GOOD ON THE REELのフロントマン・千野隆尋が語る新作「雨天決行」と意外な素顔
GOOD ON THE REEL・千野隆尋 Photo by Taiyo Kazama
結成より10年、当初より続けている主催ライブ『HAVE A “GOOD”NIGHT』もついに50回目を数え、10月9日に日比谷公園野外大音楽堂で開催される。それを記念して初のシングルとしてリリースされるのがGOOD ON THE REELの「雨天決行」だ。これまでウェブ媒体への露出をしてこなかったということもあり、SPICEへは今回が初登場。フロントマン・千野隆尋を迎え、作品を紐解きながらパーソナル部分やライブへの展望も訊いた。
──7月6日にリリースするシングル「雨天決行」は、結成当初から続けている主催ライブ『HAVE A “GOOD”NIGHT』の50回目を記念したものであり、シングルというフォーマットでリリースする初めての作品になるわけですけど、制作してみていかがでした?
シングルっていう枠組みだけでなく、vol.50という記念であったり、僕らが結成して10年経つというのもあったりしたので、勝手に重圧みたいなものを感じてしまっていたんですよ(苦笑)。なんか、大掛かりな感じがしちゃっていて。でも、歌詞としては大それたことになりすぎず、だけどすごくポジティブで、メッセージ性のあるものにしたかった。そこで結構悩みました。
──曲としてはギターの伊丸岡さんが作曲されていますけど、曲自体はどういうところから生まれてきたんですか?
作曲に関しては、初めてのシングルであったり、50回の記念になるものであったりということを考えて書くというよりは、いつも通りリード曲を作る感覚で何曲か作って、その中からチョイスしたのが「雨天決行」でした。
──GOTRとして今までそういう曲がなかったわけでもないですけど、クラップが入っていたり、アンセム的な要素もありますね。
いろんなパターンの曲を作っていたんですけど、時期的に夏に出すということもあって、フェスとかでみんなが聴きたくなるようなものを作りたいという意識もあったんですよ。リズム的にもちょっとお祭りっぽい部分もあったりして。でも、そこは最初から意識してそうしたわけではなく、出てきた曲の中にそういう要素があって、曲としても前向きなものにしたかったから、じゃあこれにしようかという風に選んでいて。クラップも、伊丸岡が作ってきたデモの段階からすでにあって、みんなでやってほしいというよりは、楽曲として必要だなと思ったので残した感じですね。なので、結構難しい位置に入ってるんですよ。
──そうですよね。その場でパっとできないっていう(笑)。
そう(笑)。もし叩きたい方は、頑張って覚えていただいてっていう形になっちゃいますけど。
──歌詞は千野さんが書かれていますけど、<3年2組13番>という言葉が出てきていて。これって千野さんがリアルに3年2組13番だったんですか? 「ち」だからそれぐらいなのかなと思って。
僕は3年2組……12番ぐらいだったかな。リアルな番号に近いんですけど(笑)、単純にメロディーのハマりでこの数字を選んでますね。僕が書く歌詞って、結構聴き手に委ねる部分が多くて。ここは<3年2組13番>って限定してるんですけど、聴く人によってどう捉えてもらってもいいんですよ。たとえば、それこそ小学3年生の自分でもいいし、そのときにすごく勇敢だった親友でもよくて。自分なりの主人公をそこに当てはめてほしいなって。
──ちなみに、実際に3年2組だった小さい頃ってどんな子でした?
活発な子でしたね。小学校の頃はサッカーしてましたし、昼休みにいち早く外にダッシュして、みんなでキックベースとかやるタイプでした。運動大好き!みたいな。
──結構クラスの真ん中にいて盛り上げるタイプ?
どうだったかなぁ。暗くはなかったですよ。わりと平和主義でした。“みんな友達!”みたいな感じで、誰にでも声をかけて、誰とでも遊んでました。
──自分の殻に閉じこもってしまったり、ナイーブだったりというわけでもなく?
