上野耕平(サクソフォン)~「サクソフォンの魅力をもっと伝えたい、それが僕の原動力です」
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上野耕平
クラシック・サクソフォンの若手ナンバー1奏者として注目を集めている上野耕平さん。今年8月には、第2弾のアルバム『listen to…』をリリースする予定だ。9月29日には、王子ホールでのリサイタルも控えている。今後の活躍が楽しみな上野耕平に、話を聞いた。
――― 一般的にサクソフォンというとジャズやポップスでの活躍が連想され、クラシックではまだ馴染みが薄いように感じられますが。
「元々サクソフォンというのは、軍楽隊のために発明されました。つまり、クラシックの曲を演奏することを想定して作られた楽器です。当時から多くの作曲家がその魅力に惹かれて曲を作りました。その後、サクソフォンはアメリカに渡ってジャズの分野で花開きました。実は、サックスも立派なクラシックの楽器なんです」
――― 今年8月に、セカンドアルバムをリリースされますね。クラシックの美しいメロディーを、より磨きのかかった音楽性で届けるとのこと。このCD全体の聴きどころとは?
「サクソフォンの良さというと、何といってもその表現力の高さです。新しい楽器で、木管楽器と金管楽器のいいとこ取りを狙って作られていますから。そのサクソフォンで、普段は入れてもらえないオーケストラの曲を演奏するところに、面白さがありますね。その中で、サクソフォンならではの表現力を聴いていただければと思います。さらには『原曲よりいい曲なんじゃないか?』と思ってもらえたら(笑)」
上野耕平
――― 曲目の中で、「これは」という聴きどころは?
「山中惇さん編曲の『カルメン・ファンタジー』ですね。まさに、『サクソフォンが歌う』様子を聴いていただきたいです。オペラファンの方にも、是非聴いていただきたい。それから、『熊ん蜂の飛行』。これはサクソフォンじゃないと無理だろう、みたいな動きをします。曲の最初からびっくりすると思いますよ。マイナーな曲ですが、ムソルグスキーの『ホヴァンシチナ』。めったに演奏されませんが、とてもいい曲です」
―――「隠れた名曲を紹介する」意図もあると。
「はい、マイナーな曲をサクソフォンで演奏することでメジャーにしていこう、という狙いもこめて選曲しました。ドヴォルザークの『家路』は、子供時代に遊びから家に帰る時にかいだ、土の匂いのようなイメージ。他には、『チャルダッシュ』の中でタンバリンに初挑戦しました」
―――それは面白い! サクソフォンを吹きながら片手で?
「いえ、足で叩いてます(笑)。コンサートに来ると、どう叩いているかわかりますよ」
上野耕平
――― 『listen to…』の曲目は、いわば“上野耕平用”に一から編曲されているそうですね。サクソフォンの持ち味を生かし、旋律美を聴かせるため、どのような点に工夫をしているのですか?
「美しいメロディーを聴かせたいというのはもちろんあります。でも、それだけではつまらない、と思うんですよ。サクソフォンならではの荒々しさ、激しい部分も出して、美しい箇所とのコントラストも作ろうとしました」
――― サクソフォンの表現力の幅を前面に出している、と。
「そうですね。サクソフォンの持ち味を出すために、編曲者とも度々やり取りをしました。『これじゃ簡単すぎるよ』とか……。今は“上野耕平用”の編曲ですが、ゆくゆくは世界中のサクソフォン奏者のレパートリーになって欲しいと思っています。サクソフォン奏者のレパートリーが増えれば、もっとサクソフォンの魅力も広まっていくでしょう」
――― サクソフォンがオーケストラの編成に入る機会は少ないですよね。しかし、上野さんは幼少時からチャイコフスキーの『1812年』序曲、ボロディンの『韃靼人の踊り』など、管弦楽の曲に親しんできたそうですね。サクソフォンと直接関係のないクラシックの音楽が、上野さんに与えた影響とは?
