たくましく、美しい女性像を描いた印象派の女性画家に迫る 『メアリー・カサット展』レポート

2016.7.4
レポート
アート

『メアリー・カサット展』ポスター

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19世紀後半のパリで活躍した、印象派を代表するアメリカの女性画家メアリー・カサット。日本では35年ぶりとなる大回顧展が、横浜美術館で6月25日(土)~9月11日(日)まで開催される。初公開となる傑作を含めた油彩画やパステル画、版画作品に加え、ドガなど交流のあった同時代の画家の作品を加えた合計約100点から、カサットの画業の全貌を伺い知ることができる。今回は、本展の内覧会の様子をお届けする。

 

代表作2点から見る、エレガントと力強さ

早速、代表作2点からカサットの絵画の魅力に迫ってみよう。

まずは、彼女の代名詞である母子像の代表作《眠たい子どもを沐浴させる母親》。子どものまどろんだ表情、母親の愛情に満ちた眼差しが、静かなブルーの背景とあたたかなピンクの肌の描写を用いてやわらかく描かれている。エレガントでやさしい母性溢れる情景は、描かれた当時に多くの人々の共感を呼んだ。

(右)メアリー・カサット《眠たい子どもを沐浴させる母親》1880年 ロサンゼルス郡立美術館蔵

こちらは、日本初公開となる傑作《桟敷席にて》だ。凛とした表情で一心に舞台を見つめる女性の横顔が、当時流行の黒いドレスを纏って堂々と描かれている。ふと、交錯する視線を感じて画面奥を見れば、その女性を覗き込む男性の姿が。それまでの「見られる」対象だった女性を、「見る主体」として描いたこの作品からは、カサットの女性としての力強さが伺える。

(左)メアリー・カサット《桟敷席にて》1878年 ボストン美術館蔵

 

時代の困難を乗り越え貫いた、画家としての意志

代表作を見ただけでも、画家の確かな画力と豊かな表現力がわかる。しかし、職業画家として女性が認められるには、この時代はまだ困難が多かった。

アメリカの裕福な家庭に生まれたカサットは、画家を志し21歳の時に父親の反対を押し切ってパリへと向かう。古典絵画の模写から研鑽を積み、やがてドガとの出会いから印象派展へ参加。鍛え抜かれた人物描写に、明るい色彩、自由な筆致が加わり、独自の画風を確立した。

メアリー・カサット《浜辺で遊ぶ子どもたち》1884年 ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵

経済的にも自立した職業画家となった彼女は、新しい女性像を描く画家として、シカゴ万国博覧会の壁画を任される。その頃の作品には、知性の象徴である「りんご」を女性自身の手で掴み、子どもへと受け継いでいくたくましい母の姿が描かれている。

(左)メアリー・カサット《果実をとろうとする子ども》1893年 ヴァージニア美術館蔵

晩年にはフランス政府からレジオン・ドヌール勲章(ナポレオン・ボナパルトによって創設された、文化・科学・産業・商業・創作活動などの分野における勲章)シュヴァリエ章が授与されるほど、カサットの名は不朽のものとなった。生涯未婚であった彼女だが、親子の愛情を描いた多くの母子像に命を吹き込んだ。

(左)メアリー・カサット《母の愛撫》1896年頃 フィラデルフィア美術館蔵

 

近代銅版画10連作から、浮世絵とのつながりも紹介

油彩画やパステル画の他に、版画家としても活躍し、近代版画の傑作を残しているカサット。核心を捉えたシンプルな線、大胆な構図、女性の風俗を主題とした作品からは、浮世絵を熱心に研究したことがうかがえる。代表作である多色刷り銅版画10点の連作に加え、自身が愛した浮世絵や屏風絵も並べられている。カサットの作風のルーツを探ることができる、非常に興味深い展示となっている。

(左)メアリー・カサット《手紙》1890-91年 アメリカ議会図書館蔵

(右)喜多川歌麿《覗き》1800年頃 フィラデルフィア美術館蔵

 

カサットの作品は日本での所蔵が少なく、国内でまとまって見られる本展は大変貴重な機会となる。愛あふれるカサット芸術を通じて、どこか懐かしい感情に浸ってみたくなる、そんな展覧会となっている。

 

 

イベント情報
メアリー・カサット展

会場:横浜美術館(http://yokohama.art.museum/
開催期間:2016年6月25日(土)~2016年9月11日(日)
開館時間:10:00~18:00 ※入館は閉館の30分前まで。 ※9月2日(金)は20:30まで開館
休館日:木曜日 ※8/11を除く。
入館料:一般1,600円、大学・高校生 1,100円、中学生 600円、小学生以下無料
展覧会公式サイト:http://cassatt2016.jp/index.html