武田梨奈インタビュー ご当地映画への思いや海外で進行中の新企画、松岡茉優との友情まで!こってり語る

インタビュー
イベント/レジャー
2016.6.30
武田梨奈 撮影=鈴木久美子

武田梨奈 撮影=鈴木久美子

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女優・武田梨奈がワイヤーなし、スタントなしの空手アクション映画『ハイキック・ガール!』で鮮烈に映画初主演を飾ってからはや7年。その間、武田は『デッド寿司』でコメディエンヌとしての才能を開花させ、セゾンカードのCMで瓦わりを披露、ドラマ『ワカコ酒』(BSジャパン)への主演でお茶の間にも進出し、映画ファン以外にも親しまれる存在となった。そんな武田が、7月2日公開の映画『海すずめ』で、現実と理想のはざまで揺れる等身大の主人公・雀を演じている。日本人としては稀有な“アクションを武器に活躍する女優”は25歳を迎え、何を思い何を目指すのか? 同作の撮影秘話や裏話を交えつつ、こってりと語ってもらった。

 

地方が舞台の“ご当地映画”への出演が多い理由とは?

武田梨奈 撮影=鈴木久美子

武田梨奈 撮影=鈴木久美子


――『海すずめ』は宇和島伊達400年記念作品として製作されました。武田さんは本作のような、いわゆる“ご当地映画”によく出てらっしゃいますね。オファーを受けて出演されたんですか?

そうですね。お話を頂いて出演させていただきました。わたしも地方を舞台にした作品にご縁があるな、と思っていて。一度、ある作品で監督に(起用の理由を)「染まっていないから」と言われたことがあります。

――染まっていない、とは?

わたしも最初は「どういうことなんだろう?」と思っていたんですが、「東京にも染まっていない、とはいえすごく田舎に染まっているわけでもない。その中間にいる感じだからいい」と教えていただきました。今回演じた雀も将来について葛藤しているんですけど、一見どこにでもいる女の子なので。そういった意味で選んで下さったんじゃないかな、と勝手に解釈しています。

――なるほど。「2作目を書けない小説家」というのは、映画では王道の設定でもありますし、感情移入もしやすいキャラクターだと思いました。武田さんご自身は雀に共感する部分はありますか?

5年ほど前に同じような悩みを抱えていたので、リンクする部分は正直ありました。やりたいことも夢もあるんだけど、そこに追いつけない……わたしにもそういう時期があったので。

――具体的にどんな葛藤を抱えてらっしゃったんですか?

今の事務所に入る前に300回くらいオーディションを受けていた時期があるんです。事務所にやっと入ることができても、すぐに仕事があるかとは限らず、オーディションを受ける日々が続きました。お仕事したくても上手くいかないという将来の不安はあったので、雀と重なる部分があると思いました。

武田梨奈 撮影=鈴木久美子

武田梨奈 撮影=鈴木久美子


――幼い頃から女優になりたかった、というお話を聞いたんですが。

オーディションは6、7歳、小学生になりたての頃から受けていました。当時は役者になるためにはどうしたらいいかもまったくわからなかったので、とりあえずオーディション系の雑誌をたくさん買って、片っぱしから受けました。当時は周りから「梨奈、いつになったら映画出るんだよ」「頑張って有名になってよ」と言われるのが嬉しい反面、プレッシャーを感じることもありました。

――最近は、プレッシャーは軽くなりましたか?

そうですね。気が楽になった瞬間があるんです。わたしがすごく葛藤していた時に、マネージャーさんに「悩んでるだけじゃ、一生何もないよ」「何もない時にどれだけ努力できるかで、チャンスが来た時に掴めるか掴めないかに差が出てくるから」と言われて。そこからですね、意識が変わったのは。それを聞いて、まずはアクションという道を突き進もうと思って、ずっと稽古を続けています。
 

生きているうえでの行動はすべてアクション

武田梨奈 撮影=鈴木久美子

武田梨奈 撮影=鈴木久美子


――アクションに関してずっとうかがいたいことがあったんです。ここ数年、武田さんはインタビューを受けるたびに、「今回はアクションを封印」と記事に見出しをつけられてらっしゃるじゃないですか。

そうですね。 別に封印しているわけじゃないんですけど。

――そのレッテルについて葛藤されているんじゃないかと思っていたんです。

以前はそうでした。でも、今はありがたいと思っています。アクション=武田梨奈と認知してもらえてるんだな、と思えてすごく嬉しいので、プラスにとらえてます。

――乗り越えたんですね。とはいえ、『ハイキック・ガール!』の頃に比べると、アクションがメインの作品への出演が減ってきているので、意識して遠ざけてらっしゃるのかと。

いや、まったくそんなことはないですよ! 今も週2、3回はアクションチームと練習していますし。「いつでもアクション映画来てください!」というスタンスです。

――どなたと練習されてるんですか?