ではなかったですね。多分、今までの曲だったり、GOTRを知ってる人からしたら、僕って結構内気で暗いイメージだと思うんですけど(笑)、全然活発でしたよ。サッカーでも副キャプテンやってたし、学級委員とかも頼まれたらやるみたいなタイプだったので。中学校はバスケ部だったんですけど、そこでも副キャプテンだったし、生徒会とかもやっていて、高校でも生徒会の副会長をやらされてて……ていうか、副ばっかりなんですよ、僕(笑)。
──ホントですね(笑)。なんか、そういうポジションの人って、クレバーというか、スマートなイメージもあるんですけど。
なんか、キャプテンのほうが“自分自分!”みたいなタイプで、僕は“みんな、やろうよ! 楽しいね!”みたいな(笑)。だから、わりとムードメーカー的なところはあったのかも。
GOOD ON THE REEL・千野隆尋 Photo by Taiyo Kazama
──かなり意外な一面でした。今回のシングルは2タイプでリリースされますが「HAVE A “GOOD”NIGHT盤」に収録される「夏の大三角」は千野さんが作詞と作曲をされていて。七夕をモチーフにしていて幻想的だし、郷愁感もあって心地よかったんですが、この曲も夏をイメージして作りはじめたんですか?
そうですね。曲を書くときに、みんなが知っている夏のイベントで1曲書いてみようと思って、その中でたまたま七夕をピックアップしたんですけど、奇跡的に発売日の次の日が七夕なんですよね。
──あ、そこは奇跡的な感じなんですか? リリース日を考えてというよりは。
全然把握してませんでした(笑)。「雨天決行」のほうは、夏を意識したものにはしたかったんですけど、それだけだとメッセージが流れてしまいそうな気がしたので、夏を意識しながらもメッセージを重視して書いたんですよ。でも「夏の大三角」は曲調も落ち着いていたし、先ほど言われていた郷愁感みたいなものを意識して書くことができましたね。僕の好きな夏のイメージが表現できたと思います。
──こういうゆったりとした夏の雰囲気のほうがお好きですか? バーン!って盛り上がる感じというよりは。
バーン!っていうのも好きですけど(笑)、どちらかというと僕は、夕暮れどきにひぐらしが鳴いているような、少し切なくなるような感覚が好きなんですよ。なんとなくちょっと切なくなって、懐かしくなる感じがすごく日本人らしくて好きで。その、なんとなく言葉にできないような情景を描くことによって、そういう世界に誘い出したかったところはありましたね。
──もう一方の「Anniversary盤」には「ONE SHOT Live Tracks -夕映~いらない~ハッピーエンド-」が収録されますが、これは一発録りをされていると。
そうです。ライブ感を出したくて、歌も演奏も3曲繋げて録ったので、精神的にも肉体的にも大変でした。やっぱり3曲続けてCDになるものを全力で歌うのって、そんなに何回もできることじゃないから。でも、おもしろかったです。
──すごく生々しいですよね。「夕映」のイントロのギターが鳴ったときに、ドラムがビリビリいっているところがそのまま拾われていたり。
本当にほぼそのままですからね。あと、クリックを使ってないので、原曲よりも走ってるんですよ。そこもライブ感に繋がったかなと思います。
──あと、「夕映」~「いらない」の繋ぎにグっときました。
あそこのドラムは大変だったでしょうねぇ。僕はそのとき、音を立てないように静かに水を飲んでましたけど(笑)。
──ははははは(笑)。この3曲はどういうところから選んだんですか?
「夕映」は、1stミニアルバム(『世界分の一節』)の1曲目だったんですけど、50回記念という作品に対して、1枚目の1曲目を選んだらエモいなと思って(笑)。「ハッピーエンド」(1stフルアルバム『透明な傘の内側より』収録)は、僕らのライブの定番曲なので、これはライブに来てくださっている方々が嬉しいんじゃないかと。で、「いらない」(2ndミニアルバム『シュレーディンガーの二人』収録)に関しては、どれにしようかいろいろ悩みました。なるべく古い作品から選びたかったら「いらない」か「コワシテ」(3rdミニアルバム『無言の三原色』収録)かで迷ってたんですけど、できればリード曲と呼ばれるものからは入れたくないなっていうのもあって。そういう曲はYouTubeとかで気軽に聴けてしまうじゃないですか。それで、「コワシテ」はリード曲だったからやめて、「いらない」にしました。
──個人的に「いらない」の歌詞が好きなんですが、千野さんの歌詞って、どんな状況にいる人も置いて行かないというか。「雨天決行」も「夏の大三角」もそうですけど、今ポジティブでいる人にも、ネガティブでいる人にも歌っているイメージがあって、その極地みたいなものが「いらない」なのかなと思うんですが、歌詞を書くと、そういったどんな人に対しても投げかける歌詞に自然となるんですか?