「古い時代だと、サクソフォンはまだ生まれていません。でも、現代の曲を知るには、それより前に作曲された曲も知らないといけません。僕は、別に勉強のためにクラシックを聴いていたわけではなく、単純に好きで子供の頃から繰り返し聴いていたのですが、それがすごく役に立っています」
上野耕平
―――サクソフォンといえば、広い音域を持ち、叙情的に歌うことも、超絶技巧を披露することもできる幅の広さがあります。こうしたサックスの特徴の中で、最も可能性を感じるところは?
「サクソフォンの魅力は、まず人の心にストレートに入ってくる説得力のある美しい音色。さらに、サクソフォンにしかできない表現力の豊かさがあります。けれど、こうしたサックスの本当の魅力は、あまり世の中には知られていません。サクソフォンの凄さをもっと知ってもらいたい、というのが僕の一つの原動力になっています」
――― 上野さんは、20代前半の若手奏者による「ぱんだウィンドオーケストラ」のコンサートマスターとしても活躍していますね。
「楽団を率いる難しさはもちろんありますが。メンバーで互いに刺激しあって成長できる喜びもあります。演奏会をするたびに、お互い成長していくのがわかりますから。メンバーは同級生なので、仲もいいですよ」
――― エンタメ性の強い「視覚的に魅せる」演奏スタイルも魅力的です。
「サクソフォンは見た目も格好良い楽器ですからね。ただ、演奏中にしている動きは全く意識せず、自然に出てきています。むしろ動きは抑えたいんですが、後で映像を見るとやっぱり動いてる(笑)」
上野耕平
――― まだ24歳、今後は何に挑戦し、どういった活躍をしていきたいのでしょうか?
「サクソフォンならでは、もっと言うと僕ならではの魅力を伝えたい。そのために、もっと多くの人に、コンサートで生の演奏を聴いて欲しいんです。『クラシックにサックスなんて使うの?』という層でも、実際に聴いてもらえば魅力が伝わると思います。更には、普段全くクラシックを聴かないような、『クラシックなんて眠くなるよ』なんて人たちにも(笑)。演奏会のあと、『サクソフォンってこんな音も出せるんですね!』なんて言ってもらえると、とても嬉しい。いい音楽を聴くと必ず人生が豊かになりますし、多くの人に演奏を聴いて欲しいです」
――― 『listen to…』リリースと演奏会に寄せてのメッセージを。
「1枚目のアルバム『アドルフに告ぐ』は、サクソフォンのために書かれた古典的なレパートリーを中心に収録しました。今回の『listen to…』は、長く親しまれてきたクラシックの曲をサクソフォンで吹いて、もっとクラシック音楽界全体を発展させていこう、というような想いを込めています。聴き応えも1枚目以上にあるでしょうし、名曲の新たな魅力を発見することもできるでしょう。また、9月29日には王子ホールでリサイタルがあります。ぜひ、生の演奏を聴いてください!」
(取材・文=三城俊一 写真=大野要介)
■日時:2016年9月29日(木)19:00
■会場:王子ホール (東京都)
■出演:上野耕平(sax)、山中惇史(pf)
■演奏予定曲:
ビゼー:カルメン・ファンタジー for サクソフォン
ドヴォルザーク:家路 ~交響曲第9番《新世界より》
ムソルグスキー:モスクワ川の夜明け ~歌劇《ホヴァンシチナ》
ガーシュウイン:ラプソディー・イン・ブルー
バザン:バザンのロマンス ~歌劇《パトラン先生》 他
■公式サイト:http://uenokohei.com/
8歳から吹奏楽部でサックスを始め、東京藝術大学器楽科を卒業。
これまでに須川展也、鶴飼奈民、原博巳の各氏に師事。
2015年9月の日本フィルハーモニー交響楽団定期公演に指揮者の山田和樹氏に大抜擢。この公演は、クラシックサックスの可能性が最大限に引き出され、好評を博す。また2016年4月のB→C公演では、全曲無伴奏で挑戦し高評価を得ている。
ぱんだウインドオーケストラのCDをリリース。
また2016年4月からは昭和音楽大学の非常勤講師として後進の指導にあたっている。
楽器:YAMAHA YAS-875EXG /マウスピース:SELMER S90 180
リガチャー:HARRISON 復刻GP/リード:VANDOREN TRADITIONAL3.5
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