倉田保昭さんのお弟子さんで、高橋伸稔(編注:『恋人はスナイパー』などのアクション監督)さんという方です。高橋さんはほんとにお師匠のような存在です。

――それを聞いて安心しました。単純に色んな作品のオファーがくるようになったんですね。

ここ数年はやっとオファーという形で受けることが多くなってきました。まだまだやったことのない役がたくさんあるので色んなことに挑戦したいと思うんですが、一番には海外にもっと出ていきたいですね。

――ミャンマーと日本の合作映画『YANGON RUNWAY(ヤンゴン・ランナウェイ)』や、レイ・パーク(編注:『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』ダースモール役などの俳優)さんと共演した『FUTURE FIGHTERS』も控えていますね。

最近は、タイのプラッチャヤー・ピンゲーオ監督(『マッハ!!!!!!!!』)やインドネシアのギャレス・エヴァンス監督(『ザ・レイド』シリーズ)、香港の監督さんとも頻繁に連絡を取り合っています。

――なんと!

すごく具体的に「いつやる?」と話し合っているので、早く実現したいです。東京オリンピック(2020年)までには、タイか、インドネシア、香港でアクション映画をやれるといいな、と思っています。
 

武田梨奈 撮影=鈴木久美子

武田梨奈 撮影=鈴木久美子


――以前のインタビューで「アクションは芝居そのもの」とおっしゃっていましたね。アクションについて意識の高いほかの俳優さんたちも同じようなことをおっしゃっていたので、すごく腑に落ちました。今回の『海すずめ』でも、雀が自転車のパンクを直すシーンは、「仕事に熟練してきている」のを表す芝居だと思いますし。

ほんとにおっしゃるとおりです。わたしはご飯を食べることもアクションだと思っていて。戦うにしても、「この人をやっつけなきゃ」「自分を守らなきゃ」と思って初めて体が動く。ご飯を食べる時も「おなかすいた。今、食べなきゃ」と、何か心が動く理由があって行動に出ると思うんです。生きているうえでの行動はすべてアクションだな、と最近すごく思います。

――『海すずめ』はどのくらいの期間で撮影されたんですか?

20日間くらいですね。

――宇和島はかなり風光明媚なところのようですが、現場もわりとほんわかとした雰囲気だったんですか?

そうですね。町のみなさんもいつも炊き出しして下さったりして。キャスト、スタッフだけじゃなく、人としてみなさんと関わらせていただいたな、という気持ちがすごく強いです。

――ご当地映画のいいところですね。撮影の合間に地元の方から、主演ドラマ『ワカコ酒』の役名で呼ばれたと聞きましたが。

そうなんですよ! 釣りをしているおじさんが「ワカコ~! ワカコ~!」とずっと叫んでらして。よく見たらわたしのほうに手を振っていたので、「ワカコって、ワカコのことか!」と気づいてビックリしました。

――アクション以外の作品もちゃんもちゃんと評価されてるんですよね。

本当に嬉しかったです。今まで街や電車で声をかけていただいた時は、「空手の人ですよね」「頭突きの人ですよね」と言われることが多かったんです。最近は、ほんとにたまになんですけど、「お酒の人ですよね」と声をかけられることもあるので、そっちでも知ってくれている人がいてくれて嬉しいです。

――ほかのイメージもちゃんとあるんだから、今後記事にする方は「今回はアクション封印」というタイトルはやめてほしいですね(笑)。
 

わたしの足りない部分を周りの方々が埋めてくれている


武田梨奈 撮影=鈴木久美子

武田梨奈 撮影=鈴木久美子


――最近は、アクションを武器にされている俳優さんも増えていますね。ただ、武田さんは色んな俳優さんとたくさん共演されて、経験を積まれている印象があります。『海すずめ』での、内藤剛志さん、目黒祐樹さん、岡田奈々さん、吉行和子さんとの共演はいかがでした?

もう、刺激的でした。ずっと映画で観てきた方たちだったので。今回は家族として接する役だったので、現場に入るまではすごく緊張したんです。でも、大先輩のみなさんは緊張感も全部とっぱらってくださって、「今から家族だからね」という雰囲気を自然に出してくださって。

――毎回、素晴らしい俳優さんが周りにいらっしゃいますよね。

ありがたいですね。『祖谷物語 -おくのひと-』の田中泯さんも、『木屋町DARUMA』の遠藤憲一さんも、『かぐらめ』の大杉漣さんもそうです。今回の現場では、内藤さんとずっと一緒にお昼を食べていました。移動中も休憩中ずっとお話してくれて、わたしの話も聞いて下さるんです。

――本当にお父さんみたいですね。

本当にお父さんみたいな感じなんです。内藤さんにも、わたしよりもちょっと年上の娘さんがいらっしゃるので、ご家族のお話もしてくださいました。

――小林豊さんとは、共演してみていかがでした?