ライブもそうなんですけど、その空間にいる人──僕らのことを好きな人だけじゃなくて、僕らに興味がない人とか、初めて聴く人とか、名前だけ知っている人とか、そこにいるひとりひとりに伝えたいっていう意識でずっとやってきたんです。そういうのが反映されているのかもしれない。あとは、普段の生活でもそうで。たとえば人混みって、ただの景色としか認識されないじゃないですか。むしろ、ただの景色以上に邪魔なものだったりもするし。でも、自分と同じようにひとりひとりの生活がそこにはあって、ひとりひとりがどこかに向かって歩いているとか、そういうことを考えることが多いんです。人混みも電車の中も、ただの景色として観たくないというか。ひとりひとりが存在して、この世界があるんだっていう。そういう考え方もすごく入ってるのかもしれないですね。
GOOD ON THE REEL・千野隆尋 Photo by Taiyo Kazama
──なるほど。でも、これだけたくさんの人がいて、それぞれに生活があるんだって考えると、ちょっと怖くなったりはしませんか? 規模が大きすぎるというか。
あぁ、僕も実際は人混みって苦手なんですよ。ただ、周りにはたくさんの人達が生活してるんだって考えてないと、自分だけ一番苦しいとか、自分だけがつらいとか思ってしまう感じがあって、それが嫌なんですよね。ただ、結構酷いんじゃないかなっていうぐらい、周りの目ばっかり気にして生きてはいますけど(苦笑)。
──そうなんですか?
たとえば、帰り道とかでちょっと路地に入ったときに、誰かが後ろを歩いていたとするじゃないですか。そうすると、歩き方が分かんなくなっちゃったりするんですよ。後ろを意識しすぎて。あと、音楽を聴きながら電車に乗っていると、呼吸の仕方がよくわかんなくなったり。なんか、自分の呼吸が周りにうるさいんじゃないかなって気になっちゃうんです。だから生きづらい生き方をしてるのかなとは思うんですけど。
──周りのことを考えてしまう分、自分のことがないがしろになってしまう?
自分を守るためにやってるのかな。気にしいというか。そういう自分は本当に嫌なんですけど。そういう性格も節々には現れてるとは思います。
──周りのことを気にしているから、周りにいるいろんな人達に対して歌える言葉があるけど、その分、生きづらい……すごいジレンマですね。
はははは(笑)。ただ、なんだろうな……周りの人も、ある程度の思いやりは持ってほしいというか。たとえば、歩いていてたまたまぶつかっちゃったときに舌打ちをされると、すごいテンションさがるじゃないですか。もう一日落ち込んじゃうぐらい。でも、別にぶつかったら、“あ、すみません”でいいじゃないですか。それが出来るようになってほしいっていう願いはあります(笑)。
──でも、そういう些細なことから、世の中って絶対によくなりますよね。
そうそう! 本当にそうだと思います。いろんな争いだって、些細なことから起きてるんだと思うし……うん。それは間違ってないと思う。大掛かりなことじゃなくて、小さなことから始まるんだと思います。
──まったく同感です。結成して10年というお話がありましたけど、結成当初と変わった部分、変わらない部分って何がありますか?
変わらないのは、それこそライブでそこにいるひとりひとりに伝えるとことで、本当に初期の頃から変わってないんですけど、制作に関してはちょっと変わってきたというか。初期は詞先の曲が多かったんですよね。僕が書いた歌詞に対して、伊丸岡がメロディーをつける形が多かったんですけど、すごくコンスタントにCDを出してきたので、それだけだと間に合わないっていうことになって、メロディー先行で作ったり、オケをデモとして作っちゃったり、いろんな方法で曲を作るようになってきましたね。
GOOD ON THE REEL Photo by Viola Kam (V'z Twinkle)
GOOD ON THE REEL Photo by Viola Kam (V'z Twinkle)
──作品をリリースしはじめてから、本当にコンスタントに、しかもボリュームのあるものを出し続けているのが単純にすごいなって思うんですけど、常に作り続けている感じなんですか?
