目され、アクションに携わる人々の地位が向上すれば、さらに優れた作品やアクション俳優、スタントマンが生まれてくるはずだ。最後に辻井氏は「今回の開催は、ジャパンアクションアワードを継続するのが目的」と話し、谷垣氏も「来年はどういう感じでやるか。形を変えるか、こんな感じでやるか考えて、また皆さんとお会いできたらいいかな」と次回開催への意欲を語っていた。このレポートで少しでもアクション監督、スタントマンに興味を持った方は、このイベントを心にとどめておいてほしい。

『第4回ジャパンアクションアワード』および『アクションサミット』に参加したアクション監督、アクション・スタントコーディネーター、俳優の関わった新作は以下のとおり。
 

 
■谷垣健治:
・タン・ウェイ主演『北京遇上西雅圖之不二情書 (Book Of Love)』(中国、北米ほかで公開中、日本公開未定)
・『新宿スワン2』(仮題)2017年公開予定
 
■辻井啓伺:
・『精霊の守り人 シーズン2』  (2017年放送予定)
・三池崇史監督・木村拓哉主演『無限の住人』(2017年公開)
 
■下村勇二:
・監督作『RE:BORN』(2017年公開予定)
・『アイアムアヒーロー』(公開中)
 
■田渕景也:
・『HK 変態仮面/アブノーマル・クライシス』(公開中)
・内村光良監督・脚本・主演『金メダル男』(10月22日公開)
・蛭子能収主演『任侠野郎』(公開中)
・『仮面ライダー アマゾンズ』(Amazon プライム・ビデオでシーズン1配信中)
 
■横山誠:
・『牙狼〈GARO〉-魔戒烈伝-』(テレビ東京他放送中)※横山は関わっていない
・『絶狼〈ZERO〉』新作(2017年予定)
・西内まりや主演『CUTIE HONEY -TEARS-』(10月1日公開)
 
■坂本浩一:
・『仮面ライダーゴースト』(テレビ朝日系で放送中)
・70年代のアニメ実写化作品
 
■坂口拓:
・主演作『RE:BORN』(2017年公開予定)
・フィリピンロケの作品
 
■鈴村正樹:
・大内貴仁アクション監督『HiGH&LOW THE MOVIE』(7月16日公開)
 
■園村健介:
・『ディアスポリス -DIRTY YELLOW BOYS-』(9月3日公開)、
・『64 ロクヨン』(公開中)
・『ディストラクション・ベイビーズ』(公開中)
 
■高瀨將嗣:
・『さらば あぶない刑事』(公開中)
・『昭和最強高校伝 國士参上!!』(8月6日、渋谷ユーロライブにて公開)
 
■三元雅芸:
・ゴードン・チャン監督『戦神 戚継光』(香港・中国で公開予定、日本公開未定)
 
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