豊さんとは楽しい思い出しかないですね。お互いに初対面の印象が違い過ぎて、豊さんには「こんなにバカができる人だとは思わなかった」と言われました。わたしも同じで、「こんなに一緒にふざけたことしてくれる人なんだ」と思って。こんな楽しくていいのかな、というくらいすごく現場が楽しかったです。劇中ではお互いにちょっと距離をおかなきゃいけない役だったんですが、30分でも空き時間ができたら、「よし、食べに行こう!」と、佐生雪ちゃん(雀の同僚・原田ハナ役)も一緒に3人で走って商店街に行ったり。

――小林さんは元パティシエなので、甘いもの好きな武田さんと話が合ったのでは?

話どころか、商店街にパンケーキ屋さんとかがあったので食べに行きました。撮影中はゆったりできたわけではないですけど、「寝る時間を惜しんでも宇和島を満喫したい」と思いました。町の皆さんとご飯を食べに行ったりもしましたし。宇和島っ子の役なので、宇和島に染まりたくて。この作品で宇和島の良さを日本中、世界中の人に広めたいし、自分たちがもっといっぱい知らなきゃいけない、というのもあって色々なところをまわりました。

武田梨奈 撮影=鈴木久美子

武田梨奈 撮影=鈴木久美子


――共演俳優さんのお話で思い出したんですが、武田さんは松岡茉優さんと親友だと聞いています。ただ、どこで仲良くなられたのかがわからなくて。

それはよく不思議がられるんですよ。『ハイキック・ガール!』の前だったので、高校1年生くらいの頃、『少女戦士伝シオン』という映画で一緒になったのが最初です。当時は茉優も中学校に上がったばかりで、お互いにまだ仕事がない時期でした。学生だったので、夏休みに一緒にアクションの練習をしたり。でも、そこから本当に全然会っていなくて、毎年のようにメールだけでやりとりをしていたんです。今もそうなんですけど、この間も「なんでこんなに連絡取り合ってるのに、わたしたち会わないんだろうね」という話になって。「お互いに次に共演するまでは会わない」という、変なプライドを持ってるんです。

――いい関係ですね。

何かつまずいたりすると、わたしも茉優に連絡するし、茉優も連絡してくれる。なんだか不思議な関係なんです。茉優は「今、こういうことに挑戦したいと思ってるんだけど、梨奈はどう思う?」と言ってくれるし、わたしも「こういうことで自分の壁にぶつかってるんだけど」と相談するし、お互いに背中を押しあっているんです。茉優は「役者ならどちらかが活躍すると嫉妬もあるはずなのに、梨奈にはほんとにない。素直に嬉しい」と言ってくれて。わたしも茉優が活躍しているのは本当に嬉しいです。「早く共演したいな。自分も頑張らなきゃ」と思います。

――本当に共演者の方に恵まれてらっしゃるんですね。

今回の作品もそうなんですが、わたしの足りない部分を周りの方々が埋めてくれているな、とすごく感じます。『海すずめ』というタイトルで、雀という役をやらせてもらえたのも、役が成り立ったのも、周りの役者さんたちのおかげだと思います。
 

「女優さんなのに、ここまで体張ったんだ」枠にはハマりたくない


武田梨奈 撮影=鈴木久美子

武田梨奈 撮影=鈴木久美子


――葛藤を経て目標も定まってきていると思うんですが、どういう俳優を目指されているんでしょうか? もちろん、アクションも武器のひとつだとは思いますが。

「代わりのいない人になりたい」ということはずっと言っています。わたしの強みと言っていいのかわからないんですが、周りの監督さんたちは「その染まっていない普通っぽさを大切にしてほしい」とおっしゃってくれるんです。これはマネージャーさんも言って下さるんですが、「梨奈の不器用さとか、真っ直ぐさは、自分では嫌ってるかもしれないけど魅力でもある」と。同世代の女優さんはみなさんキラキラしていて、可愛くてお芝居もできて、「自分は敵わないな」と思うんですけど、逆に「こんな武田梨奈っぽい人はいないな」と思うので、そこを武器にしていこうと思います。

――「カメレオン俳優」と呼ばれる方、どんな作品に出ても個性的な方、色んなタイプがあると思います。武田さんはここ最近いろんなタイプの役を演じてらっしゃるので、何でもできる俳優を目指してらっしゃるのかと思っていました。