たとえば、CDが出来ました、そこからインストアライブとかツアーをやりますっていう中で、次のアルバムの曲を作ろうという流れになるんですけど、最初は作品を1枚出すのに対して、メロディーだけでも50曲ぐらい作ってたんですよ。そのツアー中の2ヶ月ぐらいの間に。
──おお……。
今でこそそんなには作ってないんですけど、当時の超スパルタだった制作環境から生まれてきたものが(笑)、今活きてますね。貯めてきた曲の中から、ワンコーラス起こしてみたりとか。だから、よかったといえばよかったんですけど、まぁ地獄のような日々でしたよ。バイトの休憩中にも書いてたし。
──本当にわずかな隙間を縫ってやっていたと。でも、そのストックは財産ですよね。
うん。そう思います。歌詞は常に言葉を探して書き貯めているんですけど、そういうものは詞先で使うことが多いですね。メロ先のときは、それにあった言葉を書き下ろすことがほとんどです。
──すごい地味な話なんですけど、歌詞を書くときって紙にペン派ですか? それとも携帯にメモる派?
最終的にはいつでも見れるように携帯にメモしておくんですけど、なんでも使いますよ。外にいるときに浮かんだら携帯にメモるし、シャワーを浴びてるときに浮かんだら、やばい!って忘れないようにリフレインしながら(風呂場から)出てきて、紙とペンがあったらそこに書くし。でもなんか、ひとりでいるときばっかりなんですよね、歌詞が浮かぶときって。ふと、ひとりだなっていうのを実感したときに生まれるっていうか。歌詞を書く上で本当に無駄なものってないし、いつ何時、何が歌詞になるかわからないから、常に言葉を拾うようにはしてますけど、それは全然苦じゃないですね。むしろ、書こう!と思って書く方が地獄というか。
──ゆえに、慢性的に書いていると。
病気です(笑)。
──いえいえ(笑)。そっちのほうが性に合ってるんでしょう。そして、『HAVE A “GOOD”NIGHT』の50回目となるライブが、10月9日に日比谷野外大音楽堂で行なわれます。季節的には夏も終わり、少し肌寒い頃になってきますけど、それがまた気持ちのいい時期ですね。
そうですね。あと、せっかく「雨天決行」っていう作品も出したので、小雨ぐらいは降ってほしいです。風邪をひかない程度に(笑)。
──野音で雨が降ってほしいっていう人、なかなかいないですよ?(笑)
ははははは(笑)。普通はそうですよね。でも、そういう天然の演出があるといいなって。
──そんなミラクルを期待しつつ、どんなライブにしたいですか?
今はまだセットリストとかも考えてないんですけど、vol.50だから特別というわけではなくて、ワンマンはいつも特別なものにしたいと思ってやってきたので、今回も良い意味で変わらずに、そのスタンスでやりたいです。この日しかないもの、この日しか観れない景色を見せたいし、僕らも観たいと思っているので。特別な夜にしたいですね。
撮影=風間大洋 インタビュー・文=山口哲生
GOOD ON THE REEL・千野隆尋 Photo by Taiyo Kazama
『HAVE A “GOOD”NIGHT vol.50』記念シングル
「雨天決行」
2016.07.06 RELEASE
【HAVE A “GOOD”NIGHT盤】
HAVE A “GOOD”NIGHT盤
CD:1.「雨天決行」2.「夏の大三角」
DVD:GOOD ON THE REEL presents 『HAVE A "GOOD" NIGHT Vol.47』 ペトリコール~雨天決行~
2016年3月25日(金) 東京:Zepp DiverCity TOKYO
収録曲)・BYSTANDER・サーチライト・つぼみ・REM・シャボン玉・rainbeat・ペトリコール
【Anniversary盤】
Anniversary盤
CD:1.「雨天決行」2.「ONE SHOT Live Tracks -夕映~いらない~ハッピーエンド-」
Uta-Net
雨天決行
http://www.uta-net.com/song/210448/
夏の大三角
http://www.uta-net.com/song/210447/