『木屋町DARUMA』や『ドクムシ』では、今までの武田梨奈のイメージを全部崩したかったので、色んなことはやりたいです。観終わった後に、「これって、武田梨奈だったんだ?」と思われるようになりたいです。
 

武田梨奈 撮影=鈴木久美子

武田梨奈 撮影=鈴木久美子


――目標は定まりつつも、試行錯誤は続いているわけですね。

つねに試行錯誤はしているかもしれないです。それと、自分で言うのはちょっと勇気が要りますが……今はまだまだですが、いつかは「日本のアクションスター」と言われるようになりたいです。

――素晴しいです。日本人ではないんですが、ジェイソン・ステイサムというイギリス出身の俳優さんはバリバリのアクションスターなんですけど……。

そうですね。

――あの方もアクションを武器にしているんですけど、『ハミングバード』という映画では、すごく色気があって哀しい人間を上手く演じているんです。コメディも自然に演じられる人ですし。武田さんはそんなスターになれるんじゃないか、と勝手に思っています。男性の俳優さんですけど(笑)。

嬉しいです。わたしも尊敬している方は男性が多くて。「女の子なのに、ここまでやれてすごいね」「女優さんだからすごいね」と言われるのがあまり好きではないんです。「女優さんなのに、ここまで体張ったんだ」とか……正直、その枠にはハマりたくないです。

――『海すずめ』の雀もそんな役ですよね。「かわいいから1作目の小説が成功した」みたいなことを言われる。そうじゃないということを自分で証明していかなきゃいけない。最後に、これから作品をご覧になる方にひとことお願いします。

温かい作品なんですけど、泣かせようとしている映画ではないんです。自然と心に入ってきますし、「同情してほしい」「感動してほしい」とも思わない。ただ、観ていただいて、誰かの心を洗うことができたらいいな、と。肩の力を抜いて観てほしいなと思います。
 

武田梨奈 撮影=鈴木久美子

武田梨奈 撮影=鈴木久美子


筆者は、「武田がアクションスター独特の”レッテル”に悩んでいるのではないか?」と懸念していたが、そんな心配は杞憂だということがはっきりとわかった。アクション映画であろうと青春映画であろうと、武田にとってはすべてが同じ‟アクション=芝居”なのだ。アクションで注目され、葛藤を乗り越えたからこそ、 アクションを信じることが出来る。そして、信じることの出来る真っすぐな心に惹かれ、監督や俳優たちが集まってくるのだろう。武田は「第二の志穂美悦子」でもなく、「第二の千葉真一」でもない、すでに「第一の武田梨奈」である。そして、『海ずずめ』の主人公・雀は、そんな武田の本質がリンクした役どころ。同作での武田の芝居を見れば、「アクションを封印」という見出しを見なくなる日がそう遠くないと思えるはずだ。


映画『海すずめ』は7月2日(土)有楽町スバル座ほか全国ロードショー


インタビュー・文=藤本洋輔 撮影=鈴木久美子 ヘアメイク=大澤ねね スタイリスト=山本真里江 衣裳=Million Carats/(株)ミリオンカラッツ0364470762

作品情報

映画『海すずめ』 
 

(C)2016「海すずめ」製作委員会

(C)2016「海すずめ」製作委員会


(2016年/日本/カラー/16:9/5.1ch/108分)

出演:武田梨奈、小林豊、内藤剛志、岡田奈々、目黒祐樹、吉行和子ほか
監督・脚本:大森研一
主題歌「ただいま。」植村花菜(キングレコード)
企画・製作:ウサギマル
配給:アークエンタテインメント

【ストーリー】
愛媛県宇和島市。小説家デビューを果たすものの2作目の小説が書けない主人公の赤松雀(武田梨奈)は、地元に戻り図書館の自転車課(自転車で図書を運ぶ)で働き始める。共に働くのは元ロードレーサーの岡崎(小林豊)とアルバイトで嫌味な上司の娘・ハナ。ある日、本の常連客であるトメ(吉行和子)から「もともと現在の市立図書館の前には、空襲で全焼した私立伊達図書館があった」(史実) という事とトメ自身も戦前はそこで働いていたことを教えられる。そんな最中、街は”伊達400年祭の武者行列”で使用される着物の刺繍模様の復元するための資料‘御家伝来の本‘を探して騒ぎとなっていた。一方で、図書館では自転車課の廃止案が浮上していることも発覚。雀は資料となる本を求めて、そして自転車課廃止を阻止するべく走り出す。はたして刺繍図録は見つかるのか?図書館自転車課の存続は?! そして がむしゃらに走り続ける雀は、新たな小説執筆へ歩み出すことができるのか?

(C)2016「海すずめ」製作委員会
 
公式サイト:http://umisuzume.com/

 

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